この研究は,親の介助で親と暮らす脳性麻痺者が,ひとり暮らしとしての自立生活を実現する過程を,本人の変化を中心に,社会福祉の支援やその他要素も関連づけて示すことを意図している.そのために,Aさんという女性に絞り,その軌跡を質的研究で明らかにした.この論文では,Aさんのひとり暮らしの過程のなかの最初である,「母との闘い」の過程を描いている.この過程でAさんが成し遂げ,ひとり暮らし実現に重要な意味をもったのぱ,母が反対していた介助者の家庭への定期導入について,母との力関係を逆転させ,これを実現したことであった.これは,Aさんの母や施設職員や施設内外の他の障害者などと相互作用するなかで進展した,Aさんの状況の極まりによって可能になっていた.また,後にAさんがひとり暮らしを選択する背景である,(1)親の介助機能消失時の将来生活の不安,(2)アイデンティティ模索が,このころから萌芽していたことも明らかになった.
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