社会福祉学
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57 巻, 1 号
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論文
  • 末田 邦子
    2016 年 57 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,日本における精神衛生相談事業の成立過程において,戦前の精神衛生関連団体にどのような動きがあったのかを明らかにし,精神衛生相談事業に求められた機能を考察することである.研究の対象期間は,日本で初めての精神病者対策法として精神病者監護法が制定された1900年から,1945年の第二次世界大戦終戦までと定め,精神衛生関連団体発行の機関誌を中心に分析した.

    本研究の結論は以下の2点である.①精神衛生相談事業に求める機能は,精神病者への「一切の相談を引き受ける」「保健指導乃至社会教育機関」機能と,「社会的動機」から発せられる優生思想を背景に,精神疾患発生の防止に向けた「予防」を重視する機能の二つがあり,前者は相談事業として,欧米の知見をもとに,一部の精神科医により数年間展開された.②精神衛生相談事業の議論の展開は,精神衛生関連団体から政策側に反映され,政策で「予防」が積極的に論じられたのみでなく,社会事業関係者も政策の「予防機能」に追従する動きを見せていた.

  • 宗 健
    2016 年 57 巻 1 号 p. 15-29
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,社会保障審議会での住宅扶助に関する議論と住宅扶助費引き下げに反対する意見があるなか,生活保護受給世帯の住宅扶助の現状について一定の客観的分析結果を提示し,議論に資することを目的としたものである.

    民間の不動産情報サイトおよび家賃債務保証会社のデータを用いた分析では,以下のような結果が得られた.1)住宅扶助費は基準額近辺に集中している.2)生活保護受給者は住居選択時に基準額に強い影響を受ける.3)年収300万円未満の世帯と比較して生活保護世帯の居住水準はやや劣っている.4)地域別の募集家賃の件数分布と住宅扶助基準額の関係は地域によって異なる.5)生活保護世帯の家賃はそうでない世帯に比べて統計的に有意に高い地域が存在する.

    住宅扶助費の見直しとは一律の引き下げを意味するものではなく,客観的事実に基づいて適正な水準を定めることである.同時に住宅セーフティネット全般の制度を再構築する必要がある.

  • 伊藤 嘉余子
    2016 年 57 巻 1 号 p. 30-41
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,里親が里親支援機関(児童相談所・里親会・民間支援機関・里子の出身施設)に対してどのような支援ニーズをもっているかを明らかにしたうえで,今後の里親支援体制のあり方について考察することである.そのために,本研究では里親を対象に実施したアンケート調査のテキストデータの分析を行った.テキストマイニングと内容分析を行った結果,多くの里親が,民間支援機関への高い相談ニーズを有していることが明らかになるとともに,里親は相談内容やニーズに応じて,児童相談所,里親会,民間支援機関,里子の出身施設等の里親支援機関を使い分けていることが明らかになった.また,里子の出身施設と里親との連携・交流が少ない現状にあることが示唆されたことから,新たに施設に配置された里親支援専門相談員の役割を明確化することは今後の課題の一つといえる.

  • 橋本 力
    2016 年 57 巻 1 号 p. 42-57
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,介護支援専門員が要援護高齢者の支援時に,家族と協働し,家族から支援の協力を得るにあたって,どのようなプロセスを経ていくことが必要となるのか,またその各プロセスにおいてどのような関わりが求められるのかを明らかにすることである.本研究では,9名の介護支援専門員を対象に,面接調査を実施した.分析方法は,定性的(質的)コーディングを用いた.

    分析の結果,介護支援専門員が家族から支援の協力を得る際には,①アセスメントの際の情報把握,②ケアプランの作成,③モニタリング,また,④ケアカンファレンスといったそれぞれのケアマネジメント実践過程において,家族への関わりについて配慮を行っていることが明らかになった.また,家族からの支援の協力を得るにあたっては,ケアマネジメント実践の各過程での関わりに加え,家族への支援および家族との信頼関係の形成も重要な取り組みであることが示唆された.

  • 伊藤 美智予, 近藤 克則, 中村 裕子
    2016 年 57 巻 1 号 p. 58-70
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,既存の要介護認定データから作成可能な要介護度維持改善率などの三つの指標が,特別養護老人ホームのケアの質を捉えているか,その基準関連妥当性をブラインドスタディによって検証することである.

    A県内B圏域にある特養6 カ所を対象とした.評価指標による評価結果と,その評価結果を知らない調査員3 名が訪問調査によりケアプロセスを評価した結果が,どの程度の相関を示すのか順位相関分析を行った.

    死亡・入院(推定)を含めたデータで分析した結果,要介護度維持改善率は「食事」,「機能訓練」,「相対評価」などの評価項目と強い正の相関(ρ=0.78~0.99)がみられた.食事摂取機能維持改善率は3項目と有意な相関(ρ=0.90~0.97)があったが,排泄機能維持改善率は有意な相関はみられなかった.

    要介護度維持改善率は,包括的なケアの質を捉えている可能性が示唆された.知見の再現性の検証やほかの評価指標との関連を分析することが今後の課題である.

  • 清水 由香
    2016 年 57 巻 1 号 p. 71-86
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,精神障害のある人への居宅介護の支援効果の構成要素と関連要因の検討から,支援の特性を考察することである.1,357カ所の居宅介護事業所の責任者等を対象に質問紙を郵送し,有効回答票230通を分析した.「精神障害のある人に対する居宅介護の支援効果の認識」尺度を作成し,因子分析の結果,「基本的生活機能の向上とエンパワメントの準備」,「エンパワメントの促進と社会生活の充実」,「安心・安全・健康」の3因子が抽出された.これら3因子(全19項目)を従属変数に設定し,事業所や責任者等の特性,「直接支援技術」,「連携・協働体制」,「教育研修体制」の支援効果促進要因の重要度の認識との関連性を検討した.その結果,「直接支援技術」が共通して関連し,また,支援効果の評価の領域と事業所や責任者等の特性との関連要因の違いが認められた.支援効果は,家事援助等の直接効果からエンパワメントを軸に心理社会的側面に及ぶ可能性が示唆された.

  • 安髙 真弓
    2016 年 57 巻 1 号 p. 87-100
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    薬物依存問題を持つ人の親の(1)親自身の回復過程および親を取り巻く社会関係が段階に応じて変容することを探求し,(2)親の回復段階に応じて関わりがあった人や援助機関の違いがあることを明らかにし,親の段階に応じた支援のあり方についての示唆を得ることを目的に,親を対象に半構造化インタビューを行った.その結果をKJ法を援用して分析した.親自身の回復過程および親を取り巻く社会関係変容の過程は,【Ⅰ.薬物問題発生前】【Ⅱ.薬物問題発見期】【Ⅲ.出口の見えない堂々巡りの混乱期】【Ⅳ.親の自己覚知・問題明確化期】【Ⅴ.問題構造化・対処期】【Ⅵ.家族関係再構築期】【Ⅶ.主体的自立期】の7段階に分けられた.親の回復段階に応じて関わりがあった人や援助機関は,【Ⅳ.親の自己覚知・問題明確化期】以降は親を支援する資源はインフォーマルサポートに限られ,親の回復過程に応じた多様な視点を持った支援体制の構築が必要であることが示唆された.

  • 谷 太一
    2016 年 57 巻 1 号 p. 101-112
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    地域で求められる仕事を興しつつ,雇用可能性も同時に高めるというイギリスの媒介的労働市場プログラム(ILM)の手法は生活困窮者自立支援法の就労訓練事業(中間的就労)や改正生活保護法の被保護者就労支援事業において活用することが期待できる.そのためにはニューディールを中心に展開されたILMの特性やそれをめぐる論点を解明することが必要となる.ILMで実施される仕事の内容はリアルであると同時に追加性の要件を満たすことが求められることにジレンマがある.ILMは雇用可能性を高めるというサプライサイドと地域に仕事を創出するというデマンドサイドの二面性がある.ILMに参加することは公的扶助から脱却することを意味するので,ワークフェアとは一線を画している.最も労働市場から離れている人々にこそILMは有効であることから,ILMは生活保護法や生活困窮者自立支援法における就労支援プログラムとしても適している.

  • 三島 亜紀子
    2016 年 57 巻 1 号 p. 113-124
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    2014年7月に採択された「ソーシャルワークのグローバル定義」で,ソーシャルワークは「学問」であると初めて明記された.その「知(knowledge)」は学際的なものであり「ソーシャルワーク固有の理論的基盤および研究」に加え,「他の人間諸科学の理論」も援用するとされる.さらに「地域・民族固有の知(indigenous knowledge:IK)」もこれらと同等の一つの知と明記された.本稿ではほかの学問分野におけるIKに関わる議論も参考にしながら,これが重視された背景や日本における展開を考察する.

    ソーシャルワークの知の変化の背景として,ソーシャルワークには先住民族をはじめ社会的弱者を迫害した歴史があったことを真摯に受け止めなければならないという機運が高まったこと,ソーシャルワークの知はサービス利用者と共に生み出すことをよしとする風潮が生まれたこと,西洋的な価値観に基づくソーシャルワークへの批判などがあり,これが新定義に反映されたといえる.

調査報告
  • 隅田 好美, 黒田 研二, 水上 然
    2016 年 57 巻 1 号 p. 125-137
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    地域包括支援センターにおける認知症支援の現状と支援に関連する要因を明らかにするため,管理者用と職員用の調査票をX県内55センターに配布し,49センター,三職種142名から回収した.職員の属性による認知症関連業務は年齢が高いほど,現職場の勤務年数高齢者支援経験年数が長いほど「認知症支援業務」と「医療機関との連携」の得点が高く,年齢が高いほど認知症医療の現状に否定的認識を持つ傾向にあった.高齢者支援の経験年数が5年以下の群では「認知症支援困難感」得点が高かった.センター業務運営と職員の「認知症支援業務」の関係では,センター内外の連携を実施しているセンターで「認知症支援業務」を積極的に行っていた.「認知症支援業務」を従属変数とする重回帰分析では「医療機関との連携」,「認知症医療の否定的現状認識」が有意に関連していた.認知症支援業務は医療との連携によって影響を受けるが,支援に積極的であるほど医療の現状に否定的認識を持っていることが推察された.

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