オージェ電子分光法やX線光電子分光法で測定されているスペクトルには, 深さ方向に関する情報も含まれている。この情報を単純化した形式で抽出し, イオンエッチングも角度依存性の測定も行うことなく, 深さ方向の層構造について情報を得る方法を述べる。
特にX線光電子分光法で用いるスペクトルの解析において, バックグラウンドを差し引いた後のスペクトルを用いたカーブフィッティングによる化学状態の推定は, 利用される頻度の高い重要なデータ処理手法となっている。ここに述べるスペクトル解析法は, このバックグラウンドの差し引きに対して基礎的な知見を与える。この知見から得られる結論のひとつは, Janos Végh (ヤーノシュ・ヴェーグ) によって導入された散乱係数が, カーブフィッティングにおいて理論的裏付けのあるバックグラウンドを算出するための良い方法だということである。Véghの方法について簡単な利用法を紹介する。
カーブフィッティングはバックグラウンドの差し引きを必要とするデータ解析である。フィッティングに先立つバックグラウンドの差し引き演算を行ううえで, バックグラウンドの評価を高精度に行う必要性が高くなってきている。バックグラウンドについての評価誤差は, フィッティングそのものの誤差として, ピーク検出や量の評価に対し大きな影響を与えるからである。実際に, バックグラウンドの差し引きに際して理論的・定量的な考察を省くと, 極端な場合には, 実際には存在しないピークを作り出すことさえもある。この可能性について, 指摘した。
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