アーギュメント構成能力は,世界各国の科学教育において科学リテラシーの一つとみなされており,理科における授業実践の開発・評価が行われてきている.日本においても,筆者らの研究チームは,日本の小学校理科の各学年において授業実践の開発・評価を行っており,その中で,初めて理科を学習する第3学年の児童を対象とした試みも行ってきている.しかしながら,第3学年の授業実践は,単元「風とゴムのはたらき」において開発・評価されているだけに留まっている.日本の小学校理科においてアーギュメント構成能力の育成を普及・浸透させていくためには,他の単元においても授業実践の開発および評価を行うことを通して,小学校理科の各単元に即した授業実践の事例を蓄積する必要があると考えられる.
そこで,筆者らの研究チームは,第3学年の単元「磁石の性質」において,証拠—主張—理由付けを含む初歩的なアーギュメント構成能力の育成を目指した授業実践の開発と評価に取り組んでいる.本研究では,この授業実践の評価に焦点を当てて,アーギュメント構成能力の評価方法および評価結果の一部を報告する.
評価の対象は,開発された授業実践に参加した3年生67人であった.評価課題については,既習内容のアーギュメント課題(地面の温度変化に関する課題,およびねん土と木の重さに関する課題)を授業実践の前後に実施した.分析については,課題における自由記述の回答に対して,主張,証拠,理由付けの各要素を2点満点で評定した.
評価課題の回答分析の結果,次の2点が明らかになった.(1)授業実践の事前から事後にかけて,主張,証拠,理由付けのいずれの構成要素の得点も概ね向上していた.(2)しかしながら,理由付けの得点については,一部の課題で向上はしていなかった.また,いずれの課題においても,満点であった児童が他の構成要素よりもやや少ない傾向にあった.これらの結果から,開発された授業実践は,証拠—主張—理由付けを含む初歩的なアーギュメント構成能力の育成において一定の効果はあるものの,理由付けについては改善すべき点が残されていることが示唆された.
抄録全体を表示