身体とコミュニケーションの両方に障がいをもつ筆者にとって,文章作成は社会との繋がりをもつための重要な手段の一つである.本研究の目的は,その「発話困難な重度身体障がい者」である筆者の文章作成実態とはいかなるものかを明らかにすることである.そのため,メール作成調査を通じて筆者の文章作成過程における介助者との「あ,か,さ,た,な話法」を用いた相互行為を詳細に読み解く.分析の結果,筆者は介助者によって,メール文面を作成するプロセスを変えていることがわかった.つまり,介助者によって「何を書くか(What to do)」「どのように書くか(How to do)」が変容していることから,「誰とおこなうか(With who)」の重要性が示された.これは介助者による解釈や提案を引きだすための戦略であり,筆者の自己決定は従来の「強い主体」の障がい者像とは異なる「弱い主体」を選び取ることで成り立っていた.