本論文では,原子アクション(Atomic Action)の実現方式について議論する.はじめに,原子オブジェクト(Atomic Object)における原子性(Atomicity)を定義し,次にその実現法に関して議論する. 従来の原子性実現のためのアルゴリズムは,局所原子性に基づいて実現されていた.これは,従来の原子アクションの実現が,受動的なデータを対象としていたためである.この手法は,依存関係の一貫性保持のための遅れが生じるので,各原子アクションの応答時間を低下させてしまう.しかし,オブジェクトモデルが持つ能動的な性質を利用することにより,自然にオブジェクト自体がそれをアクセスする原子アクション間の依存関係を交換し合うことが可能となる.本論文では,この方式を協調原子性と呼ぶ.協調原子性は,局所原子性と比較して,計算量とメッセージ量を増加させるが,その分応答時間を向上することができる.そのため,今後,計算機やネットワークの速度が向上するにつれ,協調原子性の有効性が高まると考えられる.本論文では,局所原子性と協調原子性の性質について述べ,協調原子性に基づく原子オブジェクトの原子性を実現するためのアルゴリズムを提案する.
近年,オプティカル・フローを使って,物体の追跡,立体画像の復元,ロボットのシーン理解などの問題を解く手法の提案がなされている.これらの多くは,逐次型計算機によってオプティカル・フローを求めているが,オプティカル・フローの計算量は多く,その計算時間を短縮するには,並列計算機を利用するのが良いと考えられる.そこで,本論文では,オプティカル・フローを求める並列アルゴリズムを提案する. まず,空間輝度変化は微小であるという近似を導入する.従来,オプティカル・フローの計算には,オイラー方程式を解くことに帰着するHornとSchunckの手法が多く用いられている.このオイラー方程式は非同次の連立偏微分方程式であるが,導入された近似により独立な2つのポアソン方程式に変形できる.ポアソン方程式は,フーリエ級数法を用いることにより並列計算機上で効率良く計算できることがわかっている.その特性を利用して,本論文では,オプティカル・フローを並列に計算する手法を提案する. また,本論文では,導入した近似について考察する.本手法とHornらの手法を計算機上に実装し,両者が計算したオプティカル・フローの比較を行うことにより,誤差の解析を行う.特に,空間輝度変化と誤差の関係,および物体の移動と誤差の関係を明らかにし,正則化定数の物理的意味の相違について考察する.
等式理論を法として単一化を行う拡張単一化のことをE単一化という.本稿では,E単一化を行う半決定手続きを与える.この手続きは,任意の等式理論に対して完全である.完全性の証明には証明順序法を用いる.また手続きは,Knuth-Bendix完備化手続きの拡張になっているので,E単一化の過程で等式理論に対応する完備な項書換え系を獲得することもある.この場合,本稿はHullotの結果の一般化でもある.
形式文法をそのままプログラムと見なすパラダイムを文法的プログラミングと呼ぶ.このパラダイムの表現力をより豊かにすることを直接の動機として,形式文法へ明示的な否定表現を導入することを試みる.特に本論文では列ではなく,項を扱うように議論を限定した場合について,否定記号を明示的に扱う文脈自由文法(CFG)を検討する.まずHerbrand世界の上の一階述語論理のモデル意味論および佐藤らによる論理プログラムの否定技法を参考にして,非終端記号,関数子およびいくつかの論理記号から構成される形式的体系を定義する.この体系ではたとえばHerbrand解釈,充足不能性などの基本概念が述語論理と同様に定義できる.否定を扱うCFGはこの体系の特殊な形式として定義される.これらの理解を通してCFGにおける否定技法が正確に理解できる.それによるとHerbrand世界の上に定義された任意のCFGからはそれと相補的な意味を持つCFGを導出できる.