創傷
Online ISSN : 1884-880X
ISSN-L : 1884-880X
1 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 小川 令, 百束 比古
    2010 年 1 巻 2 号 p. 51-58
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
     頚部瘢痕拘縮再建は機能的・整容的バランスが要求され,術式選択に苦慮することが多い。そこで本論文では,頚部熱傷瘢痕に対する術式選択の際の課題を明確にし問題点を考察する目的で,過去の論文を渉猟し検討した。
     頚部の各ユニットの範囲を超えない短い線状瘢痕拘縮は,瘢痕部を完全切除したのちに,Z-形成術をはじめとする拘縮解除,もしくは小さな局所皮弁で再建可能であると考えられた。長い線状拘縮や頚部を横断する線状拘縮の場合も同様に,植皮術を要する場合があることを考慮しつつ再建に望むべきと思われた。面状の拘縮を呈している場合は植皮術や薄い皮弁を考慮すべきで,ユニットを超える広範な瘢痕拘縮は,上は頤部・下顎部のユニットまで,時には下口唇も含めて,下方は鎖骨上部まで,可能な限り大きな皮弁で一期的に再建することが好ましいと考えられた。
  • 松崎 恭一
    2010 年 1 巻 2 号 p. 59-66
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
     2000年に米国議会で宣言された “痛みの10年” に端を発し,欧米では「痛みの治療を受けることは患者の権利であり,痛みを治療することは医療者の義務である」とする考えが浸透してきた。創傷治療においても創の治癒にのみ焦点が当てられていた従来の治療法が見直され,疼痛の軽減という患者側の視点に立った医療の重要性が唱えられている。慢性創傷のように “痛み” 信号が長期間持続的に発せられると,神経回路は可塑的に変化し,痛覚過敏やアロディニアといった “複雑な痛み” を生じる。創傷を扱う医療従事者は,慢性創傷の痛みと急性創傷の痛みを分けて考える必要があり,慢性痛は単に急性痛が長引いたものではないという理解が求められる。“複雑な痛み” にしないためのツールとして提言されたベストプラクティス “ドレッシング交換時の疼痛軽減「疼痛軽減の実践」” に記載されている10項目のコンセンサス・ステートメントを自験例を交えて紹介した。
原著
  • -国立成育医療センターの取り組み-
    矢澤 真樹, 金子 剛, 高山 昌賢
    2010 年 1 巻 2 号 p. 67-73
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
     当センターは,小児病棟410床と妊婦を主とした成人病棟50床からなる計460床のナショナルセンターである。小児においては,一般的な外傷だけでなく,医療行為に伴って発生する創傷に特有の傾向があり,その対策にも小児特有の問題点が存在する。当センターで報告のあった2003年度から2007年度までの創傷について,年度ごとに年齢・部位・原因・深達度別に統計を取り検討した。結果,年度平均の創傷発生件数は361件であった。創傷発生の原因は,点滴もれや粘着テープによる皮膚トラブルが多く,褥瘡は,新生児から学童期までは頭部に発生し,年齢の増加に伴って仙骨部の発生が増加する傾向にあった。つまり,小児の創傷では,小児皮膚の脆弱性を考慮したスキンケアが必要であり,褥瘡は,成長に伴う荷重分布の変化が発生部位に影響を及ぼしていると考えられた。
  • 根本 充, 青柳 和也, 柏木 慎也, 秋本 峰克, 石川 心介, 熊澤 憲一, 内沼 栄樹
    2010 年 1 巻 2 号 p. 74-80
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
     われわれは,2000年1月から2007年12月までの間に受傷後72時間以内に皮膚軟部組織を再建した重度四肢開放骨折24例の治療成績について報告する。開放骨折部位は前腕6例,下腿18例で,Gustilo分類はIIIB型23例,IIIC型1例であった。移植した皮弁は前外側大腿筋膜皮弁14例,広背筋(皮)弁6例,腹直筋皮弁4例であった。いずれの皮弁も生着したが,術後うっ血をきたした2例には静脈移植を行い,部分壊死を起こした1例には局所皮弁での被覆を要した。深部感染は2例に起こり,1例は手術で鎮静化し,もう1例は下腿切断となった。2次手術は追加骨移植を8例,皮弁の修正を7例に対して行った。重度四肢開放骨折の治療では,血流の豊富な組織で確実に軟部組織を再建することが骨髄炎や四肢切断を回避することに繋がり,皮膚軟部組織の再建に精通している形成外科医が受傷直後から重度四肢開放骨折の治療にかかわることは非常に重要である。
  • 黒川 正人, 佐藤 誠, 中山 真紀, 八杉 悠
    2010 年 1 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
     重症四肢外傷の場合に,われわれは一時的に人工真皮貼付を行い,待機したのちに遊離皮弁移植を行うことがある。本法の利点は,生着の見きわめが困難な組織が温存でき,無理に皮膚に過度の緊張が加わる縫合を行う必要はないために,血行不良による壊死に陥ることも防げる。筋肉に過度の圧力が加わらないために,コンパートメント症候群の予防にも有効である。手指などでは人工真皮貼付中のリハビリテーションも可能である。人工真皮貼付期間中は再建方法を検討する時間が確保でき,インフォームド・コンセントを得るうえでも有利である。また,受傷時には遊離皮弁移植が必要と考えた症例でも,人工真皮貼付にて肉芽形成が促進され,遊離植皮で治療が完了したものもあった。人工真皮は感染に対して弱いために,外傷では全例でドレーン孔を開けているが,感染兆候が現れた場合には早期にシリコン膜を破り,十分に洗浄する。
  • 菱田 雅之, 亀井 譲, 鳥山 和宏, 八木 俊路朗, 高成 啓介, 佐藤 秀吉, 小栗 雄介
    2010 年 1 巻 2 号 p. 88-94
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
     現在大網は広く臨床に応用されている。しかし,創傷治癒過程における大網の役割について詳細に報告したものは少ない。今回大網を用いて胃の全層欠損創の創傷治癒過程を検討したので報告する。ラットの胃に直径2.0mmの全層欠損を作成し,大網群は大網弁を縫着し,対照群はシリコンシートを縫着した。術後経日的に胃を摘出し,免疫組織学的検討した。大網群は3日目より肉芽形成がみられ,7日目で創閉鎖した。一方,対照群は肉芽形成がみられず10日目までに創閉鎖しなかった。抗PCNA (proliferation cell nuclear antigen) 抗体,抗FGF-2 (線維芽細胞増殖因子-2) 抗体染色ともに,対照群では断端部の腺上皮しか陽性細胞がみられないのに対して,大網群では断端部の肉芽や欠損部中央にも陽性細胞が多くみられた。大網群では大網自体も細胞増殖して肉芽組織となり,創傷治癒を促進していることが示唆された。
症例報告
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