近年,製品やその内部部品に至るまで,個々の製造から流通,使用に至るまでの履歴を確認できるようにするトレーサビリティの確保や,偽造対策のニーズが高まってきている.従来,製造物を識別・認証するために,マーキングやタグの取り付けなどの加工が行われてきた.しかし,小型・精密部品などでは物理的な制約があることや,製造コスト,偽造技術の高度化など,様々な課題が浮き彫りとなってきている.こうした背景から,より簡便かつセキュアに,個々のモノを識別・認証できる技術が求められている.そこで,人工物が持つ個々に固有な物理的特徴(人工物メトリクス)を観測し照合することにより,個体毎の識別と認証(真贋の判定)を行う技術が注目されている.その中でも,スマートフォンのカメラなど広く一般的に普及しているデバイスで認証を行える画像認識を用いた技術は利便性が高く,製造から流通,使用に係る誰もが容易に利用できるという利点がある.本稿では,多種多様なモノに汎用的に適用可能な“物体指紋”を用いた画像認証技術について詳しく紹介する.“物体指紋”とは,モノの製造過程でその表面に意図せず自然
発生している微細な凹凸を画像として撮影したパターンである.同一工程で均一に製造されたモノでも個々に異なり,偽造も困難であるうえ,一般的なカメラで容易に撮影できるため,セキュアでかつ利便性の高い物体認証を実現可能である.機械や電子機器の部品,産業用設備から,医療器具,ベビー用品,医薬錠剤まで,様々なモノを識別・認証する応用例と,新たな認証媒体への活用などを紹介する.
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