日本科学教育学会研究会研究報告
Online ISSN : 1882-4684
ISSN-L : 1882-4684
34 巻, 8 号
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表紙・目次
発表
  • ―中学校2年「天気とその変化」の授業分析―
    森光 司, 中城 満
    2020 年 34 巻 8 号 p. 1-4
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    本研究は考察段階における学習過程に注目し,思考ツールを用いた考察内容がどのように変化していくのかを分析することを通して,思考ツールの活用の在り方を明らかにすることを主な目的とした.具体的には,思考ツールを活用した上で,連続する2時間の学習におけるそれぞれの考察場面での話し合いの方法を変えた授業を実施した.その方法とは,「班活動→全体共有」と「個人→班活動→全体共有」という2つの学習過程であった.これらの学習過程と思考が可視化された生徒の記述を比較することで,どちらの学習過程が効果的に思考ツールを活用できるのかを検討した.その結果,効果的に思考ツールを活用できた学習過程は「個人→班活動→全体共有」であった.「個人→班活動→全体共有」では,個人で自分の考えを確立することができた上で,班活動に臨むことができた.この学習過程の方が,言語を捨象し,全体共有でまとめるための言語の選択ができた,言語の統一性ができていた,などが顕著に見られた.このことにより,個人思考を十分行うことによって,思考ツールをより効果的に活用できることが明らかとなった.

  • ―小学校第四学年「すがたを変える水」の授業分析―
    中城 満, 石原 将司
    2020 年 34 巻 8 号 p. 5-8
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    本研究は,児童の科学的概念の形成に影響を与える誤概念の混乱をできる限り排除しようとして試みられた授業実践の効果を検証したものである.具体的には,誤概念の混乱が生じる典型的な学習内容として,小学校第四学年「すがたを変える水」の授業を取り上げた.そして,その学習における仮説設定,問題解決過程における働きかけ方などを工夫することで,「沸騰するときに出る泡は“空気”である」という誤概念の混乱をできるだけ排除した.この授業と教科書の記述に沿った通常の授業とを比較し,考察場面における結論の導出が無理なく行えたかどうかを検討した.その結果,後者の授業に比べて,前者の授業においてほとんどの児童が見えない水(水蒸気)の存在を言及する発言をすることができていたことが確認された.

  • 野村 祐子
    2020 年 34 巻 8 号 p. 9-14
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    消防教科書においては,水蒸気爆発などの物理的変化による爆発の仕組みは記述されていない.理科教育においても天ぷら油火災に水をかけると危険であることなどを理解させる防火教育の枠組みは未整備である.警防活動や初期消火に伴う二次災害の危険性を理解できるように,水蒸気爆発の仕組みを学習するための方法を模索する必要がある.そこで本研究では,水の状態変化と水蒸気爆発の理解を促す観察実験の開発と映像教材の作成を試みた.また,水が高温の油と接触した時に生じる油から水への熱移動が引き起こす爆発的沸騰の過程を説明するために必要な命題群を設定するとともに,爆発的沸騰の仕組みを理解するための概念地図の作成を試みた.これらの教材を用いて消防教科書「消防理化学・実験」の各章をつなぐ学習過程および小学校理科第4学年「金属、水、空気と温度」の「水の状態変化」と「熱の伝わり方」を発展させる学習過程の提案を試みた.

  • 猪本 修
    2020 年 34 巻 8 号 p. 15-18
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    理科教育あるいは物理教育において自然現象を数量的に取り扱い,現象を数学的に定式化することは,その性質や規則性を理解する上で不可欠である.実験または観察を通して自然現象を理解するには,実験結果に基づいて法則性を「発見」するプロセスが必要である.これには数学的モデリングの方法論が有効であり,現象に対する仮説の設定,実験の計画と遂行,結果の定式化と解釈,考察を繰り返し行いながら理解を深めることができる.本研究では学校教育においてしばしば取り上げられる過渡現象に着目し,それを微分方程式としてモデル化する授業方法を検討した.具体的には熱平衡に関わる簡単な実験を取り上げて,測定結果からニュートンの冷却則を「発見」するための一連の方法を提案した.この実験と考察は数学教育においても効果的であり,学習内容を活用する上で役割を果たすものと考えられる.

  • 及川 久遠
    2020 年 34 巻 8 号 p. 19-22
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    高等学校の数学の中で「行列」という単元は特徴的なものの1つである.初めて単元として扱われたのは1973年度(昭和48年度)施行の学習指導要領であるが,そのときは「数学一般」という科目にあった内容の「ベクトルと行列」であり,数学一般と数学Iから1科目を選択する選択必修であった.したがって,多くの高校生が行列を学習するようになったのは次の学習指導要領であるといってよい.その後,数学と理科が1年先行した2012年度(平成24年度)施行の学習指導要領で「行列」という内容(単元)がなくなるまで約40年にわたり高等学校の数学で教えられていた.実はまったく無くなったわけではなく,同年に創設された「数学活用」という科目の中で簡単ではあるが扱われている.次期学習指導要領においても同様の扱いになり,単元としての「行列」の復活を望む声は届くことはなかった.本稿では,「数学一般」から「数学活用」までの教科書を参照しながら,次期学習指導要領に向けてこれまで行われてきた行列の教育の特徴について再確認する.

  • 山下 司, 佐伯 昭彦
    2020 年 34 巻 8 号 p. 23-28
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    本稿の目的は,生徒が自ら批判的思考を働かせることによって,数学的概念を高めていく授業構築を目指すために,批判的思考に関する構成要素を先行研究よりレビューするとともに,批判的思考を働かせるための数学学習の工夫を導出することである.本稿では,国内の批判的思考研究の第一人者である道田の先行研究を中心に分析し,批判的思考の構成要素である,態度(批判的態度,省察的懐疑),技能(創造的・柔軟な思考,論理的・合理的思考)についての定義を行った.その定義を基に,算数・数学学習における批判的思考の育成に関する18の先行研究を分析し,批判的思考を働かせるための数学学習の工夫を整理した.その結果,(1)教材の工夫,(2)教師の効果的な発問,(3)子ども同士の対話による相互作用に分類された.

  • 早田 透, 溝口 達也, 松嵜 昭雄, 真野 祐輔
    2020 年 34 巻 8 号 p. 29-34
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    本研究プロジェクトの目的は,授業研究(Lesson Study)を比較・分析するための理論的枠組みを作成することである。このため,本稿においては,授業研究に含まれる授業設計プロセスに着目し,4都市における教員養成系大学の学生が行った授業設計プロセスを比較した。その目的は,授業設計のプロセスがどの様な条件と制約を受け,どの様な形態を採っているかを明らかにすることである。プラクセオロジーとその決定レベルを理論的枠組みとして分析を行った結果,次の3つの可能性が確かめられた。まず,数学的なプラクセオロジーの設計においては,領域以下のレベルでの条件と制約に違いがあることが示唆された。次に,参加者による教授行為の組織に影響を与える条件と制約の決定レベルは,参加者同士で合意が形成されていないレベルよりも下であることが示唆された。最後に,用いる指導案のフォーマットによって,授業設計のプロセスに大きな差が認められる可能性が示された。

  • ―無限等比級数の視覚化―
    松原 和樹, 服部 裕一郎
    2020 年 34 巻 8 号 p. 35-38
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/20
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    折り紙を教材として活用する算数数学授業は時に特設的であって局所的な概念理解に焦点があたることが多い.本研究は児童・生徒の主体的な数学的思考を促す系統的な折り紙教材の開発を行い,実践を通してその有効性の検証を行うものである.本稿では,高等学校数学Ⅲで学習される「無限等比級数」の概念に着目し,小学校段階での教材化の可能性を検討する.1+1/2+1/4+1/8+…の収束について,画用紙を用いて初等幾何学的にアプローチをすることで,無限等比級数の視覚化を試みた.実践研究の結果,児童達は収束する無限等比級数について,最初は感覚的に発散すると予想していたことに対し,授業を通して最終的に,全員の児童がその和の値を視覚的に捉えることに成功した.本教材によって,児童それぞれに無限概念への理解の萌芽が特定され.小学校段階においても無限等比級数概念の素地育成は可能であること,高校段階での学習内容への橋渡しとなる教材になり得ることが示唆された.

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