社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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43 巻, 2 号
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  • 廣川 嘉裕
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 3-13
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    近年の福祉改革の基底をなすニュー・パブリック・マネジメント(NPM)論は,公共部門への市場メカニズムの導入を主たる特徴としている。こうした動きは公共サービスの改善に資する可能性もあるが,NPMは福祉行政において重要な価値を軽視している側面があり,また市場メカニズムは福祉サービスになじまないという問題もある。そこで,本稿では福祉部門においてNPMを取り入れる際に注意すべき点を考察し,福祉行政に適したNPMのモデルを提示する。構成は次のとおりである。まず第I章で本稿の問題意識と目的を明らかにする。次に第II章でNPMの要素を3つ抽出し,「NPMとはなにか?」を説明する。そして第III章で特定された要素ごとに「なぜNPMは福祉政策に純粋な形では導入できないのか?」を福祉サービスの特性との関連で説明する。最後に第IV章で「こうした問題点を解決するためにはどのようにNPMのモデルを修正すべきか」を考察する。
  • 西村 貴直
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 14-22
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    今日,とくに英米を中心としたいくつかの先進資本主義諸国では,既存の福祉国家体制の,大規模な再編成のプロセスのなかで,貧困問題をめぐる社会的な構図が大きく書き換えられつつある。その背景には,貧困の問題を,一般労働者階級の失業や低賃金の問題と,あるいは一般市民が被っている社会的・経済的剥奪の問題と結びつけて把握するのではなく,一般社会とは切り離された「アンダークラス」の構成員が抱える個人的・集団的属性の問題として把握する考え方が存在している。本稿では,こうした「アンダークラス」に言及する,あるいはそれと深くかかわるいくつかの議論の検討を通じて,現代福祉国家における「貧困」をめぐる問題構成の変容の一側面を浮き彫りにしたい。こうした作業は,とくに英米の「ワークフェア」政策から多くを吸収しようとしているわが国の福祉政策の展開を占う意味でも,極めて重要な意義をもつように思われる。
  • 菊地 英明
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 23-32
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    生活保護は経済的困窮に陥った理由を問わず,無差別平等に給付を与える制度とされる。しかし現実には受給者の道徳性を基準にして,行政が裁量権を用いて特定の者を優遇し,別の者を排除する歴史が繰り返されてきた。本稿では,その最たる例である「母子世帯」(父-夫がいないことによる経済的弱者)への処遇について検討する。占領期には戦争未亡人-死別母子世帯への戦後補償が重視され,そのなかで「必要即応の原則」を明文化し,行政裁量を拡大することによって処遇を充実してきた。これに対し1970年代以降離別母子世帯が急増すると,拠出・貢献なしに給付されることによるスティグマが付与されるとともに,家族規範からの逸脱者であるとして行政裁量による排除の対象となった。現在のホームレスに対する道徳的選別による排除も,この行政裁量から生じており,その運用の恣意性について問題提起することも本稿の1つの目的である。
  • 才村 眞理
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 33-45
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,児童虐待防止法施行3年後の見直しに向けて,児童虐待防止における,児童相談所を中心とする自治体ソーシャルワークに関して法制度,システムについての提案を行った。具体的には,児童相談所は子どもの権利擁護機関に特化すべきこと,児童福祉司の質,量ともに改善すること,ネットワーク指導の創設,また,裁判所の親子再統合を視野に入れた関与による援助の枠組み,および子どもや親へのアドヴォケイトの創設について提案した。わが国において児童虐待防止の中心機関は児童相談所であり,児童虐待の調査,診断,子どもの保護,法手続き,親子への心のケア,親子再構築等すべての援助が一点集中し,応じきれない状況である。また,親子分離が必要であるが親がそれに同意しない場合,強制的行政介入により親と児童相談所は対立関係となるため,その後の親への援助は困難を極めている。家族へ公権力でもって介入する場合,専門性の高いソーシャルワークが確保される必要がある。
  • 大原 美知子
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 46-57
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    首都圏在住で満6歳以下の幼児をもつ母親1,538人を対象に,自記式アンケート調査を行った。調査内容は母親による子どもへの不適切な育児行為とその頻度,家族環境(FES),産後抑うつ(EPDS),解離傾向,母性意識,母親が認知しているサポートなど多面的な質問を行い,虐待行動のリスクファクターを検討した。虐待行動と諸項目を重回帰分析で解析したところ,子どもの数(育児負担)・解離傾向・気の合わない子どもがいる(子どもに対する不適切な認知)・葛藤性(家族内の暴力傾向)・母性意識否定感(母親の低い自己評価)などが虐待行動の要因として選択された。これらのリスクファクターの査定は,援助者が虐待ハイリスク家族や子どもを発見するのを容易にし,虐待の防止と適切な治療的介入を促進する可能性を有している。
  • 加茂 陽, 前田 佳代
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 58-69
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    この論文では,児童養護施設で生活する児童の問題行動を処遇するための有効な援助法を提示することを目指している。この新しいグループワークともいえる処遇法は,ノーマライゼーションの思想とソリューション・フォーカスト・アプローチの技法から構成されるものである。最初に,常習的に盗みを行う児童の問題行動への介入を目指す問題解決アプローチの諸技法の有用性が,問題パターンのトラッキング,例外事象の探索,そしてスケイリングの技法を中心に吟味される。そして,問題行動パターンを分析するトラッキング法の有用性が強調される。トラッキング法によって,施設内でのこの児童と職員との間での矛盾増幅過程を分析したあと,例外事象の探索,リフレイミング,そしてスケイリング質問法などの技法の使用例が具体的に示され,ソーシャルワーカーの問題解決過程が明らかにされる。
  • 伊藤 嘉余子
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 70-81
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,「子どもへの援助の質的向上」という視点から,施設職員の職場環境を検証することを目的として,全国554か所の児童養護施設の児童指導員と保育士を対象に,施設の職場環境の実態と職員のストレス認知および対処方法,職場環境改善への要望に関する意識調査を実施した。その結果,職員が施設で働くなかで感じる過度の不満や負担感,ストレスとそれに対する対処方法,ストレスを感じないために講じている予防策について明らかになった。調査結果を踏まえて,今後,施設職員のストレスを軽減し,職員が子どもに対して常に適切なケアを提供していくために必要な職場環境の改善点として,(1)施設職員の労働条件の改善,(2)施設内スーパービジョン体制の充実,が挙げられた。
  • 楠永 敏惠, 山崎 喜比古
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 82-92
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,介護老人保健施設(以下,老健施設)に入所した高齢者の経験をとらえることを目的としており,具体的には,老健施設に対する満足と不満の内容と特性,不満への対処のしかたとその理由を検討した。調査の対象者は都内の3つの老健施設に入所している高齢者31人であり,参与観察とインタビューを行い分析した。対象者の老健施設への満足は,過去の経験と比べて肯定的な意味を見いだせる生活が得られたことによるものと考えられた。同時に対象者は不満をもっており,その内容は,身体的,生理的ニーズが充足されない,生活習慣の断絶,他人との不愉快な接触に要約された。これらの不満は施設側に必ずしも把握されておらず,あきらめる,避ける,個人内で解消するという「消極的対処」がなされていた。その理由としては,(1)不満の原因となる事態を容易に改善できないと対象者が認識していたため,(2)入所が一時的であったため,(3)満足できる点があったためと考察された。
  • 近藤 勉, 鎌田 次郎
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 93-101
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    高齢者の精神生活に影響する生きがい感とは何なのか。またそれを測るスケールはどうあるべきか,驚くべきことに老年心理学はいまだにこれにこたえられていない。アメリカでつくられた他の概念を測るスケールを代用してきたのが現状である。そこでわが国の高齢者の生きがい感を調査し,その結果を基に生きがい感スケールを作成し,生きがい感を操作的に定義することを目的とした。まず162人の高齢者から生きがい感の範囲を定める概念調査を行い,仮の定義を作成した。さらにその仮の定義に基づいて項目を作成選定し,391人のセンター高齢者に対し本調査を行い,項目分析の結果,16項目によるスケールを作成した。そのスケールは信頼性と妥当性が高いスケールであることが分かった。このスケールの構造から高齢者の生きがい感を定義すると,なにごとにも目的をもって意欲的であり,人の役に立つ存在との自覚をもって生きていく張り合い意識である。また,なにか向上した,人に認めてもらっていると思えるときにも感じられる意識といえる。
  • 坪内 千明
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 102-112
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,実習教育における実習後のグループによる学生の省察を促す指導を,質的研究方法論のグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて理論化することを目的としている。データの収集は,A大学の教員ひとりと学生14〜20人で構成された2つのグループの1年間の全授業に参加し,主に参与観察によって行った。今回の研究では,そのうちの事後学習に関するデータを分析した。その結果,「個との向き合い」「グループ活用」「省察のためのリード」「己への向き合わせ」という4つのカテゴリーを生成し,事後指導全体の構造を明らかにした。本分析により,実習教育における実習体験の省察を促す指導プロセスの1つの例が提示され,また,教員と学生の1対1による個別指導では得られないグループの相互作用による学習効果が示唆された。また,トロント大学のマリオン・ボーゴが,実習教育において理論と実践を結びつけるためのスーパービジョンで採用したループモデル理論の「回想」「内省」「連結」「専門家的対応」の一連の展開との比較を可能にした。
  • 木立 正敏
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 113-124
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,高等学校の授業における知的ハンディキャップをもつ人と出会う学習での学習者の意識変容を,質的な評価を試みながら解明しようとした探索的研究である。事例研究の結果,以下のことが探索的知見として明らかにされた。知的ハンディキャップをもつ人と出会う学習は,学習者にこの人たちと学習者自身への多くの気づきをもたらし,共生的信念の形成を促進する可能性がある。一方で,この学習は,社会ダーウィニズム的信念をもつ学習者などの拒絶や拒否を引き起こす可能性があり,その要因の解明が今後の課題である。社会ダーウィニズム的信念の変容には,学習者が自己の認識枠組みを意識化し,自己形成の歩みを検証し,自らの抑圧された感情を自分のものとして生き,自己形成の物語を語り直すことによって,共生的信念に自ら至るという過程が必要であると考えられる。
  • 高田 明子
    原稿種別: 本文
    2003 年 43 巻 2 号 p. 125-136
    発行日: 2003/03/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    中途視覚障害者における白杖携行の意識と実態の把握を目的に,国立S病院ロービジョンクリニック患者会161人を対象に,郵送アンケート調査を実施した(回収率57.8%)。結果は,回答者の51.1%が白杖不携行であった(身障手帳1,2級の重度障害者の40.8%,歩行訓練士4人が必要と判断した者の33.3%)。白杖携行には,当事者意識,歩行訓練,視力(いずれもp<.001),身障手帳等級(p<.01),年齢(p<.05)が有意に関連していた。白杖支給時に福祉窓口で白杖の役割や歩行訓練の情報提供を受けた者は5.4%と少なかった。中途視覚障害者は,白杖に対し「障害を開示する」「他者の視線を集める」「あまり役に立たない」など抵抗感が強かった。そのために,白杖携行を意思決定するまでに,視機能の低下や移動の危険を認識後も,長い期間,さまざまな葛藤や苦悩を繰り返していた。これら当事者の実情から,白杖携行を促進するような福祉的支援の必要性が示唆された。
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