外科と代謝・栄養
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55 巻, 6 号
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特  集 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
  • 海堀 昌樹, 宮田 剛, 谷口 英喜, 鍋谷 圭宏, 深柄 和彦, 鷲澤 尚宏, 小坂 久, 福島 亮治
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
    2021 年 55 巻 6 号 p. 221-227
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

     本学会では2012年からESSENSE(ESsential Strategy for Early Normalization after Surgery with patient’s Excellent satisfaction)プロジェクトを立ち上げた.プロジェクトでの方策が現実に患者満足度を向上させて身体的回復を促進するか否かを検証するために,2014年に前向き多施設共同研究を行った.【方法】食道切除,胃全摘あるいは胃切除,膵頭十二指腸切除,肝切除,大腸切除を対象術式とした.対照期間として各施設従来通りの周術期管理を行う6カ月とした.その後ESSENSE介入による周術期管理を行う6カ月を介入期間とし,介入前後を術式ごとに比較する前向きコホート試験とした.【結果】術後3,7病日での質問法QoR40を用いた患者満足度の定量的評価では,5対象術式において介入群でのQoR40改善効果は認めなかった.各術式における生化学検査所見,Clavien‐Dindo分類による術後合併症発生率,在院日数,医療費においても両群間に差を認めなかった.【考察】ESSENSE介入群において良好な周術期管理結果が導けなかった要因として,「周術期不安軽減と回復意欲の励起に対する取り組み」としての患者自らのESSENSE日記記載ではQoR40患者満足度に対しては不十分であった.非介入群におけるQoR40結果自体が低値ではなく,さらなる上乗せ効果のエンドポイント設定自体が問題であったのではないかと推察された.また身体活動性の早期自立,栄養摂取の早期自立に対しても今回の介入策では不十分であったと考えられた.

  • 谷口 英喜
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
    2021 年 55 巻 6 号 p. 228-233
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

     わが国の麻酔科領域において,enhanced recovery after surgery(以下ERAS)プロトコルが知られはじめたのは,術前経口補水療法(preoperative oral rehydration therapy:POORT)が導入された2009年にさかのぼる.その後,麻酔科領域にも広くERASプロトコルの概念が普及していく中で,プロトコル原型を実施する際の課題が明らかになってきた.課題としては,わが国では術前炭水化物負荷の実施が積極的ではないこと,硬膜外鎮痛の実施頻度がいまだに高いこと,術前準備期間が短いこと,麻酔科医が手術室外で十分に業務できないこと,などがあげられる.理想的には,麻酔科医が手術室外で現在よりも業務を実施できる環境となればERASプロトコルの実施における外科医の負担軽減および達成度の向上に貢献できると考える.本稿では,それぞれの課題と対策について述べる.

  • 立石 渉, 竹前 彰人, 常川 勝彦
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
    2021 年 55 巻 6 号 p. 234-237
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー
     本邦での心臓血管外科領域におけるERASの報告が少ない中, われわれは積極的にERAS管理を行い, 術後早期回復の指標として早期食事開始, 離床, 退院の結果は得られた. しかし, Postoperative fatigueをいかになくすかという観点から見た際に, 現状ではどれくらいのを効果が得られたかの客観的な指標を示すことができていない. またさまざまな介入項目の効果などについての報告はあるものの, 一定の見解が得られていない項目が多い. 現状では以上のようなERASの問題点が存在しており, 今後は解剖し検証していることが必要になってくると考える.
  • 山下 芳典, 三村 剛史, 坪川 典史, 田所 和樹, 大﨑 久美, 山中 咲季, 立石 圭吾, 中平 光次朗, 前迫 克哉, 後迫 咲, ...
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
    2021 年 55 巻 6 号 p. 238-241
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー
  • 佐藤 弘, 宮脇 豊, 李 世翼, 桜本 信一, 牧田 茂
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
    2021 年 55 巻 6 号 p. 242-245
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー
     周術期早期回復プログラムの1つにEnhanced Recovery after Surgery (ERAS®)という概念がよく知られている. 当初は, 高度侵襲手術の1つに分類される胸部食道癌手術には適用が困難とも考えられていたが, 次第に普及し, 効果的に運用されている. しかしながら, 適用が進むにつれて, 多くの問題点が認められるのも現状と考えられる. 確かに“早期に回復する”ことは重要である. しかし周術期だけのアウトカムがよければよいというものではない. 本来, 本プログラムを適用することによって, 術後6カ月, 1年など中長期的にみても有用であることを証明しなければいけないと考える. また診療報酬上も, 適切に評価されるべきと考えられる. 診療報酬として算定されることになれば, 本プログラムがより多くの施設で適用されるようになり, 医療の質の向上につながることが期待される.
     本稿は, 消化器癌の中でも高度侵襲手術の1つに分類される胸部食道癌根治手術を例にとり, ERAS術後早期回復プログラムの問題点について述べたい.
  • 松井 康輔, 松島 英之, 小坂 久, 山本 栄和, 関本 貢嗣, 海堀 昌樹
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
    2021 年 55 巻 6 号 p. 246-249
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

    【はじめに】当院では肝癌肝切除において,これまでのERASプロトコールによる周術期管理を改善し,ESSENSEプロトコールに基づいた周術期管理を行っており,その効果と問題点について検討を行った.【対象と方法】2018年1月より2020年12月までの肝細胞癌肝切除206例を対象に,当院におけるESSENSEプロトコールに基づいた周術期管理について検討した.【結果】ESSENSEプロトコールのうち,「腹腔ドレーンの排除」の検討では94.2%にドレーン留置が行われており,「術翌日よりの食事再開」において,術翌日に5割以上の食事摂取が可能であった症例は38.7%であり,いずれも遵守困難と考えられた.【考察】ドレーン留置は身体活動の抑制につながるが,肝癌肝切除においては,難治性腹水や術後胆汁漏の観点からドレーン留置が必要となる症例も多く存在し,ドレーン留置必須症例を正確に抽出する必要があると考える.また,術翌日よりの食事再開は困難であり,再開においても患者の食事意欲や腹部症状に合わせた食事内容での再開に努める必要があると考える.

  • 眞次 康弘
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「これまで実践してきたERAS術後早期回復プログラムの問題点は何か」
    2021 年 55 巻 6 号 p. 250-254
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

     Enhanced recovery after surgery(ERAS)はエビデンスのある周術期管理方策をパッケージ化して実施し,合併症を減らして術後の機能回復促進を目的とする.ERASは現代医療ニーズにフィットするが欧州の医療システムに即して開発されてきたため,医療費抑制と包括ケアおよび急性期/回復期医療の役割分担を強化している.ESSENSEはERASをわが国で展開するためにその問題点を整理し,患者視点も重視して開発された.膵頭十二指腸切除術のERASプログラムは大腸手術プログラムから派生したものであり,これまでの報告から,ERAS実装は安全で入院期間短縮と一般合併症減少が期待できることはほぼ証明された.しかし,術後膵液瘻などの臓器・手術固有の合併症リスクはERASで制御することは困難であり,代謝ストレス制御は容易ではなく,早期経口栄養を開始できても必要量を充足できるとは限らない.エビデンス構築が十分でない推奨事項もある.総合評価指標と認知されている在院日数を第一義的に追求するのではなく,疾患に応じた科学的・病態生理学的原則に沿って運用することが重要である.

原著(基礎研究)
  • 原田 大輔, 中山 満雄
    原稿種別: 原著(基礎研究)
    2021 年 55 巻 6 号 p. 255-263
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

    目的: 7.5%糖・3%アミノ酸液(AF)を主体とした末梢静脈栄養において, どの程度の20%脂肪乳剤(IL20)を併用すれば栄養効果が改善されるかを検討した. 方法: AF 2000mLあたりIL20を100~500mL添加し, AFL20, 40, 60, 80, 100の被験液を調製した{数字は脂肪量(g)}. 正常または開腹術侵襲ラットに対し, 5日間持続投与した. 糖とアミノ酸の投与量は群間で同一とした. 毎日採尿し, 投与5日目に採血した. 結果: 投与前後の体重変化率と窒素出納は, 脂肪の添加量に応じて改善した. 侵襲ラットの体重変化および術後早期の窒素出納の改善は, AFL40以上の脂肪添加群でAF群に対し有意であった. 脂肪添加量を増やすと, 血清遊離脂肪酸, 血清総ビリルビン, 一次水分出納の増大, 血小板数の減少を認めた.
     結語: AFの1日量 (糖150g,アミノ酸60g) に脂肪40g以上を添加することで栄養効果が改善した.

原著(臨床研究)
  • 斎野 容子, 三松 謙司, 吹野 信忠
    2021 年 55 巻 6 号 p. 264-272
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

     【目的】ERASが大腸切除術後の栄養摂取量に及ぼす影響を検討した.
    【方法】大腸切除症例を従来の周術期管理(C)群とERAS(E)群, 開腹手術(OC)と腹腔鏡下手術(LAC)によりC‐OC群, C‐LAC群,E‐OC群, E‐LAC群に分類して後方視的に食事と輸液のエネルギーとたんぱく質摂取量を比較した. ERASの影響はC‐OC群とE‐OC群, C‐LAC群とE‐LAC群, 手術侵襲の影響はE‐OC群とE‐LAC群で検討した.
     【結果】E群とC群のエネルギーとたんぱく質摂取量は, 手術侵襲によらず食事はE群,輸液はC群が多かったが, 合計に差はなく, 全ての群で必要量に達しなかった. 退院前日のエネルギー摂取量は全ての群で必要量に近かったが, たんぱく質摂取量は必要量の6~8割と低かった.
     【結論】ERASにより食事のエネルギーとたんぱく質摂取量は増加したが, 食事のみで必要量を満たすことはできなかった. 食材や献立を工夫し, 非タンパクカロリー窒素比が低い術後食を策定する必要がある.

総説
  • 田中 孝平, 片山 翔, 大倉 和貴, 岡村 正嗣, 縄田 佳志, 中西 信人, 篠原 史都
    2021 年 55 巻 6 号 p. 273-280
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

     重症患者において骨格筋は身体機能に重要な役割を果たし,骨格筋の評価は重要である.骨格筋の評価にはComputed Tomography(CT),超音波検査,生体電気インピーダンス法(BIA法:Bioelectrical Impedance Analysis),バイオマーカーなどが用いられる.CTは正確な骨格筋量の評価が可能であり,第3腰椎レベルでの骨格筋量評価がゴールドスタンダードである.CTでの評価は放射線被曝の影響やCT室への移動を伴い,後方視的に骨格筋量の評価が行われることが多い.一方,超音波や体組成計は非侵襲的で,ベッドサイドで骨格筋量の経時的な測定が可能であるが,正確な測定には知識や技術を要する.重症患者は水分バランスの変動が大きく体組成計での測定では浮腫に注意する必要がある.さらに近年では骨格筋量評価のためのさまざまなバイオマーカーも報告されている.適切な骨格筋評価を本邦でも普及させることで,重症患者の社会復帰につながる栄養やリハビリテーションへの介入が期待される.

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