外科と代謝・栄養
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特集 「術中輸液の最新動向」
  • 中澤 春政, 飯島 毅彦
    2024 年 58 巻 4 号 p. 97-103
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

     術中の輸液療法は, 長い間, liberal fluid therapyと呼ばれる術前から術中にかけて水分の不足分を補うという考え方に基づいて実施されてきた. しかし, 2000年代になり, 過剰輸液による弊害がクローズアップされたことで, 輸液療法や輸液の概念が見直されるようになった. 輸液投与による間質の浮腫がサードスペースの本態であることが示され, またglycocalyx層に代表される血管内皮の構造が明らかになったことで, 輸液製剤がどのように体内に分布していくのかが理解されるようになった. それにより輸液療法も, liberal fluid therapyからrestrictive fluid therapyと呼ばれる制限輸液量, そして輸液最適化を目指したgoal‐directed fluid therapy, zero‐fluid balanceといったさまざまな輸液療法が施行されることとなった. 本稿では, まず, 輸液療法を理解するための基礎知識として, 輸液に関する概念の変遷と輸液の体液分布について解説する. つぎに臨床的に利用できる輸液反応性の指標とそれを利用してどのように輸液療法を実践していくべきかについて解説する.

  • 五代 幸平
    2024 年 58 巻 4 号 p. 104-108
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

     術中輸液の目的は「適切な臓器血流を維持すること」であり, そのために輸液管理は循環管理と切り離すことはできない. 特に, 術中低血圧は周術期合併症と関連しているため避けなければならない. 術中循環管理では, 前負荷 (循環血液量) ・心収縮力・後負荷 (体血管抵抗) をそれぞれ適切に保つ必要がある. 2023年から人工知能を用いたHypotension prediction index(HPI)が臨床使用可能となっている. HPIを用いた低血圧治療アルゴリズムにより, 上記いずれの因子に問題があるか鑑別診断を行うことが可能となる. 一方でHPIは手術手技に伴う大血管や心臓の圧迫による低血圧などは想定していないため, 麻酔担当医が手術進行をしっかりと把握することは必要不可欠である. 本稿では, 新規麻酔薬であるレミマゾラムの特徴についても解説を行う. 本稿が術中循環管理に関連する最新の知見を理解し, 安全な周術期管理を行う手助けになれば幸いである.

  • 谷口 英喜
    2024 年 58 巻 4 号 p. 109-114
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

     術中輸液にはおもに, 乳酸リンゲル輸液,酢酸リンゲル輸液あるいはハルトマン輸液などの晶質輸液が用いられる. わが国では, 近年, 新しい晶質輸液として重炭酸リンゲル輸液や糖付加酢酸リンゲル輸液も用いられている. また, 出血による循環血液量不足には, 濃厚赤血球または膠質輸液が,低体温にはアミノ酸輸液が, 局所麻酔の中毒症状の緩和目的で脂肪乳剤が用いられる. 術中の病態に応じて輸液製剤を適切に使用することが, 手術患者の予後回復に寄与できるものと考える.

  • 溝田 敏幸
    2024 年 58 巻 4 号 p. 115-118
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

     周術期の輸液不足は有効な循環血液量の低下から組織灌流低下をきたし, 多すぎる輸液は組織の浮腫から心肺機能障害などさまざまな問題を生じる可能性が示唆されている. したがって, 不足でも過剰でもない最適な輸液量を投与することは患者予後に影響しうる重要なテーマである. 従来, 周術期輸液量の決定には患者・手術因子から必要な輸液量を推定するアプローチが用いられてきたが, その生理学的根拠は近年疑問視されている. 一方, 組織灌流などに関わる指標について目標値を設定し, それを目指して輸液を行う目標指向型療法の有効性を検証する研究が多数行われ, 術後肺炎, 創部感染, 吻合部リークなどの合併症の減少が報告されている.多様な目標指向型療法のプロトコルが報告されているが, 多くはまず輸液反応性の指標を用いて血管内容量の不足を補い, そのうえで心拍出量などの組織灌流に関わる指標を適正化するというものである. 現存のエビデンスからは, 組織灌流の指標や輸液反応性の指標が術中輸液量を決定する重要な要素と考えられる.

  • 岡口 千夏
    2024 年 58 巻 4 号 p. 119-123
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

     術中にかかわらず輸液の目的は組織灌流を維持することであり, そのためには成人と異なる小児の体液分布など生理学的事項を知る必要がある. 小児の代謝は未熟であることが多く容易に過少・過剰輸液になり, 医原性低ナトリウム血症, 高ナトリウム血症など有害事象が起こる可能性がある. また術中は術前絶飲食により低血糖の可能性もあるため注意しなければならない. 術中輸液に関しては成人と同様に維持輸液と補充輸液の考え方は大きな変化はないものの, 近年では外科要因として, 内視鏡手術・ロボット支援下手術の増加, 麻酔要因としては神経ブロックなどマルチモーダルな疼痛管理, レミマゾラムなど新しい薬剤の使用など, 循環管理に影響を及ぼす因子が変化しているため個々の症例に応じた対応がより求められるようになっている. 術中は必要に応じたモニタリングを行い, 術野・患児の状態をその都度評価し, 輸液製剤や投与速度の調整を適切に行う必要がある.

原著(臨床研究)
  • 深井 翔太, 加藤 高晴
    2024 年 58 巻 4 号 p. 124-129
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

    【背景】外鼠径ヘルニアは高齢者に多いが, 50歳未満での発症リスクについての報告はまだなく, サルコペニア関連因子の影響も未検討である.
    【方法】2015年1月から2023年11月にかけて, 15歳から50歳の男性で外鼠径ヘルニア手術を受けた症例を対象に, 対側ヘルニアの既往, 喫煙歴, 呼吸器疾患, サルコペニア関連因子(BMI, PMI, IMAC, SFA, VFA)を評価した.
    【結果】全25症例のうち,喫煙率は48%と高く,サルコペニア関連因子の平均値はBMIが22.7kg/m2,PMIが6.97cm2/m2,IMACが-0.49,SFAが94.73cm2,VFAが79.3cm2だった.ヘルニアの左右による差はなく, ヘルニア門の大きさにおいてはIMACのみが統計学的な有意差を示した.
    【結論】若年成人の外鼠径ヘルニアでは喫煙率が高くサルコペニア関連因子は比較的低値であり, リスク因子として考えられた. また筋肉の質の低下がヘルニア門の増大に関連している可能性が示唆された.

臨床経験
  • ~栄養評価,嚥下機能評価,消化管機能検査による診療サポート~
    升井 大介, 橋詰 直樹, 古賀 義法, 江藤 寛仁, 吉田 寛樹, 髙城 翔太郎, 愛甲 崇人, 靏久 士保利, 倉八 朋宏, 東舘 成希 ...
    2024 年 58 巻 4 号 p. 130-135
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

     重症心身障碍者 (以下, 重心者) は呼吸・栄養管理のために外科的介入が必要になることがある. 特に, 重症心身障碍児・者施設 (以下, 重心施設) への入所症例では, 術後の転院後に, 手術施行施設における術後評価が十分に行われていない症例もみられる. 当院では重心施設で継続的に定期的な回診を行う体制をとることで, 患者の術前後の状態を観察することが可能となり,重心施設とのスムーズな連携がとれるようになった. 実際には, 症例個々に栄養状態, 嚥下機能, 消化管機能を評価することで, 患者自身, 家族, 施設の小児科医, その他の医療従事者に対してもより詳細な情報提供が可能となっている.

症例報告
  • 末次 智成, 小森 充嗣, 外村 俊平, 満留 早, 伊藤 吉貴, 田中 秀治, 岩田 至紀, 渡邉 卓, 田中 千弘, 長尾 成敏, 河合 ...
    2024 年 58 巻 4 号 p. 136-140
    発行日: 2024/08/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル フリー

     症例は74歳, 男性. 膵頭部と膵体部に存在する混合型Intraductal papillary mucinous neoplasm (IPMN) に対して亜全胃温存膵頭体部十二指腸切除術Pancreaticoduodenectomy (PD) を施行された. 最終診断はIntraductal papillary mucinous carcinoma (IPMC) で術後補助療法としてTS‐1を術後1カ月から開始された. 術後5カ月で再発は認めないが, 血清アルブミン低値, 下肢浮腫を認めるようになった. ただちに経口補助栄養剤開始となり, 術後7カ月で亜鉛製剤内服が追加となった. また術後10カ月で術後補助化学療法は終了となった. 術後11カ月に浮腫の増悪を認め, L‐グルタミン1320mg/日の内服投与が開始された. その後アルブミン値は改善し, 術後13カ月で浮腫は完全に消失した.
     膵切除後の消化吸収・栄養障害に加えて, 膵癌に対する周術期集学的治療によりさらに重篤な栄養障害をきたす可能性がある. 今回われわれは, PD後の術後補助化学療法中に低アルブミン血症に伴う浮腫に対してL‐グルタミンおよび亜鉛の補充が有効と思われた症例を経験したので報告する.

あとがき・編集委員名簿
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