100eV程度のエネルギーをもつ電子を固体表面に入射すると, 表面に化学吸着している原子や分子(吸着子)は電子的に励起され, 表面から脱離してくる。この現象は電子励起(刺激)脱離として良く知られており, 脱離してくるイオンの運動エネルギー分布や角度分布の測定によって, 表面における吸着子の局所的な構造や電子状態に関する情報を得ることができる。ところが, イオン化された吸着子は表面からの脱離過程で表面電子系との相互作用によって高い確率で中性化され, 場合によっては再び表面に捕らえられたり, 中性粒子として脱離してきたりするため, イオン化された吸着子がイオン状態のまま脱離してくる確率
Pはかなり小さくなる。このことが固体表面での電子励起の場合と気相での電子励起の場合との違いであり, 確率
Pの小さな値にも, 脱離してくるイオンの運動エネルギー分布や角度分布と同様に, 表面における吸着子の局所的な構造や電子状態が強く反映されていると考えられる。そこで, ここでは遷移金属たとえばタングステン表面に原子状態で吸着している水素を例にとって, 電子励起による脱離過程のダイナミックスを中心にして, イオンの脱離断面積に含まれるescape probability,
P, をミクロな立場から解析した結果について報告する。
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