関数型言語の抽象実行のフレームワークとして,領域抽象化による順方向実行と逆方向実行についてストリクトネス解析を例として説明する.さらにそれらを統一的に扱う4つのパラメータについて説明し,計算経路解析をそのパラメータ表現に基づき表す(1章).次に逆方向実行であるプロジェクション解析を説明し,計算経路解析と比較する(2章).最後にper (Partial Equivalence Relation)による順方向実行の抽象実行を説明し,プロジェクション解析や計算経路解析と比較する(3章).
本稿では,名前通信並行プロセス計算のコンビネータ理論を提案する.関数型コンビネータが有限の組み合わせで計算可能な高階関数を表現する新たな基盤を与えたように,この並行コンビネータも非同期名前通信を細密に分解することによって導出され,その有限個の並行合成と相互作用計算で名前通信プロセス計算と同等の計算を表現するという新たな枠組みを提供する.まず本稿では,非同期名前通信計算の7つのコンビネータとそれら2者間の相互作用則を定義し,動作意味論を等式理論を基盤に展開する.次に,それらの並行合成と名前制限のみで名前通信計算のプレフィックスが動作的に表現できることを述べ,さらにこの結果の拡張として同期名前通信,多引数名前通信,分岐構造が表現できることを示す.最終的には本稿の並行コンビネータ系と非同期名前通信プロセス計算の一対一対応が示されることにより,この理論体系が名前通信プロセス計算族における結果を引き継ぐことを示す.
既存の入力デバイスが持つ使いやすさと携帯性の両立という問題を克服するために,記憶ペンを開発した.記憶ペンは通常のペンと同じ外観を持ち,筆記内容をペン自身が記憶することができる.そのため,携帯性が高い,普通の紙に書くことができる,通常のペンと同じ感覚で筆記できるといった特徴を持つ.記憶ペンは,ペン先のCCDによって内蔵するメモリに画像系列を取り込むが,CCDの視野の制約から全体像を取り込むことができないため部分像を取り込む.本論文では,取り込まれた部分像系列から全体像を再現するアルゴリズムの提案とその評価を行う.実験結果より,文字を書く速さは再現成功率にあまり影響を与えないこと,文字の大きさや間隔の変化に対する再現成功率の変動が大きいこと,文字の大きさを制限を満たせば,200-300文字程度の練習により約90%の再現成功率が得られることなどが判明した.
研究目的を主眼としていたインターネットは着実に発展を遂げ,現在では多種多様な人々がインターネットを生活基盤とするようになった.それにともない,心なく不正侵入を繰り返す者の数が増大している.このため,インターネットの性格が商用に移行する中で,セキュリティ対策の重要性が高まりつつあり,防火壁に加えて,セキュリティ・ホールを自動的に検索するソフトウェアが注目を浴びてきている.セキュリティ・ホール検索ソフトウェアは,管理者にとって有用であるが,逆に不正侵入を試みる者にも足掛かりを与える両刃の剣になりかねない.本稿では,セキュリティ・ホール検索ソフトウェアを系統的に説明するとともに,よく知られたセキュリティ・ホールとその対策について述べる.