社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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49 巻, 2 号
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  • 中村 剛
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 3-16
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    「仕方ない」とみなされていることが,実は不正義なのではないか.このような問題意識の下,本稿では,「仕方ない」と思われ見放されている人がいる現実と,すべての"ひとり"の福祉を保障しようとする理念とのギャップを埋めるために要請されるものとして社会福祉における正義をとらえ,その内容を明らかにしている.最初に,正義の概念と社会福祉の理念を確認したうえで,社会福祉研究において正義を論じる理由を確認する.次に「仕方ない」という現実了解に抗するために,他の可能性へと思考を開こうとするデリダの哲学と,不正義の経験という観点から正義論を展開するシュクラーの正義論を取り上げる.そして,この2つの観点から導かれる倫理的正義と政治的正義を提示する・結論として,社会福祉における正義を倫理的正義と政治的正義から構成される倫理的政治的正義と位置づけ,その内容を(1)意味,(2)構想,(3)合意される理由という観点から記述している.
  • 野田 博也
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 17-29
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,「劣等処遇」に関連するBenthamの見解を踏まえ,その見解から通説となった「劣等処遇」を再考することである.Benthamは,功利原理を実現するために生存の確保を重要な目的とし,その目的を果たすために法による救済の必要性を主張していた.1834年救貧法王立委員会報告に規定された「劣等処遇」は,法による救済の必要性と表裏一体の原則として示された,救済の制約に関わる原則であった.また,その制約の原則を実行するために,Benthamは生活に必要な財物と快適性を基本的な視点として提示していた.改めて1834年報告をみると,Benthamの見解(その言い回しや論理)と類似する記述は同報告のなかにも確認できた.そして,「劣等処遇」を命名したWebb夫妻の見解とBenthamの見解を比較することによって,給付水準と救済方法の両面に共通点と相違点があることを明らかにし,もうひとつの「劣等処遇」を指摘した.
  • 趙 没名
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 30-43
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    日本における療育施設の法制化は,1947年の児童福祉法の制定によって初めて実現された.同法の制定過程において高木憲次の療育論が大きく寄与したこと,そしてその療育論の構築に高木がドイツのプロイセン州『公的肢体不自由者福祉法』および同法施行令を参考にしたことは,先行研究ではすでに言及されている.しかし,同法の具体像,全体像はまだ解明されていない.本論文では,プロイセン州『公的肢体不自由者福祉法』および同法施行令における肢体不自由児療育制度の具体像を明らかにするとともに,公的肢体不自由者福祉法および同法施行令とそこから高木が抽出したものの両者の比較検討を通じて,高木の療育論の理論的根拠の主要素が同法にあったこと,そして高木の受容は,批判的継承であったが,医療中心であるという結論に至った.
  • 山本 浩史
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 44-57
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    石井十次が岡山孤児院を設立するまでと,設立後における実践の背景には,さまざまな思想や人物からの影響があった・救世軍の創設者であるウィリアム・ブースもそのひとりである.この関係を研究したものには,石井がブースに影響を受け,東洋救世軍を創設したことに着目した研究はあるが,本論文のように「廃民」「殖民」を取り上げ,これに焦点をあてた研究はなされていない.そこで本論文の目的は,石井にブースの救貧策がどのような影響を与え,石井の内面において「廃民」と「殖民」観念が成立したのかについて考察することにある.そして,その先にある天国化についても触れておきたい.
  • 堀内 浩美
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 58-70
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,知的障害児施設から地域へ移行した中軽度知的障害児の事例から,知的障害児施設における地域移行支援とはなにか,具体的支援内容とプロセスを明らかにすることを目的とした.まず4事例の分析を行い,支援プロセスにおいてはADLや生活スキルの習得といった教育的・指導的支援とともに,移行に向けた動機づけや現実的な選択肢の提示等の心理的側面への支援が多く行われていることを明らかにした.そのうえで,これらの事例に関わった支援者6人にインタビュー調査を行った.その結果, 9つのコードが導き出され,(1)〔支援者の思い〕,(2)〔支援者の思いと児童の相互作用〕,(3)〔具体的支援の展開〕,の3つのカテゴリーに分けられた.これらのカテゴリーの相互作用により,本人の意思と支援者の思い,児童を取り巻く状況等を総合的に判断し,実体験の保障や個別的関わりを通して,ていねいに本人へフィードバックしていこうとする支援プロセスが示された.
  • 青木 邦男
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 71-84
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    在宅高齢者842人(男性362人,女性480人)を分析対象者として,在宅高齢者のQOL,ADL,運動実施状況および健康度等を調査し,その関連性を共分散構造分析を用いて分析した結果,以下のことが明らかになった.(1)健康度からQOLへのパスは男性で0.74(p<0.001),女性で0.62(p<0.001)の有意な正のパスを示した.(2)健康度に対しては男女ともにADL(男性0.44;p<0.001,女性0.35 ;p<0.001)と運動実施状況(男性0.63;p<0.001,女性0.67;p<0.001)が有意な正のパスを示し,疾病状況(男性-0.21;p<0.001,女性-0.30;p<0.001)が有意な負のパスを示した.(3)ADLに対しては男女ともに運動実施状況(男性0.43;p<0.001,女性0.46;p<0.001)が有意な正のパスを示し,年齢(男性-0.48;p<0.001,女性-0.45;p<0.001)および疾病状況(男性-0.29;p<0.001,女性-0.21;p<0.001)が有意な負のパスを示した.(4)次に,運動実施状況に対しては男女ともに年齢(男性-0.22;p<0.001,女性-0.12;p<0.01)と自覚的運動阻害要因(男性-0.17;p<0.001,女性-0.09;p<0.05)が有意な負のパスを示し,自覚的運動促進要因(男性0.17;p<0.001,女性0.19;p<0.001),運動自己効力感(男性0.70;p<0.001,女性0.78;p<0.001)および運動ソーシャル・サポート(男性0.15;p<0.001,女性0.14;p<0.001)が有意な正のパスを示した.すなわち,運動を実施・継続することや高いADLは健康度を高め,健康度の高さはQOL を高めていた・運動実施状況はADLを介して間接的にも,また直接的に健康度に対しても強い影響を及ぼしていた.したがって,在宅高齢者に適度な運動を実施し継続させる施策や機会の提供が重要であろう.特に,高齢者側の運動自己効力感を高めるための施策や具体的な運動プログラムと指導がまず求められる.
  • 張 允禎, 黒田 研二
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 85-96
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,ユニットケアを実施しているかどうかによって特別養護老人ホームを2群(ユニットケア型,従来型)に分け,さらに,ユニットケアを実施している施設をその導入後の期間別に分け,介護業務および介護環境に対する職員の意識を比較することで,ユニットケアの導入が,施設ケアの質の向上を図る有効な方策のひとつであるかどうかを検証することを目的とした.調査は,大阪府に所在する特別養護老人ホームの介護職員3,919人(101施設)を対象とし,2,859人から回答を得た.分析の結果,ユニットケアを導入することによって,施設では介護業務・介護環境の改善が図られることが示唆された.しかし,介護業務および介護環境は,ユニットケアの導入後,期間を経て改善することがうかがえた.特に,介護否定感(バーンアウト)に関しては,ユニットケアを導入した直後は増加するが,期間を経て低減する可能性が示唆された.以上より,ユニットケアの導入は施設ケアの質を向上させるための有効な方策のひとつであるといえるが,ユニットケアを導入して,短期間に円滑な運営を定着させることが,介護現場が抱えている課題と思われる.
  • 藤野 好美
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 97-110
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は養護老人ホームの女性入所者に対して行われた「老い」と「日常生活」についてのインタビューを基に, 老い」の当事者である彼女たちにとっての「老い」の世界と彼女らに対する支援やケアの課題を明らかにすることである.A県B市のC養護老人ホームにおいて,10人の女性の入所者に半構造化インタビューを行いデータとし分析した.その結果,彼女らにとって「老い」は,自然なことでいろいろな思いを伴うものであった.そして,心身の衰えや困ることがあり,またそこから発生する不安や葛藤ももっていた.養護老人ホームでの生活は人間関係の難しさはあるが安心感があり,それぞれ楽しく健康にすごせるよう工夫や努力が見受けられた.そのようななかで,養護老人ホームが環境的支援として機能していることがうかがえた.以上のことから,養護老人ホーム女性入所者における「老い」の構造と,それに対して養護老人ホームが機能している人的・物的要因で構成される環境的支援の重要性が示唆された.
  • 保科 寧子, 奥野 英子
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 111-122
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,高齢者を対象として対話や交流を行うボランティア活動(以下,話し相手ボランティア活動)が,在宅高齢者に対してどのような機能および役割を担っているかを明らかにすることを目的としている.研究方法は,話し相手ボランティアを利用した高齢者の15事例を,質的研究方法における要約的内容分析とKJ法を用いて分析した・その結果,(1)情緒的サポート機能,(2)見守り・安否確認機能,(3)閉じこもり防止機能,(4)生活意欲の向上機能,(5)介護保険サービスの一部代替機能,という支援を提供していることが示された.ボランティア活用にあたっては課題や問題も生じていたが,ボランティア活動者を支援し,地域の福祉関係者が話し相手ボランティアを活用しやすいシステムを構築することにより,し相手ボランティアは高齢者支援のサービスとして活用できると考えられる.
  • 山口 麻衣, 冷水 豊, 石川 久展
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 123-134
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,フォーマルケア(FC)とインフォーマルケア(IC)の組み合わせに対する地域高齢住民の選好の関連要因を,地域特性,ジェンダー,ケア規範の影響を中心に分析することである.60〜74歳の有子者614人を対象に,4種類のケア内容(身体ケア,生活援助,相談,声かけ)別のFC/IC組み合わせ選好の回答を「FC中心」「FCとIC半々」「IC中心」に3分類し,地域特性,ジェンダー,ケア規範の影響を分析した.分析の結果,(1)ケア内容により関連要因が異なること,(2)地域特性が影響し,新興住宅地域居住者は旧住宅地域居住者と比し,生活援助,声かけ,相談の「FC中心」の回答のオッズ比が有意に高まること,(3)近/同居の娘がいないことやケア規範が弱いことがすべてのケア内容の「FC中心」の回答のオッズ比を有意に高めることが分かった.地方小都市での分析であるが,地域特性,ジェンダー,ケア規範を含めたFC/IC組み合わせ選好の要因分析モデルの有効性が示された.
  • 鈴木 弥生, 佐藤 一彦
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 135-149
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本稿は,日本ODAによるモデル農村開発計画が,クミッラ県ダウドゥカンディ郡の貧困層の生活に及ぼした影響について検討している.このために,われわれは1999〜2008年までの間,先行研究の収集と現地での聞き取り調査を行っている.調査対象の貧困層が居住している行政村には,地元の既得権益者がモデル農村開発計画を誘致している.また,郡内の既得権益者である郡中央協同組合のメンバーが,このプログラムに関わっている.このプログラムでは,コミラモデルの実験にならって,近代農法を奨励した.その成果は,乾季に限って多収穫新品種ポロ稲の生産量を増やしたことである.しかし,近代農法は灌漑用ポンプと大量の用水,多くの化学肥料と農薬を使用するため,農民にかなりのコスト負担がかかる.かりに,農地を所有していないとか,それらのコストを支払うことができないとすれば,モデル農村開発計画に参加することはできない.実際にも,農業生産の機械化により,日傭の農業労働者は仕事を奪われている.また,多収穫新品種米の生産は乾季に集中しているため,雨季に行われる在来種米の作付面積は激減している.その結果,多くの貧困層は,雨季に雇用機会を失っている.そのうえ,雨季は,農作物の価格が上昇し,食料購入のために借金をせざるを得ない人々が多くいる.こうした状況をみるにつけ,われわれの調査では,貧困層へのトリックル・ダウン効果を確認できなかった.したがって,この地域では大量の失業者や不安定就業者が増大し,貧困問題は依然未解決の問題として残されている.
  • 隅田 好美
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 150-162
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    目的;ALS患者,家族,専門職が考えている問題点や,患者が求めている支援と家族や専門職が必要と考えている支援の〈認識のズレ〉を体系的にとらえ,専門職としての支援を検討する.研究方法;6組のALS患者・家族とその専門職への聞き取り調査から,〈認識のズレ〉について分析した.結果・考察;患者・家族・専門職の間には,〈立場の違い〉〈知識の違い〉〈支援する時期と支援を受け入れる時期の違い〉から生じた〈認識のズレ〉があった.そこから〈痛いや障害の捉え方の違い〉〈問題把握の違い〉〈情報の捉え方の違い〉などの〈認識のズレ〉が生じた.また,患者や家族は〈現在の視点〉で,専門職は〈将来の視点〉で考える〈認識のズレ〉があった.〈認識のズレ〉に配慮し,適切な時期に適切な医学的情報や療養生活に関する情報を提供し,患者の「説明モデル」に寄り添った支援をすることで,〈認識が一致〉する可能性が高くなる.
  • 柳沢 君夫
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 163-175
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    脳血管障害による高次脳機能障害の疑いをもつBさん(男性:45歳)は,X区A施設で自立訓練を受けていた.就労を希望する利用者Bさんに対して,本人の意思を尊重しながら,就労に向けた個別支援計画の作成とそれに沿った支援を家族,ケースワーカーと連携しながら,2006年8月〜2007年1月まで実施し,民間のC印刷所(適所授産施設)に適所がなされた.その後の1年間のフォローを実施し,IT関連企業就労に至った.この結果,Bさんの支援が一定の効果があったと推測される.その効果の要因として,就労情報の提供や,家族と他機関の連携などが挙げられた.さらにBさんの心理面での変化と自身の健康管理がなされ,他の利用者の就労意欲にも影響を与えていることが認められた.今後,高次脳機能障害者の就労を進めるには,就労後のフォローアップ,この障害の理解促進と,授産施設利用料の軽減や免除と,支援者の専門性向上が必要であることが示された.
  • 武田 知樹, 波多野 義郎
    原稿種別: 本文
    2008 年49 巻2 号 p. 176-190
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,在宅脳卒中患者のQOL関連因子について包括的に明らかにすることで,そのソーシャルサポート(対人交流を伴う社会的支援)のあり方を検討した.対象は大分県内の医療・福祉施設を利用した在宅脳卒中患者108人であった.調査では,厚生省研究班の業績に基づく「心理的QOL指標」と,その関連が予想される年齢や性別等の人口統計学的データ,医学的データ,日常生活自立度,社会的支援および交流等の計27項目を質問紙法にて調査した.結果,心理的QOLの関連因子として,抑うつ,手段的日常生活動作(IADL),ソーシャルサポート(対人交流を伴う社会的支援)等が確認された.つまり,福祉サービス機関における社会的支援のあり方としては,医療機関との連携による適切な抑うつ治療に加えて,患者会などの対人交流の場づくりや自立支援に向けた介護保険サービス等の利用を通じて,知的能動性の向上や社会的役割の維持を図っていくことが重要であることが示唆された.
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