ソフトウェア開発プロジェクトにおける納期遅延を防ぐため,プロジェクトマネージャはプロジェクト進行中にプロジェクト完了日予測を行う.しかし,タスク情報を元にした予測手法では,元のタスク情報に誤りが含まれる場合,正しく予測することができない.そこで,本論文では誤ったタスク情報を自動的に修正するため,タスク情報とコミット履歴データを突き合わせて正しいタスク情報を推測する手法を提案する.提案手法を実製品の組込みソフト開発プロジェクトデータに適用した結果,プロジェクト完了日予測の誤差率が28.6%から8.6%に改善し,本技術が実用的な水準であることが確認できた.
オープンソースソフトウェア(OSS)開発においては,コーディングを行うのみならず,開発者割り当て,デバッグ,機能拡張,コードレビュー,質問回答など,様々な貢献を行う開発者が必要となる.本論文では,貢献タイプを区別するための2つのメトリクスを定義し,多数のOSSプロジェクトの開発者の分布を分析することで, 4つの貢献タイプを同定した.さらに,各貢献タイプに属する開発者に対して原型分析を行い,最終的に7つの貢献タイプを同定した.これらの貢献タイプは,各OSS開発プロジェクトにおいて必要な人的資源の分析に役立つと期待される.
WebアプリケーションのGUIテストには,Selenium等のGUIテスト自動化ツールを使うことがある.GUIテスト自動化ツールは,テストスクリプトに従って自動でブラウザを操作してテストを行う.その際,操作する画面要素を識別するためにロケータという識別子を使用するが,テスト対象のソフトウェアが修正・変更されると,既存のロケータでは操作する画面要素を識別できなくなる場合がある.識別できなくなった場合,テストスクリプト中のロケータを修正する必要があるが,それには非常にコストがかかる.本研究では,単語や文章の分散表現による画面要素文章に基づく指標を導入することにより,従来研究よりも少ない指標を手掛かりにロケータを修正する手法を提案する.4つのOSSのWebアプリを用いて提案手法の評価を行った結果,従来研究よりも指標の数を減らしつつ,同程度の精度でロケータの修正候補を得られることが確認できた.
近年,自動でバグを修正する技術の研究が活発に行われており,さまざまな技法が提案されている.その中で,テストケースを活用した探索ベースの自動バグ修正では,あらかじめ用意するテストケースが自動修正の成功の鍵を握っている.それにもかかわらず,テストケースと修正対象のバグの関係について十分な調査が行われているとはいえない.そこで,我々は,テストケースを変化させて自動バグ修正を実行し,パッチの生成数,生成の正しさ,およびパッチ生成に費やす時間がどのように変化するのかを調査するフレームワークを設計した.本論文では,5種類のバグパターンを含むプログラムに対して調査結果を示す.結果として,バグの種類によって,用意するテストケースを増加させる方が良い場合と悪い場合があることを確認した.
ソフトウェアの発展においてソースコードの変更は必要不可欠であるが,同時に新たなバグを混入させてしまうリスクもある.そこでソースコード変更の特徴からバグ混入の予測を行うさまざまな研究が行われてきており,その中の有益な手法の一つとして開発者ごとに予測モデルを構築する個人化バグ予測が知られている.しかしながら,ソースコード変更(コミット)の経験が少ない開発者向けにはそのような個人化予測モデルを構築できないという課題がある.この課題を解決するため,本論文では他の開発者向けに構築された複数の個人化バグ予測モデルを組み合せて使用する手法を提案している.そして,5つのオープンソース開発プロジェクトを用いた評価実験を通じて,提案手法の有用性を示している.
タッチ入力には,入力語彙が限られているという問題が存在する.この問題を解決するために,本研究では新たなジェスチャとしてターゲット内スワイプを設計した.本操作は,ターゲットに対するスワイプのうち,スワイプの両端がターゲット内となるジェスチャである.我々は,ターゲット内スワイプの実用可能性を調べるために3つの実験を行った.これらの結果から,ユーザがターゲットに対してスワイプを行った時に偶発的にターゲット内スワイプが発生する確率は0.8%であり,またターゲット内スワイプの成功率は96.7%であった.さらに,我々はターゲットに対するタップとターゲット内スワイプの識別可能性について調査した結果,97.4%の確率で両者を識別できることが分かった.
気体の泡を用いて液体中にデジタル情報表示を行う泡ディスプレイの手法が研究され,一部では実用化もされている.従来装置では表示のための気体を外部から供給する方式が一般的であり,可動部分が必要である.この方式では機構が大掛かりになり,高画素な表示を安価に実現することが困難である.そこで我々は,電気分解により発生する気体を画素として利用し,液体表面で情報表示を行う手法を提案する.また,飲料表面に10×10画素のドットマトリックスパターンを生成可能なカップ型デバイス“BubBowl”を実装したので報告する.本方式は可動部分の無い電極だけで構成可能であり,既存のプリント基板技術や電子部品実装技術を利用することで,高密度で高解像度な泡ディスプレイを安価に実現できる可能性がある.また,提案デバイスは小型化・電池駆動が可能であるためコーヒーカップのような日用品に埋め込むことができ,コーヒーの液面に泡で情報表示するなど,日常生活に近い場面での使用が期待できる.