日本科学教育学会研究会研究報告
Online ISSN : 1882-4684
ISSN-L : 1882-4684
33 巻, 7 号
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表紙・目次
発表
  • 生田目 美紀, 小川 義和
    2019 年 33 巻 7 号 p. 1-4
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ドイツ博物館協会ではMUSEUMの使命として、インクルーシブデザインやダイバーシティを掲げている。具体的な内容を知るために、2019年2月10日から12日の期間、ドイツベルリンの博物館島を中心に、取組状況を調査した。子供からお年寄りまで、できる限り多くの来館者が楽しめるような配慮と工夫は、各館ごとに所蔵品を活かしながら取り組んでいることがわかった。現地でのハンズオン音声ガイドは基本的にどの館も多言語対応であるが、対応可能な言語の数は館によりまちまちであった。子供用音声ガイドを設置している館もあった。その他、聴覚や視覚に障害のある来館者のためのガイドツアーを用意している館もある。視覚障害のある来館者に向けた専用の常設展示「ネフェルティティの胸像」は、ユニバーサルデザインの7原則に従い、触れる胸像の高さや点字プレートの位置などを改善することにより、より良い展示になると考える。

  • 小学校第3学年理科「磁石の性質」の事例
    森 夢芽子, 山口 悦司, 坂本 美紀, 田中 達也, 俣野 源晃, 神山 真一, 山本 智一
    2019 年 33 巻 7 号 p. 5-8
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    アーギュメント構成能力は,世界各国の科学教育において科学リテラシーの一つとみなされており,理科における授業実践の開発・評価が行われてきている.日本においても,筆者らの研究チームは,日本の小学校理科の各学年において授業実践の開発・評価を行っており,その中で,初めて理科を学習する第3学年の児童を対象とした試みも行ってきている.しかしながら,第3学年の授業実践は,単元「風とゴムのはたらき」において開発・評価されているだけに留まっている.日本の小学校理科においてアーギュメント構成能力の育成を普及・浸透させていくためには,他の単元においても授業実践の開発および評価を行うことを通して,小学校理科の各単元に即した授業実践の事例を蓄積する必要があると考えられる.

    そこで,筆者らの研究チームは,第3学年の単元「磁石の性質」において,証拠—主張—理由付けを含む初歩的なアーギュメント構成能力の育成を目指した授業実践の開発と評価に取り組んでいる.本研究では,この授業実践の評価に焦点を当てて,アーギュメント構成能力の評価方法および評価結果の一部を報告する.

    評価の対象は,開発された授業実践に参加した3年生67人であった.評価課題については,既習内容のアーギュメント課題(地面の温度変化に関する課題,およびねん土と木の重さに関する課題)を授業実践の前後に実施した.分析については,課題における自由記述の回答に対して,主張,証拠,理由付けの各要素を2点満点で評定した.

    評価課題の回答分析の結果,次の2点が明らかになった.(1)授業実践の事前から事後にかけて,主張,証拠,理由付けのいずれの構成要素の得点も概ね向上していた.(2)しかしながら,理由付けの得点については,一部の課題で向上はしていなかった.また,いずれの課題においても,満点であった児童が他の構成要素よりもやや少ない傾向にあった.これらの結果から,開発された授業実践は,証拠—主張—理由付けを含む初歩的なアーギュメント構成能力の育成において一定の効果はあるものの,理由付けについては改善すべき点が残されていることが示唆された.

  • 岩本 幸恵, 猪本 修
    2019 年 33 巻 7 号 p. 9-12
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    中学校第2学年の理科のうち「電流とその利用」の単元で学習する「オームの法則」は,中学生が最も苦手とする事項の一つである.この苦手意識の要因を探るため,大学生及び大学院生に意識調査を行ったところ,オームの法則を理解できていない学生の多くは電流と電圧の概念が定着していないことがわかった.その一因として,現行の教科書では電流と電圧を説明する際,水流モデルを用いているが,この水流モデルはあくまでアナロジーであり,水流や水路の高低差がなぜ電流や電圧に置き換えられるか理解しにくい場合があり,誤解を生じる可能性がある.そこで,一様電場における荷電粒子の動きに基づいて,電流の可視化実験教材を開発し,電流の理解に繋げることを試みる.この可視化教材は「電流とは,電圧が加わることにより導線内を移動する荷電粒子の動きである」という概念の形成を促すことができ,のちに続く電圧,電気抵抗の理解を深めることが期待できる.

  • 鷲見 拓哉, 猪本 修
    2019 年 33 巻 7 号 p. 13-16
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    電磁気に関する単元において,「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには,生徒が実際に電流や電圧の変化や振る舞いを定量的に調べる,回路実験を行うことが有効であろう.しかし実際には,測定機器や回路素子などの実験環境が整っておらず,時間的な制約がある中で,教師が準備を行い生徒に実験を行わせることは敬遠されている.そこで本研究では,教師が準備に手間取らず,生徒にも取り組みやすい,安全で簡便なキットを作成し,このキットによって体系的に回路実験を行えるようにすることを試みた.本研究で開発しているキットには,市販のブレッドボードと回路素子を用い,簡単に回路を組み立てることができるようにした.そして,最低限の回路の組み立てによって,体系的に回路実験を行えるよう,回路パターンの絞り込みを行った.ここではキットの概要と構成を提案する.

  • 大村 優華, 猪本 修
    2019 年 33 巻 7 号 p. 17-20
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    中学校理科における音の単元で,音色を授業で扱うための実験教材の開発について検討をおこなった.現行の学習指導要領では,中学校1年次において音による現象という単元を学習する.そこでは音の伝わり方や,音の3要素である音の大きさ,高さ,音色があることを学習する.音の3要素のうち大きさと,高さについては実験活動を通して理解ができるような授業が展開されることが多いが,音色に着目した授業はあまりなされていない.音色を波形から読み取ることが難しいなどの理由から音色に関する実験活動が乏しいのが現状である.そこで,音色について分かりやすく効果的に授業で扱えるような,複数の音叉を用いた実験教材の開発をすることにした.純音からなる音叉の音を複数個同時に鳴らすことによって,音色を形成する要因である倍音列を人工的に作り出すことが可能となる.これにより段階的に響きと波形の変化を学ぶことができるため,音色の理解が深まることが考えられる.また,本手法により単純な構成の波形をとる楽器の音色を再現することができる.

  • ―小中学校における葉のデンプンの検出を事例として―
    河合 信之
    2019 年 33 巻 7 号 p. 21-24
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    光合成によって葉でつくられたデンプンの検出方法について小学校理科の教科書では,(1)葉を煮てヨウ素液をつける方法,(2)葉をろ紙で挟んで木槌でたたき出し,ろ紙にヨウ素液をかける方法が紹介されている.これらの方法の問題点として,(1)の方法では,緑色の葉に直接ヨウ素液をつけるため,ヨウ素反応が青紫ではなく黒ずむことが多い.(2)の方法では,葉がろ紙に残ったり,木槌で叩いてろ紙が破れたりする.またろ紙にヨウ素液を直接かけるため,反応がきれいに出ないという問題が挙げられる.そこで本研究では,たたき出す道具や手順を工夫することによって,葉だけでなく,茎や根に含まれるデンプンをヨウ素液で青紫色に美しく検出することができた.また,この方法を使った発展的な指導法として,時刻別の葉を採取してヨウ素反応を調べると,その色の濃度差から,昼間に,光合成によって葉のデンプンが増加し,夜間にデンプンが葉から出ていくことが経時的に確認できることを紹介する.

  • 小林 卓矢, 石原 諭
    2019 年 33 巻 7 号 p. 25-28
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    「物理は公式を覚えてそれに値を代入する科目」といった誤解が,特に物理を苦手とする生徒たちの間に蔓延しているように思われる.その状況を少しでも改善させるため,世界的に評価の高い教材である「ファインマン物理学」のⅠ章9節にある「逐次計算手法」を高校物理に導入することを提案したい.この手法を導入するメリットは,先に述べた物理を苦手とする生徒への物理の概念形成を促すという効果だけではなく,発展的なことを求める生徒にも効果が期待される.それは逐次計算手法が,公式が通用しない,理想的でない状況における物理現象の説明(加速度が位置や速度により変化する,一般に微分方程式を用いなければ運動解析ができないもののグラフ化)に役立つからである.逐次計算手法の教育的効果について,高校3年生に補習授業「単振動の様子を逐次計算で追う」を実施し,補習前後のアンケート調査(MPEXメリーランド大学物理期待観調査)を分析することで,その有効性を確かめた.

  • ジグソー編の開発
    大黒 孝文, 山本 智一, 出口 明子, 竹中 真希子, 黒田 秀子, 舟生 日出男
    2019 年 33 巻 7 号 p. 29-32
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,教員に協同学習の指導力を付けることを目的に,教員研修及び教員養成課程において使用するマンガケースメソッド学習プログラム:ジグソー編を開発し評価を行った.学習プログラムは,現在マンガケースメソッド教材とテキストが完成している.

    兵庫県内の国立大学法人に通う中学校高校理科教員志望大学生43名を対象に3時間の授業において実験研究を行った.評価の内容は,学習プログラムの使用感や有効性とジグソー学習に対する関心・意欲に関する質問紙調査であった.評価の結果,すべての項目において有意に肯定的な評価を得た.以上から本プログラムの有効性が示唆された.

  • 東野 達也, 吉本 直弘
    2019 年 33 巻 7 号 p. 33-36
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,小学校理科第5学年「天気の変化」の単元で行う雲の観察について,その基礎的な知識,技能を修得できる小学校教員向けのeラーニング教材の開発を行った.教材の開発は,インストラクショナル・デザインのADDIEモデルのプロセスに従って進めた.本教材の特色は,以下の二点である.(1)吉本・内薗(2019)によって明らかにされた天気ごとの雲形とその組み合わせの出現特性に基づいて,学習内容を精選した.(2)同じ雲形でもさまざまな見え方をする雲について,観察の観点と要点を捉えることができるように,実際に観測された多数の画像を用いて十分な学習機会を提供した.これらによって,教員が効率的,効果的に,雲の観察に関する基礎的な知識,技能を修得できるように教材を設計した.本教材は,学習管理システム(LMS)のMoodleのコースとして整備し,教員研修に使用して,その評価を行う予定である.

  • ―京都市内の支援員への質問紙調査を通して―
    石井 巧, 大石 州紀, 秋吉 博之
    2019 年 33 巻 7 号 p. 37-40
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は理科支援員等配置事業の後継事業に着目し,一政令指定都市で勤務している支援員の質問紙調査を通して,小学校における理科観察実験支援の現状と抱えている課題について明らかにすることを目的とした.その結果,理科室・準備室の環境整備に関する工夫をしている支援員が多く,実際の学習環境や授業進度に応じた工夫を行っていることが明らかとなった.また,支援員としての満足度については,労働条件に関する満足度を除くといずれも高い満足度を示していたおり,支援員は本職務に大変満足していることが明らかとなった.しかしながら,連携においては十分なコミュニケーションの機会を確保することに関し,困難を抱えている支援員が多く存在することが明らかとなった.今後の課題として,支援員と教員が連絡・調整等の連携を効率的に図るためのツールや授業支援や予備実験を円滑に進めるためのツールの開発について検討する.

  • ~第3学年児童の聴覚・嗅覚に焦点付けた調査より~
    岩本 哲也, 溝邊 和成, 流田 絵美, 平川 晃基
    2019 年 33 巻 7 号 p. 41-44
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,小学校第3学年児童を対象に,諸感覚でとらえた自然に対する表現について,その特徴を明らかにすることである.「音」(聴覚)と「におい」(嗅覚)に焦点付けて,絵や言語で表現させて調査分析した結果,次の点が特徴付けられた.1点目は,「音」について音を波線で表現する傾向,反復や長音で音を表現する傾向,音の大小を暖色・寒色で表現する傾向があった.2点目は,「におい」では,長音や語尾に「ん」を付けて表現する傾向, 味覚と関連させて表現する傾向があった.3点目は,「音」ならびに「におい」の共通点として,種類によって表現のしやすさが異なるが,共に多様な表現が見られることであった.

  • 金子 健治, 足立 望実
    2019 年 33 巻 7 号 p. 45-48
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    小学校教員志望女子大生が沸騰している水の中から出てくる泡をどのように認識しているかということや,小学校4年理科で行う実験を体験することによって,その認識が変容するかどうかについて調査を行った.その結果,授業前は,沸騰している水の中から出てくる泡が水蒸気であることを認識している学生は10%以下であり,殆どの学生が空気,酸素,などの誤った認識をしていること,授業を行った直後は正しい認識を示すが,1ヶ月半後に遅延調査を行うと,正しい認識を保持している学生は70%以下に低下してしまうことがわかった.遅延調査で誤った認識を示す学生の多くは実験の方法や目的を正しく覚えていないので,大学での授業でも実験の目的や方法をよく理解できるようなプロセスで丁寧に指導していく必要があることを示唆するものである.

  • 「目のモデル」の活用例
    加山 敦子
    2019 年 33 巻 7 号 p. 49-52
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    客観的に眺めるだけでは,自ら進んで探究する活動に至らない.従来の目のつくりの学習は,自分の体のことでありながら客観的に眺めることしかできず,暗記すればよいという傾向が生徒にあるように思う.本研究では,生徒一人ひとりが短時間で様々な実験に取り組むことができる「目のモデル」を開発し,自らが行う実験観察を通して気づき,考え,議論する授業を目指す.生徒一人ひとりが短時間で様々な実験に取り組むためには,凸レンズのしくみを利用した優れた「目のモデル」を,二人に1組ずつ配布できるよう20組分安価な材料で準備する必要がある.そのような「目のモデル」の作り方と,そのモデルを使って一人ひとりが生徒実験を行い気づき,考え,議論する授業をどのように組み立てるのかについてまとめた.

  • ―IPLサイクルを適用した実験の前後での測定手続きの指導において―
    安部 洋一郎, 松本 伸示
    2019 年 33 巻 7 号 p. 53-58
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,安部・松本・松本(2019)における児童の実験計画の能力の向上のための指導方法を,実験計画に関わる文献で得られた知見をもとに考察することが目的であった.先行研究より,学習者自身が思考する場面の後に教師が教示を行う指導を組み合わせることで,学習者の理解が深まる効果が期待されることが複数の論文において指摘されていることが明らかになった.学習者が実験を計画する指導はしばしば行き詰まりにつながるが,学習者の実験計画場面の後に教師の教示場面を設定する指導方略によってそのような行き詰まりの解消が期待される.

  • 酒井 美奈子, 松本 伸示
    2019 年 33 巻 7 号 p. 59-64
    発行日: 2019/06/01
    公開日: 2019/05/29
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,児童に問題解決のそれぞれの過程を重点的,あるいは段階的に指導した後,児童に委ねる問題解決的学習の時間を設定した単元デザインによって,児童の実験に関わる意識が単元を通してどのように変容するかをOPPシートの学習履歴を分析し検証した.検証の結果,本研究の単元デザインは,全児童に適切な実験への意識を促すこと,児童の実験への適切な意識を高めることは,問題を科学的に解決する力を向上させたり,知識の獲得や科学的概念の形成を促したりする可能性が示唆された.さらに,実験の実証性,再現性,客観性等を検討できるような児童を育てていくことが,問題を科学的に解決する資質・能力を持つ児童を育てることになる可能性が見出された.

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