移植
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55 巻, Supplement 号
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  • 加来 啓三, 岡部 安博, 佐藤 優, 久留 裕, 目井 孝典, 野口 浩司, 中村 雅史
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 115_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     腎移植は院内外含めた多職種との連携のもと成り立つ高度医療である。単に移植手術の成否にとどまらず、術前から術後長期にわたり多方面からのサポートを必要とする。今回、一連の腎移植に携わるすべてのスタッフへ敬意を表すとともに、当院におけるその活躍を紹介する。 近隣の透析病院、腎臓内科からの継続的な紹介なくしては、当院年間80-90例の腎移植は達成できない。専属コーディネーター、メディカルアシスタントによる患者家族との面談から腎移植医療はスタートする。ドナー、レシピエントそれぞれの術前の適応判断にあたっては、外科、内科、麻酔科含めた複数科の総合判断で行う。より安全かつ公正な移植を実現させるため、全予定腎移植症例を対象に外部委員を含めた院内委員会での討議を経る。脳死移植時の緊急対応の際も、手術部、麻酔科の協力により速やかな移植が可能であり、複数移植の同時実施に対しても最大限の理解、サポートが得られている。当然、薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士の協力も必要であり、退院後の支援にはMSW、医療事務スタッフの存在も大きい。当院での累積腎移植症例も1100例を超え、その成績も安定してきた。多種多方面の連携を必要とする腎移植医療をより体制化するため、当院では腎移植クリティカルパスの導入を進めており近く運用開始予定である。多職種連携の更なるステップに寄与することを願う。

  • 山田 全毅
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 117_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    固形臓器移植は、肝、腎、小腸、心、肺など各臓器の機能不全を代替する重要な治療法であり、本邦においても臓器移植の件数の増加ととも移植医療の重要性が増してきている。 移植医療が大きな発展を遂げてきた大きな要因のひとつとして、免疫抑制療法の発展があげられる一方で、複雑化した免疫抑制療法のいわば副産物として、移植レシピエントと移植チームが頻繁に遭遇する「移植後感染症」の臨床的重要度も増してきているといえよう。   一見難解に見える移植後感染症を正しく診断し、適切な治療を行うことは、移植レシピエントの予後改善に直結する。このため、移植後感染症のリスクの共有やマネージメントの方法の標準化は移植医療チーム全体で共有されるべきである。本講演では、移植後感染症原則と体系的なアプローチについて述べる。

  • 宮崎 拓郎, 辻 あゆみ, 永安 武
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 118_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    周術期管理の向上、免疫抑制剤の発達や適切なTDM管理等により、レシピエントの生存率も向上しつつある。その一方de novo悪性腫瘍はレシピエント死因の約10%を占めるとされ、長期生存を阻害する1つの要因となっている。本邦のde novo悪性腫瘍について日本移植学会学術委員会主導のもと現状調査が行われた(Miyazaki et al , Surg Today 2018 )。2001年から2010年に施行された臓器移植9210例中、479例(5.2%)にde novo悪性腫瘍が発生し、頻度順にPTLD(18.2%)、腎細胞癌(9.0%)、胃癌(8.6%)、大腸癌(8.6%)、肺癌(7.5%)であった。De novo悪性腫瘍であっても、がん治療の原則は早期発見、早期診断、早期治療であることは言うまでもない。そのためには適切ながん検診、スクリーニングが必要であり、その費用対効果の検証も重要であろう。レシピエントはいわゆる「がん世代」より若年であることが多く、自治体健診等の対象にならない可能性もある。レシピエントをフォローするにあたりde novo悪性腫瘍を常に念頭に置いた診療が必要で、移植を乗り越えたレシピエントにとって、また「新たながん」との闘いに対する精神的ケアも、主治医だけでなく、薬剤師、移植コーディネーター、かかりつけ医等の多職種が連携して行うことが大変重要となる。

  • 塚本 泰正
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 121_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    日本で臓器移植法が施行されて20年以上が経過した。当初年間数件にとどまっていた脳死ドナーからの心臓移植件数は、2010年の臓器移植法改正後増加傾向となり、2019年には我が国全体で84件もの心臓移植手術が施行された。大阪大学においても1999年の法施行後初の心臓移植術からこれまでに130例を超える心臓・心肺移植を経験してきた。当院では心臓移植が再開された初期は心臓血管外科医が主体となって移植医療に携わってきた経緯があるが、近年は心臓移植前の適応評価や移植待機期間中の内科的治療はもちろんのこと、重症心不全患者の紹介があった場合の循環器内科・心臓外科医師による往診、入院中の重症心不全患者に対する集学的治療の検討、移植待機期間中の補助人工心臓の管理や心臓移植術後の拒絶反応・移植心冠動脈病変に関する定期検査や免疫抑制剤の調整など、レシピエントの術前術後を通じて循環器内科医師が心臓血管外科医師と連携をとって診療している。またわが国の移植医療においてはドナーの評価および管理にメディカルコンサルタントが重要な役割を果たしているが、このメディカルコンサルタントにも多数の循環器内科医が参画している。心臓移植医療における内科医の連携について、考察する。

  • 谷澤 雅彦
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 122_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    当院は1998年から腎泌尿器外科が腎移植を開始し、2003年に腎臓病センターが設立され、2008年に同一階に透析室、腎臓内科・泌尿器科病棟が設置された。その頃より腎臓内科医が腎移植の実臨床へ参画し、10年以上が経過した。現在は末期腎不全患者への腎移植のオプション提示は、若手腎臓内科医達には『当たり前』となり、生体腎ドナーとレシピエントの術前評価は、末期腎不全患者を移植へ送り出す腎臓内科医として責任を持ち、厳格に行ってきた。移植をsubspecialtyとしている内科医達は生体腎ドナーの長期管理とレシピエントの管理も腎泌尿器外科と共同で行い、内科医の強みを生かす生活習慣病と慢性腎臓病合併症管理に特に力を入れている。外科と内科のお互いのstrong pointを生かし、主治医制とはせず、交互外来受診として多角的に管理している。またgraft loss症例に対しては、透析再導入期のCKD-T管理、PD/HD/再移植の選択、vascular accessの準備、スムーズな透析導入が滞りなく行えるように注力している。また今後の腎移植をsubspecialtyとする若手腎臓内科医の育成も重要であると考えている。腎移植の研鑽を積むことによって一般慢性腎臓病管理に幅がでるようになることを伝えている。大規模移植施設ではない、大学病院の腎臓内科医としての腎移植への関わりの実例をご報告させていただく。

  • 宮明 寿光, 江口 晋, 中尾 一彦
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 123_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    目的 当院では肝移植の術前、術後において内科が外科と密に協力している。当院の肝移植における内科医の役割を示す。肝移植前 当院では肝移植前の患者は原則まず内科に入院し、術前の検査を行う。術前検査の内容としては、腹部CTやMRI等の画像の評価、感染症の評価はもちろんのこと、肝硬変の患者に合併しやすく術後問題になりやすい、糖代謝異常、骨代謝異常の検査まで行う。また生体肝移植のドナーに脂肪肝を認めた場合は、必要に応じて肝生検を行い、食事、運動療法の指導を行い短期間ダイエット後に再度評価し、生体肝移植を10症例に行うことができた。肝移植後 ウイルス肝炎を中心に移植消化器外科と併診でfollowしており、特にC型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法の導入のタイミングは内科中心に判断し、内科入院の上、治療導入している。B型慢性肝炎に対しても再活性化対策として核酸アナログ、HBIG投与は内科を中心におこなっている。また移植後の定期検査(各種画像、糖代謝、骨代謝の検査)、肝機能増悪時の肝生検も基本内科入院で行って、対応している。また論文発表により情報発信も積極的に行っており、肝移植関連の消化器内科発表論文が過去5年間で学位論文4報を含む13報ある。結論 肝移植前後の検査、治療、管理において内科医の役割は大きく、肝臓内科医が移植管理に加わることで、移植医療の普及につながると考えられる。

  • 橋口 裕樹, 金本 人美
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 147_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    抗HLA抗体は、臓器移植において移植の可否、生着にも大きな影響を及ぼす検査項目であり、ここ数年は特に大きく注目されている。その要因のひとつとして抗HLA抗体が保険収載されたことがあげられる。平成30年度に移植後抗HLA抗体検査、令和2年に移植前抗HLA抗体検査が算定可能となり、DSAの有無を確認する手段として広く検査を実施されるようになった。ここ数年、抗体検査の試薬も多くラインナップされ、選択肢も広がったが、一方で検査結果の解釈で困惑することもある。各検査施設が使用する検査試薬により結果が異なる場合や、使用する試薬が同じでも施設によってカットオフ(陽性・陰性)の設定が異なる場合もある。またスクリーニング試薬、抗体同定試薬は、保険算定条件に適したタイミング、検査施設を選択して実施しなければ算定できない。今回のシンポジウムでは、抗体検査を実施する上での諸条件、そして現在、日本で多く使用されている検査試薬の特徴と解析ポイント、今後のエピトープ解析について簡単にまとめ報告する。

  • 赤松 延久, 長谷川 潔, 阪本 靖介, 江川 裕人
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 183_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    DSA(donor specific antibody)陽性は、抗体関連拒絶(AMR)や慢性拒絶を惹起しやすく肝移植後の予後不良因子であるが、現時点ではpreformed DSAに対する確立された脱感作療法は無い。本邦におけるDSA陽性例に対する臓器移植の報告によると、2001年から2016年までに全国で135例のDSA陽性肝移植が行われていた。そこで2009年から2016年にpreformed DSA陽性症例に対しrituximabによる脱感作療法が施行された47例について詳細に検討した。脱感作療法のプロトコルはrituximab単剤が主であったが施設によるばらつきがあり、rituximabの投与量は287 ± 159 mg (319 [50-916])/m2であった。1,3,5年グラフト生存と患者生存は89%, 87%, 87%と85%, 80%, 77%であり、1,3,12ヶ月累積AMR率は11%, 13%, 13%であった。AMR発生率はrituximab投与量が300mg/m2以上の群で有意に低かった(cut-off 300mg/m2, 4% vs 24%, p=0.041)。rituximab投与に伴う合併症は8.5%の症例で認めたがいずれも軽微なものであった。引き続き、rituximabを中心としたAMR対策の有用性の証明と脱感作療法の確立が期待される。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘, 松島 肇
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 184_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    T細胞性拒絶の制御により,移植成績は目覚ましく発展してきたが, 抗体産生を含むB細胞系を制御には現在も課題が残る.現在までの知見、今後の課題を明らかとするために,厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患実用化研究事業(移植医療技術開発研究分野)「臓器移植における抗体関連型拒絶反応の新規治療法の開発に関する研究(江川班)」の事業として『臓器移植抗体陽性診療ガイドライン2018年版』が作成、出版された.膵移植に関しては、16のクリニカルクエスチョン(CQ)に対して、14名の膵移植実務者委員に協力を依頼し,各CQに対しシステマティックレビューを行った.2020年を迎え、同ガイドラインの改定が求められている.前回のシステマティックレビュー以降、膵移植における抗体陽性に関する新たな文献は3件のみであった.一方、江川班においては既存抗体陽性症例と抗体関連型拒絶(AMR)症例に対するリツキシマブの保険承認を目指した他施設共同臨床研究が行われている.膵移植においてはAMRに対するリツキシマブ投与例は無かったが,既存抗体陽性の4例にリツキシマブ投与が臨床試験として行われた.今後、これらから得られた知見を盛り込んだ新たなガイドラインの改定を目指していく予定である.

  • 奥見 雅由
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 186_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    免疫抑制薬の進歩や患者管理の向上により腎移植の成績は飛躍的に向上した。これは、2000年代までのT細胞免疫制御に重点をおいた免疫抑制薬の開発により、急性拒絶反応の発生率は大幅に低下したことに起因している。しかしながら、2000年以降では移植腎生着率は、それほど大きな改善を認めておらず、抗体関連型拒絶反応(ABMR)に対する制御が相対的に欠けていたことが明らかとなり、予後におけるABMRの重要性が浮き彫りとなった。つまり、ABMRをいかに予防し、また治療していくかが今後の大きな課題とってきた。また近年の抗体検査法の進歩によって従来は検出できなかった抗体も検出可能となったが、これらの臨床的意義はまだ十分に解明されていない。これらの背景をもとに日本移植学会の臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員会が中心となり、「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン2018年版」が2018年10月に発行された。早いもので発行後2年が経過したが、その間にも新規薬剤や治療に関する多くの知見が国内外より報告されている。本セッションでは、本ガイドライン発行後に報告された新たな知見を紹介し、今後の診療への応用の可能性について検討したい。

  • 縄田 寛
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 187_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    日本移植学会医療標準化・移植検査委員会から2018年秋に「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン」が上梓された。その時点での最新の知見からclinical questionに答える形で心臓移植の抗体陽性症例に対する考え方を記述させていただいたが、このたび、委員会規格として主に2017年以降にpublished された論文を基に① 2018年版で設置されたCQに対し新たな知見があるか② 前回設置しなかったCQで新たに設置することが望ましいCQはあるか等を論じる場を頂いた。心臓移植は抗体関連拒絶を特異的に検知する手法が確立されておらず新たな知見も多くないが、改訂版の作成の指標に向けた提言につながればと考えている。

  • 橋口 裕樹
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 189_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2018年10月に出版された臓器移植抗体陽性診療ガイドラインについては、組織適合性検査として長い歴史のあるHLA抗体、クロスマッチ、HLAタイピングの要点を簡潔にまとめられている。ガイドライン策定にあたり、日本移植学会 医療標準化・移植関連検査委員会は、日本組織適合性学会(以下、JSHI)と協同で実施する精度管理(以下、QCワークショップ)事業を土台とし連携し、JSHIが出す参考プロトコルを活用している。抗HLA抗体の保険収載は、このQCワークショップに参加し、学会が定める指針に遵守した検査を実施していることを施設基準として定められている。一方、検査方法に目を向けると、抗体検査ではnMFIの取り扱い、非特異反応、non HLA抗体など新たな課題も見えてきた。タイピングにおいては、C,DQ,DPローカスの必要性、解像度レベルの高い4桁タイピングへの移行などが挙げられる。またクロスマッチでは、各検査施設での施設間差は少なからず認め、特にCDC法においては移植の可否に直結する結果となることがあり、プロトコルの修正も必要である。平成30年に移植後の抗HLA抗体測定が保険収載となり、令和2年に移植前の抗体検査も収載となったことで、今後、抗体を中心とした組織適合性検査は重要性を増してくる。臨床、検査技術者にとっても有用であるようガイドラインラインのbrush upを実施していきたい。

  • 山永 成美, 江川 裕人, 蛭子 洋介, 大澤 良介, 小野 稔, 剣持 敬, 十川 博, 名取 洋一郎, 日比 泰造, 矢野 晴美, 芳川 ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 194_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2019年末からの中国武漢での報告後、瞬く間に世界中に拡散した新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)は、現在も収束することなく、2020年8月31日時点で全世界で2500万人以上が感染していると報告されている。COVID-19は、移植医療の在り方に大きな影響をもたらし、世界中の多くの移植施設で、生命に関わる臓器の移植を除き、生体移植を中心とした待機可能な移植は一時停止を余儀なくされた。ドナーからの伝播の可能性、院内感染の可能性、移植患者への感染対応など、様々な状況を想定し、院内のコンセンサスを得ることで、現状では多くの施設が移植医療の提供を再開した。しかし、安心安全な移植医療を提供するためには、COVID-19以前とは異なる、新しい移植医療の様式を実践していく必要がある。また、移植患者は免疫抑制剤を服用しており、ウイルス感染症に脆弱である一方、COVID-19は、感染後期での免疫抑制剤使用による重症化抑制も知られている。相反する病態を理解し、免疫抑制剤調整を含めた移植患者の管理を適切に行うことも重要である。これまでに得られたCOVID-19と移植医療に関する文献的報告をレビューし、新しい移植医療の様式について提言したい。

  • 坂井 薫, 杤尾 明, 大久保 明紘, 谷垣 克哉, 武呂 幸治, 松村 康史, 澤田 篤郎, 小林 恭, 長尾 美紀, 小川 修, 白木 ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 195_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】新型コロナウイルス感染症は2019年末から急速に全世界に広がり、その脅威は固形臓器移植レシピエントにも及び、その対策が急務となっている。今回、生体腎移植後レシピエントに発症した新型コロナウイルス感染症を経験した。その治療経過を報告する。【症例】60歳代女性。原疾患は多発性嚢胞腎。2016年夫をドナーとするDSA陽性生体腎移植術施行。脱感作療法は血漿交換・リツキシマブ投与。維持免疫抑制剤はPSL/Tac/MMF の3剤で、拒絶反応無く経過。2020年3月29日悪寒・乾性咳嗽を自覚し、新型コロナウイルス感染症が疑われ緊急入院。翌30日にSARS-CoV2 PCR 検査陽性(4,300copy/ml)が判明。CTにて肺炎像を認めず、感染早期として症状緩和目的にシクレソニド開始。同31日CRP19.4mg/dl、体温40.7℃、頻呼吸、経鼻酸素投与を要する状態となり、抗ウイルス治療ファビピラビル開始。MMF のみ休薬した。化療開始4日目より解熱・呼吸器症状改善し、PCR検査連続陰性を認め、ARDS併発せず治癒に至った。経過中は既知の高尿酸血症併発を認めたが、移植拒絶反応は認めなかった。【結語】各種抗ウイルス治療薬の臨床研究結果に決着を見ないが、早期診断症例にはファビピラビルによる強力なウイルス増殖阻害により、合併症無く移植レシピエントも迅速に治癒せしめる可能性を見出した。

  • 三浦 敬史
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 195_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    56歳男性、B型肝硬変、肝癌、食道静脈瘤, 肝性脳症に対して2019年10月, 61歳男性ドナーからの脳死死体肝移植施行した。2020年3月31日、発熱、目眩、息ぎれ、の症状で救急外来を受診。Covid PCR検査陽性、肺炎を認めたため、酸素投与、ハイドロキシクロロキン(400mg1日2回x1日、1日1回x4日), 抗生剤開始、MMF中止、タクロリムスの目標トラフは4-7 ng/mLとし、プレドニゾン5mgは継続した。ニューモシスチス肺炎予防薬, HBV予防薬も継続。当院プロトコールに従い、検査施行。d-dimer高値であったためapixaban5mg1日2回も投与した。4月7日、呼吸状態悪化し、人工呼吸器管理とした。ステロイド、IL6阻害剤であるtocilicumab とIVIGも投与し、抗生剤はメロペネムへ変更した。Leronlimab trialにも参加した。4月9日には透析導入した。4月11日に、呼吸状態さらに悪化し、Vtach となりアミオダロン開始した。13日に、回復患者の血清を投与後、呼吸状態は改善に向かい、その後気管切開施工、呼吸リハビリを併用しつつ回復に向かい、5月7日一般病棟へ移動した。この抄録作成段階の5月10日では、コロナウイルス感染症に対する治療はまだ確率されていないが、当時有効と考えられる治療を駆使し救命できた肝移植後患者の経過を考察を踏まえて発表する。

  • 三浦 敬史
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 196_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    ニューヨークの病院で、腹部多臓器移植外科でフェローをしていた時に、コロナの爆発的な感染を経験し、多くの腎移植患者も犠牲となった。まだ確立された治療はないが、患者が万が一コロナに感染した時に、迅速に対応できるよう、回復していった患者さんの経過を通して、コロナの治療を考えてみたい。患者は、44歳男性。2020年1月、高血圧性腎症による末期腎不全(透析歴5年)に対して献腎移植後であった。吐気、嘔吐、下痢、発熱が約10日間続き、息苦しさも出てきたため4月5日、当院救急外来を受診。来院時、息切れ、頻呼吸、SpO2 は96-98%であった。家族の中にcovid陽性者がおり、PCR検査施行したところ陽性であった。当院プロトコールに従い、諸検査施行。胸部レントゲンで両側肺炎、BUN/ Cr 93/ 4.7と腎機能悪化、重炭酸 7, PH 7.25, pCO2 19 と代謝性アシドーシスを認めた。ICU 管理とし、MMF 中止、Tacro 減量、ハイドロキシクロロキンと抗生剤開始、重度の代謝性アシドーシスに対して血液透析。カリニ肺炎、サイトメガロウイルス予防薬も継続した。ICUで2日間経過見るも、肺炎の悪化なく、下痢、代謝性アシドーシス、頻呼吸も改善したため、一般病棟へ移った。移植腎も、感染、下痢によるAKIより回復し透析離脱後も、症状悪化見られずに4月19日退院となった。

  • 田中 亮, 井之口 舜亮, 堀谷 弘, 朝倉 寿久, 川村 憲彦, 角田 洋一, 中川 勝弘, 蔦原 宏一, 高尾 徹也
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 196_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【はじめに】今回我々はCOVID-19を発症した生体腎移植後レシピエントの2例を経験したので報告する.【症例1】38歳男性.2年前にABO血液型不適合生体腎移植術(原疾患:IgA腎症)を施行.維持免疫抑制療法はTACER+MMF+PSL+EVLであった.IgA腎症再発に対して扁桃摘除術後に39℃台の発熱を認め,術後10日目に呼吸不全を認めた.胸部CTで両肺野に網状影あり,PCR検査陽性からCOVID-19と診断した.診断確定後MMF,EVLを中止したが 改善なく,第11病日にMP(40mg/day)を4日間投与した.投与後より炎症反応低下, 第20病日には肺網状影も消失,PCR検査も陰性化した.【症例2】68歳男性.11年前にABO血液型不一致生体腎移植を施行.維持免疫抑制療法はTACER+MMF+MPであった.転倒による椎体骨折にてリハビリ病院入院中, 咽頭痛の訴えがありPCR検査からCOVID-19の診断となった. その後,低酸素血症が遷延し, 気管挿管,人工呼吸管理を開始した. 免疫抑制療法はMMF中止,MP(20mg/day)静注,TAC(0.3mg/day)持続注射とした.第2病日よりファビピラビルを5日間投与し,一旦肺炎像は改善するも,徐々に再増悪したため, 第18病日からMP(1000mg/day)を2日間投与した.その後も呼吸状態は改善せず, 第26病日に死亡した.

  • 日高 寿美, 石岡 邦啓, 守矢 英和, 小林 修三
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 197_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    腎不全はCOVID-19の重症化リスクの1つである。腎不全患者は骨髄不全の状態で、尿毒症物質の蓄積により免疫能が低下している。インフルエンザ対策として12月から血液透析(HD)患者全員に手指衛生の徹底、入室時に非接触型検温計で検温し記録していた。COVID-19が報じられた1月からは自宅での検温も義務化、マスク着用、密集を防ぐための対策も行った。同時に迅速に核酸増幅検査が行える体制を確立し、現在では1日500件の検査が可能である。発熱外来を開設し、発熱者は陰性確認するまでは疑似陽性患者として扱い、明確にゾーニングした。COVID-19が流行していた4月30日に161名のHD患者にRT-PCR検査と抗体検査を一斉に行った。RT-PCRは全員陰性だったが、IgG抗体は4人(2.5%)、IgM抗体は1人(0.6%)が陽性であった。IgG抗体陽性患者は皆同じクールでHDを受けていた。腎移植手術は一旦中止とし、腎移植外来患者にはCOVID-19流行のため健診業務を停止した健診センターを利用し、移植患者だけの検査と会計処理を行いすぐ帰宅させた。その後電話診療し、処方を行う対策をとった。腎移植患者の1例がCOVID-19(間質性肺炎)を発症し、入院したが、ナファモスタット、ファビピラビル、アジスロマイシン、IVIg治療により軽快退院となった。院内でのCOVID-19感染・発症はなく推移している。

  • 纐纈 一枝, 剣持 敬, 星長 清隆, 真野 惠好
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 198_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    (はじめに)2020.2 16厚労省の要請でダイヤモンドプリンセス号のCOVID-19感染患者を、開院前の岡崎医療センターで受入れた。感染防止対策は、感染症専門医、環境整備業種を含めた対策チームを結成し行った。地域住民にも繰返し説明会を実施した。計128名の陽性患者及び濃厚接触者を受入れ、院内感染なく全員退所した。この経験を基に、本院でCOVID-19感染防止対策チームを結成、院内の移植医療方針を決定した。(対象・方法)病院長主導で安全管理室、感染症専門医、移植医、麻酔医、移植コーディネーター、看護師、事務員等でチームを構成、病院の方針を経時的に決定した。決定には地域の感染拡大状況、院内の体制整備状況(発熱外来の設置、感染者の隔離に伴う動線の徹底、院内のPCR検査状況等)、厚労省や日本移植学会の指針等を参考にした。(結果)3月は全ての移植(生体腎・肝移植、脳死・心停止下腎・膵移植)のプログラムを停止、4月には、ICU管理を含め安全に移植医療の実施が可能と判断し再開した。ドナー、レシピエント共に問診と2週間の体調管理(原則入院)、肺CT検査、PCR検査、抗体検査等を条件に加えた。以降、脳死膵臓移植2例、脳死腎移植2例、生体腎移植5例を実施、経過良好である。(まとめ)施設としてCOVID-19対策の方針を決定、チームが一丸となり徹底した感染対策を行うことが安全な移植医療の実施に繋がる。

  • 渡井 至彦, 小笠 大起, 友杉 俊英, 岡田 学, 平光 高久, 鳴海 俊治, 大原 希代美, 阿部 哲也, 二村 健太, 後藤 憲彦, ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 198_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    目的:COVID-19拡大時の情報発信ツールとして、服薬管理・お知らせ機能を有したスマートフォン・アプリケーション(アプリ)を使用した。方法:腎移植・膵臓移植者を対象に服薬管理・お知らせアプリ「移植生活」を(株)バリュープロモーションと開発し2019年2月から導入した。服薬管理機能:患者自身で設定した服薬予定時間になるとデバイスに通知が送信される。また、管理者は利用者の服薬登録状況を確認することが可能。お知らせ機能:医療スタッフから登録者に対して、お知らせを一斉配信することができる。医師・看護師・移植コーディネータ・薬剤師・栄養士など当院移植チームのスタッフから、日常生活と診療に関する情報提供や大規模災害や新興感染症発生時の情報発信ツールとしても活用。結果:2020年2月2日以降、登録者(1,000名以上)にCOVID-19に関する以下の様なメッセージを15件発信した。1) 新型コロナウイルス感染症に関する情報提供や生活指導, 2) 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う病院入館可能時間の変更通知, 3) 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う受診ルールの変更通知, 4) 移植者が発熱した場合の対応について考察:刻々と変化する地域のCOVID-19拡大状況に合わせて、移植者へに向けた適切な状況説明や対応・生活指導を行うにはスマートフォン・アプリ「移植生活」は有用であると考える。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘, 松島 肇
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 199_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2015年3月14日~15日に熱海で開催された日本移植学会第2回次世代リーダー養成コースに参加した。普段からほとんど休みがない中、当初は貴重な土日を使い、自己負担もありながら、参加することに正直抵抗があった。養成コースは、1日半程度缶詰状態であったが、他の参加された先生たちの経歴、研究成果、臨床に携わっていることが拝聴でき、それが非常に勉強になった。また、夜は本養成コースのもう一つのメインである親睦会があり、夜中まで飲み明かし、移植医療の未来について語り合った。その後、5年が経過している。当時、一緒に養成コースに参加した他施設、他臓器移植の先生と今でも摘出現場や、学会、会議などで席を共にする機会が多くある。一夜でも寝食を共にした先生たちとは開襟して話しやすく、仕事もしやすい。それぞれの臓器移植の問題点や目標を共有出来たことは、自分が従事している腎移植、膵移植にも生かされ、励みにもなっている。この経験は貴重な経験であり、今後、参加候補となった若い先生には是非、積極的に参加してほしい。そして、世代間で移植医療に関する諸問題を共有し、次世代の移植医療を担う人材として、是非この日本移植学会次世代リーダー養成コースを利用していただきたい。

  • 岡田 随象
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 201_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    次世代シークエンサーに代表されるゲノム配列解読機器の著しい発展により、大容量のゲノム・オミクス情報が出力される時代が到来しました。大規模バイオバンク由来ゲノムデータの一般公開、コンシューマー型企業の進出に象徴される、アカデミア型研究の枠を超えた展開など、「誰もが自分達のゲノムを知ることのできる社会」が、自律的に構築されつつあります。遺伝統計学は、遺伝情報と形質情報の因果関係を統計学の観点から検討する学問分野です。疾患感受性遺伝子の同定を軸に発展を遂げてきた遺伝統計学も、時代の潮流にあわせて更なる変革を要求されています。数百万人規模の大規模ヒト疾患ゲノム情報を大容量のオミクスデータと分野横断的に解釈し、社会還元するための学問へのニーズが高まっています。細胞組織特異性に着目した疾患病態の解明、シングルセル・ロングリード解析など新規シークエンス技術の導入、機械学習・深層学習など革新的情報処理技術の適用、ヒト集団の適応進化の解明、ゲノム情報に基づく新規創薬の試み、ゲノム個別化医療の社会実装など、遺伝統計学が今後取り組むべき課題を本講演ではご紹介したいと思います。本邦の基礎医学研究の更なる発展に必要なのは、若手人材の育成です。特に本邦では遺伝統計学分野の人材不足が指摘されています。「遺伝統計学・夏の学校@大阪大学」の開催など、私達の取り組みもあわせて検討させて頂ければと思います。

  • 篠田 昌宏, 長谷川 康, 大島 剛, 高岡 千恵, 尾原 秀明, 北郷 実, 阿部 雄太, 八木 洋, 松原 健太郎, 山田 洋平, 堀 ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 202_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    背景:生体肝移植ドナー基準は一定の基準がなく施設ごとに判断されている。単施設での経験、多施設アンケートから生体ドナーの基準や課題について考察する。方法:①当施設でドナー理由で不適格とした症例(2013~20年)、実際に生体ドナーとなった症例(1995~2019年)の詳細を調査した。②移植学会「生体肝移植ドナーガイドラインワーキンググループ」委員を対象にドナー基準に関するアンケート(30項目)を実施した。結果:①候補276例中125例(45%)がドナー理由で不適格とされた。理由は、残肝容積不足51例、肝機能異常27例、意思撤回14例が主なもので、稀な病態や基準の曖昧さなどで判断に難渋する症例もあった。生体ドナーは289例で、術前TC(8%)、TG(6%)、HbA1c(1.7%)に異常を認める症例があった。既往は、下腹部手術(22例)、小児喘息(10例)等で上腹部手術歴はなかった。術後Clavien Dindo (CD)-IId(脳梗塞)1例、IIIa 11例、IIIb 1例など合併症を認めたがドナー背景による発症率の差はなかった。②年齢上限、術前検査、既往歴等ほぼすべての項目で全員同一回答は得られず施設毎の基準の多様性が明確となった。結語:ドナー基準は施設ごとに多様であり、自施設でも判断に苦慮する例がある。科学的根拠および専門家コンセンサスに基づいたドナー基準を策定する必要性がある。

  • 日下 守, 上野 豪久, 江口 英利, 伊達 洋至, 丸橋 繁, 湯沢 賢治, 永野 浩昭
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 202_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    生体腎移植ドナー基準については、日本臨床腎移植学会から“生体腎移植のドナーガイドライン”が定められている。国際社会通念として確立している WHO 指導指針、国際移植学会指導指針、イスタンブール宣言、「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針、日本移植学会の倫理指針などを遵守し、生体ドナー候補者の身体的、心理的、及び社会的擁護に最大限努めなくてはならないとしている。ドナーの適応と移植後の管理を含めた指針については、国際移植学会からアムステルダムフォーラムレポートとして公表され、国際標準として定着している。今回移植学会生体ドナー安全委員会から、本邦におけるドナー管理マニュアル等の作成・使用状況に関する調査依頼を受けた。調査は2018年12月から実施し81施設から回答を得た。施設数としては過半数に満たないものの、本邦の生体腎移植総数の7割をカバーしている施設からの回答であった。術前検査マニュアルの作成は68.8%で、マニュアル使用状況は96.8%と使用頻度は高かった。検査実施項目でばらつきを認めるのは、腎シンチやレノグラム実施の有無ならびに、担癌患者のスクリーニングに関する検査の実施と内容であった。今回実施したアンケート調査の内容を中心に現状を伝えるとともに、世界的なCOVID-19の蔓延する中、今後移植医療が直面しうる未知の感染症に対する対応についても課題として触れる予定である。

  • 後藤 憲彦
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 204_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    免疫抑制薬進歩による腎移植生着率向上から、感染症と悪性疾患が生存に大きく影響するようになった。病原体側の因子(疫学的暴露)とレシピエント側の因子(免疫抑制状態)の2つバランスにより決まる腎移植後感染症は、DWFG(death with functioning graft)に関係するだけでなく、免疫抑制薬減量からの免疫抑制不足状態長期化により、抗ドナー抗体(DSA)産生を引き起こす可能性がある。抗菌薬による移植腎への副作用、免疫抑制薬との相互作用による濃度変動、腎移植レシピエントに多い抗菌薬耐性などから、腎移植後の感染症対策としてワクチンによる予防が重要になる。必要な腎移植候補者にワクチン接種をすることで、免疫能を獲得もしくは上昇させてから腎移植をするのが理想的である。末期腎不全になった原疾患や腎移植前の免疫抑制療法の有無、移植後の拒絶反応の有無、移植からの期間など、獲得した免疫能は健常人に比べて早く低下または消失する。移植前の免疫能獲得もしくは上昇と同じくらい移植後の免疫能維持が重要であるにもかかわらず、厳格なフォローがされていないことが多い。腎移植前後のワクチン治療を統一する目的で、成人臓器移植予防接種ガイドラインが作成された。実臨床における腎移植候補者や腎移植レシピエントに対して、どのように応用して感染症対策をするかについて紹介したい。

  • 相川 厚
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 205_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2010年7月臓器移植法の改正により、小児の脳死下臓器提供が認められたが、2012年に至るまで小児からの臓器提供はなく、小児心臓移植患者は渡航移植に頼るしかなかった。しかし2016年3例、2017年5例、2018年9例と小児の脳死下臓器提供は徐々に増加し、2019年には19例にまで急増した。この原因を分析すれば、未来の臓器提供推進の実像が見えてくると考えられる。もともと、小児救急施設であるPICUは少なく、多岐にわたる濃密な治療が行われているため、脳死判定を含む臓器提供の負担が多くかかることは言うまでもない。しかし体制整備が行われた後、2019年には6歳未満の臓器提供4例を含み、前年の2倍以上の臓器提供が行われた。この増加は小児救急施設の医療者だけではなく、患児の両親の臓器提供へ理解が結実したものだと考えられる。この過程を分析、考察することにより、成人への臓器提供推進にも活用できると考えられる。

  • 種市 尋宙
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 205_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2019年度より開始された厚生労働科学研究「小児からの臓器提供に必要な体制整備に資する教育プログラムの開発(班長 荒木尚)」において、演者は「被虐待児除外に関する研究」を分担している。こどもの脳死下臓器提供におけるプロセスでは、様々な問題点が指摘されてきたが、特に被虐待児除外に関する点は多くの議論と混乱がある。そこで、本研究においては、15歳未満の脳死下臓器提供事例を経験した施設の中で、同意が得られた10施設(11事例)を対象として、主治医および院内関係者に臓器提供の実際に関するヒアリングを行い、データ解析を行った。経験施設における議論の経緯は重要な情報を多く含んでおり、個人情報に配慮した上で現在、解析を進めている。脳死に至る原疾患の事例発生現場は、これまで第三者の目撃がある屋外が典型的とされていたが、実際の経験施設では屋内で第三者の目撃がない事例が大多数であった。各施設内の虐待対応チームや組織が医学的評価を丁寧に行うとともに警察や児童相談所との連携を円滑に行って、虐待評価を行っていた。その他にも「安全のネグレクト」に対する考え方、その扱いなどについても各施設で評価したが、大きな問題とはなっていなかった。被虐待児除外のプロセスでは、家族を疑い評価する医療でもあり、多くの矛盾と困難を内在した医療となってしまった。この混乱を解決するために、まずはその実状を把握することが重要である。

  • 多田 義男
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 206_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    今回授業で扱った教材は、日本臓器移植ネットワークが2016年2月25日公表した東海地方の病院でインフルエンザ脳症の脳死と判定された女児の両親の手記である。(教材名:Aちゃんの繋いだ命)父親は、悩んだ末に臓器提供を決心したといい、女児には「もしいやだったらゴメンね」と語りかけ、その判断が正しいものであったか判断できない本人の代わりに下した決断に苦悩し、母親は「お母さんをもう一度抱きしめて笑顔を見せて」と娘を失った思いをにじませている。生徒には両親の手記を通し、「生命の尊さ」や「生きること」について自ら考える態度を育てたいと考えて教材づくりを行った。これまでの道徳科の「生命尊重」を主題とした読み物教材としては、心情に語りかけるものが多い。今回の教材、「Aちゃんの繋いだ命」は医療や科学技術が発達したことで生じる、現代的な課題の一つである「生命倫理」についても生徒と共に考える教材でもある。本教材を通し、生徒がどのように生命を偶然性、有限性、連続性などの視点から取り上げたか、また将来誰にでも生じる可能性でもある「臓器移植」や「臓器提供」について自分ごととして深く考え、中学校道徳科の「生命尊重の心の育成」をおさえ、よりいっそう生命の大切さを多様な視点から自覚できるようになったのか生徒と共に語り、考えた授業の実践報告である。 

  • 吉住 朋晴, 原田 昇, 伊藤 心二, 戸島 剛男, 栗原 健, 王 歓林, 島垣 智成, 伊勢田 憲史, 冨山 貴央, 森永 哲成, 二宮 ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 206_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    臓器提供普及啓発活動として毎年4回大学1年生あるいは医療系専門学生に講義を行って来た。昨年中学3年の道徳教科書に脳死下臓器提供の項目があげられたことに伴い、公立中学校から臓器提供と臓器移植の特別授業を依頼された。これまでの講義及び今回の授業終了後は感想文をいただいており、我が国の若い世代の脳死・臓器移植への理解度を知る上で貴重な資料と考えるので、抜粋して紹介したい。大学生:脳死から生き返ることができると思っていた。思っていた以上に日本の臓器移植が遅れている。移植のことをよく知らず嫌悪感を抱いている人が多い。一人から複数人の命を助けられるのに驚いた。移植について自分が正しく理解し、周囲に伝えていくことが大切。将来の進路として移植医もあり。中学生:臓器移植について知らないことばかり。自分のイメージと大きく異なっていた。臓器移植って簡単に考えていたけどこんなに難しいんだ。脳死でも心臓が動いているのに驚いた。誰かの臓器で複数の命が助かると考えると脳死の人の命は惜しくないと思う。以上の感想から、短時間だけかもしれないが臓器移植・脳死の講義・授業に真剣に耳を傾け、臓器移植・脳死について思考停止にならず、意見を出せることが明らかになった。移植医療に携わる関係者が、能動的に多くの機会を作り、若い世代に講演・対話を重ねていくことで、正しい知識を啓発していくことの重要性が改めて認識された。

  • 齋藤 裕, 居村 暁, 宮崎 克己, 山田 眞一郎, 池本 哲也, 森根 裕二, 島田 光生
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 207_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】医療系学生の移植医療に対する理解促進、意思表示率向上のための啓発活動の有用性について検討する。 【対象と方法】2010年~2019年の期間に、Donor Action(命の授業)を徳島大学の医療系学生 (医学科、看護学科、薬学科、栄養学科)を対象に実施した。授業の前後にアンケートを実施し、アンケート調査からみえる医療系学生の現状を解析した。【結果】2019年参加人数は4学科の272名に達した。約半数の生徒が中高で『いのち・死』についての授業を受けている状況であったが、講義前の時点で、移植医療に関する知識として「脳死と植物状態との違い」「日本のドネーションの世界との比較」などは約10%未満の生徒で無知であった。臓器提供意思表示率は、10-15%前後を推移しており、Donor Action後では、ほぼ100%の学生が意思表示すると回答した。Donor Action後、一部の医学生たちは、大学祭で意思表示の重要さを訴えたり、母校の高校に移植レシピエントを招いて講義をしたりと、学生から自ら呼びかけるDonor Actionへと変わりつつある。最近では、高校生がボランティア活動の一環で移植啓発運動することも試みている(高校生ボランティアアワード; 主催 さだまさし)。【結語】医療系学生の移植医療に対する知識理解は乏しく、継続的なDonor Actionが必要である。

  • 嶋村 剛
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 207_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    脳死下・心停止後の臓器提供推進を目的として、国民への情報提供による意思表示率の向上と提供側施設の院内体制整備に向けた各種の取り組みがなされている。一方、ポテンシャルドナーの報告義務がないわが国では、実際の臓器提供に担当医(施設)の考えが大きく影響する。5類型11施設(うち臓器提供経験あり7施設)の救急科・ICU・脳神経外科へのアンケート調査(医師28、看護師166)では、臓器提供によって人の命が助かると考えるものは医師・看護師:93・85%、臓器提供に賛成は86・73%、脳死を人の死と考えるものは64・44%、提供が家族のグリーフケアにつながるとするものは11・20%であり、「わからない」とする回答が徐々に増えた。自身の提供同意は医師・看護師:64・51%、家族との話し合いの経験は57・37%、カード所持率は50・23%であった。2008年の日本移植学会臓器提供推進委員会の実態調査報告(移植:43:56,2008)では、カード所持率は医師・看護師:21-41%・19-37%であり、ここ10年余で緩徐な増加に留まった。医療者の意識・知識・カード所持率と実際の臓器提供経験は相方向的に作用すると考えられる。当該地域では双方を補うべく医療者向けの相談ダイヤル、5類型施設全体での事例検証会、提供施設での臓器提供を振り返る会を実施している。

  • 瓜生原 葉子
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 208_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     現在までに、意思表示率の向上を目指した様々な取り組みが行われているが、一般を対象としたプログラムの場合、介入対象を明確にできないため、介入による行動変容の実効性が必ずしも高くはなく、効果測定が行われていないことも散見される。そこで、我々は、ソーシャルマーケティングを用いたプログラムを導入した。ソーシャルマーケティングの重要点は、介入対象と行動目標を明確にすること、その対象のインサイト、エビデンス、行動理論から介入施策を導出すること、そのアウトカムを数値で測定・評価することである。我々は、幼稚園児から大学生まで年代別に行動目標を設定し,その目標に適した科学的手法の開発・実装・検証することを目的とした。 2年間にわたり、仮説検証型の実証研究を実施したところ、園児では、自分の気持ちを伝えられるようになること、小学生は、感謝の気持ちをカタチにして伝える大切さに気づくこと、中学生は臓器移植について家族と話すようになること、高校生は、自分の一度意思決定をすること、大学生は納得のいく意思決定をしてそれを示すこと、を目標とした介入が効果的であることが示された。また、いずれにおいても、evidenceや行動科学理論に基づき計画し効果測定をすること、「知る」ことからから「自分ゴトとして行動する」ことに焦点を当てることの重要性が示唆された。

  • 梶原 知佳
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 209_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2年間の初期研修期間も終盤にさしかかっており、いよいよ専攻科を決める時期になってきた。診療科毎に必要な知識やスキルは異なるが、内科系に進むにせよ外科系に進むにせよ、医師として働くにはより多くの臨床経験が必要となる。若手医師であるうちはできるだけ臨床業務に携わることが、スキルアップやキャリア形成に有利にはたらくと思われる。しかし特に女性の場合、出産や育児などのイベントがライフプランに大きく影響を与え、知識や技術を吸収しやすい若手医師の期間中に臨床業務から離れなければならない可能性があり、将来像を描きにくい。また、ガツガツ働いてとにかく医師力を磨き、患者さんに貢献する人生も魅力的だが、一方ではプライベートも大事にして「人として充実した人生を歩みたい」という気持ちもある。医師としてどのように働いていきたいか、どのようなことを職場環境に期待するか、などについて、現時点で私自身が考えていることを報告し、理想的な働き方について様々な世代の先生方とディスカッションさせていただきたい。

  • 小笠 大起, 堀江 重郎, 武藤 智, 和久本 芳彰, 中川 由紀, 磯谷 周治, 永田 政義, 松下 一仁, 清水 史孝, 河野 春奈, ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 209_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     この数十年で移植医療は目覚ましく進歩したが、症例数や認知度の観点からは、諸外国に比して日本はまだまだ発展途上であると言わざるを得ない。移植医療を志す若手医師の立場としては、この現状の中で些かなりとも日本の移植医療に寄与できるような人材となることを望み、なるべくスムーズにそれを実現できるような研修がしたいと考える。一方で、現行の新専門医制度の垣根の中で、バックグラウンドとなる診療科との両立や移植を専門とするタイミングの選択は多くの若手医師が抱える悩みだろう。また一人でも多くの医師が移植医療を志し、将来助け合いながら仕事ができる環境を求めるが、移植医療の特殊性から、若手医師の移植に対するイメージは難解で、高いハードルがあるように思われる。若手医師がスムーズにスキルアップできる研修プランと、移植医療を啓蒙するためにできることを考察したい。

  • 谷口 未佳子, 剣持 敬, 伊藤 美樹, 杉元 弥生, 伊藤 泰平, 會田 直弘
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 210_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    レシピエント移植コーディネーター(以下RTC)は、患者への情報提供や継続支援、移植への意思決定支援、院内外への連絡・調整に加え、各学会への患者データの登録や臓器移植ネットワークへの新規登録・更新業務などさまざまな業務を担っている。RTCは専従で業務を行っている者もいれば兼任で行っている者もおり、兼任で業務を行っているRTCにおいては、日々の業務調整や脳死下・心停止下発生時の自己の勤務調整などを困難に感じている者もいる。RTCは学会認定ではあるが国家資格ではないため、認定看護師のような専従としての立場の確保は難しい。また、看護師はクリニカルラダーなどに基づく系統的な教育やナーシングスキルのような業務手順書があるが、RTCはそのような教育課程の確立はなされていない現状にある。施設内にRTCが1人しか存在しない場合においては、365日24時間オンコール業務を担当することとなり、仕事とプライベートの切り替えが難しい現状にある。今後、移植数の増加に伴いRTCの負担がさらに増えていくことが予測されるため、RTCにおいても働き方改革が必要であり、RTCの増員、教育課程の確立が急務であると考える。

  • 池田 正博, 田崎 正行, 齋藤 和英, 冨田 善彦
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 210_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     腎移植医療は、手術手技の確立や免疫抑制療法の進歩などにより発展を続けてきた。治療成績の向上、ABO不適合移植を含めた適応の拡大により、腎移植を希望する症例は増え続けている。また献腎移植ではドナーアクションプログラムなどを通して臓器提供の数、質を向上させてきた。これらは移植医療の黎明期から情熱をもって取り組んでこられた偉大な先人方からの賜り物と考える。 移植医療を取り巻く環境が整ってきている一方で、移植医の不足や疲弊が問題となっている。新潟大学の医学生、研修医にアンケートを行ったところ、臓器移植に興味を持ち移植医療に関わってみたいと考える者は一定数いることがわかった。同時に将来診療科を選択する際には、やりがいや学問的な興味を重視するが、専門に特化することや長時間の勤務は避けられる傾向があった。移植医療を次世代につなぐためには、移植に特化した少数のスペシャリストの育成だけではなく、多くの医師やコメディカルが参入しやすいように配慮する必要がある。当科ではザブスペシャリティに関わらず移植手術や術後管理ができるように指導体制を整えている。そのため長時間勤務になりやすい献腎移植でも、臓器摘出、移植手術などチームを分けることができ、各々の負担が軽減できる。脳死下提供の増加により多臓器提供の機会が多くなっており、負担軽減のために臓器や移植施設の垣根を越えて取り組んでいく必要があると考える。

  • 堀 由美子, 小西 伸明, 三好 英理, 有薗 礼佳, 櫛引 勝年, 秋場 美紀, 佐藤 克行, 加賀 美幸江, 遠藤 奈津美, 土屋 美代 ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 212_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    心臓移植実施施設は11施設あり、レシピエント移植コーディネーター(RTC)は25名(専従9施設15名、併任2施設8名、産休2名)、このうち認定RTCは7名である。各施設および当院の現状から、認定制度の課題を検討する。1.各施設の現状認定RTCがいる施設では、心臓移植実施施設認定基準ならびに移植後患者指導管理料の算定要件に該当する者とされ、認定RTCがいない施設でも要件に該当する者とされている。1施設では、認定の取得で変わらなかったが、移植後患者指導管理料の算定により併任→専従となった例があった。2.当院の現状RTCは3名(認定RTC2名)おり、業務内容は認定資格の有無による違いはない。RTCはキャリアパスの1つとされ、これまでに5名(認定開始前従事2名、認定開始後従事3名)着任した。認定開始後の3名のうち2名が認定を取得した。2名の認定RTCは、新規申請の必要な実務要件の全プロセス(意思決定~登録~待機~手術~退院~退院後外来フォロー)の対象患者は、いずれも小児例(待機期間146日、175日)であった。3.今後の課題認定RTCの更新資格は専任もしくは専従であり、専任・専従の継続、併任→専任・専従の処遇の改善に繋がることが期待される。心臓移植の待機期間は5年前後であり、認定には5年前後かかり、認定取得できない、または認定取得後すぐに異動になることから取得しない者が増える可能性がある。

  • 谷口 未佳子, 剣持 敬, 伊藤 美樹, 伊藤 泰平, 會田 直弘, 栗原 啓
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 214_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     膵臓移植は、内因性インスリンが枯渇した1型糖尿病患者が適応となる。血糖値の変動が激しく内科的治療が困難で、頻回な低血糖発作や、心血管系合併症などの進行もあるため、日々生命の危機に脅かされている。日本の膵臓移植認定施設は18施設あり、当院も認定施設であるが、現在までに88件の移植を実施している。1型糖尿病患者は、病院をたらいまわしにされた経験を訴え医療不信に陥っている患者も少なくない。当院では、RTCが術前から移植後外来フォローまで一貫して患者に関わり、精神的ケアを含めた継続的な支援を行っている。患者の窓口を一本化することで医療不信への緩和にも繋がっており、移植施設内にRTCが存在する意義は大きいと考える。患者のフォローアップ病院と移植病院それぞれにRTCがいた場合、RTC同士が連携することで、より患者が安心して医療をうけられる体制が構築できる。RTC間の横の繋がりがあれば、難渋する症例に対しても解決策が得られ、患者にとってよりよいコーディネーションが提供できると考えている。これらのことから考えても、RTC間の横の繋がりは非常に重要であると言える。RTCの認定制度ができ来年で10年となるが、社会的認知度が高いとはいえない現状にある。今後、社会的認知度を高めていくためにも、RTC業務の成果や存在意義を明らかにしていくことが非常に重要であると考える。

  • 吉川 美喜子
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 216_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】欧米諸国など移植先進国は脳死ドナーからの臓器提供を主軸として移植医療が発展してきた。各国で脳死ドナー数を最大限にする試みを行ってきたが近年その数は頭打ちとなり,生体から,そして心停止後のドナー(DCD)からの臓器提供数増加に向けて体制が整えられている。一方日本は臓器移植法後、生体と脳死ドナーからの臓器移植に転換し,DCD数は減少している。【心停止後臓器提供の現状】心停止後の臓器提供はcontrolled DCD(cDCD)とuncontrolled DCD (uDCD)の2群に大別される。すなわち患者・家族の意思で生命維持装置中止後の臓器提供と,予期せぬ心肺停止で蘇生不可能と判断後の臓器提供である。これらDCDからの臓器提供は特に欧州で飛躍的に増加している。一方我が国のDCDは、脳死だが何等かの理由で心停止を待機し臓器提供となる場合が主であるが、本邦の脳死下臓器提供は脳死をcueとして生命維持装置中止を行うcDCDの延長線上である。では世界各国でDCDをどのように整備しているか。それは終末期医療の整備に他ならならず、生命維持が困難となった患者の最期との関わりが臓器提供のカギとなる。【まとめ】患者の最善の最期・死後にむけて支援を行うことで、日本の臓器提供現場の変化が期待される。海外事例を踏まえ、今後のわが国の在り方について検討する。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘, 松島 肇
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 217_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2010年の改正臓器移植法施行後より、脳死下臓器提供が増加したが心停止下臓器提供は減少し、結果、献腎移植件数は横ばいである。深刻な日本の臓器提供不足の現状を鑑み、心停止下臓器提供を増やすことは重要な課題の一つである。心停止ドナーを増やすことは以前より各地域における啓蒙活動が行われており、その活動は脳死下臓器提供の増加へもつながっていると考えらる。しかし、これらの活動が奏功し心停止ドナーが増えた時、我々移植医が対応可能であるかは疑問が残る。外科医の減少や脳死下臓器提供の増加により、数日間の待機を要する心停止下臓器提供への対応はさらに困難となっている。また、時間的には脳死下臓器提供よりさらにシビアな対応を迫られる心停止下臓器採取手技の次世代への継承も今後の大きな課題である。一方、一部の海外では肝や肺などの腎以外の心停止臓器提供が盛んに検討されている。しかし、これは日本の状況とは大きく異なり、レスピレーターオフが大前提である。以上から、心停止下臓器提供増加に向けて本邦でもレスピレーターオフの導入が検討される必要があると考える。日本救急医学会、日本集中治療医学会、日本循環器学会からは3学会合同の終末期医療に関するガイドラインが出されており、その中にレスピレーターオフについても言及されている。本邦におけるレスピレーターオフに関する現状、課題、今後について論じたい。

  • 伊藤 孝司, 八木 真太郎, 秦 浩一郎, 田浦 康二朗
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 217_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    近年脳死下臓器提供数は増加してきているものの、各臓器ともにレシピエントの待機時間は変わることがなく、慢性的な臓器不足の状態は変わっていない。世界中でも同様の状況がつづいているが、欧米では心停止後からの肝臓提供が増加しつつある。現在、日本での肝移植は生体肝移植が80%以上を占めており、生体ドナーがいない場合には、脳死肝移植を待機するしか方法がない。現状でも脳死肝移植はゆっくりではあるが確実に増加しているものの、まだまだ欧米と比較して少ない。米国UNOSでの臓器提供数を見ると、2018年には約20%の心停止後ドナーからの臓器提供を認めており、今後もますます増加することが予想される。実際、将来日本での心停止後の臓器提供が可能かどうかを検討すると、いくつかの課題解決が必要になってくる。①心停止後臓器提供数をどのように増やすか、②提供後の肝臓配分の法整備、③提供された肝臓を最大限に使用する方法(Machine perfusionなど)等、多数の課題が見えてくる。今回、日本で心停止後の肝移植を進めるためには、心停止後の臓器提供の課題、肝移植を行うための課題、それらの解決方法などを改めて検討したい。

  • 小山 泰明
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 219_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     平成18年度の研究と世論調査からは年800件程度の脳死下・心停止下臓器提供があって然るべきであるが、昨年は約120件にとどまっている。ここには家族の負担だけでなく、現場の医療者側の負担が問題であると感じている。 まず家族の負担として、家族は「カードをいつ出したらよいか」教わっていない。医療者が「脳死」や「臓器提供」というキーワードを出さない限り、家族はいつ話を切り出したらよいかわからない。また今まで臓器提供について話したことがなければ、医療者が選択肢提示をすることで、家族で話し合いをもってもらうことができる。すなわち医療者側から選択肢提示をしなければ、何も始まらない。 しかし選択肢提示を、医療者は負担と考えている。どんな患者が臓器提供可能か分からない、家族にどう選択肢提示をしたらよいか教育を受けていない、だから家族に話すことができない。また提供することになったとしても、全身管理や移植医とのやり取りが医療者にとって負担になる場面もある。 家族内での意見の葛藤や承諾までの長い説明時間なども家族の負担となり、臓器提供希望する終末期患者の家族対応を医療者が負担ととらえている場合もある。今回、今までの経験や当院での調査および茨城県の臓器提供施設連携事業を元に、家族や医療者の負担をどう軽減することができるのかを考えていく。

  • 中村 晴美, 長屋 文子, 佐々木 秀郎
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 221_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    ドナー移植コーディネーターの業務として最も優先されることは、提供意思があった際にご家族とともに終末期について考え、提供意思を活かせる方法を医療者と検討し、安全に提供が行えるようコーディネートする事である。これは、臓器や組織など所属やあっせん資格に関わらず、ドナー移植コーディネーターに必要な業務である。現在は、あっせん資格の違いにより臓器・組織の説明を個別に行っている場合がほとんどであるが、ご家族にとっては、医療者から終末期の選択肢として情報提供をされる時、もしくは初めて移植医療に関する話を聞く時に、臓器・組織についての説明を受け、考えることが出来る事が必要だと考える。このような考えのもと、自施設内、神奈川県の医療施設には、臓器・組織も同時に情報の提供を行っている。その取り組みと課題について報告する。

  • 朝居 朋子, 田中 秀治, 三宅 康史, 横田 裕行
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 222_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    臓器・組織提供者の多くは突然の発症で重篤な状態であり、家族も危機的な心理状態にある。そのような中、回復不可能であることを診断、告知され、家族は残された時間に限りがあることを認識する中で様々な意思決定を行う。その中の1つに患者の臓器・組織提供がある。現行臓器移植法下の脳死下臓器提供においては、本人意思不明の家族承諾例が約8割を占め、本人意思不明な中、家族が意思決定する負担は大きいと考える。現在、臓器あっせんと組織あっせんは統合されておらず、それぞれの移植コーディネーター(Co)がインフォームド・コンセント(IC)を担当する。そのため、臓器移植Coの家族面談後に時間を置いて組織移植Coが面談に入ることもあり、家族は死後の提供の説明を複数回聞かされることになる。組織提供の情報経路分析(2018年)によると、約7割が日本臓器移植ネットワークか都道府県移植Coからの連絡である。中には死亡直後の連絡もあるが、死亡前の連絡の場合、臓器移植Coと同時に家族面談に入れることが望ましい。そのためには、Co間の連携醸成と役割分担、教育制度と認定、将来的には臓器あっせんと組織あっせんの統合が今後の課題である。また、厚生労働省研究班で研究されている重症患者対応メディエーター(仮称)は、重症患者の入院時から継続的に関わり、家族に精神的支援を行い、患者が脳死となった場合には大きな役割を担うことが期待されている。

  • 菊池 規子, 佐藤 琢真, 服部 英敏, 野本 美智留, 市原 有起, 斎藤 聡, 新浪 博士, 萩原 誠久, 布田 伸一
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 223_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    治療抵抗性難治性の65歳未満の重症心不全患者は、心臓移植の適応となりうる。ドナーの数が限定的である我が国においては、多くの患者は植込型補助人工心臓を装着し、年単位での待機を余儀なくされる。待機中に起こりうる様々な合併症もあり、定期的な全身評価、移植手術前の評価も重要である。移植の周術期の免疫抑制療法のレジメを決定・調整するには、レシピエントの腎機能や感染症、ドナー・レシピエントのHLAマッチングなどを考慮する。移植後急性期は拒絶反応に注意しながら、心筋生検などの諸検査、感染症対策、免疫抑制療法の管理を行っていく。移植後慢性期には患者の予後に大きく関与する腎機能障害や悪性腫瘍、移植心冠動脈病変などの管理が重要であり、患者の生涯を通じて必要となる。心不全から移植後長期に亘る一連の治療・管理をシームレスに行っていく上で循環器内科医の関わりは必須であり、患者との信頼関係の構築も重要で、移植内科の実践は正に内科医の醍醐味ともいえる。しかし、循環器内科のサブスペシャリティとして移植内科の構築はまだ始まったばかりである。日本移植学会においても「移植内科医育成」を目的としたTransplant physician委員会が2020年に設立された。移植実施施設での内科医の関わりの現状についてアンケート調査がなされており、その結果も合わせて報告する。 

  • 平間 崇, 前田 寿美子, 中島 崇裕, 狩野 孝, 中島 大輔, 杉本 誠一郎, 早稲田 龍一, 松本 桂太郎, 佐藤 雅昭
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 224_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    日本では移植施設の大半で移植外科医が肺移植患者の外来フォローを行なってきた。片肺移植が半数を占める日本では、原疾患の管理と固有肺の治療は移植後も重要であり、欧米のように呼吸器内科医が移植後管理をリードして診療をする時期に差し掛かっているのではないかと考えた。そこで、肺移植施設に勤務する移植外科医9名と呼吸器内科医9名、また非移植施設に勤務する呼吸器内科医14名にアンケート調査を実施し、移植施設における現在の外科医と内科医の介入度を調査した。また、移植医療について内科医が関われること、関わりにくいことを分析した。それらから、①呼吸器外科医は移植前、周術期、移植後と移植診療の大半を負担していること、②呼吸器内科医は移植前、移植後への介入に関心があるがその機会と教育の場が少ないこと、③内科医として移植患者を集中的に診察できる教育システムの充実させることが必要であることがわかった。これらを日本移植学会の今後の課題にできるか検討したい。

  • 木戸 亮
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 224_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    末期腎不全患者にとって、腎移植は唯一の根治的治療であり、重要な腎代替療法の選択肢の一つである。生体腎移植において、ドナーの安全性は最優先事項であり、移植医療が正当な医療行為であるための前提である。私が移植医療に関わり始めた2000年台前半、ドナー自身の腎提供後の腎・生命予後を含めた安全性、獲得し得る医学的リスクに関する詳細な検討・報告はまだ乏しく、ドナーの安全性を保証するに足る論拠は不十分であった。以降現在に至るまで徐々に蓄積された新たな科学的知見に基づき、各国で生体腎移植ドナーのガイドラインが作成されているが、適格性の判断指標として用いる医学的項目の選択やその基準値について、ドナーの安全性の側面から、妥当性の検証やさらなる検討を実施する余地は多く残されている。以前、私たちは診療録調査に基づいた臨床研究を実施したが、それらの研究結果とドナー診療の実践を通じて認識するに至ったことは、ドナーの医学的安全性に関わる重要な診療プロセスである、腎提供術前評価、術後フォローアップの要点は、いわゆる慢性腎臓病(CKD)患者に対して行う内科的診療と比べて大きな相違はない、ということである。本講演では、私たちが報告した研究内容や解釈とともに、生体腎移植ドナー診療は腎臓内科医の日々の医療活動との親和性が高く、ぜひとも内科医が積極的に関わることが望まれる移植医療のフィールドの一つであることをお伝えたい。

  • 進藤 考洋
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 225_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    小児で固形臓器移植医療に関わる内科医師を育成するために、マンパワーの制限(少人数体制)という体質的な問題と、患者が少ないという問題から生じるコストパフォーマンの悪さに対して何らかの対応策が必要である。脳死移植しかない心臓移植の現場を例にとると、小児科の一部門である循環器を担う常勤スタッフは、大学では相当多いところでも5-6名しかおらず、しかもカバーすべき領域の殆どは先天性心疾患である。小児病院や小児循環器科が単独診療科として存在する病院においても、成人移植実施施設の循環器内科ほどの陣容を用意することは難しい。一方、移植医療に関わる医師の学ぶべき内容は、多岐にわたる心不全の原因鑑別、年齢や状況に応じた心不全治療、移植免疫と幅広い。特に移植免疫は、本来素人である。現時点では、本邦における心臓移植を切り拓いた先輩方が施設の壁を越えて私たち後輩世代に有形無形の教育を施して下さっているが、個人の気概に大きく頼るのではなく、施設を超えた人材教育システムを構築する必要があり、本学会に求められる役割は大きい。

  • 吉川 美喜子
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 225_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    内科医とは、最初に患者に関わり全身を通してあるいは専門臓器を通して社会的背景やQuality of lifeに配慮した全人的医療を行う存在である。とりわけ臓器不全に対しては、抜本的な治療法がない中でその進行を遅らせ症状を緩和することに尽力している。そうやって関わってきた患者が臓器不全によって終末期を迎え、亡くなられた方、あるいは親族から提供された臓器を移植することによって再生する。この過程に畏敬の念を持ち、患者と喜びを共有し、新しい臓器との生活や生体ドナーを支えたいという思いは臓器不全に関わっている内科医に自然に湧く感情である。このような内科医のニーズと、患者の心身の健康・well-beingの達成に対する移植医療現場の在り方について、Transplant physician委員会の発足を機に検討したい。

  • 江口 晋
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 226_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    再生医療にて臓器作製が可能となれば、生体ドナー手術のプレッシャーなく移植医療の道が開ける。特に、自己細胞で自身の臓器を作製する事が出来れば、拒絶反応も起こらないし、脳死の患者さん、ご家族に臓器提供をお願いする必要もない。臓器移植による瀕死患者の劇的な改善を経験している肌感覚が、再生医療への大いなる期待を増幅させる。細胞を用いた再生医療・細胞療法の研究を行っていると、人工物、薬剤投与ではできない想定外の効果を目にし、驚愕することがある。つまり、細胞はタイムリーに、かつ適量の臓器修復因子や幹細胞刺激因子を産生し、放出する究極の自己調整型の治療である。最近、本邦での法整備の上で、細胞を用いた治療の臨床研究が行われ、今後の細胞、組織療法による展開のpath wayが見えてきたように感じる。細胞、組織移植による治療の開発により、難治性疾患の患者さんが治癒され、ALDが向上することは福音で、医療経済に寄与する事が出来れば尚更である。最終的には臓器を作製することが究極の目標であろう。自己細胞で修復再生臓器を作製し、それを吻合し移植する手術を行う事、そのような時代が来れば移植外科医冥利に尽きると夢見ている。

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