創傷
Online ISSN : 1884-880X
ISSN-L : 1884-880X
5 巻, 3 号
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第5回日本創傷外科学会総会・学術集会(2013年7月,京都)特別プログラムより
特集 1 : 創傷治癒の分子メカニズム
  • -メカノバイオロジーとメカノセラピー-
    小川 令, 黄 晨昱, 赤石 諭史, 佐野 仁美, 百束 比古
    2014 年 5 巻 3 号 p. 102-107
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
     地球上の生命は重力を常に感受し,三次元形態を保っており,皮膚および軟部組織には自然の状態で張力が生じている。これら物理的刺激が,創傷治癒に大きな役割を担っていることが最近分かってきた。メカノバイオロジーは,物理的刺激が,細胞や組織,臓器にどのような影響を与えるかを研究する学問である。皮膚や軟部組織は体内と体外それぞれから常に物理的刺激を受けている組織であり,創傷治癒や組織再建,再生医療を実践する創傷外科医・形成外科医はメカノバイオロジーを理解しておく必要がある。物理的刺激は,細胞のメカノセンサーによって感受され,機械刺激シグナル伝達系路を通じて核内に情報が伝達される。その結果,細胞がタンパク質を産生し,種々の機能が発現される。これら物理的刺激をコントロールする医療をメカノセラピーと定義し,今後創傷外科領域において発展させるべきと考えられた。
特集 2 : エキスパートに学ぶ画像診断
  • 藤井 美樹, 寺師 浩人, 神島 保, 長田 周治, 青木 隆敏, 安田 浩
    2014 年 5 巻 3 号 p. 108-117
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
     胸骨骨髄炎の治療ではデブリドマンが重要であり,術前に壊死・感染組織の範囲を把握しておかなければならない。慢性骨髄炎に対する画像診断手段としてMRIが有用であることは知られているが,胸骨骨髄炎の治癒過程におけるMR画像の経時的変化を詳細に述べた報告はない。われわれの経験した2例の胸骨正中切開後の慢性胸骨骨髄炎患者のMR画像につき詳細を述べる。骨髄炎では,骨髄内の組織液量の増加によりT1強調像で低信号,STIR像で高信号を示す。しかし,欠損部位が肉芽に置き換わり,炎症が鎮静化すると病変部のMRI信号は低下した。また,腐骨となった場合にはMRIのみでの診断はむずかしく,撮影条件の工夫やCTの併用が必要と考えられた。
特集 3 : 創傷治療における医療材料の応用
  • 井家 益和
    2014 年 5 巻 3 号 p. 118-123
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
     自家培養表皮ジェイスはヒト細胞を用いた日本初の製品であり,重症熱傷の創閉鎖に使用される。2009 年に保険収載されて 5 年が経過し,これまでに全例を対象とした市販後調査によって多くの情報が蓄積されつつある。自家培養表皮の製造で非受傷部位から採皮された面積は平均 8 cm2,1 患者の使用枚数は平均 24 枚であり,採皮面積に対して 240 倍程度の面積の創面を覆うことができた。受傷から採皮までは平均 8.6 日であり,採皮時期が遅延した症例で培養工程に細菌汚染が発生したことがあった。これまでの調査では,自家培養表皮の移植前に人工真皮を用いて移植床を形成する症例が,屍体同種皮膚を用いるより多かった。最近は自家網状分層植皮と自家培養表皮を同時移植するハイブリッド法も増えている。今後は,自家培養表皮を用いた熱傷治療において,自家植皮と併用する意義を検証するとともに,人工真皮や屍体同種皮膚で再構築した移植床に対する手法を標準化する必要がある。
特集 4 : エキスパンダー : 私の工夫とコツ
  • 種子田 紘子, 酒井 成身
    2014 年 5 巻 3 号 p. 124-131
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
     乳房インプラントを用いた整容性の高い乳房再建を達成するためには,エキスパンダーを用いる際に組織拡張という目的に加え,対称な位置に,適切な大きさの,インプラントを入れるための cavity を作ることも必要となる。本稿では,乳房全摘後のエキスパンダーおよびインプラントを用いた乳房再建症例について述べる。正確に作られた cavity はインプラントへの入れ替えを行う際に基本的には剥離操作を行う必要がなく,血腫がおもな原因のカプセル拘縮や,インプラントの移動が原因の術後のインプラント位置異常を防ぐことができる。また,エキスパンダーの拡張を正確に行えば,特別な器具や装置を用いずとも,適切なインプラントの選択も可能である。インプラント選択時に,乳房の左右差を引き起こさないためには,エキスパンダー本体にも 60ml 以上の体積が存在することに留意し,インプラントを選択することも重要である。
原著
  • -形成外科の立場から-
    辻 依子, 長谷川 弘毅, 倉本 康世, 寺師 浩人, 北野 育郎, 辻 義彦, 杉本 孝司
    2014 年 5 巻 3 号 p. 132-136
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
     重症下肢虚血 ( critical limb ischemia,以下CLI ) の治療には創傷管理だけでなく,末梢血行再建術が必須である。末梢血行再建術は主として血管内治療 ( endovascular therapy,以下EVT ) と外科的バイパス術があるが,それぞれにメリット,デメリットがあり,末梢血行再建術の選択はいまだ議論が分かれる。創傷管理を行う形成外科の立場から,足潰瘍の状態によって末梢血行再建術の選択が可能か検討した。足潰瘍の範囲が MTP 関節をこえず足趾にとどまる程度の小範囲の潰瘍でかつ,感染を認めない CLI であれば,大切断率は EVT,バイパス術で有意差を認めなかったため,EVT を first choice とする。ただし EVT では再狭窄率が高く,治療期間が長くなった。一方で,足潰瘍が MTP 関節をこえる大範囲の潰瘍,あるいは踵部に潰瘍がある場合や感染を伴う CLI では大切断率が EVT で高くなるため,バイパス術を first choice とすべきである。
  • -治療期間,指尖部機能,指尖部形態の評価-
    山口 梨沙, 近藤 昭二, 桑澤 貴
    2014 年 5 巻 3 号 p. 137-144
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
     骨露出のある指尖部損傷に対し,露出骨を切除せず局所陰圧閉鎖療法(以下 NPWT )を併用する方法で,NPWT を併用しない場合と比較して治療期間が短縮するか,また治療後の結果が機能面・整容面で満足できるものであるかを検討した。全 8 症例に対し,平均 17.9 日間 NPWT を行い,その後の軟膏療法(平均 35.9 日)により合計 53.8 日で創閉鎖が得られ,従来法よりも治療期間を短縮することができた。NPWT 中も ROM 訓練を継続でき,可動域制限を最小限に留めることができた。受傷後 6ヵ月の指尖部の S-2PD は 3.8mm,M-2PD は 2.6mm と正常知覚を獲得しており,皮弁法と比較して良好であった。整容面では,指の長さを温存でき,爪甲の再生も促され,指尖部はふっくらとなめらかな形を獲得することができた。本法はドナーを必要とせず,健常指への侵襲もなく,治療者側の特殊技能を必要としないことも大きな利点である。
  • -Long Term Acute Care (LTAC) との連携を含めて-
    白井 純宏, 山形 朝子, 道端 由美子, 宮本 花矢, 小妻 幸男, 副島 秀久, 清川 兼輔
    2014 年 5 巻 3 号 p. 145-151
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
     創傷治療においてはアウトカムが設定しにくく,治療の標準化が困難である。また創傷患者の在院日数は比較的長く,急性期病院での在院日数増加の要因の一つである。今回われわれは,局所陰圧閉鎖療法において KCI 社の V.A.C. ATS 治療システムを用いた創傷治療のアルゴリズムをもとにクリニカルパスを作成し,院内での治療の標準化を図ると同時に,創傷治療の経済効果についても検討した。2011 年 3 月から 2013 年 6 月までに,創傷に対して VAC 療法を用いた創傷のアルゴリズムに沿って治療を行った 27 例を対象とし,3 例にパスを使用した。パスを用いて創傷治療の標準化を図ることは,創傷患者の入院期間短縮につながる可能性がある。しかし,急性創傷と慢性創傷では創傷治癒過程が異なるため,タスクを達成するまでの期間についてバリアンスが多く,疾患ごとにパスを作成する必要があると考えられた。
症例報告
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