日本教科内容学会誌
Online ISSN : 2189-2679
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  • 林 泰成
    2025 年 11 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は,林(2024)を踏まえて,再度,道徳科の教科内容について検討することである。まず,学習指導要領における道徳科の内容と目的を確認し,道徳的価値と道徳的価値観の指導について検討した。ついで,内容として論じるべきことは,道徳的諸価値か教材かを問い,結果として,道徳的諸価値と内容項目と教材の三者を取り上げる必要性を説いた。ついで,学問中心カリキュラムの視点から道徳科の親学問の検討を行った。結論として,もし,道徳科に対する根拠づけの学問が必要だとするならば,人格の完成を目的として関連するさまざまな領域にまたがる包括的な道徳教育内容学を構築するしかないということを示し,道徳科に関しては無理に親学問を想定しなくてもよいのではないかと提案した。
  • 「探究」学習を中心に
    鈴木 正行
    2025 年 11 巻 1 号 p. 15-26
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,教育行政や学校現場,教員養成の場で教科内容を軽視する風潮が進む中,イギリスで重要性が指摘されている「力強い学問的知識」論に基づき,歴史的思考力育成の観点から,社会科探究学習の事例分析を通して,日本の歴史学習における「力強い学問的知識」の意義を明らかにすることである。考察の結果,概念探求型社会科の歴史学習が歴史理論としての「力強い学問的知識」を基軸とした構成であることを明らかにした。また,問題解決型探究学習において,歴史事象に対する「見方・考え方」が「力強い学問的知識」として探究を深め,現代社会を捉える力に繋がることを示した。さらに,「力強い学問的知識」を備えた「知の創造者」となるために,教師自身が探究をすることの重要性を再確認した。
  • 定番解釈の不整合を解きもうひとつの解釈を提出する
    梶原 郁郎
    2025 年 11 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は, 定番解釈に内在する不整合を解く読みは可能なのかという課題に取り組むことによって, 文学教材「とんかつ」(三浦哲郎)の謎解き読みを提出している。「とんかつ」最終局面の本文(表1)の文章㋘について, 6社の指導資料をはじめとする「とんかつ」研究において,【直太郎は雲水としてとんかつを頂いた】(解釈Ⅰ)と読んでいる。その定番解釈は文章㋔の「すっかり」「見違えるような」と不整合(謎)となる。それは【直太郎は雲水としてとんかつを頂いていない】(解釈Ⅱ)と読めば整合となる。解釈Ⅱは佐野(2016)によって示唆されているが, それが成立するように特に最終局面の文章㋐~㋘は作られているのか問われていない。この作業を踏まえて本稿は解釈Ⅱを提出して, さらに直太郎の成長と女主人の心遣いをめぐる主題も, 解釈Ⅰに基づく主題Ⅰを塗り替えられている。
  • 半田 真
    2025 年 11 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    高等学校数学科の数学Iで扱う「仮説検定の考え方」が非公式な統計的推測・仮説検定の指導を目指している。本研究は,現職の数学科教員に「仮説検定の考え方」に関してアンケート調査を行った。その結果,現職数学科教員は,インフォーマルな仮説検定についての理解が不足している事が明らかになった。さらに仮説検定を習得していないことを自覚する現職の数学科教員が3割ほどいる事も分かった。特に,40代の教員でその傾向が顕著であった。今後は,インフォーマルな仮説検定という考えを現職の数学科教員にもっと紹介し,浸透させる必要があろう。さらに,インフォーマルな仮説検定を組み入れた指導をいかに教材化し,実践するかが今後の課題である。
  • 数学科「線形代数学Ⅰ」での実践と分析
    吉井 貴寿, 花木 良, 舟橋 友香
    2025 年 11 巻 1 号 p. 49-60
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,専門性と実践性に優れた教員の養成に寄与する,数学専門科目の指導方法を開発することである。そのために,大学1年の学生22名を対象に,探究成果を発表する機会を取り入れた「線形代数学Ⅰ」の教育実践を行い,そこで生じた学びについて分析した。本実践では,探究課題として先行研究で提案されているパーフェクト・シャッフル教材を利用した。学生達は8班に分かれて探究を行い,その成果を発表した。我々は「授業の観察・記録」,「授業感想文の回収」,「受講者へのインタビュー」を行い,収集されたデータから学生の学びの様相を明らかにした。結果として,探究成果発表会を取り入れることにより「専門数学及びその探究についての学び」と,「教員としての資質・能力に関わる学び」の双方が生じることが示された。また,探究の過程において指導者が配慮すべきことについても確認された。
  • 鑑賞教材《春の海》の事例研究を通して
    前田 直人
    2025 年 11 巻 1 号 p. 61-72
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は, 指導内容の具体化による音楽科授業構成が, いかに教科内容(概念)と教材(楽曲)を結合させるかを明らかにすることである。研究方法としては, 授業構成の視点を提示し, 音楽科鑑賞授業を構想・実践・分析した。その結果, ①楽曲と一体になっていた音楽の構成要素の様態が顕在化し, ②この要素の様態が概念の学習と楽曲の学習の共通項となり, ③共通項を媒介として双方の学習に連続的な相互作用が生じる, という仕組みにより教科内容と教材が結合したことが明らかとなった。
  • 敷き詰めを題材とした美術との協働ワークショップの実践
    有元 康一
    2025 年 11 巻 1 号 p. 73-84
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,数学の文化的価値の社会への発信を目的として,大学の地域連携活動の一環として美術科との教科横断型ワークショップを実施し,その成果を検証することにより,このような形のワークショップが,数学に対する社会的認識が計算や公式など学校数学の基礎的部分に限定されがちな現状を改善するための1つの手段を与える可能性があることを指摘している。具体的には,数学における敷き詰めを題材として,美術作家と協働したワークショップを実施し,数学を用いて独特の美しさをもつ造形活動を行った。さらに,このワークショップで取り上げた敷き詰め模様に関して,数学と美術の観点から解説したものをリーフレットにまとめて学校と公共施設に配付した。
  • 東大淀小学校の総合学習の分析をとおして
    清水 美穂
    2025 年 11 巻 1 号 p. 85-96
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,子どもが主体的に教科等横断的な学習を行うための教師の役割を明らかにすることである。研究の方法は,東大淀小学校の総合学習から教師の役割を整理し,実践記録を分析した。まず,教師の役割を①子どもの実態把握②学習の構想③学び方の指導④子どものやりたいこと(学習内容)と教師が学ばせたいこと(教科内容)との調整,の4つに整理した。次に,実践における教師の役割を分析した。その結果,教師は,子どもの問題意識を把握し,課題をつかませると,学習の構想を用意していた。学習に躓きが見られると,ゲストティーチャーと交渉するなど,問題解決のための学び方を導いていた。また,子どもの学習に教科の内容を関連させて調整を図っていた。このことから,子どもが主体的に取り組む教科等横断的な学習において,教師は,子どもの実態を把握し,学習の構想を立てた上で,学び方を指導し,学習内容と教科内容の調整を図る,という役割を果たすと結論づけた。
  • 小学校の実践を中心として
    齊藤 淳子, 溝口 希久生
    2025 年 11 巻 1 号 p. 97-108
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,きのくに子どもの村学園の「プロジェクト」で行われている諸活動が,教科横断的な学習になっているかを明らかにすることである。そのためには,まず堀の「基調講演:体験学習が学校を変える」『きのくに子どもの村の教育』等からプロジェクトの諸活動に見られる教科内容を精査した上で,学習指導要領の指導内容と対比して整理し,教科横断的な学習になっているかを考察した。併せて,プロジェクトの諸活動を「テーマの選択」「問題解決」「共同」「教師の役割」という4つの視点で整理する方法で行った。本学園では,子どもがプロジェクトを選び,生活に関わる実際的な問題をテーマに決め,異学年が共同で本物の仕事として問題解決に取り組む。大人は子どもをサポートするが,主導はしていないことがわかった。また,活動と学習指導要領を比較すると,小1から高校までの様々な教科を横断的に学習していることが明らかとなった。
  • アートの果たす役割について
    桑原 章寧
    2025 年 11 巻 1 号 p. 109-120
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,信州大学教育学部附属長野小学校の総合学習(以降長野小学校総合学習と表記)のどのような学びがSTEAM教育として成立しているかを明らかにすることである。その際,STEAM教育とは何かを整理し,長野小学校総合学習について,テーマ選択,STEAM教育としての内容,教師の役割,アートの果たす役割という観点から検証し考察を行った。文部科学省のSTEAM教育の定義を踏まえ,本論では「STEAM教育とは,①教科の枠にとらわれず,②各教科等の学びを基盤としつつ,③様々な情報を活用しながらそれを統合し,④生活の中で起こる問題を共同で発見・解決していくこと」と定義した。 テーマ設定,STEAM教育としての内容は,植物のたねのつくり,植物の栽培といった理科の内容と図画工作の植物の描写,描写した植物の絵に文を付けるという国語科の作文の内容が認められた。さらに,社会科の働く人々の内容,音楽科の作詞,作曲,歌唱活動,教科には当てはまらないが演劇によるパフォーマンス,3年生になってからだいこんを市場で売る際の算数科の計算など,教科の枠を超えて各教科等の学びを基盤としつつ,さまざまな情報を活用しながら,生活の中で起こる問題を共同で発見・解決していく学習であると言えた。教師の役割は,総合学習に取り組む子どもへの深い洞察と専門的な知識による支援であった。アートの果たす役割はこの長野小学校総合学習において,観察,記録,表現,創造的な活動の中核をなすものであり,子どもたちの多様な学びを豊かにし,深める役割を果たしていた。アートを通じて,子どもたちは感性を磨き,表現力を高め,自分たちの学びを創造的に発展させることができるようになったと言えた。
  • 沖縄の「ハレ」の場での音楽が持つ質に着目して
    小川 由美, 宮里 未希
    2025 年 11 巻 1 号 p. 121-132
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,芸術的問題解決を通して郷土の伝統音楽に対する価値を見出すことで,学習者がどのように音楽科の教科内容を獲得するかを明らかにすることである。芸術的問題解決は日常での直接経験との連続性の中で生じたズレを,音・色・身体・言葉などの質的媒体で思考し解決することである。本研究では,沖縄の「ハレ」の音楽,特に祝いの場の音楽を扱う。実践分析の結果,生徒が日常的に感じ取っている祝いの場の音楽の質(内容的側面)が,音楽の形式及び文化的側面と結びつくことで,新たな音楽的な見方が得られることが分かった。そして,形式・内容・文化的側面が統合され新たな価値が見出されると,味わいが深まることが明らかとなった。生活経験との連続性をもった郷土の伝統音楽の場合,特に内容的側面の質は日常の直接経験の中で感受されているため,その質を想起することが実感を伴った音楽科の教科内容の獲得につながることが分かった。
  • 「傾城阿波の鳴門」《順礼歌の段》鑑賞の場合
    鉄口 真理子
    2025 年 11 巻 1 号 p. 133-144
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,人形浄瑠璃を教材とした音楽科の学習過程にみる教科内容の関連を明らかにすることである。まず,川北による阿波人形浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」《順礼歌の段》の教科内容について整理した。次に,高等学校第1学年対象,先行研究および先行実践に基づいて構想,実践した鑑賞授業を分析した。分析では,授業の映像記録における生徒の発言や行動から,教科内容とその関連が読み取りやすい場面を時系列に抽出し,生成の原理に基づく音楽カリキュラムの3つの柱の関連を視点として分析した。その結果,学習者は、柱1(人と地域と音楽),柱2(音楽の仕組みと技能),柱3(音楽と他媒体)の内容をそれぞれ別個で経験し,柱2の知覚・感受を基に柱3の内容である人形の動きや物語の内容とを関連づけるという結論を得た。学習者による柱2と柱3の関連づけは音楽,人形の動き,物語が一体化した表現の味わいの深まりを示すといえる。
  • 数学A「場合の数と確率」での実践
    山本 武寿, 花木 良
    2025 年 11 巻 1 号 p. 145-156
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル オープンアクセス
    平成30年告示の高等学校学習指導要領総則では探究活動の充実が重要視されている。急速に変化し予測が困難な社会に対応するために,個別最適な学び,探究力重視,子供の主体性(子供の好奇心や個人の興味・関心に応じた学びや進路選択の実現)等の多様性を重視した教育・人材育成が求められている。研究目的はこのような多様性を重視した探究活動を提案することである。本稿では「探究活動」を生徒が探究したい内容を自ら選択し,課題を設定し解決し,探究成果を発表する活動と規定する。研究方法は高校1年生を対象として数学A「場合の数と確率」の単元で生徒が取り組みやすいように多種多様な「探究の種」を開発し,授業で実践し,アンケート調査をすることである。その結果,すべての生徒が独自性のある探究活動を行い,多くの生徒が数学を楽しむ,数学を身近に感じる,数学に自信をつけることを実現できていた。
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