大規模なソフトウェアの開発コストを低減するためには理解の容易なソフトウェアを構築する必要がある.そのための第一歩として,我々はソフトウェアの理解容易性を計量するために理解コストを提案している.本論文では静的なOOP (オブジェクト指向プログラム)における理解コスト計量法を提案する.OOPの複雑さを計量するメトリクスとしてはChidamberらが提案したものが有名である.Chidamberメトリクスはクラスのみを計量対象としている.しかし,我々が行った評価実験の結果,静的なOOPの理解容易性はクラスだけでなくインスタンスレベルのプログラム構造に依存することがわかる.そこで,静的なOOPの理解コストを求めるために,その理解過程モデルを提案する.静的なOOPは通常のイベントを処理する際にプログラム構造が変化しないが,OOPの本質的な概念や性質を含む.静的なOOPの理解過程モデルは構造と振舞いの理解過程モデルからなる.構造の理解過程モデルでは,OOPを構成するクラス,インスタンス,複合オブジェクトなどを理解する.これに対して,振舞いの理解過程モデルではOOPのトレースを通じてイベント駆動型の実行,多態性(polymorphism),動的束縛を理解する.評価実験で対象とした4種類のOOPに対して,被験者の理解容易性評価値とChidamberメトリクス値が無相関との仮説は有意水準5%では棄却できない.一方,被験者の理解容易性評価値と理解コスト値が無相関との仮説は有意水準5%で棄却される.
抄録全体を表示