外科と代謝・栄養
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55 巻, 3 号
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特集「異所性脂肪―第3の脂肪」
  • 西澤 均
    2021 年 55 巻 3 号 p. 115-119
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
     内臓脂肪は腹腔内に存在する腸間膜および大網に存在している脂肪組織であり, 門脈を介し肝臓の上流に位置するため, 消化管から吸収したエネルギーの一時的備蓄や供給に重要な役割を果たす. しかし過剰な内臓脂肪蓄積は, 過度な脂肪分解により糖・脂質代謝異常を惹起する. 成人期以降の過栄養は, 内臓脂肪蓄積に繋がりやすく, 慢性炎症, 低酸素, 高酸化ストレス状態となり, 低アディポネクチン血症をはじめとするアディポサイトカイン産生異常を引き起こす. 生体のエネルギー摂取が過剰になると, 肝臓, 骨格筋, 膵臓, 心血管系などの脂肪組織以外の臓器に異所性脂肪として蓄積し, 非アルコール性脂肪性肝疾患, インスリン抵抗性, インスリン分泌障害, 動脈硬化症などの病態形成に関わる. 異所性脂肪から見ると, その基盤病態には内臓脂肪蓄積以外にも遺伝素因, 脂質の過剰摂取などが報告されており, それらの評価も重要である. 内臓脂肪蓄積が基盤病態である対象者は, 減量による内臓脂肪蓄積, 異所性脂肪の減少を通して, 糖・脂質・血圧などの心血管疾患リスクがトータルに改善するため, より若い世代での予防的アプローチが重要となる.
  • 田中 都, 菅波 孝祥
    2021 年 55 巻 3 号 p. 120-123
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
     メタボリックシンドロームの病態基盤を形成する肥満の脂肪組織では, 実質細胞である脂肪細胞と多様な間質細胞により, ダイナミックな形態的変化「脂肪組織リモデリング」がもたらされる. リモデリングを起こした脂肪組織では, 細胞死に陥った脂肪細胞を浸潤マクロファージが貪食・処理する特徴的な構造であるCLS(crown‐like structure)が認められる. CLSは炎症性M1マクロファージにより構成され, 脂肪組織炎症と線維化の起点とされている. マクロファージに発現する自然免疫センサーMincle(macrophage‐inducible C‐type lectin)は, 細胞死センサーとしても機能し, CLSにおいて死細胞由来の内因性リガンドを認識すると考えられる. リガンドにより活性化されたマクロファージは, 線維化関連因子を産生して周囲の線維芽細胞を活性化し, 脂肪組織線維化をもたらす. 線維化により脂肪蓄積能が低下した結果, 余剰の脂質は異所性脂肪蓄積として他の臓器に蓄積され, インスリン抵抗性を惹起することが明らかになってきている.
  • 高本 偉碩
    2021 年 55 巻 3 号 p. 124-127
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
     わが国では2005年に, 内臓脂肪蓄積を必須とするメタボリックシンドロームの診断基準が策定された. 心血管リスク数が1を超える内臓脂肪面積は100cm2であり, これに対応するウエスト周囲長が男性85cm前後, 女性90cm前後であるというわが国のエビデンスに基づいて, メタボリックシンドロームのウエスト周囲長の基準値が定められた.2008年度より内臓脂肪蓄積・肥満に着目した健康診査および保健指導(特定健康診査・特定保健指導)が全国で実施されている. メタボリックシンドロームの概念は「内臓脂肪蓄積を基盤とした心血管リスクの集積」である. したがって, BMI 25未満であっても内臓脂肪蓄積と心血管リスク2つ以上を認める場合には, メタボリックシンドロームに該当する. オールジャパンのデータを基に特定保健指導レベル別にみた心血管疾患の予測能を検討すると, 「積極的支援レベル」群だけでなく, 「動機づけ支援レベル」群の心血管疾患発症のハザード比は, 対照群より高いことが示された. また, 非肥満者でも心血管リスクが存在あるいは集積している場合は, 心血管疾患発症のハザード比が上昇しており, 制度的対応が重要である.
  • 田村 好史, 田端 宏樹, 筧 佐織, 大塚 光
    2021 年 55 巻 3 号 p. 128-132
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
  • 伊藤 美智子
    2021 年 55 巻 3 号 p. 133-136
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
     肥満人口の増大に伴って, 過栄養による肝異所性脂肪蓄積を基盤とする非アルコール性脂肪性肝疾患 (non‐alcoholic fatty liver disease:以下NAFLD) が世界的に増加している. NAFLDの中で単純性脂肪肝は一般的に予後良好であるが, 炎症・線維化を特徴とする非アルコール性脂肪性肝炎 (non‐alcoholic steato‐hepatitis: 以下NASH) は肝硬変・肝細胞癌に進展する重症型である. 単純性脂肪肝では主に細胞保護的な中性脂肪が蓄積するのに対し, NASHではコレステロールをはじめとする細胞障害性のある脂質の増加が指摘されている. これらの脂質がもたらす「脂肪毒性」は肝細胞死を誘導するだけでなく, 間質細胞における炎症・線維化促進経路を活性化することでNASHの病態形成に寄与すると考えられる. 特にマクロファージは死細胞の貪食にあたることから, 死細胞に由来する脂質がマクロファージの疾患特異的活性化を制御する可能性がある. 異所性脂肪蓄積の分子メカニズムと脂肪毒性の本態を理解することで, NASH発症機構の解明と新規治療標的の探索に繋がると考えられる.
  • 加茂 直子
    2021 年 55 巻 3 号 p. 137-140
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
     内臓脂肪, 皮下脂肪に加え, 第3の脂肪と呼ばれている異所性脂肪が注目されている. インスリン標的臓器に過剰な異所性脂肪が蓄積することにより, サイトカイン産生や細胞内代謝の変化を介して慢性炎症やインスリン抵抗性(脂肪毒性)が惹起され臓器障害に至るのが病態の基盤である. 異所性脂肪を標的とした治療は, 食事療法や運動療法を含めた生活習慣改善指導が中心となるが, それらに抵抗性の場合は薬物療法, 外科療法も考慮される. また, 新たな治療開発を目指したさまざまな分子機構の解明についても研究が進んでいる. 本稿では異所性脂肪の治療を中心に最近の知見も含め概説する.
原著
  • 深柄 和彦, 福島 亮治
    2021 年 55 巻 3 号 p. 141-150
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
     周術期の栄養状態はアウトカムに影響を及ぼす重要な因子であるが, 術後の栄養管理についてその実態などを明らかにした報告は少ない. また, アルブミンはその血清値の意義や周術期における代謝に関して新たな知見が報告されており, 改めて正しい情報を理解する必要がある. そこで, 外科医を対象にWEBアンケートを行い, 現時点における周術期のアルブミン動態に対する認識と術後栄養管理の実態を調査した. その結果, 周術期のアルブミン動態については正しく認識されているとは言い難い状況であった. 術後栄養管理に関しては, ガイドラインの推奨に見合ったエネルギー, 蛋白質が投与されていないケースも多く, 特に蛋白質に関しては投与量が把握されていないことも多かった. 本研究を通じて, 外科医のアルブミンに対する認識と術後の栄養管理の実態を把握することができた. 今後は正しい知識を啓発するとともに適切な栄養管理をさらに普及させていく必要がある.
症例報告
  • 杉生 久実, 仁科 拓也, 村嶋 信尚, 松本 剛昌
    2021 年 55 巻 3 号 p. 151-155
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/15
    ジャーナル フリー
     症例は71歳女性. 背部痛にて当院受診. 既往に2型糖尿病あり. 腹部CT検査, 腹部MRI検査で肝転移を伴う切除不能膵尾部癌と判定され, 全身化学療法を開始. 治療開始より11カ月後において, 2nd lineの化学療法を施行しつつも原発巣の増大を認めていた. 初診時より1年2カ月後, 原発巣による結腸への直接浸潤と腸閉塞を発症. 緊急手術にて横行結腸人工肛門造設術を施行. 術後より敗血症ショック, 播種性血管内血液凝固症候群 (disseminated intravascular coagulation : 以下, DIC), 高血糖高浸透圧症候群 (Hyperosmolar Hyperglycemic Syndrome : 以下, HHS) を併発したが, トロンボモジュリンの投与とともに生理食塩水の大量投与, インスリン持続投与を開始し, 術後7日目に敗血症性ショックとDICを離脱,術後14日目にHHSを離脱した. 今回は, 横行結腸への直接浸潤による腸閉塞を契機に, HHSを発症した切除不能膵尾部癌の1例を経験した. 若干の文献的考察を加えて報告する.
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