高分解能電子エネルギー損失分光法を用いた固体表面上の振動分光は,種々の系に対して応用され,多くの知見が積み重なりつつある。ここでは,本手法をC
60,C
70などのフラーレンのエピタキシャル膜に対して応用し,その特徴的な振動分光スペクトルを明らかにした結果について述べる。 鏡面反射条件で測定したC
60エピタキシャル膜のスペクトルには,C
60分子の高い対称性から期待される4本の赤外活性モードに由来するピークが,非常に強い双極子散乱ピークとして観測された。この結果は,エピタキシャル膜表面の平坦性の高さを実証している。一方単層膜試料に対する測定の結果,界面第1層のC
60分子とMoS
2基板との間にはかなりの相互作用があり,分子の対称性が低下していることを示唆した。C
70エピタキシャル膜に関しても,鏡面反射条件において,赤外スペクトルとほぼ対応するスペクトルが得られ,室温下ではC
70分子のほとんどは,膜中でランダムの方向を向いていると思われる。しかし,単層膜の測定結果は,界面第1層のC
70分子は,基板上に“寝た”状態で配向している可能性を示唆した。
抄録全体を表示