外科と代謝・栄養
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55 巻, 1 号
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特集「手術侵襲と臓器不全」
  • 平田 公一, 鶴間 哲弘, 巽 博臣, 斎藤 慶太, 田山 慶子, 藤野 紘貴, 及能 依子, 升田 好樹, 竹政 伊知朗
    2021 年 55 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     今日に繋がっている「術後合併症としての臓器不全」についての国際的合意を目指そうとした提案は, 1970年代後半から始まる. その整理が進むにつれて, あてるべき焦点は, 感染症特に敗血症であること, そしてその診療と診療評価基準の科学的確立であることが明らかとなっている. 本稿では, 感染症に起因する臓器不全の研究の歴史的変遷, 敗血症・ICU入室患者の重症度の的確な把握に関する提案の歴史的変遷について紹介した. 今後の新規提案においては, 生体の抵抗力の指標を代表する生体免疫能に関する基準として, 臨床に有益な分子生物学的知見に基づいた評価基準が提案されることを望みたい.
  • 井上 茂亮
    2021 年 55 巻 1 号 p. 6-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     多臓器不全 (multiple organ failure : MOF) は生命に危機的状況を引き起こす最重要課題で, 予後不良の術後合併症として注目されている. 手術侵襲は,高サイトカイン血症に代表される全身性炎症反応SIRS (systemic inflammatory response syndrome) を引き起こすだけでなく, 抗炎症反応であるCARS (compensatory anti‐inflammatory response syndrome)を誘導し, 局所の臓器障害がドミノ倒しのように多臓器不全へと進行する. 多臓器不全を, 1) 局所臓器不全か遠隔臓器不全か, 2) PrimaryかSecondaryか, で考えると, 4つのカテゴリーに分類される. 超高齢化社会に突入したわが国では, 免疫力が低下した患者の手術は増加傾向であり, 今後はCARSによる免疫抑制によるSecondary MOFは解決すべき喫緊の課題の1つである. 本稿では, 術後臓器障害の分類を概説するとともに, 今後高齢者が障害を受けやすい筋肉や脳の障害であるICU‐AWと敗血症脳症について紹介し, 今後本邦が直面する新たな術後臓器障害の課題と対策を考察したい.
  • 臼井 正信
    2021 年 55 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     最近の手術手技や周術期管理の進歩により手術成績は向上しており, 合併症の発生率も低下してきている. しかし, 肝胆膵外科手術は肝癌に対する肝切除や肝移植, 肝門部胆管癌のような障害肝に対する肝切除・肝外胆管切除などの肝臓手術と膵癌・下部胆管癌に対する膵頭十二指腸, 膵癌に対する膵体尾部切除などの消化器外科領域の中でも高難度かつ高侵襲な手術が多く, 結果として肝胆膵外科学会の高度修練施設調査においても合併症率, 死亡率も他の消化器外科手術よりも高い. 中でも臓器不全の発症リスクは高く, 加えて肝臓・膵臓は, 多くの蛋白産生や各種ホルモンの産生に携わっており, 高侵襲手術に伴う異化亢進抑制・代謝改善のための栄養管理・それぞれの臓器機能維持という代謝栄養学の面からも非常に重要でありいったん臓器不全がおこると他臓器にまで影響を及ぼし, 重篤化する場合もある. この臓器不全, 特に肝臓・膵臓の切除による機能低下を防ぐ周術期管理は非常に重要であり, 周術期におけるエネルギー代謝の維持には, 特に肝・腸管・骨格筋の代謝軸 (axis) を基盤とした栄養管理が有用で, 術後早期回復や合併症予防につながる. 本稿では, 高難度手術における臓器不全のリスクファクターについて解説し, 代謝・栄養学から見たその予防策について述べる.
  • 髙𣘺 一哉, 深柄 和彦
    2021 年 55 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     近年の消化器外科領域の技術的な進歩は目覚ましいものがあるが,一方で術後合併症の一つである術後腹腔内感染症の頻度は必ずしも減少していない.術後感染症が臓器不全にいたるメカニズムは臓器非特異的であり,Phase I;好中球細胞外トラップという自然免疫と血管内血小板凝集,Phase II;血管外血小板凝集と血管外血小板凝集由来因子の放出,Phase III;臓器障害,凝固線溶異常,免疫麻痺状態期へと進行し,最終的に臓器不全にいたる.そのため,術後感染症の発症を予防すること,術後感染症を発症した場合には臓器不全へと進行することを防ぐことが重要であるが,その中でも栄養の果たす役割は大きい.血糖管理,低栄養状態の改善,経腸栄養,免疫栄養は感染制御に臨床的有効性が示されている栄養管理であり,周術期に適切な血糖管理を行い,大手術を行う前に低栄養状態を改善させ,腸管が使用できるならばなるべく複数種類の免疫栄養剤の経口または経腸投与を行うことは,術後感染症から臓器不全への進行を防ぐ一助となるかもしれない.
  • 島内 貴弘, 小野 聡
    2021 年 55 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     手術侵襲後の合併症発生率は術式によって異なるが, 術後のSIRS (systemic inflammatory response syndrome) 合併率, 合併期間によって侵襲の程度を客観的に評価可能である. 術後SIRSの合併率は血中のIL‐6濃度とよく相関する. また術後合併症から臓器不全にいたる過程には, 炎症性サイトカインによって誘導される各種メディエータ, 特に好中球エラスターゼ, High mobility group box chromosomal protein‐1 (HMGB‐1) , Neutrophil Extracellular Traps (NETs) の役割が重要である. これらのメディエータは炎症担当細胞や血液凝固系を活性化し血管内皮細胞傷害を引き起こす. そして最終的には臓器機能不全を発症させる. したがって, 術後臓器不全対策としては, 上記メディエータを制御することが重要であり, 好中球エラスターゼ阻害薬やrecombinant human thrombomodulin製剤などが有望である.
  • 大藤 純
    2021 年 55 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     術後肺合併症 (postoperative pulmonary complication, PPC) の頻度は高く, 周術期死亡や重症呼吸不全の主原因となる. PPCは, 無気肺, 肺炎, 肺水腫, 慢性肺疾患の急性増悪など多様な病態を含む. PPC高リスク症例における呼吸管理では, 術中の肺保護換気に加えて, 術後の経鼻高流量酸素療法 (high flow nasal cannula, HFNC), 非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation, NPPV)などの呼吸補助療法を一連で行うことが重要である. 肺保護換気では, 術式や体格, 慢性肺疾患の有無, 術前からの肺傷害の程度などを評価したうえで, 適切な一回換気量とPEEPを設定し, 必要に応じて肺リクルートメント手技を組み合わせ, 人工呼吸器関連肺傷害の予防に努める. 術後の呼吸補助療法として, HFNCは忍容性が高く, Ⅰ型呼吸不全に広く用いられる. 一方, NPPVは肺リクルートメント効果に優れ, PPC高リスク患者の挿管回避に有効であるが, 忍容性は低く長期使用には向かない. HFNCおよびNPPVの特性を理解した使い分けと再挿管の時機を逸しない厳重な管理が必要である.
  • 志賀 卓弥
    2021 年 55 巻 1 号 p. 34-43
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     術後重症心不全は, 心原性ショックにより生じることが多い. 周術期に重症心不全が生じれば, 手術対象臓器のみならず, その他の臓器不全も惹起し, 多臓器不全に陥る可能性がある. すみやかに薬物治療介入を行い, 臓器血流を改善する必要がある. 薬物による心原性ショックの治療を行い, 十分に臓器血流を維持できなければ, 機械的補助循環を導入する. 心原性ショックに使用できる機械的補助循環には, 大動脈内バルーンポンプ, 膜型人工肺, 経皮的補助人工心臓があり, それぞれ特徴がある. 特に経皮的補助人工心臓Impella®は, 近年導入された経皮的に挿入可能なユニークなデバイスである. 薬物治療抵抗性心原性ショックに対する機械的補助循環の適応アルゴリズムなどを活用し, 大動脈内バルーンポンプの導入と経皮的冠動脈形成術の必要性がないか検索を進める. 循環の改善が認められなければ, Impella®の導入を検討し, これでも不十分な場合は膜型人工肺へエスカレーションする. それぞれの機器の特性を理解し, 適応に応じて使用することで, 術後重症心不全患者のアウトカムの向上をめざす.
  • 保木 昌徳
    2021 年 55 巻 1 号 p. 44-48
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     この40年ほどの間に多くの基礎的・臨床的なエビデンスの集積がなされ, これらの研究成果をシステマテック・レビューすることによりいくつかの重症患者に対する国際的なガイドラインが作成されるにいたっている.
     術後臓器不全にいたった症例の栄養療法は, 支持療法の根幹をなすものであるがその病態は複雑であることから, いまだ栄養療法によるoutcomeを示すエビデンスの高い成果は少ない. また, どの程度の熱量をどのようなタイミングで投与することが最も望ましいかは明らかにはなっていないのが現状である. これまでの知見から言えることは, 過剰投与を避け, 十分なモニタリングを行いつつケース・バイ・ケースでエネルギー負債が過剰にならないことを一つの目標として管理していくことであるといえる. また, 術後臓器不全に陥ったときに予後を左右する最大の因子としては, 術前の栄養状態であり術前の栄養評価・栄養管理が重要である.
原著(臨床研究)
  • 児山 香, 柴田 近, 安本 明浩, 高見 一弘, 長尾 宗紀, 山本 久仁治, 中野 徹, 小川 仁, 早坂 朋恵, 片寄 友
    2021 年 55 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/15
    ジャーナル フリー
     [目的]近年, 術前からの栄養強化とリハビリテーションの有用性について注目されている. 当院では2017年より消化器癌手術症例に対して‘術前栄養リハビリ強化プログラム’を実施している. 今回, この導入効果につき検討した. [対象・方法]対象は80歳以上, 血清アルブミン(Alb.)3.5g/dl未満, CRP 0.5mg/dl以上のいずれか1つでも満たす消化器癌術前63症例を対象とした. 術前7日前より入院にて連日免疫賦活栄養剤とリハビリテーション直後に分岐鎖アミノ酸を含むゼリーを投与した. プログラム導入前と術前日にAlb,トランスサイレチン(TTR), CRP値を測定し, modified Glasgow Prognostic Score(mGPS)の判定を行った. また骨格筋量と握力の測定を行った. [結果]導入前と比較して術前日でAlb, TTRは有意に高値を示し, CRPは有意に低値を示した. mGPSの分布は術前に改善傾向を示したが, 骨格筋量, 握力では有意差を認めなかった. [結語]このプログラム導入により術前で炎症状態の改善を認めた.
あとがき・編集委員会名簿
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