外科と代謝・栄養
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特集 「外科代謝栄養学の伝承を支える基礎研究と臨床の接点」
  • 上島 順子
    2026 年60 巻2 号 p. 25-29
    発行日: 2026/02/15
    公開日: 2026/05/15
    ジャーナル フリー

     高齢者は入院中にサルコペニアを発症しやすく, 約15%が罹患するとされている. その要因として, 低BMI, ベッド上安静, 食事摂取量の減少などがあげられる. 高齢者では, 摂取量の低下, 利用能の低下, 必要量の増加という3つの要因により, 十分量のたんぱく質摂取が推奨される. 一方で, 基礎研究により, エネルギー制限が筋肉量を減少させることが明らかになっている. しかし, 急性期病院では患者の入院中の平均エネルギー摂取量が約760 kcal/日と著しく低く, 推定エネルギー必要量の半分以下である. 特に, 低栄養のリスクが高い嚥下障害者が摂取する嚥下調整食は, 食事の栄養価は通常食よりも低いことが分かっている. そこで, 中鎖脂肪酸トリグリセリド (MCT) を用いた栄養強化嚥下調整食を開発し, その臨床効果を検証した結果, エネルギー摂取量の増加とADLの改善が認められた. MCTは脂質代謝において体脂肪蓄積を促進せず, 骨格筋代謝にも好影響を与える可能性が示唆されている. 今後は, 基礎研究の成果を臨床で検証し続けるとともに, エビデンスに基づいた栄養管理を実践することが重要である.

  • 杉山 彰英, 中村 友紀, 宮嶋 康次郎, 八木 勇磨, 安藤 晋介, 田中 拡, 中神 智和, 川野 晋也, 千葉 正博, 吉澤 穣治, ...
    2026 年60 巻2 号 p. 30-35
    発行日: 2026/02/15
    公開日: 2026/05/15
    ジャーナル フリー

     臨床と基礎研究の両立を妨げる因子について小児外科医にアンケート調査をするとともに, 著者が動物実験室・研究室がない病院での勤務時に周囲の協力を得ながら基礎研究を行った経験も踏まえ, それら因子の解決法を考察した.

     【方法】関連施設を含む昭和医科大学 (本学) の小児外科医19名にアンケートを行った.

     【結果】回答者は16名. 基礎研究を実施中・予定者は4名であった. 残り12名に実施を妨げている因子について調査したところ, 半数が「やり方」, 「設備・器材・薬剤」, 「時間」, 「資金」の問題をあげた. 12名中10名はそれらが解決したら基礎研究を実施したいと回答した.

     【著者の経験】短腸症候群モデルラットによる基礎研究で学位取得後, 動物実験設備がない病院へ異動した. 3年後, 同院での臨床業務を行いながら, 他施設でラットを用いた精巣虚血再灌流におけるカテキンの有用性に関する基礎研究を行った.

     【考察】本学小児外科医は基礎研究への意欲はあるが, 障害となる因子が複数あった. 近年, 本学では統括研究推進センターが設置され, 多くの因子が解決できると考えられる. 今後は基礎研究を行いたい小児外科医とそのような支援部門とのマッチングが重要であろう.

  • 苛原 隆之, 勝木 竜介, 大石 大, 梶田 裕加, 寺島 嗣明, 田邊 すばる, 錦見 満暁, 甲斐 貴之, 加藤 浩介, 久下 祐史, ...
    2026 年60 巻2 号 p. 36-40
    発行日: 2026/02/15
    公開日: 2026/05/15
    ジャーナル フリー

     侵襲時栄養代謝には未解明の部分が多く, さまざまな臨床疑問が存在する. それに答える基礎研究はtranslational researchとして重要である. 筆者の基礎研究の経験から, その有用性と魅力について述べる.

     侵襲時栄養代謝への治療的介入に関する以下の基礎研究を行った. 急性エンドトキシンショックモデルのマウスに間接熱量測定を行い栄養代謝変動について評価した. ついで脂質代謝指向型の介入 (低強度運動, 神経筋電気刺激, 茶カテキン摂取) による代謝や生存率の変化について評価した.

     その結果, 侵襲時には糖質から脂質優位に代謝が変動することが分かった. また脂質代謝指向型の介入により炎症や生存率が改善することが示唆された. これらの研究を通じて基礎研究者との交流や国際学会発表なども経験でき, 臨床へのモチベーションも大きく向上した. その経験と成果を臨床研究に活かすこともできており, 治療的介入について新たな診療指針を生み出すことを目指している.

     基礎研究の成果を臨床へ応用することはきわめて有用である. 基礎研究の魅力は病態に関する臨床疑問を自分の力で解明できることである.

  • 高山 はるか, 深柄 和彦
    2026 年60 巻2 号 p. 41-45
    発行日: 2026/02/15
    公開日: 2026/05/15
    ジャーナル フリー

     腸管には免疫を維持するための腸管リンパ装置 (gut-associated lymphoid tissue; GALT) が備わっており, 非経腸栄養時において萎縮することが知られている. われわれはタンパク合成やアポトーシス抑制などの効果をもつbeta‐hydroxy‐beta‐methylbutyrate (HMB) に注目し, それが静脈栄養管理, 経口摂取時それぞれにおいて, 宿主の腸管免疫をどのように修飾するかマウスモデルで検討した.

     静脈栄養管理の検討では, マウスを通常食餌群, 標準TPN群, Ca‐HMBを600 mgまたは2,000 mg/kg/日量含有したTPNを投与する群 (H600, H2000群) に分け, 5日間の栄養管理を施し評価した. 結果, H2000群においてGALTリンパ球数の減少が中等度抑制され, 組織学的評価においてもHMB投与群で腸絨毛高, 陰窩深の萎縮抑制を認めた. 続く機序探索の検討では, HMB投与群でmTORとBcl2の発現増強ならびにKi67陽性細胞の増加, さらにはアポトーシス陽性細胞の減少が観察され, これらの因子が関与している可能性が示唆された. 一方, IgAレベルに群間差はなかった. 経口摂取時の検討では, HMBを投与してもGALTリンパ球数やIgAレベルの強化にはいたらなかった.

     今後の検討として, われわれはHMB含有TPNの腸管免疫への効果に関するより詳細なメカニズムの検討を計画している. それらが栄養療法の発展の一助となっていくことを期待する.

  • 黒川 友博, 野尻 光希, 澤田 崇広, 金本 義明, 神崎 憲雄, 加藤 茂明
    2026 年60 巻2 号 p. 46-49
    発行日: 2026/02/15
    公開日: 2026/05/15
    ジャーナル フリー

     外科代謝栄養学の神髄は, 手術侵襲という劇的な生体反応を分子レベルで解明し, 臨床予後を改善することにある. 本稿では, 福島県いわき市の中規模病院において, 一外科医が周囲の支援のもとで取り組んでいるトランスレーショナルリサーチの実践報告をする. われわれは, 消化器癌周術期におけるビタミンD代謝産物の網羅的解析と, マウス・ラットモデルを用いた遺伝子発現解析により, 術後早期にビタミンD分解酵素 (CYP24A1) が骨格筋や腎臓で誘導され, これが「ビタミンD抵抗性」やサルコペニアの一因となる可能性を見い出した. 本研究は, 臨床の最前線で生じた疑問を, 併設された研究所とスタッフの協力によって基礎実験へと昇華させたものである. このような取り組みが後進の道標となり, 集学的治療の一環としての「代謝栄養学」の発展に少しでも寄与できれば幸いである.

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