現在,IoTデバイスのデータ配信のためにパブリッシュ/サブスクライブメッセージングモデルを用いた様々なIoTデバイス向けのプラットフォームが開発されている.しかし,これらのプラットフォームではプッシュ型の通信によるメッセージ配信という特徴上,サブスクライバがデータの受信タイミングを制御できない.これによってデータの受信過多や,異なるリソースからのデータ受信の際に同期が取れないといった問題が生じる.そこで,本研究では既存のプラットフォームを拡張し,サブスクライバが時間によってデータ受信を制御できるサブスクライバドリブンなデータ配信システムSDSを開発した.実際に,送信頻度の異なる複数トピック間で同期的データ取得にかかる通信量を測定したところ,4つのトピックを同期的に取得するケースにおいて本システムを用いることで既存システムから通信量を70% 以上削減することができた.
コンピュータ技術進歩の過程において,基盤ソフトウェアであるオペレーティングシステム(OS)の研究開発が盛んに行われ,数多くのOS実装が利用可能となった.デスクトップPCやスマートフォン,エンタープライズサーバなどの一部のプラットフォーム向けでは,WindowsやLinuxなどの少数のOSが寡占状態にあるが,すべてのシステムにおいて特定のOSが独占して採用されることはなく,現在でも,システムの目的や用途,プラットフォームの特性などに応じて複数のOSを使い分けている.著者らは,特性の異なる複数のOSを状況の変化に応じて動的に切り替えることで,OS上で稼働するサービスの負荷耐性や性能の改善を試みる手法を提案している.本論文では,LinuxとFreeBSDを対象として,サービス稼働中にそのシステム基盤であるOSの動的な切り替えを可能とすることを目的として,FreeBSDにおけるLinux互換プロセスのマイグレーション機構の実現手法についてまとめる.Linuxにおけるプロセスマイグレーション機構の標準ツールであるCRIUとのチェックポイントデータの相互互換性を維持することで,LinuxとFreeBSD間で同一のプロセスをマイグレーションする仕組みを実現する.本実現法では,FreeBSDカーネルとLinuxカーネルのOS機能の違いだけでなく,内部構造やインタフェース仕様の違いにも着目し,CRIUの各機能と同等の機能をFreeBSD上で実現する際の課題や実装の詳細を述べる.
量子コンピュータシミュレータは,ライブプログラミング環境の一種であり,量子アルゴリズムの研究や学習のための好ましい選択肢となっている.しかし実用的な量子ライブプログラミング環境を実現するには,指数関数的に増加する計算時間やメモリ量を緩和し,様々な量子ゲートのシミュレーションを異なる動作環境上で実現する必要がある.そこで我々は効率の良いアルゴリズムを元に,様々な解像度のブラウザ上で高速に動作する量子コンピュータシミュレータ Web サービスを実装した.これによって,量子プログラミングが手軽に試行錯誤できるようになるだけでなく,将来的には研究者間のコラボレーションや,他ツールへの組込みといった,量子プログラマを取り巻く環境全体の改善が可能になる.
日本ソフトウェア科学会の論文誌でもあるコンピュータソフトウェア誌の査読・編集作業では,2017 年より編集作業を支援する web アプリケーションを利用している.これは当時,同誌の編集委員長であった著者が作成したものである.本論文は,国際会議用の既存の査読システムでは論文誌の査読支援には不十分であることを述べ,論文誌の査読支援のために開発した web アプリケーションの設計概要を示す.
大学で開講される初年次必修プログラミング教育では,TAが必要不可欠である.対面講義でもあった積極性を発揮できず質問できない受講生の問題は,COVID-19の影響により大学の講義がオンラインになったことで,より大きな問題となっているといえる.また,それに加え質問の順番待ちや質問対応などの制御や,TAにとって質問に対応できるだろうかという精神的な負荷も大きな問題となりうる.そこで本研究では,受講生の質問へのハードルを下げつつ,TAの精神的負荷も軽減するため,受講生がTAに直接質問をするのではなく,受講生はシステムに対して質問を行い,またTAは質問を事前に確認し,対応可能な場合に呼び出しして入室を促す手法を提案し,実装した.また,実際のオンライン講義で計1600分運用し,受講生およびTAから高い評価を得ることができた.
半幅帯とは,女性のカジュアルな着物および浴衣に合わせて用いる帯であり,多様な帯結びが存在する.本稿では半幅帯に注目し,半幅帯の帯結びを1本のつながったものではなく,パーツの集合体として扱うというアイデアをもとに,3つの提案を行う.第一に,帯結びをデータ化して扱うシステムとして,パーツの組み合わせによって帯結びの形状データを作成する帯結びエディタを提案する.第二に,実世界において,パーツの組み合わせによってさまざまな帯結びに変えられる帯,「組み替え帯」を提案する.第三に,第一の提案である帯結びエディタによって作成したデータから第二の提案である組み替え帯を組み立てるための支援として,帯結びの形状データをもとに実際に組み替え帯で作成する際の,エディタパーツと組み替え帯パーツの対応およびパーツのたたみ方などを示すソフトウェアを実装し,構造図の計算手法を提案する.また,提案システムに対してユーザインタビュー調査を行ったので報告する.
本研究では,電気分解により生成するイオンを利用し,湿潤面上にカラーパターンを表示する手法を提案する.濡れた物体に電極を接触させ通電することで電気分解が起こり,特定のイオンが生成する.このイオンに反応する呈色指示薬を用いて,カラーパターンを表示可能なディスプレイを実現する.電極パターンの実装にプリント基板のような既存の回路実装技術を適用することで,ドットパターンやセグメントパターンをコンピュータ制御により表示可能である.また,パターン表示後に逆向きに通電し電極の極性を反転させることで,表示色を薄め,逆電極イオンによる反応色で表示することができる.提案手法は可動部分が不要で低コストであり,小型化が容易である.また,pH反応性物質を含む一部の食品が表示媒体として使用可能である.よって,湿潤面を持つ日用品や食品を,情報表示の媒体として使用する用途が期待できる.本稿では,ディスプレイの実装と可能な使用形態,性能評価について報告する.