九州西部の, 天草の島々によって外洋と分けられている南八代海の表層堆積物と海洋環境との関係を明らかにすることを目的として, 1996年3月に74点のコア試料を採取した. 62のコアの試料は, settling-tube method によって粒度分析に使われ, 61の試料は, コア中の水銀含有量の異常値の初出現層準から堆積速度 (cm/約50年) を見積もるために使われた. 一方、73のコア試料の最上部1cm (10ccに相当) は, 底生・浮遊性有孔虫殻の個体数の地理的分布, 底生有孔虫生体殻の生息分布を知るために使われた.
それらの研究結果から, 南八代海は次の5つの海域にまとめることができる: 1) 西側の海峡近くの海域は, 強い潮流・底層流を反映して粗い堆積物で特徴づけられる; 2) 南部と水俣川河口沖の浅海域は, 沿岸流の影響と米ノ津川・水俣川から供給される堆積物から, 比較的粗粒な, 淘汰の悪い堆積物で特徴づけられる; 3) 北西部と東部海域は, 比較的停滞した水塊の存在から細粒堆積物で特徴づけられ, 堆積速度も一般に早い; 4) 中央部では, 弱い潮流と異なる水塊の潮目付近に位置することを反映して, 比較的細粒な, 浮遊性有孔虫遺骸殻を多く含んだ堆積物によって特徴づけられる; 5) 北部の島に近い海域では, 沿岸浅海域からもたらされた礫あるいは礫質砂によって特徴づけられる.
各コアで測定された水銀含有量最大値の地理的分布から, 水銀に汚染された細粒堆積物は水俣湾沖から沿岸流によって北東と南へ移動し、南八代海の北部では北へ, 南部では西へ, 海域を横切って拡散していることが明らかになった.
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