社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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62 巻, 4 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
論文
  • 今井 小の実
    2022 年 62 巻 4 号 p. 1-16
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,1917年7月に制定された軍事救護法の成立過程を明らかにすることによって,同法の誕生が“福祉”行政の創設をもたらしたことを検証することにある.同法の成立により救護課ができ,それがその後の社会事業行政の始まりとなったことから,このような認識は従来から共有されてきたが,その具体的な検証はなされてこなかった.この研究では,陸軍省作成の法案(1916年8月)と内務省案(1917年5月)を比較検討し,軍事救護法が最終的に内務省の思惑を反映してつくられたことを検証する.その際に陸軍省が懸念を示していた四種類の救護と,最後まで抵抗を示した私設団体への委嘱を,内務省が方策を講じ,後者についてはのちの施行令に入れることによって最終的にその目的を遂げたこと,そしてそれが戦後の福祉行政にもつらなる重要な要素であったことを明らかにする.

  • 三宅 雄大
    2022 年 62 巻 4 号 p. 17-30
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/05/21
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,生活保護制度における大学等への「世帯分離就学」がどのような論理によって正当化され,維持されているのかを明らかにすることである.以上の目的を明らかにするべく,分析資料としては,2017年に開催された厚生労働省・社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」の議事録を用いる.分析結果として,部会の議論では:①「大学等非就学者/高卒就職者/非利用世帯との均衡」を理由に,大学等就学の「最低生活保障への包摂不可能性」が指摘されていた.そして,②これにより「世帯内就学」の正当性が否定され,③結果として「世帯分離就学」が消極的に正当化されていた.しかし,以上の「世帯分離就学」を正当化する論理には,いくつかの問題が含まれており必ずしも頑健なものではなかった.そのため,今後,あらためて「世帯分離就学」を正当化する論理を精査し,大学等就学時の「世帯認定」の在り方を検討する必要がある.

  • 孫 応霞
    2022 年 62 巻 4 号 p. 31-43
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究では,生活保護世帯における高校未進学・中退の子どもに対する生活保護ケースワーカー(以下,ワーカーとする)の関わりの実態を明らかにするため,ワーカーを対象にインタビュー調査を実施し,質的データ分析法を用いて分析を行った.その結果,ワーカーはまず,子どもの今後の進路希望を確認するため,子どもと保護者それぞれへの働きかけを行っていた.また,子どもの希望に寄り添い,就学支援あるいは就労支援が行われていた.ワーカーの語りから,高校中退の子どもは就労指導の対象になるという認識がワーカーにあることが示された.一方,自力で就労した子どもに対し,ワーカーは支援していないという「支援の不在」があったことが明らかになった.高校未進学・中退の子どもに対し,子どもの将来を見据えた就学・就労支援や,子どもが自立した生活を営むために必要な知識とスキルの提供,子どもへの直接的な支援が求められる.

  • 滝島 真優
    2022 年 62 巻 4 号 p. 44-57
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究は,きょうだい児に対する教員の認識を明らかにし,学校教育における組織的なきょうだい児支援のあり方について検討することを目的とした.教員を対象とした質問紙調査を実施し,320通の回答を有効とした.その結果,きょうだい児の多くが慢性疾患や障害のある兄弟姉妹や親に対する感情面のサポートを担っており,学校生活への直接的な影響は現れにくいことが考えられた.また,支援を必要としたきょうだい児への対応のほとんどが教員による課題解決型の対応となっていたことが示された.きょうだい児に対しては,課題背景を理解して対応する必要があることから,現状の対応では不十分であることが課題となっていた.以上の点から,学校が予防的観点できょうだい児の生活状況を把握する役割を担い,教員と学校専門職が専門性を発揮し,連携を図りながら,きょうだい児に対して必要な支援が行き届くシステムを整備する必要性について言及した.

  • 松田 尚子
    2022 年 62 巻 4 号 p. 58-71
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究では,今後必要とされる介護労働者数の推計を行った.その結果,介護労働者の必要数は2030(令和12)年頃を境に減少に転じるが,生産年齢人口全体における介護労働者の割合は一貫して増加し続けることが示唆された.現在の介護分野における人材確保政策では,将来的に大幅な人材不足が生じることを前提に介護労働者の数の確保が強調されているが,前提とされている介護労働者の需給ギャップについては再考の余地がある.また,数の確保を前面に押し出すことには,介護労働の質や専門性の維持を困難にする危険性を孕んでいる.数の確保と質の維持,向上を同時に図るためには,流動的な人材(生活援助従事者研修の修了者などや技能実習制度に基づく外国人労働者)と普遍的な人材(介護福祉士等の有資格者や在留資格により日本で働いている外国人労働者)とを区別したうえで,それぞれに対して必要な施策が講じられなければならない.

  • 増井 香名子, 岩本 華子
    2022 年 62 巻 4 号 p. 72-85
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,DV被害者である親の子育ての実態を明らかにし,児童福祉分野における被害親の支援・介入方策の検討につなげることである.そのために子どものいるDV被害女性27人の半構造化インタビューの分析を行った.その結果,被害親の子育ては,加害親による暴力と支配により「親機能の奪われ」を経験すること,一方で暴力と支配に対抗し「親機能の必死の遂行」を行っているということが明らかになった.分析からは困難な状況のなかで子どもを守り子どもの成長を促進するという被害親のストレングスが見いだされた.また,子どもに関する多様な要因が関係の継続の有無に影響を与えていることが示された.分析結果から,加害親が被害親の子育てに影響をもたらす暴力と支配の内実とそれによる家族関係の力動をアセスメントすること,被害親のストレングスに焦点をあて,子どもの安全と福祉のために被害親と協働していくという新たな視点を提示した.

  • 小山 宰
    2022 年 62 巻 4 号 p. 86-100
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/05/21
    ジャーナル フリー

    本研究は,医療福祉生活協同組合におけるコ・プロダクションに着目し,そこでの組合員参加のプロセスと,参加を促進する働きかけの内容を明らかにすることを目的とする.組織化活動を行う組合員と専門職から得られたインタビューデータを,グラウンデッド・セオリーにより分析した結果,核概念【開かれた保健医療福祉の共振】が生成された.当該概念は,民主的な組織運営や個々人を尊重する保健医療福祉の実践等の価値を内包する医療福祉生活協同組合の取り組みに対する組合員の理解が,組合員同士または専門職の相互作用の中で深められ,それにより組合員の広範な行動が生み出される状況を表す.この核概念を中心とするコーディングの結果,①共振は[信頼の継続的発展]と[医療生協への体験的な共感]を導くことを眼目とする参加を促進する働きかけの所産であることと,②共振の度合いによって組合員参加がより協同的なものに深化することが明らかとなった.

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