近年,仮想空間におけるサイバー攻撃が増加し,国家が対応仕切れていない状況である.そこで,本論文で はサイバー空間の攻撃に対する抑止の仕組みについて分析することを目的とする.その際に,サイバー外交 の要となる能力構築(キャパシティ・ビルディング,以下 CB)に焦点を当て,安全保障研究の今後の進むべき方向性を明らかにする.CB とは,国連が提唱した“Agenda21”を基礎として発展してきた.Agenda21 において,国連は能力構築(キャパシティ・ビルディング)を「発展途上国の対処能力向上を支援する」と定 義付けしている.サイバーに関する能力構築は,①軍事能力構築,②経済能力構築,③統治能力構築(新規範能力構築 この三つの定義が存在する.本稿では,まず初めに先行研究を通して,現時点での国家によるサイバー戦略の対策の現状を概観する.そして,国際関係学の分野で確立した現実主義に基づいた抑止理論に注 目し,抑止理論の重要性を確認する.サイバー空間においても,冷戦期の「懲罰的抑止」理論を用いて原状回 復することが出来るとする研究も存在する.しかし,サイバー攻撃は発信源を即座に特定できない「帰属問 題」が存在し,「懲罰的抑止」の実施は困難である.また「現実主義(リアリズム)」的観点では「拒否的抑 止論」を各国で協力して実施することは不可能であると考えられる.そこで,サイバー抑止論を指標と し,CB を行えばサイバー攻撃が減る負の相関関係を統計的に導き出すことを予備研究と位置づけし,本研究の主たる目的とする.
本稿では、理論の重要性が提唱されている「拒否的抑止論」を踏まえ,サイバー攻撃と能力構築支援の負
の相関関係を示す仮説を提唱する.今後,予算・既存の軍事施設・軍事演習の頻度や軍用機等を指標とし仮 説の検証を行う.各国家が公表している軍事費・の資料や数値を用いて,CB の支援国・ドナー国の協力によるサイバー攻撃逓減の相関関係と因果関係の発見が見込まれる.後の課題として,国家の交渉,発展途上国 の動向,また技術力・経済力・軍事力もあわせて比較分析する必要がある.サイバー抑止論にいて,先進国と 途上国にとっての脅威が実際の CB においてサイバー攻撃を減らすインセンティブになっているのか因果関係を明らかにすることが重要であると指摘し,本研究ノートを結論付ける.
抄録全体を表示