並行オブジェクトの間で共有される計算資源の概念をとり入れた自己反映計算モデルであるHybrid Group Architectureと,その記述言語ABCL/R2を提案した.ABCL/R2では,オブジェクト単位の自己反映計算と,オブジェクトグループ単位での自己反映計算の両方が可能なため,スケジューリングのような,並列・分散システムにおける共有計算資源に関する制御を,本来の計算から隠蔽された形をとりつつ,言語の枠内から柔軟に記述できる.また,自己反映システムの効率的な処理系は,作成が困難とされていたが,部分コンパイル・段階的なメタレベル生成・軽量オブジェクトなどの技法による効率的な処理系の作成方法を示した.実際に共有記憶型並列計算機上に作成したABCL/R2処理系では,自己反映計算を行うことによる速度低下を,行わない場合の10倍以下に抑えられ,非自己反映計算の実行速度は,非自己反映処理系とほぼ同等であるというベンチマーク結果を得た.
Open C++は自己反映計算に基づいた拡張可能なC++言語である.Open C++では,プログラマはC++言語を使って,C++言語のメソッド呼出しや変数アクセスの実現機構を拡張できる.これらを拡張することで,さまざまな言語プリミティブをOpen C++上で実現することができる.例えば遠隔手続き呼出しや,分散共有オブジェクトなどの,分散処理のための言語プリミティブが実際に実現可能である.Open C++の拡張はメタオブジェクトによって定義される.Open C++は,分散処理のための言語プリミティブの実装を容易にするために,Object Communitiesというメタオブジェクトのクラスライブラリを用意している.Open C++はオブジェクト指向に基づいた自己反映計算を採用しているので,このように言語の拡張自体がライブラリ化できる.
本論文では,Multi-Model Reflection Frameworkに基づいて構築された分散リフレクティブ(自己反映的)システムAL-1/D上でオブジェクトの動的再配置の記述を行ない,オブジェクトの動的再配置プログラミングにおけるリフレクションとマルチモデルの有効性を示す.リフレクションにより動的再配置の記述をメタレベルに隠蔽でき,基本仕様が簡潔になる.マルチモデルにより,動的再配置の記述に対するユーザの様々な要求に対する視点を表現でき,メタレベルプログラミングの記述を容易に行なうことができる.AL-1/D上のオブジェクトの動的再配置についてリフレクション機能を用いた時の性能を比較し,分散環境でのリフレクション機能のオーバーヘッドが比較的少ないことを示す.
分散環境で稼働する,リフレクティブな並列オブジェクト指向言語RbClとその実現方法について述べる.RbClの処理系を構成するすべての実行時ルーチンは,言語のユーザが動的に変更・拡張可能である.つまり,並列実行やリフレクションを含むすべての言語機構が,固定された実行時カーネルとしてではなく,ユーザが置き換え可能な形で実現されている.記述言語との言語的共生と,直接実行のリフレクティブタワーという2つの概念によってこのような言語が実現可能になることを示した.