論理プログラムの特徴の1つは,パターンを扱うことである.Prologの多くの拡張は,新しいパターンを導入することによって,Prologの能力を増加することに成功してきた.しかし,パターンはどこまで拡張可能なのであろうか.この問題に答えるには,原子論理式とは何か,また,論理プログラムとは何かという根本的な問題を解かねばならない.GLP (generalized logic program)の理論は,原子論理式の形や変数などに言及せず,原子論理式や代入のなす空間の構造を,抽象的に,かつ,一般的に議論することによって,それらの疑問に答え,論理プログラムの概念を大きく拡大する. 本論文では,媒介表現系という抽象的で,単純な構造だけを仮定することによって,論理プログラムの理論における宣言的意味論の主要部分を再構築できることを示す.媒介表現系の公理を満たす対象は非常に多い.本理論は,論理と関係があるとはみなされていなかった多くの知識表現系をも論理プログラム(GLP)と認定し,それらに宣言的意味論を与えることになる.
本稿では,文法的に可能な解釈の中から最も優先度の高い解釈を小さい計算量で選び出せるモデルを提案する.すなわち,入力が長くなるにつれ解釈の数が組み合わせ的に増大することに対処するために,構文解析系から得る解析木をAND-ORグラフで表し,それに含まれる部分グラフを表現するためにORチャイルド・リストという表現手段を導入する.さらに,AND-ORグラフとストリームを対応させ,ストリームに対する遅延評価技法を用いて効率的に最良解釈から順に取り出す方法について述べる.このモデルでは,グラフ上の節点間で満たされるのが望ましい意味的条件や文脈的条件とその条件に対する優先度が与えられると,意味処理と文脈処理を一つの枠組みを用いて統合的に実行できる.
本稿では,文に遍在する曖昧性を増進的に解消するモデルに基づき,日本語の係り受け解析を行なう手法を提案する.我々は,意味の曖昧性を増進的に解消するモデルとして一般化弁別ネットワーク(GDN)を提案している.増進的係り受け解析は,係り受けの曖昧性を増進的に解消し,GDNによる早期意味解析を可能にする. 本稿の手法は,増進的曖昧性解消モデルの構文解析レベルと意味解析レベルを実現するものである.早期に起動される意味解析は,形態素解析における語の区切りの曖昧性を増進的に解消し,音声認識における音韻レベルの候補を刈り込むことができる.また,文脈解析において,意味解析結果を早期に利用することができる.さらに,本稿の手法は,次に入力される語を予測することから,省略の解析に有効である.
本論文では,オブジェクト指向システムで,インスタンス生成をデータの実体の生成とクラスの付与という二つのステップに分離して行なうシステムを記述し,さらに,分離したことにより生じた記述力も説明する.この分離により,データの振舞いを規定するクラスを定義するまえにデータを生成できる.さらに,あとからデータの振舞いを詳細化すること,たとえば,定義や構成要素を追加していくことなどが可能となる.このような,インスタンス生成のプロセスを分離したことによる効果を記述するとともに,言語システムとしての機能を述べ,実現の正当性も論じる.
同時に複数のユーザによって共有できるオブジェクトモデルをベースにしたCSCW基盤システム,「鼎談」(ていだん)と,その同時実行制御方式について述べる.このシステムは分散環境向けに拡張したMVCパラダイムに基づいており,テキストや図形などのデータをネットワークワイドに共有できる.各利用者の行なった編集操作は,実時間で他者に伝達される.このシステムは,われわれがすでに開発したUIMS「鼎」(かなえ)の拡張機能として使うことができ,種々の共同作業支援システムを構築するための基盤機能として利用可能である.また,明示的にロックを掛けることなくデータの一貫性を保つアルゴリズムを採用しており,利用者の操作の繁雑さを軽減している.本システムを実際に広域ネットワーク上で運用し,性能測定を行なったところ,(1)共有のための負荷は共同作業者の総数にはあまり影響されない,(2)共有制御のためのサーバプロセスとクライアント間の伝送遅延が各クライアントの性能に影響する,ことが判った.(2)の問題を回避するために,仮想時間アルゴリズムを本方式に応用することについて考察する.
正規表現に任意文字または文字列のある種の否定を導入することにより,正規表現では表現しにくかったC言語のコメントの定義などが素直に表現できるようになる.一般には,任意文字または文字列のある種の否定を使って,文字列のパターンマッチングを正規表現の形で記述することができ,それに対応する有限オートマトンとして,Knuth-Morris-Prattのパターンマッチングのアルゴリズム[4]と等価なものが生成できる.特に,任意文字記号を使った場合は,対象とするパターンを文字列だけでなく,一般の正規表現に拡張できる.次に,複数の文字列のパターンマッチングの繰り返しを行うAho-Corasickのアルゴリズム[3]と等価なものが,任意文字を使った正規表現から機械的に生成できることを示す.