本稿では,共有環境を伴い,取り扱いやすく明確な方法で関数型計算を表現する弱λ-計算,λf-計算(λf-calculus)を提示する.λf-計算は,環境中の変数を通信のチャネルとして用いることで,名前通信の概念を高階関数実行の枠組へと導入し,共有環境下での関数型計算の単純な定式化を可能とした形式系である.本稿ではこのλf-計算の構文的および操作的な性質であるChurch-Rosser定理や正規化定理などについて紹介する.特にこの形式系の最左戦略が,弱実行系の枠組において最適な簡約経路(optimal reduction path)を与えること示す.
テキストエディタにおいて,ユーザの操作の繰り返しから次の操作を予測してマクロとして定義し実行する「動的マクロ生成機能」と,辞書や文脈知識などを用いた各種の予測実行機能を組み合わせて使用することにより,ふたつのキーを使用するだけで,繰り返し操作の検出実行/予測手法の選択/選択された予測結果の繰り返し適用といった各種の予測インタフェースを実現できることを示す.
グラフィカルユーザーインターフェイス(以下GUI)の構築には多大な労力が必要となるが,その1つの原因は,アプリケーションプログラム中のテキストベースのデータとそれを視覚化した絵との間の双方向変換のプログラミングに手間がかかることにある.本研究では,プログラマーの与えたアプリケーションデータとそれに対応する視覚表現との複数の対応例を汎化することで,GUIを自動構築する手法を提案する.この手法の最大の特徴は,システムが示した視覚化の例をプログラマーが対話的に変更することで,間接的に双方向変換のプログラムを訂正していくことができるという点である.これによって,自動生成したプログラムの訂正が困難であるという従来の「例によるプログラミング」の問題点を解決した.
製造業の現場,あるいはより一般的な共同作業のなかでも,三次元的な環境内でおこなわれる共同作業を空間型共同作業と名付け,これを支援する実画像通信システムの開発をおこなった.本研究は段階的な研究,人間中心のシステム設計,高情報加速度(BPSS)の支援,間接的情報の支援を基本方針とする.筆者らの研究から,可搬性,視点の共有性,可確認性がシステムに必要であることがわかっており,これを支援するシステムとしてSharedViewを開発した.SharedViewは視点に追従するカメラと小型のディスプレイを頭部に搭載したものである.SharedViewを利用して,工作機械の操作方法の遠隔指示実験と機器設定の遠隔指示実験をおこなった結果,SharedViewの有効性を示すことができた.最後に,次の研究段階のために,SharedViewの問題点に関して考察をおこなった.
3次元情報視覚化においては,ユーザに提示する情報量を適切に制御すること,3次元形状の直観的な把握を助けるための視点移動などの対話技法を充実させることが重要である.本論文では3次元情報視覚化の新しい技法であるInformationCubeを提案する.これは階層情報のための視覚化技術で,ユーザにとって馴染みやすいネストキューブメタファによって情報を表現する.提示情報量を制御するために,半透明レンダリングを情報視覚化に取り入れている.またDataGloveや6自由度入力デバイスを用いた柔軟な対話技法を提供している.本稿ではInformationCubeの視覚化方式,その方式に基づいて構築したシステムの実現手法,および利用経験について述べる.
完全な直接操作インタフェースを実現するための新しい構築モデルとして,ビットマップ場の概念を提案する.従来の構築法では,1.描画対象に与えられた構造が存在する,2.画面上の情報のアクセスに制限がある,3.ユーザが扱う部品の再利用性が低い,などの問題点が存在した.ビットマップ場は,ユーザとアプリケーションとで全ての情報を共有する空間である.アプリケーションはビットマップ場の情報とユーザのイベントに対応して動作し,ビットマップ場を更新する.この方法により全ての情報がユーザとアプリケーションに見え,自由に操作することが可能である.描画ツールやプッシュボタンなどのユーザインタフェースがこのモデルの上で容易に構築できる.
アニメーションは様々な動きや機能,特にその動的な特徴を表すのに役立つ.しかし,アニメーションの作成は一般に複雑で繁雑である.本研究では,アニメーションを取り扱うために,我々が以前提案した双方向変換モデルを拡張して,時間の概念を取り入れ,またモデル内の各データ表現上での操作を定義した.このモデルでは,アニメーションは基本的に連続するアプリケーションデータを視覚化した図を補間することによって表現される.アニメーションの作成者は,アプリケーションデータの視覚化方法の指定に加えて,補間の方法を抽象操作との対応規則によって指定することのみによってアニメーションを作成できる.