放射光を用いた内殻電子励起によるH
2O/Si(100)表面吸着系での最近の研究を通して,光刺激イオン脱離反応を紹介する。O-K吸収端前後のエネルギー領域での励起ではH
+とOが
+主要な脱離イオンであるが,その脱離収量スペクトルには特徴的な違いが見られる。すなわち, H
+はK吸収端の手前から観測され,吸収端の前後に極大をもつブロードなピーク構造を示すが, O
+はその領域では観測されず,吸収端より約30eV離れた570eV付近から出現する。この結果は,種々の内殻電子励起による多価イオン生成と表面との中性化反応とによるつぎのような簡単な機構で説明が試みられた。吸収端近傍での励起では,オージェ過程を経て2~3価のイオン種が初期生成し,その後生じたO
+やO
2+は表面に近いため直ちに中性化し,中性化に打ち勝ったH
+イオンだけが脱離する。一方,570eV以上の励起では,4価のイオン種が初期生成し,その結果生じたO
3+は表面での中性化反応により価数を失うが,一部はO
+として脱離することができる。また,表面過程の研究に初めて適用されたPIPICO測定では,この脱離機構から予測されるように, O
+とH
+は表面から同時に飛び出すことが確認された。
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