社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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60 巻, 3 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
論文
  • 中嶌 洋
    2019 年 60 巻 3 号 p. 1-13
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/06/16
    ジャーナル フリー

    本稿は,長野県上田市を中心に進められた家庭養護婦派遣事業の推進の背景要因を,同市社協事務局長を務めた竹内吉正の思想を通じて明らかにすることを目的とする.研究方法は,竹内の3冊の日誌(『NOTE BOOK』『日誌 吉正記』『Day and Day』)および同市社協議事録など,第一次史料を主に分析した.その結果,彼が社協の前途を悲観し,人の和を重視したこと,旧厚生省や各自治体などの視察応対や,県内外各地で講演を重ね,人々の理解を促したこと,家庭養護婦や未亡人のラジオ出演を促し,事業のPRをしたこと,市社協事務局長時代から一貫して新生活建設運動を推進していたことなどが明かされた.孤高に研究する必要性や学究を重んじた竹内は,目前の課題に拘泥しすぎず,地域性や連帯性にも着目し,社会福祉事業の推進に寄与しようとした.先人の足跡や着眼点の検証は,第一次史料を用い,多角的かつ適時的に行うことで,そこから得られるものは少なくない.

  • 大山 典宏
    2019 年 60 巻 3 号 p. 14-27
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/06/16
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,全国一律とされている生活保護の決定実施の基準が,実際には地方公共団体の間で異なっていることを示すことにある.研究手法としては,都道府県及び指定都市に同制度の運用マニュアルにつき公文書情報請求を行い,関連資料を入手した.次に,①国内概況の把握,②基準策定の地域差,③利用者の法的権利への影響の三つの視点から調査を行った.総計22,768頁の開示文書を分析したところ,都道府県及び指定都市68団体のうち62団体(91.2%)で運用マニュアルを作成していた.基準策定には地域的な偏りが認められるとともに,改訂頻度に差が生じていた.保護の実施要領と異なる,または実施要領にないルールの例として無料低額宿泊所の取扱いを示し,住宅扶助の不支給等で利用者の法的権利に影響を与える事例を確認した.調査結果から,都道府県及び指定都市における基準の差異が認められ,メゾレベルの研究の必要性を明らかにした.

  • 野口 啓示, 高橋 順一, 姜 民護, 石田 賀奈子, 千賀 則史, 伊藤 嘉余子
    2019 年 60 巻 3 号 p. 28-38
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/06/16
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,里親養育支援の実態を明らかにするとともに,その支援が里親養育支援に対する満足度にどのような影響を与えているのかについて分析することである.全国の里親家庭4,038カ所を対象に郵送法による質問紙調査を実施した.里親養育支援の実態を探索的因子分析した結果,「里子が委託される前の里親への養育支援状況」を構成する因子として「委託前支援」と「未委託里親への支援」の2因子が抽出,また,「里子が委託されてからの里親への養育支援状況」を構成する因子として「里子のニーズと里親の意向を尊重した里親子支援」,「里親研修」,「里親養育をささえるつながりづくりの支援」,「不調時の危機介入」,「レスパイト」の5因子が抽出された.また,得られた因子が里親の満足度にどのような影響を与えているのかを重回帰分析したところ,「里親養育をささえるつながりづくり支援」と「委託前支援」のみが貢献していた.

  • 山東 愛美
    2019 年 60 巻 3 号 p. 39-51
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/06/16
    ジャーナル フリー

    本研究は,変容や多様化が指摘されている日本のソーシャルアクションをめぐる現状を整理するとともに,その背景要因を理論面から明らかにする.まず先行研究からソーシャルアクションのプロセスに関する記述を抜粋して類型化を行った.その結果,署名,陳情,裁判等の行動を伴うダイレクトアクションと,交渉や調整等を特徴とするインダイレクトアクションの二つの類型があることを確認した.また,ソーシャルアクションの概念が日本に導入された当初はダイレクトアクションとして理解されていたが,近年は,インダイレクトアクションが主流となり,両者が併存していることが明らかとなった.その理論的な背景要因として,ソーシャルワークの統合化とエンパワメントについての日本的な捉え方がある.今後は,ソーシャルアクションの2類型をふまえたさらなる研究の蓄積や,ソーシャルワーカーの役割分担を念頭においた実践モデルの構築が求められる.

  • 日吉 真美
    2019 年 60 巻 3 号 p. 52-62
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/06/16
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は「ひきこもり」当事者が乗り越えてきたものを本人の視点から明らかにすることである.2017年度に全国68カ所のひきこもり地域支援センターを利用する当事者に対するアンケート調査を行った.分析方法は,anova4による分散分析を用いた.分析の結果,次の特徴が見られた.それは「人と接することに対する恐怖」,「家や部屋から出ることに対する不安」,「何かしようという気力のなさ」,「過去のつらい出来事の想起」,「人の視線に対する恐怖」,「乗り物(電車など)に乗ることに対する恐怖」,「他人の価値観の受容のできにくさ」,「自分の中で何が起こっているかの認識の低さ」,「親子関係の悪さ」,「自分の病気や障害に対するつらさ」,「不登校やひきこもり経験に対する負い目」,「自分自身の自信のなさ」であり,この12の経験が「ひきこもり」当事者が乗り越えてきたものの一部であることが示唆された.

  • 石原 アンナユリアーネ
    2019 年 60 巻 3 号 p. 63-75
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/06/16
    ジャーナル フリー

    日本において性暴力が「女性に対する暴力」と規定されたことで,なぜ性的攻撃的な女性と男性被害者が周辺化されるのかを理論的に究明することを本研究の目的とする.米加女子大学生を対象とした調査から,性的攻撃的な女性の存在と加害の実態を示した.またButlerのジェンダー理論を援用し,日本では女性被害者・男性加害者は異性愛規範に基づいてレイプの「規範」として構築されるという結果を示した.セックスの象徴法則の採用により,女性の加害は周辺化され「不正な加害者」となる.その様な性暴力への見方によって性別に基づく被害のヒエラルキーが作られ,女性加害者・男性被害者は研究対象にすらならない.そのため社会福祉学において性暴力の社会問題としての構築と支援制度への影響を検討する必要がある.「女性はレイプしない」という偏見は男性被害者の認識と支援を妨げる神話の一つにすぎず,その現象の理解を深める実証研究が必須である.

調査報告
  • 音山 裕宣
    2019 年 60 巻 3 号 p. 76-89
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/06/16
    ジャーナル フリー

    2016年児童福祉法改正で,里親支援に関する相談・支援が児童相談所の業務に位置づけられた.戦後の里親制度発足時から指導というかたちで実質的に児童福祉司によって担われてきた里親支援とは何かを考察し,役割を提示することが本稿の目的である.今回実施した児童福祉司調査,里親調査では,児童福祉司が行っている里親支援が不十分であることが示された.両調査結果を分析し,考察を加えた結果から,児童福祉司が担う里親養育支援とは,「子どもや里親,実親の状況をリアルタイムで把握し,当事者を含む関係者全員の意見を聞いて,情報を共有しながら,支援の方向性の合意形成を図ること.そして,ケース全体を見ながら,措置不調時などにおける里親と協議したうえでの『一時保護』その他の専門的な支援など,必要時の適時介入,社会資源の調整など,子どもの自立や実親との再統合を見据えたコーディネーターとしての役割を担うこと」であることが示唆された.

2018年度学界回顧と展望
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