社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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42 巻, 2 号
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  • 岩永 公成
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 1-10
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    これまで,占領期児童福祉政策に深く関与したPHW(公衆衛生福祉局,GHQ)の政策構想は不分明なままであった。そこで,本稿は,厚生省児童局の設置過程を手がかりに,PHWの政策構想の解明を課題として設定した。検討の結果,次の2点が明らかになった。第1に,PHWは「児童保護活動を行ううえで,最も障害なのは日本人の児童問題に対する無関心である」とみなしていた。したがって,占領初期,PHWは「関心を喚起し,重要性を認識させること」に腐心した。通達の作成や児童局設置の推進,女性局長の提案などは,その証左である。第2に,PHWは浮浪児問題に関与し始めた頃から,「対象児童の一般化」と「関係機関の連携」という重要な政策理念を有していた。これらの政策理念は,児童局に普通児童を対象とする企画課が設置されたこと,学校保健問題にかかわる連絡調整委員会が設置されたことからわかるように,厚生省児童局の設置により一応結実した。
  • 松山 毅
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 11-21
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    イギリスにおける近世初期の貧困救済事業として救貧法は重要な位置を占めている。そして慈善事業に関しては,これまで救貧法の前史的扱いか,18世紀から慈善組織協会(COS)設立頃までの活動が注目されることが多かった。しかし実際には,救貧法行政の前半は慈善の強制の歴史であり,また宗教改革の影響で行き場のなくなった貧困者の救済は私的慈善家たちが担っていたのである。本稿では,この慈善活動に供せられた信託財産の濫用や不履行を取り締まり,公益的な慈善信託の効率的かつ公正な運用を定めた立法である慈善信託法(1601)の成立背景,概要,意義,限界を検討することを目的としている。今日のイギリスのチャリティ法の源流でもあり,しばしば議論される「公益」性についての枠組みや,チャリティ・コミッショナーに関する原初的な規定をここに確認することができる。そして内外の研究者によるコメントを通して,本法をめぐる論点を整理し,今後の研究課道の抽出を試みた。
  • 加茂 陽, 大下 由美
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 22-31
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    「ソーシャルワーク実践における資源システムの構築」というタイトルのこの論文は2つの部分から構成されている。第I部では理論分析が試みられる。そして実践の考察が第II部でなされる。伝統的ソーシャルワークのエンパワーメント論は,生活に不可欠な資源という視点から人の適応水準を分析してきた。この理論を提唱する多くの理論家たちは,人の適応水準は外的,物理的資源によって直接決まると考えてきた。結果として,それらの理論家たちは,そのような資源を作り出す人のトランスアクションのメカニズムを分析するための洗練された理論を作り出すことができなかった。この論文においては,適応に必要な資源を産み出す対人間のトランスアクションの機制が明示される。さらに本論において,著者たちはその機制を活性化させるソーシャルワーク実践の構築も意図した。
  • 武田 加代子, 南 彩子
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 32-42
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    クライエントによる選択と,自己決定,自己責任は21世紀のわが国のソーシャルワークの大きな課題であるが,これを実現していくためには困難を抱えたクライエントに対するレベルの高いソーシャルワーク援助が必要である。では,レベルの高いソーシャルワークとはどのようなソーシャルワークであり,どのような要件を満たすことが必要であろうか。ソーシャルワーカーが一定水準以上の専門職性をもって実践し,またそれが評価されるためには専門職性を判定する基準を明確にする必要があると思われる。本研究の目的はソーシャルワークの専門職性に関する先行研究をふまえたうえで,実際に使用することのできる専門職性判定のための評価指標の作成を試みることである。専門職性を構成する7つのカテゴリーとそれに対する67の下位項目を設定しそれらの妥当性を調査によって検証するという方法をとった。
  • 原田 和宏, 齋藤 圭介, 有岡 道博, 岡田 節子, 香川 幸次郎, 中嶋 和夫
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 43-53
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は複数の福祉関連職においてMaslachとJacksonのバーンアウト尺度(Maslach Burnout Inventory ; MBI)の因子構造を比較し,離職意思との関連性を検討することを目的とした。対象は先行研究で提起された3因子斜交モデルについて最適モデルを検討した岡山県内の特別養護老人ホームに勤務する女性介護職員1,006名と,比較として静岡県内の保育園に勤務する女性保育士485名,および岡山県内の知的障害者施設に勤務する生活指導員270名のデータを用意した。構造方程式モデリングを用いた多母集団の同時分析を行い,3因子斜交モデルの3標本に対する当てはまりの良さと因子構造に関する因子間相関などの推定値を観察した。適合度指標はモデルを受容する目安を上回った。しかし,3標本を通じて「自己成就」は「情緒的疲弊」との共変関係が理論的な仮定とは正負逆で,かつ「離人化」との共変関係は小さかった。構成概念妥当性の内部的要素である尺度項目間の構造は理論的仮定と整合しないことが示された。なお,2種類の比較対象に対して離職意思との関連性を検討した結果,「自己成就」は離職意思との間に統計学的に有意な相関関係が観察されなかった。以上の知見はMBIの構成概念妥当性に関する欧米の研究成果と一致するものであり,本邦におけるバーンアウトは「情緒的疲弊」と「離人化」で測定する適切さが示唆された。
  • 池埜 聡
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 54-66
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    1980年代以降,外傷体験に起因する心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する研究が数多く報告されるようになった。しかし,トラウマの影響はPTSDの枠組みだけではとらえきれず,とくに長期的影響に関する研究は初期段階にあるといえる。本研究は,トラウマの長期的影響のひとつとして「生存者罪悪感」の問題を取り上げる。そして筆者の臨床および調査経験を踏まえ,生存者罪悪感の概念的枠組みとソーシャルワーク実践のあり方について提言することを目的とする。具体的には,1)生存者罪悪感の概念的枠組みを形成する実存的罪悪感と実体的罪悪感の内容と分類,2)理論,実証,臨床の各側面における先行研究の整理,3)生存者罪悪感への援助方法論,そして4)考察といった項目にまとめて報告する。とくに,援助方法論では,認知療法の枠組みに加えて,1)援助関係構築,2)アセスメント法,3)援助目標の原則,4)セルフヘルプグループの形成と活用,4)ソーシャルワーカーの自己覚知,そして5)その他の留意点といったソーシャルワーク機関における実践的示唆を示す。また,考察では今後の研究課題とソーシャルワークの役割について提言をまとめる。
  • 門田 光司
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 67-78
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,不登校児童生徒への直接的援助として学校ソーシャルワーク実践がどのような役割機能を果たせるのかを明らかにすることである。そこで,再登校を始めた生徒群(再登校群)10名と不登校継続の生徒群(不登校継続群)10名の比較研究から再登校を促す要因をみつけだし,その要因に対する学校ソーシャルワーク実践の役割機能を明らかにしていくことにした。データは面接記録から収集し,分析手法はStrauss, A., & Corbin, J.の質的分析方法を用いた。分析結果では,再登校を促す要因には「友人関係」特性の次元と「将来目標」特性の次元が大きく関係していることが見いだされた。この要因に対し学校ソーシャルワーク実践が果たし得る大きな役割機能はグループワークである。とくにSchwartz, W.の「媒介機能」に着眼した内部的媒介と外部的媒介双方に働きかけるグループワーク実践が不登校児童生徒への直接的援助には不可欠であることを提言した。
  • 夏堀 摂
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 79-90
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,自閉症児の母親の障害受容を促す具体的方策を探るために,1歳半健診の制度化による母親の障害受容過程への影響を明らかにする目的で健診実施以前以後の世代間比較を行い,また,障害受容に要する時間に影響を与える要因の解明を行った。その結果,(1)実施前後で「障害の疑い」「診断」の時期に有意差は認められなかったが,実施群のほうがより早く「公的機関への相談」「親の会への入会」という対処行動をとっていた。(2)世代間で心理状態が不安定な時期や育児困難を顕著に示した時期に有意差が認められた。(3)制度を利用できた実施群は未実施群に比べ,障害受容に要する時間が短くなっていた。(4)制度化後において,母親の障害受容に要する時間に影響を与える要因には「調査時点の母親の年齢」「調査時点の子どもの年齢」「診断時の専門家の説明の仕方」「親の会への入会時期」の4変数が関連していた。以上の結果をもとに,自閉症児の母親の障害受容過程に対する1歳半健診制度の影響と,今日の制度化で育児を経験している自閉症児の母親に対する支援のあり方について考察した。
  • 佐藤 秀紀, 鈴木 幸雄
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 91-105
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,北海道内にあるA園に入退園した児童およびその保護者を対象に,児童およびその保護者の抱える問題を把握するとともに,児童の入園時の問題行動の有無と保護者の問題との関連性について検討したものである。調査の対象は,A園に1946(昭和21)年から1997(平成9)年にかけて入園および退園した児童867名(男児463名,女児404名)およびその保護者とした。なお,調査票の記入は,施設の担当職員を通して行った。解析に当たり,まずすべての調査項目に対し記述統計で検討した。次に,入園時の児童の問題行動の有無については,入園時の保護者の問題に着目し,χ^2検定で検討した。その結果,入園時の保護者の問題は,養育困難の領域においては,「離婚・別居」が最も多く,次いで「経済的理由」であった。虐待等の領域においては,「放任等怠惰」が最も多く,次いで「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」の順であった。疾病等の領域においては,「精神疾患以外の長期療養」が最も多く,「精神疾患」「アルコール依存」の順であった。入園時の児童の問題行動は,「問題なし」と判断された児童は45.6%,逆に「問題あり」と判断された児童は54.4%であった。個々の行動に着目するなら,「盗み」「その他」「低学力ボーダー」「家出」の順であった。退園時の児童の問題行動は,「問題なし」と判断された児童は59.1%,逆に「問題あり」と判断された児童は40.9%であった。個々の行動に着目するなら,「盗み」「金品持ち出し」「その他」「不登校」の順であった。入園時における児童の問題行動の有無と保護者の問題との関連性は,男児においては,「問題行動あり群」は「問題行動なし群」に比較して,離婚・別居,身体的虐待,放任等怠惰,精神疾患以外の長期療養,アルコール依存,その他の各項目において,保護者が問題を有する家庭に多いことが示された。一方,女児においては,「問題行動あり群」は「問題行動なし群」に比較して,離婚・別居,就労,身体的虐待,心理的虐待,放任等怠惰,その他の各項目において,保護者が問題を有する家庭に多いことが示された。
  • 小松 聖司
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 106-117
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本稿は,(1)知的障害者生活ホームにおける参与観察記録の提示,(2)参与観察記録から生成されたカテゴリーがニーズ実現のプロセスに及ぼす影響の考察,(3)生活への満足感を高めるための支援の方針の考察,を目的とした。参与観察記録を分析した結果,「ニーズの実現を遮る要因」(サブカテゴリーとして,「他者からの影響」「資源の不足や欠陥」),「ニーズの支援」(「直接的な支援」「間接的な支援」),「本人の調整力」(「実現を遮る要因への対応」「支援を求める力」)といった3つのカテゴリーが生成された。各カテゴリーの関連から考えられる支援の方針として, (a)エンパワメントの視点から「本人の調整力」にウエイトをおく,(b)主体性を尊重する視点から「ニーズの支援」にウエイトをおく,が提示された。また,インフォームド・コンセントが生活への満足感を高める十分条件となるための具体的な手段について幾つか述べた。
  • 佐藤 ゆかり, 原田 和宏, 齋藤 圭介, 有岡 道博, 香川 幸次郎, 中嶋 和夫
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 118-129
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,ヒューマンサービス従事者におけるPines Burnout Measure(BM)の構成概念について検討することを目的に,その因子構造モデルについて評価した。解析には岡山県内の知的障害児・者施設37施設に勤務する生活指導員282名分の資料を用いた。Pinesらの提唱した3因子21項目からなる2次因子モデルと先行研究において示され5つの提示モデルについて構造方程式モデリングを用い評価した。結果,構成概念妥当性および内容的妥当性の観点からいずれのモデルについても積極的に採用する根拠は示されなかった。そこで,BMの構成概念および一次元性について探索的ならびに確証的因子分析を用い検討したところ,本邦ヒューマンサービス従事者におけるバーンアウトは概念的な妥当性ならびに数量的な内的一貫性を有するものとして一次元化できる可能性が示唆された。
  • 太田 美緒, 甲斐 一郎
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 130-138
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    扶養義務感を測定する老親扶養義務感尺度の作成を目的とする。予備調査により,森岡の理論に基づく扶養義務感を支える3要素(経済的支援,情緒的支援,身体的介護)からなる質問項目を11に絞り込んだ。埼玉県川越市伊勢原町在住の30歳代の全女性375名を対象としたアンケート調査を実施し,199人(53%)から有効回答を得た。11項目を因子分析した結果,3要素を反映した3因子構造であることを確認した。Cronbach α係数は0.82,各下位尺度のα係数は0.86, 0.67, 0.76と高い数値を示したことから信頼性は十分であった。妥当性については,理論に合致する3因子が検出され,先行研究により相関関係が指摘されている親子間親密度との関連が確認されるなど,ある程度の安当性が認められた。今後,20歳代から50歳代を含む幅広い年齢層の男女を対象とし,サンプル数を増やし,関連要因との関係を精査することが課題である。
  • 佐橋 克彦
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 139-149
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本稿は,わが国の公的介護保険制度を準市場の原理の視角から,その形成と特質について考察する。分析の枠組みに用いた準市場の原理はルグランドらによると,供給主体と購入主体に関する市場構造の転換,情報の流通,取引費用と不確実性への配慮,動機づけ,クリームスキムの防止という条件整備により,サービスの効率性・応答性・選択性・公平性がもたらされるとする市場形態がその特徴である。それらを踏まえたうえでわが国における準市場的要素を抽出し,準市場化のための条件整備の程度とその特異性を検討した。分析の結果,公的介護保険制度における効率性は準市場原理のものとは異なり租効率性を重視したものであること,選択性は情報開示の不徹底さと監査体制の不備から限界をもち,応答性については一定の範囲で利用者に確保されているものの,保険給付の対象設定に課題があること,公平性についてはその概念を再検討する必要性を指摘することができる。
  • 沖田 佳代子
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 150-160
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,ソーシャルワークの立場から,高齢者介護における倫理的意思決定の構成概念および基本的枠組みを検討することにある。本稿では,ケアマネジメントの倫理的意思決定に限定し,ケアマネジャーの倫理的デイレンマとその意思決定を調べる。また,ケアマネジャーの意思決定に横たわる倫理を検討するために,ソーシャルワークへの通用が試みられる道徳的推論に関する議論を振り返る。その際,2つの倫理モデルが議論される。1つは原理原則に基づく推論による倫理の分析モデル,すなわち,個人の自己決定や自律性を重視する権利の倫理である。もう1つは,対話による交渉や妥協も含めた他者への配慮やケアに基づく徳の倫理である。
  • 富樫 八郎
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 161-169
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,傷病・障害発生直後の急性悲嘆への初期介入と介入効果としての傷病・障害の受容に焦点をおいた。なぜならば,傷病・障害の非受容患者にみられる共通の問題は,傷病・障害の発生直後に適切な初期介入をみないからである。近年の高度化・専門分化・短期化の急性期医療の場では,身体的治療が中心となるため,急性悲嘆にある患者・家族に対する初期介入は課題視されにくい。このような医療現場の援助環境の実際があるため,傷病・障害発生直後の急性悲嘆への初期介入モデルに関する先行研究は,皆無に等しい。本研究では,多発性硬化症の診断直後,急性悲嘆に陥った患者に対し,ソーシャルワーカーが初期介入を試み,病気の受容の促進といった介入効果をみたことから,本事例への初期介入プロセスおよび初期介入の構成要素を提示・報告する。なお,本初期介入は,介入指標,介入時期・期間,介入態度,複数の介入技法で構成されている。
  • 渡辺 顕一郎, 田中 一代, 松江 暁子
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 170-181
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本調査は,心身障害児者の親が子どもの自立をめぐって経験するストレスと,その対応資源を実証的に把握することを目的としている。調査の方法として,香川県および京都府下の心身障害児者関係施設・団体等を無作為抽出し,回答が得られた23施設・団体を利用する在宅の心身障害児者の親を対象とし,自己報告式の調査票に基づく実態調査を行った(有効回答数736名)。分析結果から,親は子どもの自立をめぐって総じて高い不安を経験しており,ストレス対応資源が不足している傾向が明らかになった。また,親のストレスに最も影響を与えていた要因は子どもの障害の程度であり,現状において家族内外の資源は相対的にストレス軽減効果をもたらしていない可能性が示唆された。さらに,子どもが幼い時期から,親は将来の自立について不安を抱いている傾向も確認されたことから,早期かつ継続的な親支援が必要であり,そのための社会資源を整備していくことが急務であるという結論に達した。
  • 山崎 百子
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 182-194
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    介護保険後,ケアマネジャの目を通したケアマネジメント・サービス供給の実態把握を目的とし,1地方Y県をモデルとしたアンケート調査を行った。アンケートの回答者は制度施行に伴い新たに設置されたケアマネジャ599名で,Y県下の居宅介護支援事業所に所属し,回収率は約50%であった。本稿では結果から,(1)Y県の福祉環境情勢,(2)事業所規模,(3)新規職ケアマネジャの実態,(4)ケアマネジメントにおける連携と調整および福祉情報化の実情等をまとめた。その結果地方版の典型例ともいえる特色が明らかになった。すなわち,新規性に乏しいおおむね従来どおりのサービス供給環境,建前と実態との乖離を示す基盤整備状況,福祉環境の特徴に相乗して示されたケアマネジャの微妙な役割と課題,情報化インフラの貧弱さ,などである。これらは1地方にとどまらない福祉における根源的な問題点であると推測され,ケアマネジャの今後のあり方を検討することと,新たな公私パートナーシップをもつ地域ベース対応の対人福祉サービスシステムを構築する必要性を示唆した。
  • 志賀 文哉
    原稿種別: 本文
    2002 年 42 巻 2 号 p. 195-205
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    タイ王国の南部にあるハンセン病療養所を対象(被験者:189名)に,当該療養所の現状と社会サービスの適用の現状と患者のQOL(Quality of Life;生活の質)にかかわる調査を実施した。タイ王国では1990年代より保健医療改革が進められ,社会保障制度が発展してきている。障害者ID審査合格率は73.3%(66/90)であるものの,関連する法や情報,また制度利用性を含む手続きが十分とはいえない。一方で,患者QOLに関しては,社交関係,周囲環境,地域社会への浸透の度合について客観的指標を中心にその結果は相対的に高かった。経済的な生活水準は低く,療養所という限られた範囲での生活に外界との接点は多くない状況,また当該疾病に特有の社会的偏見・スティグマを受ける状況にあって,上記社会的関係に関する彼らのQOLが保たれることは注目される。今後比較研究で社会的QOLに影響を与える要因を探究する必要がある。
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