社会福祉学
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57 巻, 4 号
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論文
  • 篠原 拓也
    2017 年 57 巻 4 号 p. 1-13
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    わが国の社会福祉学において人権は重要な意味を持つとされてきたが,人権論として主題化され,体系化されてきたとはいいがたい.本稿では社会福祉学における人権観の特徴と学問的位置を見定めることを試みた.社会福祉学における人権観の人権論における位置づけとしてはまずもって超実定法レベルの人権のうち「理念としての人権」にある.社会福祉学の人権の総論的な方向性は,わが国の一般的な人権感覚との親和性のなかで「福祉の理念としての人権」として充実させていくところにある.

  • 三宅 雄大
    2017 年 57 巻 4 号 p. 14-27
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,(1)生活保護を利用する有子世帯の養育者が「自立」を「どのように」解釈しているのかを分析すること,そして,(2)かれらが特定の「自立」の解釈を採る「理由」を説明することである.以上の研究目的を追究するにあたって,本稿では,首都圏A市B福祉事務所で生活保護を利用する有子世帯の養育者(14世帯16名)に対するインタビュー調査の結果を分析している.本稿の分析からは,以下に示す結論が導出された.すなわち,利用世帯の養育者は,(1)制度利用に対する権利意識が希薄であり,なおかつ,他者による「貶価のまなざし」を差し向けられていたため「生活保護制度の利用=依存」を「のぞましくない」状態と捉えていたこと,(2)それゆえに,かれらは,「自立」を「経済的自立(保護廃止)」として,なおかつ,「のぞましい」「目標」として解釈していたこと,以上である.

  • 髙阪 悌雄
    2017 年 57 巻 4 号 p. 28-42
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    1985年,幼い頃からの障害者に給付されていた障害福祉年金が障害基礎年金に統合され,無拠出と拠出に同額の障害年金が支給されることとなった.財政支出削減の目的で積極的な行政改革が行われていた時期,保険の原則を超えた障害福祉年金の増額が行われた背景を,東京青い芝の会の機関誌,当事者運動活動家の白石清春への聞き取り,国会議事録,年金局長山口新一郎の評伝などに基づき明らかにすることが本稿の目的である.結論として,本稿では4点のことが明らかになった.(1)当事者参加の研究会や障害者団体の要求が障害者所得保障改善の内容を含む障害者計画策定につながった.(2)障害者団体の政府・行政への柔軟な対応により,行政と共同で所得保障に関わる政策を作り上げることができた.(3)年金局長であった山口新一郎の貢献があった.(4)家と施設から離れ所得保障を求めた脳性マヒ者達の主張に強い説得力があった.保険の原則を超えた新たな所得保障制度誕生の背景には,国際障害者年という時代の下,障害者団体と行政官僚の力強い動きがあった.

  • 任 貞美
    2017 年 57 巻 4 号 p. 43-57
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,虐待の概念を解明するとともに,虐待的行為のレベルを区分しうる虐待の概念枠組みを構築することである.そのため,ICFモデルに虐待の構成要素を加え,事例分析を通して枠組みの適用可能性を検討した.その結果,概念枠組みの各構成要素の組み合わせから「虐待」「準虐待」「不適切なケア」という三つのレベルの虐待的行為とその概念的違いが明らかになった.上記の結果から,高齢者虐待を予防し尊厳のある生活を支えるためには,虐待的行為のレベルや特性を意識し,それぞれの虐待的行為に合わせた支援を実施すべきであることが示唆された.

  • 孟 浚鎬, 黒木 保博, 中嶋 和夫
    2017 年 57 巻 4 号 p. 58-70
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,高齢者の自殺予防への指針を得ることをねらいに,日韓における高齢者の日常生活ストレス認知と自殺念慮の関連性を明らかにすることを目的とした.調査は,日本のA市の3団体に所属する65歳以上の在宅高齢者と韓国のB市の総合社会福祉館と老人福祉館を利用している65歳以上の在宅高齢者を対象とした.調査内容は,日韓ともに対象者の個人属性,高齢者の日常生活ストレス認知,自殺念慮とした.統計解析には,日本の208名ならびに韓国の316名のデータを使用し,構造方程式モデリングにより高齢者の日常生活ストレス認知と自殺念慮の関連性を検討した.その結果,日本における因果関係モデルのデータへの適合度はCFIが0.968,RMSEAが0.048,韓国はCFIが0.963,RMSEAが0.053であり,統計学的に有意な関連性を示した.本研究の結果から,高齢者の自殺予防において日常生活ストレスと自殺念慮への介入が必要なことが示唆され,考察ではその方策について議論した.

  • 久松 信夫
    2017 年 57 巻 4 号 p. 71-84
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,地域包括支援センター社会福祉士の認知症高齢者支援における代弁プロセスを明らかにすることである.9人の社会福祉士にインタビュー調査を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を実施した.分析の結果,認知症高齢者の代弁プロセスは,〈意思の推察〉を中核としてそれを強化する様相と〈代弁のタイミングと環境整備〉を行う代弁前段階である.次に代弁段階として〈推察した意思の代弁〉に至る.一方で〈ジレンマによる代弁の一時停止〉の場合もある.さらに,〈代弁後の吟味と安定的関わり〉を中核とした代弁後段階に至る.各段階における中核的概念内では“代弁”をめぐり社会福祉士が活発に活動している状況下にあった.また,認知症高齢者支援におけるある代弁プロセスはいったん終了しても,認知症の進行や時間的経過によりいつでも代弁プロセスが再開できるよう,代弁前段階の取り組みを継続することが肝要である.

  • 野澤 義隆
    2017 年 57 巻 4 号 p. 85-96
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,ホームスタートによる支援が利用者の満足度に与える影響を検討した.その際,有償支援との比較により明らかにし,各家庭訪問型子育て支援の支援内容の違いや特徴を検討した.目的達成のために,有償支援利用者とホームスタート利用者を対象とした質問紙調査を実施した.有償支援利用者は78件,ホームスタート利用者は112件の回答を得た.その結果,本研究では,(1)非専門家による家庭訪問型子育て支援は,傾聴が重要な支援内容であることが示唆された.(2)ホームスタートの傾聴や協働は,有償支援よりも支援の頻度が高く,特に協働において顕著に見られた.それら活動は,利用者満足度を充足させていることから利用者のニーズに適切に応えていた.つまりホームスタートの支援は,一緒に家事・育児活動を行うことや,金銭的負担や時間をかけずに利用者の満足度が得られることが強みである.それは傾聴や協働によって成り立つことが示唆された.

  • 上野山 裕士
    2017 年 57 巻 4 号 p. 97-108
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本論では,中山間地域での住民生活を事例として,小地域福祉活動の展開における新たなつながりの有用性について検討した.

    紀美野町A地区では,地域の大部分が山間部という地理的条件のなか,多様な形態の交流と地域に関わる専門職等による声かけ・見守り活動により,地域住民の生活支援体制を構築している.さらに,同地区における活動には多様な外部人材も関わっており,かつて農山漁村においてみられた閉鎖性,保守性を伴うつながりとは性質の異なる,新たなつながりが構築されつつある.

    事例の分析を通じ,小地域福祉活動の目標である地域の課題解決のためには,地域における内部結束を強めるつながりと,開放性,革新性を伴う外部とのつながりが有効であることが明らかとなった.これらのつながりの有用性は,中山間地域のみならず,都市部における課題解決に対しても示唆を与えるものである.

  • 谷 太一
    2017 年 57 巻 4 号 p. 109-120
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    イギリスの媒介的労働市場プログラム(ILM)はほかの就労支援策と比べて,プログラム終了後の就職率や職場での定着率は高いとされている.しかしILMはニューディールにおいてどのように位置づけられ,どのように変遷したのかについて,これまで考察は行われていない.この問題の解決のために,イギリスの下院議会が有益な一次資料を豊富に提供している.ニューディールの開始時には,ニューディールにILMが取り込まれる仕組みは,備えられていた.しかしニューディールの進展とともに,イギリス政府はILMのデマンドサイドである雇用創出面をリスクと捉えるようになった.早くも1999年には,政府はILMに対してアンビバレントな態度を取り始めたと指摘されている.その後,景気の回復に伴い政府のILMへの関心は低下していった.日本においてもILM型の就労支援策の取り入れを検討する際,イギリスのILMの経験から学ぶことは多い.

調査報告
  • 川嶋 賢治
    2017 年 57 巻 4 号 p. 121-132
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    東日本大震災で被災した神経発達障害児・者の身体的・心理的変化や症状の悪化,子どもに対する養育者の認知・感情,地域の人々の障害理解およびサポートの関連性について検討を行うため,面接調査を実施した.対象は,被災地A県に住む神経発達障害児・者の養育者22名(すべて女性)であった.面接内容を分類した結果,子どもの「身体的・心理的変化,症状の悪化」9カテゴリー,養育者の「認知」4カテゴリーと「感情」5カテゴリー,地域の人々の「障害理解」4カテゴリーと「サポート」4カテゴリーを生成した.その後,数量化Ⅲ類による分析を実施した結果,被災以降の避難生活では,神経発達障害児・者とその養育者の二者間だけでなく,地域の人々も含めた力動関係が生じていたと考えられた.このことから,被災以降の生活では地域の人々に対し障害理解を促進することが重要であり,そのためにも平時から関係性を築くことが大切であると推測された.

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