移植
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55 巻, Supplement 号
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  • 坂田 直昭, 吉松 軍平, 小玉 正太
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 296_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    白色脂肪組織は経門脈的膵島移植が選択できない場合の有効な移植部位と考えられている。我々は、腹腔内白色脂肪組織への膵島移植(脂肪内膵島移植:200膵島)の移植効率(血糖値の変化)を腹腔内、腎被膜下膵島移植と共にマウスを使用した動物実験にて検証し、脂肪内膵島移植の移植効率が腹腔内より優れ、腎被膜下に匹敵することを明らかにした(図1)。脂肪組織への膵島生着促進には脂肪由来サイトカインであるアディポネクチンが関与していると考え、膵島のアディポネクチン添加培養(10µg/mL)を行った。その結果、膵島における血管新生因子(VEGF)の発現強化が確認された(図2)。また、脂肪内に生着した膵島の新生血管数は腎被膜下に生着した膵島と比べ著明に増加していた(図3)。以上より、脂肪内膵島移植において、アディポネクチンは移植膵島の血管新生を促進させることにより脂肪組織への生着に貢献すると考えられた。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘, 松島 肇
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 296_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    我々は本邦登録データから以下のファクトについて報告してきた.・膵腎同時移植(SPK)は患者生存を向上し,膵グラフト生着も良好である.・糖尿病歴が30年を超えると移植後の患者生存は悪化していく.・60歳以上からの膵提供では膵グラフト生着は劣る可能性が示唆された.・腎移植後膵移植(PAK)は,先行した腎移植による影響が大きく,待機患者の生命予後の改善効果は認められない.・PAKでは膵グラフト生着は不良であるが,ATGにより,グラフト生着はSPKと同等であった.・膵単独移植(PTA)は待機患者の生命予後の改善効果は認められない.・PTAでは膵グラフト生着も不良で,ATGによる導入でもグラフト生着の改善は期待できない.・先進医療で実施した膵島移植では,グラフト膵の需要と供給のバランスは供給が上回っている.・脳死ドナー膵からの膵島分離成績は心停止ドナー膵より良好で,移植機会の増加が期待できる.上記から膵臓移植と膵島移植のallocationについて考察すると,①SPKは患者生命予後の観点から,できるだけ早期の移植を推進すべきである.②腎移植後の1型糖尿病患者にはPAKと腎移植後膵島移植(IAK)の治療成績を説明し,どちらかの治療選択,もしくは両者を待機できるシステムを構築する.③腎不全を伴わない1型糖尿病患者には保険収載後,膵島移植が積極的に勧められるのではないか.と考えられる

  • 藤倉 純二, 穴澤 貴行, 中村 聡宏, 伊藤 遼, 小倉 雅仁, 秦 浩一郎, 岡島 英明, 上本 伸二, 稲垣 暢也
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 297_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    2020年4月から膵島移植が保険適用となり、1型糖尿病に対する治療法の幅が広がった。当院フォローアップ症例の検討から膵島移植の安全性と効果について考察する。 2004年~2007年に行われた膵島移植症例について、インスリン依存性糖尿病の非移植症例を対照として、追跡可能な膵島移植症例の経過を後方視的に比較検討した。膵島移植群では、重症低血糖の低減とグラフト機能を伴うHbA1cの改善を一定期間認めた。感染症、消化器症状、悪性腫瘍について留意が必要であるものの、肝・腎機能に長期的な悪影響はなく、移植後10年以上の経過において致死的なイベントも発生していないことから、膵島移植の許容できる安全性が確認された。 最近の膵島移植症例については、移植前後の変化を持続グルコースモニタリング等により観察している。移植後は血糖変動の安定化が得られ、正常レベルの平均血糖、変動幅、HbA1cを維持する症例も少なくない。インスリン注射量の過不足による血糖値の逸脱を移植膵島からのインスリンやグルカゴンが補っている可能性が示唆された。「内因性インスリン分泌能が廃絶した糖尿病患者で、専門的治療によっても血糖変動の不安定性が大きく、重症低血糖のため良好な血糖管理を達成できない症例」に対する治療として膵島移植の普及が期待される。 

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘, 松島 肇
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 298_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    <背景>I型糖尿病患者に対する移植医療の適応を考える上で,患者生命予後に与える影響を知ることは重要である.本邦膵臓移植レジストリデータとJOTの膵臓移植待機患者の生命予後を比較検討した. <方法>膵臓移植(n=361)と,待機患者(n=699)の生命予後と比較検討した. <結果>待機患者の1,5,10年の生存率はそれぞれ98.4%,90.3%,78.1%であったが,移植後の生存率はそれぞれ100%,97.5%,88.9%と有意に改善していた(P=0.029).さらに腎臓同時移植(SPK)待機患者の1,5,10年の生存率はそれぞれ98.2%,89.4%,75.4%であったのに対し,SPK後はそれぞれ100%,94.6%,88.8%と生存率は有意に改善していた(P = 0.026).Cox比例ハザード回帰による多変量解析では,手術前の糖尿病期間がSPK術後の患者生存に影響を与える独立した危険因子(ハザード比= 1.095,P = 0.012)であることが明らかにとなった.術前の糖尿病歴が35年以上では,移植後の生予後は有意に悪化することが示唆された. <結語>膵臓移植は,1型糖尿病の患者,特に腎不全合併例にSPKを施行することによって,生命予後を改善することが明らかとなった.術前の糖尿病歴が短い方が移植後の生命予後の改善が図られるため,できるだけ早期の移植が肝要であると考えられた.

  • 西平 守邦, 山上 孝子, 松岡 裕, 石丸 由佳, 堀真 友子, 安田 香, 植木 常雄, 打田 和治, 両角 國男
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 300_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    腎不全患者の予後に腎移植は重要な選択肢であるのは既知であり,本邦では近年1800名程度の腎移植が行われている。腎移植医療の課題として,以前は拒絶反応による移植腎廃絶が問題であったが,免疫抑制剤の進歩によりその割合は減少し長期生着が図れる時代となった。ただし,残念ながら再導入となる患者が一定数いることは忘れてはならず,日本透析医会の年末統計では毎年約200名程度が移植腎荒廃に伴う透析再導入となっている。再導入は我々にとって治療の敗北と捉われがちだが,決してそうではない。本邦では再導入の平均年齢は56歳であり,透析導入患者全体の平均69.9歳より13年も若い段階での再導入であり新たなスタートと捉えるべきである。しかし,海外の報告では,腎移植後の再導入は通常の導入と比較し予後不良とされ,年齢や再導入時の貧血や栄養状態,CVDリスクと関連すると言われており,再導入前の積極的治療介入と計画的導入の重要性が指摘されている。当院では,外科と内科の共同で診療を行なっており,CKD-T stage4の段階からより積極的に内科が関わっている。保存的腎不全治療の強化にあわせ腎代替療法の説明も早い段階から行っている。移植腎荒廃は患者の人生において再スタートと認識し,トータルの腎不全ライフをより良く過ごすために我々医療者はどのように道標を提案できるか,当院での現状を紹介しながら今後の課題を共有していきたい。

  • 今村 亮一, 谷口 歩, 川村 正隆, 中澤 成晃, 加藤 大悟, 阿部 豊文, 野々村 祝夫
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 302_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     腎移植後悪性腫瘍は腎移植生存生着率に影響を及ぼす重要な病態のひとつである。一般的に健常者に比し、腎移植後患者の悪性腫瘍罹患率は3~10倍と報告されている。大阪大学関連施設での腎移植後悪性罹患率も、術後5年、10年、20年で各々2.5%、7.5%、19.4%であり、欧米各国の累積罹患率を下回っているものの、決して看過できない結果である。各悪性疾患別に関与する危険因子を解析し、対策を施すことが極めて大切であると考えられる。これまでわが国で多いとされていた胃癌等の消化器癌は減少傾向となり、移植後リンパ増殖性疾患や自己腎癌、乳癌、前立腺癌が増加傾向にある。これは胃癌に対するH. pylori除菌等のリスク因子への対応が功を奏した半面、強力な免疫抑制剤の導入や術前透析期間、レシピエントの高齢化が影響した結果でもあり、予防方法や早期発見の手法に関し議論が必要である。例えば、これまでカルシニューリン阻害剤は腎移植後悪性腫瘍の独立したリスク因子との報告が散見されるが、我々の解析上、個別の薬剤がリスク因子ではなく過剰免疫抑制が大きく影響していることが分かり、多剤免疫抑制療法の方策も検討すべきである。 本講演では、腎移植後悪性腫瘍の実態を提示するとともに、診断のタイミングや方法、治療に難渋した症例を振り返り、適切な対応に関する議論を深めるとともに、今後の方向性をディスカッションしたいと考えている。

  • 薄場 渉, 丸井 裕二, 佐々木 秀郎, 菊地 栄次
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 302_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    先行的腎移植(preemptive kidney transplantation; PEKT)は、維持透析を経ない腎移植を行う方法で、1990年代より海外を中心に施行例が増加してきた。本邦では海外とは10年の差で2000年代以降から普及が進み、現在では生体腎移植全体の20%を満たすまでとなっている。当院では腎移植を1998年から取り組み、2020年7月現在までに230例の腎移植を経験してきた。その中でPEKTは2006年から取り入れ、40組の腎移植ペアを経験した。その内訳は全てが生体腎移植で、血液型適合が31例、不適合が9例であった。親子間が20組で最も多く、兄弟間4組、夫婦間が16組であった。レシピエントの原疾患はIgA腎症が最多で10例(25%)、次いで嚢胞性腎疾患が6例(15%)であった。5年生着率は約87%で術後早期に移植腎廃絶した症例は2例、死亡した症例は1例であった。PEKT実施のために、当院では多職種で総合的に評価しており、移植予定前にレシピエント及びドナーに術前評価入院をし、心血管系の評価や腎機能の予後を評価した上で妥当な手術日を決定している。そのため、より安全に腎移植を施行するために、PEKTができなかった症例もある。本発表では、当院でのPEKT候補症例に対してPEKTに至らなかった症例を検討し、実施症例との比較により、より良いPEKTの在り方を考察する。

  • 鑪野 秀一
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 303_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【はじめに】尿毒症性心不全患者は腎移植により腎機能が回復すれば、心機能も回復することが知られている。一方で心不全患者に対する腎移植は、手術適応・麻酔・周術期管理が問題となるが、患者の心不全状態により対応は様々であり、術後管理に難渋する症例もある。今回我々の経験した2症例を提示する。【症例1】60歳女性。生体腎移植を予定するも、術前EF 17%と評価された。薬物療法では心機能は改善せず、透析不足による尿毒症性心の可能性が考えられたため動脈表在化で管理したところ、術前EF 35%まで心機能が改善した。周術期経過は問題なく、術後1年目でCr 0.8mg/dlと良好である。【症例2】34歳男性。術前検査で左心不全を指摘され、薬物療法とドライウエイト調整を行うも心機能は改善せず、術前EF 14%と評価された。術中の収縮期血圧は70~80mmHg程度で、初尿は確認できなかった。術後はボリュームビューで循環・呼吸を管理することで肺水腫を回避しつつ最大限の補液を行い、ノルアドレナリン中止が可能となった。術後14日目に透析を離脱、術後1年目でCr 2.1mg/dlで外来フォロー中である。【結語】低心機能患者でも腎移植は可能であるが、低血圧を伴う場合は、麻酔導入時や周術期は極めてリスクが高い。透析条件やシャント不全により尿毒症性心に陥っている可能性もあるので、患者のコンディションを見極める必要がある。

  • 後藤 憲彦, 阿部 哲也, 小笠 大起, 大原 希代美, 友杉 俊英, 岡田 学, 二村 健太, 平光 高久, 鳴海 俊治, 渡井 至彦
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 303_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    免疫抑制薬進歩による腎移植生着率向上から、以前は諦めていた腎移植レシピエントも妊娠出産をトライできるようになり、腎移植後妊娠出産数は年々増加している。移植時年齢により、卵子の年齢が低下してくる時期に、妊娠許可が出る腎移植患者も多い。腎移植レシピエントの女性側の不妊の原因は、高プロラクチン血症、低エストロゲン血症、低プロゲステロン血症による排卵障害が主であり、不妊症外来が必要となることが多い。タイミング法から排卵誘発法、人工授精法、体外受精法へステップアップする。腎移植後は、胎児発育不全(FGR)の原因となる因子が多い。母体側の妊娠高血圧症候群(PIH)、腎臓病、貧血、糖尿病とともに、胎児側の因子である多胎を追加してはいけない。腎移植後は多胎を回避するために、排卵誘発しながら人工授精はおこなわない。当院において腎移植後多胎妊娠を3例経験した。原疾患は、1型糖尿病2名、多発性嚢胞腎1名。妊娠時の年齢は33、35、35歳であった。いずれの不妊治療法も人工授精であり、2例で排卵誘発、1例は両側排卵であった。妊娠週数は、27、26、34週で、出生体重は609/638g、721/973g、1955/2188gであった。腎移植後の多胎妊娠を避けるためには、不妊症外来との密な連携が必要である。当院での3例からの経験と、多胎を避けるための取り組みを紹介する。

  • 會田 直弘, 伊藤 泰平, 栗原 啓, 長谷川 みどり, 坪井 直毅, 剣持 敬
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 304_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【はじめに】血栓性微小血管症(TMA)は移植後早期におこることが多く,高濃度のCNI暴露がリスクの1つとされる.移植後安定期にTMAを発症した1例を報告する.【症例】59歳,女性.慢性糸球体腎炎にて生体腎移植施行.維持免疫抑制はFK,MMF,mPSLで開始したが,非定型抗酸菌の腹壁感染にて,FK,EVL,mPSLに変更した.移植後2.5年,尿蛋白およびCreの上昇(0.85→1.36)を認めた.腎生検にてIgA血管炎と診断し,ステロイドパルスを開始するも改善を認めなかった.治療開始時より進行性の貧血と血小板の減少を認め,治療後5日目には血小板が1万まで低下した.破砕赤血球が陽性、ハプトグロビンは極低値で,ADAMTS13活性は保たれていた.TMAと判断し,FKの内服を中止,血漿交換を開始した.開始後Creは改善,5回施行したところで血小板の上昇も認め,TMAも改善したと判断した.改善後2週より維持免疫抑制としてFKを再開.以後腎機能正常(Cre 0.84),TMAの再発なく経過している.【考察】IgA血管炎,ステロイドパルス,FKはいずれもTMA発症のリスクとされる.本症例はこれらを同時に認めたことで血管内皮傷害が著明となりTMAを発症したと考えられる.【結語】腎移植後,IgA血管炎の加療中にTMAを発症した1例を経験した.FKは安定期においても発症のリスクであり注意が必要である.

  • 山田 大介, 濱崎 敬文, 久米 春喜, 南学 正臣, 鈴木 基文, 川合 剛人, 佐藤 悠佑, 中村 真樹, 山田 雄太, 秋山 佳之
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 304_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

      透析患者の64%は左室機能異常を有するといわれ、死亡原因の第一位が心不全(23.9%)となっている。生体腎移植により心機能の改善がみられる可能性がある一方で、重度の心不全は、周術期合併症、移植腎生着率低下の懸念から、移植適応とされないこともある。今回我々は心機能の低下した透析患者2症例に生体腎移植を施行した。移植は安全に施行され、術後、心機能の改善がみられたので報告する。 症例1:32歳男性。18年前にIgA血管炎に伴う腎炎にて血液透析導入。1年前に心機能低下(左心駆出率(LVEF)24%)をきたし、拡張型心筋症と診断された。妻をドナーとする生体腎移植を施行し、術後8カ月でLVEFは35%、術後33カ月で39%まで回復した。症例2:29歳男性。5年前に急性心不全、肺炎、急性腎不全にて一時的に血液透析施行。4年前に拡張型心筋症と診断され、2年前には維持血液透析が導入された。術前のLVEFは28%だった。兄をドナーとする生体腎移植を施行し、術後8カ月で64%まで回復した。

  • 岩井 友明, 西出 峻治, 香束 昌宏, 長沼 俊秀, 熊田 憲彦, 武本 佳昭, 内田 潤次
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 305_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    症例は55歳男性。X-2年10月に生体腎移植術を施行した。ABO血液型不適合であったため術前に血漿交換を行い、免疫抑制療法はリツキシマブ、ステロイド、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、バシリキシマブを使用した。術後経過は良好で、血清クレアチニン値は1.0mg/dL前後で安定していた。抗サイトメガロウイルス(CMV)抗体がドナー陽性/レシピエント陰性(D+/R-)であったためバルガンシクロビルの予防的投与を243日間行った。なお、この時点で抗CMV抗体は陽性化していなかった。X年4月(移植後1年半、予防内服終了9か月後)、発熱と肝機能障害(T-bil 0.4mg/dL, AST 181U/L, ALT 153U/L, ALP 1018U/L, γGTP 395 U/L)、C7HRP 529/50,000と高値を認め、CMV肝炎の診断にて緊急入院となった。MMF内服を中止し、ガンシクロビル点滴を開始した。経過中、エベロリムスの内服を追加した。肝機能障害は遷延し、33日間のガンシクロビル点滴が必要であったが、C7HRPは陰性化し、抗CMV抗体も陽性化して第43病日に退院となった。その後再発を認めていない。有効とされる200日間の予防内服終了後、長期経過してから遅発性CMV感染症を発症した症例を経験した。D+/R-症例への対処を、文献的考察をふまえて検討したい。

  • 石村 武志, 田代 裕己, 藤本 卓也, 遠藤 貴人, 西岡 遵, 横山 直己, 小川 悟史, 藤澤 正人
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 305_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    22歳女性。2004年、巣状分節状糸球体硬化症の診断で保存加療開始。2012年両側腎腫瘤とPTEN遺伝子異常を指摘、腎腫瘍針生検で腎細胞癌と診断され、2013年当科紹介となった。PTEN過誤腫症候群による両側腎癌の診断のもと、エベロリムス(EVR)10mg/日を開始したが蛋白尿増悪で中止した。2014年4月右腎、12月左腎腫瘍に対し後腹膜鏡下根治的腎摘除術施行、病理診断はいずれもPTEN-hamartoma syndrome related RCCであった。2年間の無再発期間を経て2016年父親をドナーとする生体腎移植を施行、2020年現在腎癌の再発を認めず移植腎機能も良好に経過している。本症例はPTEN遺伝子異常に起因する両側腎癌に対して加療後であったが、同様の機序で甲状腺、乳房、子宮に悪性腫瘍発症が後発するリスクを有した。腫瘍発生機序にPTEN遺伝子異常と下流蛋白であるmTORの発現亢進が関連していることから、mTOR阻害薬であるEVRを中心とした免疫抑制療法を行い、また全身定期スクリーニングと遺伝子カウンセリングを行うことで、腎癌の再発やその他臓器の悪性腫瘍発生を予防しつつ移植腎機能維持を企図した。しかし、EVR以外の免疫抑制剤については腫瘍発生に対して不利に作用する可能性もあり、十分に説明を行い腎移植の同意取得をしたが、今後も慎重に経過を観察する必要があると思われる。

  • 秋本 修志, 田原 裕之, 築山 尚史, 井出 隆太, Akhmet Seidakhmetov, 山根 宏昭, 佐藤 幸毅, 今岡 祐輝, ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 307_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    移植ドナーの少ない我が国では、血液型不適合腎移植症例は増加傾向にあり脱感作療法・アフェレーシス療法によって血液型適合移植症例と同等の治療成績である。術前血液型抗体価が低値の場合、抗体除去療法を行わず腎移植を行っているがその影響については不明な点が少なくない。我々は、血液型不適合腎移植症例で術前アフェレーシス療法の有無により、術後腎機能やその後に違いがないか検討した。 症例は2011年1月から2020年1月に血液型不適合腎移植を行った40例(クロスマッチ陽性脱感作症例を除く)で、術前アフェレーシス療法施行群:26例、術前アフェレーシス療法非施行群:14例であった。術後腎機能(eGFR)は術前アフェレーシス療法非施行群で術後3ヶ月まで低値であったが、その後は両群に差はなかった。また、周術期の腎動脈血流(RI)や血清補体価、初尿時間、術後感染症、移植後腎機能障害(DGF)に差はなかった。一方、術前アフェレーシス療法非施行群では有意差はないものの術後早期にHbやPLTの低下、LDHの上昇を認め、血液型抗体価16倍以上の症例(n=6)ではその傾向が顕著であった。 以上より、術前アフェレーシス非施行症例の中でも術後に軽度の溶血性変化を生じ術後早期に一過性の腎機能障害を認める傾向が示唆され、長期予後に影響がでるのか今後解析を重ねることで、術前アフェレーシス療法適応基準の再考の余地が考えられた。

  • 三輪 祐子, 岩﨑 研太, 岡田 学, 友杉 俊英, 渡井 至彦, 堀見 孔星, 奥村 真衣, 木下 航平, 石山 宏平, 小林 孝彰
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 307_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】ABO血液型不適合腎移植(ABO-i)の成績は向上し、現在解決すべき課題は急性抗体型拒絶反応(ABMR)と、過剰免疫抑制による感染症である。我々は、移植後のABMRを回避し、感染症を抑え、移植腎の免疫順応(accommodation)を引き出すために、ABO-iプロトコール適応基準を置いている。【方法】傾向スコアマッチングにより抽出したABO-iレシピエント血清42検体(ABMR =14,non-ABMR=28)抗A抗体価は、赤血球凝集反応と赤血球FCM法を用い、total IgG/IgM、IgGサブクラス測定、C1q assayを行った。【結果】total Ig中央値は(ABMR=69845, non-ABMR=16794)で、 ROC曲線のcut off値は、赤血球凝集反応の64倍であった。またIgGサブクラスは有意差を認めなかった。一方C1q-DTT (IgM不活化) 陽性率(%)は(ABMR=9.6%, non-ABMR=6.2% P<0.05) cut off値7.5%であった。【結論】上記の結果より現在ABO-iプロトコールとして IgG32倍以下、C1q-DTT 7.5%以下の場合リツキサン投与(freeおよび1回), 血漿交換(DFPP)を2回施行する、脱感作減量プロトコールを実施している。今後このプロトコールを用いた症例の詳細な解析が必要と思われる。

  • 橋口 裕樹, 佐藤 滋
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 308_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    血液型不適合移植において、ABO血液型抗体価は脱感作の指標として実施され、抗体価測定は、施設内の検査部門、輸血部門の臨床検査技師が担当することが多い。抗体価の測定法は従来の試験管法に加えて、現在は輸血自動分析機で測定することも可能となってきた。しかし測定に関しての標準プロトコルは関連学会等からは出ておらず、各施設のプロトコルで検査を実施しているのが現状である。加えて使用する検査試薬は人の生赤血球を用いること(試薬期限が短く劣化の影響もある)、最終判定が検査者による目視である等、検査結果に影響を及ぼす要因は多い。今回、日本移植学会 医療標準化・移植関連検査委員会では全血クロスマッチ精度管理(日本組織適合性学会との共同事業)に併せて、血液型抗体価測定を全国48検査施設に配布し検査依頼を行った。過去に同様の精度管理は不定期で実施されていたが、現在は実施されておらず、現状の抗体価検査の精度を調査し報告する。

  • 森田 研, 福井 理予, 青柳 俊紀, 谷口 成実, 村雲 雅志
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 308_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】血液型不適合腎移植においては脱感作療法と抗体除去が行われる。【目的】抗体関連拒絶反応予防効果について検証する。【対象】2016年以降の生体腎移植22例中、血液型不適合腎移植6症例(27.3%)。移植時年齢中央値は56歳(41-62)歳、男性2女性4であった。A不適合3、B不適合2、AB不適合1で、抗体価(IgG)中央値は40(8-256)倍であった。【方法】リツキシマブ200mgを投与後タクロリムス・MMFを4週間投与し術前にCD19陽性細胞数<5/mm3を確認した。透析施行症例は術前1週間以内に血漿交換を1回施行した。移植前後の抗体価の推移、抗体関連拒絶反応の有無、移植腎機能、術後合併症につき検討した。【結果】脱感作後の抗体価は中央値2(2-32)倍に低下しており、移植後の再上昇は認められなかった。5例で抗体関連拒絶反応を認めた。発生日中央値は4.5(3-10)日目で、移植時または7日目以降の腎生検で病理学的に確認し、ステロイドパルス療法・血漿交換を行い移植腎機能は治療前に復した。術後合併症として創感染・尿路感染・脳梗塞を各1例で認めたが術後中央値29(16-41)日で退院した。【考察】高率に抗体関連拒絶反応を発生した要因として先行的腎移植の2症例で術前血漿交換を施行しなかったこと、リツキシマブ投与量等が考えられた。【結語】抗体産生能の定量的評価と脱感作基準が課題である。

  • 山本 竜平, 齋藤 満, 齋藤 拓郎, 提箸 隆一郎, 嘉島 相喜, 小泉 淳, 奈良 健平, 沼倉 一幸, 成田 伸太郎, 佐藤 滋, 羽 ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 309_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】Rituximab時代でのABO血液型不適合腎移植(ABOI-KT)における抗血液型抗体価のリバウンド現象の臨床的意義は明らかとされていない。【対象・方法】2005年11月から2019年3月までに当院でRituximab投与後にABOI-KTを施行した70例を対象とした。術直前の目標抗体価をIgG/IgMとも32倍以下に設定し、抗体除去療法は1~4回施行した。抗体除去療法後に抗体価がbaselineまで再上昇した場合、リバウンド現象有りと定義した。【結果】リバウンド現象は20例(29%;リバウンド群)で認められ、また移植後1ヶ月以内のABMR発症例は10例(14%)であった。リバウンド現象はbaseline抗体価64倍以上例(p = 0.001)と抗A抗体例(p = 0.016)で有意に発生頻度が高かった。Baselineや移植直前の抗体価とABMRとの関連性は認められなかったが、リバウンド群では7例(35%)にABMRがみられ、非リバウンド群(50例)と比較して有意にその頻度が高く(p = 0.004)、多変量解析ではリバウンド現象がABMRの独立した危険因子であった(p= 0.003)。【結語】リバウンド現象はABMR発症の危険因子であり、ABOI-KTでは目標抗体価の達成の可否のみならず、リバウンド現象の有無にも注目すべきと考える。

  • 田邉 起, 堀田 記世彦, 岩原 直也, 岩見 大基, 篠原 信雄
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 309_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】当院のABO血液型不適合腎移植は、2週間前にRituximab200mg投与、Tacrolimus、MMFを開始し、術後はSteroidを加えた3剤内服としている。血漿交換は脱感作前の抗体価で回数を調整し、IgM、IgGともに8倍以下の症例は血漿交換を行っていない。当院の低抗体価症例の成績を検討した。【対象】上記プロトコールで導入された13例。男性6例、女性7例、平均年齢50.1歳。全例で血漿交換なしで、移植当日の抗体価も8倍以下のままで移植が行われた。【結果】13例中2例に急性抗体関連型拒絶反応(AAMR)を認めた。1例目は術後6日目に血清クレアチニン(sCr)が上昇、1hr生検でg1のみがありAAMRと診断。ステロイドパルス3日間で改善した。2例目は術後sCrの下降が緩徐で、術後2日目に血小板低下(3日目には1.8万/μl)、LDH上昇、ハプトグロビン低下を認め血栓性微小血管障害(TMA)の診断となった。1hr生検でptc2、g3を認め、AAMRが原因の2次性TMAとして、血漿交換4回、ステロイドパルスを行った。徐々に採血データが改善、術後8日目の生検でg1、ptc3が残存、一部血栓はあるが、臨床的に改善傾向のため追加治療は行わず経過観察し、1ヶ月目の生検で病理学的改善を確認した。【結語】低抗体価症例でも重度のAAMRを起こす症例があり、術前の血漿交換は必要と考える。 

  • 原田 浩
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 310_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    わが国の腎移植件数は増加を続け、昨年初めて総数では2000件を超えた。しかもわが国では生体腎移植であれば10年生着率が90%を超え非常に良好である。反面腎移植施設は減少に転じ、大規模施設では移植数が増加している反面、小規模施設での移植件数は減少している。その結果日本の多くの腎移植は限られた施設で行われている。そして移植前の適性評価、腎移植後のF/Uは、そのまま大規模施設で行われる傾向が顕著で、最終的に外来腎移植患者数は激増し続けている。東京、名古屋、大阪、福岡などでは腎移植フォローアップ施設は存在するが、東京より北には存在しなかった。昨年自分は大規模腎移植施設である市立札幌病院に隣接した腎移植フォローアップ(F/U)クリニックを開設した。その目的は1.きめ細やかな腎移植後の診療のために、F/Uキャパシティーを増やすこと、2.延長している腎移植待機期間の解決のために、外来負担を減じ腎移植枠を増加させること、3. 腎移植の検査をも細やかに行うこと、4.若手にステップアップの機会を与えることでした。開設後1年を経過し、300人を超える腎移植患者のF/Uを中心に行っている。開設にあたってはそれまでの診療の質を落とさないように、検体検査室を併設し、薬物血中濃度を含む検査結果を短時間で伝えることができている。今後も他地域でも必要なモデルとなれるようにその経緯、診療の実際につき報告する。

  • 伊藤 慎一, 松岡 哲平
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 310_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    腎移植後患者の診療は移植施設で行うのが一般的であるが,最近では移植医による移植後患者を中心に診療するクリニックの開設も見られるようになってきた.演者は岐阜大学を退職後,2012年4月より当院院長として勤務している.当初,98名の腎移植患者が当院に通院していたが,2020年7月現在は82名が通院中である.腎移植患者の診療に対応して主だった検査は院内で測定する体制を取っている.そして合併症を抱えた患者のため糖尿病や循環器内科専門医にも当院での診療を依頼している.しかしクリニックであるため時間外診療や入院治療に対応できない.このため,入院治療が必要となる場合には移植施設やその他の基幹病院と連携して診療を行っている.また,遠隔地からの通院患者もいるため当院以外にかかりつけ医的な医療機関を持つ患者もいる.以前に比べて,「免疫抑制剤を内服している臓器移植患者」だから対応を拒まれることは少なく,免疫抑制剤の調整や併用禁忌薬の指示などの情報を適切に行えば断られることは殆ど無い.診療時間外の対応は24時間365日,外来担当Nsと私が常時携帯電話で対応できるようにしている.クリニック診療のデメリットもあるが,夜間・土曜日も含め診療時間の自由度が高いこと,また患者に十分な診療時間を取ることができ,ひいては患者満足度が向上することと考える.

  • 山田 洋平, 梅山 友成, 工藤 裕実, 金森 洋樹, 加藤 源俊, 長谷川 康, 松原 健太郎, 尾原 秀明, 北川 雄光, 星野 健, ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 311_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    <背景>当科における腸管リハビリテーション体制と小腸移植への取り組みを紹介する。 <方法>腸管不全患者(短腸症候群4名、腸管運動障害12名、小腸移植後患者6名)のカルテを解析した。腸管不全患者のトータルマネージメントとして、小児外科・小児科・栄養科・臓器移植センター・内分泌科・消化器内科・在宅支援で連携し、幅広い年齢層の患者を受け入れている。 <結果>短腸症候群4名は年齢30-37歳、原疾患は中腸軸捻転・平滑筋種捻転による血流障害・大動脈解離による小腸全摘が1例ずつであった。残存小腸は0から21センチで、過去1年間の入院の原因はカテーテル感染症・尿路結石・脱水・アシドーシス・心タンポナーデが原因となっていた。そのうち2例は小腸移植を待機している。腸管運動不全患者は年齢2-32歳、isolated hypoganglionosis7例、Total intestinal aginglionosis2例、Chronic intestinal pseudostruction3例であった。過去1年間の入院原因は、カテーテル感染症・消化管出血・腸炎であり、そのうち一例はルート欠乏から小腸移植の待機中である。一方で小腸移植を受けた6名は4-27歳(移植後3-15年経過)、直近の1年間では脱水による入院を1例に認めた。 <結論>小腸移植を包括する腸管リハビリテーションの体制を確立した。

  • 工藤 博典, 和田 基, 佐々木 英之, 福澤 太一, 安藤 亮, 山木 聡史, 大久保 龍二, 橋本 昌俊, 遠藤 悠紀, 多田 圭佑, ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 311_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     腸管不全(以下IF)治療の基本は、可能なかぎり残存腸管機能を活用し静脈栄養(以下PN)依存度を下げ、合併症を予防、軽減することだが、致死的合併症により生命維持が脅かされる場合、中心静脈ルート確保困難などPN継続が困難な場合、著しいQOL障害時などに小腸移植の適応が考慮される。一方、本邦での小腸移植は、1996年から2018年まで27名30回にとどまる。今回、小腸移植への患者紹介を増やすためのポイントを論じる。・移植成績の向上:成績の向上は、移植適応にも関連する重要な因子である。本邦の移植後患者生存率は1年89%、5年72%、10年54%、グラフト生着率1年82%、5年60%、10年41%と、中長期的には良好と言いがたい。免疫抑制療法の改良により成績は改善傾向だが、さらなる向上を要する。・啓蒙活動:これまでも学会・研究会・論文などで発信してきたが、医師間でも小腸移植が知られていない現実に遭遇する。よって、これまでの活動に加えて、内科・栄養系の学会への参加や各施設のHPの充実等が必要である。また小腸移植は、IF治療において独立した選択肢では無く、多方面からの包括的治療である腸管リハビリテーションプログラム(以下IRP)の一環として位置づけられる。小腸移植のみならずIRPについても啓蒙しIF治療に関わる医師の意識が変わることで、移植も含むIRP実施施設への患者紹介の増加が期待される。

  • 中前 博久
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 314_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    HLA半合致同種造血細胞移植(以下、HLA半合致移植)では、HLAの不一致が複数存在するため、HLA一致移植の場合と比して、GVL効果が高いのではないか、という期待が少なからずある。実際、いくつか既報告において、HLA半合致移植は、HLA一致血細胞移植に比べると、再発率が低いとする報告があるが、結論は出ていない。一方、HLA半合致移植はHLAの不一致により、重症GVHDが発症するリスクが高く、歴史的にもGVHD/GVL効果の制御は困難なものであった。 近年、移植後に大量シクロホスファミド(PT/Cy)を用いることで、HLA半合致移植を比較的安全に施行できることが分かり、世界的に広がりを見せている。PT/Cyを用いたHLA半合致移植(PT/Cy-haplo)症例の解析や、他の移植方法との比較研究によって、HLA半合致移植後のGVHD/GVL効果の制御の機序詳細が分かってきている。とくに、PT/Cy-haploにおいては、移植後に保持される、制御性T細胞のGVHDの制御への関与が大きいことが判明してきた。一方、GVL効果においては、T細胞除去HLA半合致造血細胞移植やPT/Cy-haploにおいては、NK細胞の寄与が大きいとする報告が複数ある。今回のシンポジウムでは、最新の知見をもとにHLA半合致移植後のGVHD/GVL効果の制御について考察を行う。

  • 大里 俊明, 中村 博彦
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 315_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    脳死下臓器提供が可能な5類型施設に「日本脳神経外科基幹施設または連携施設」は含まれる。5類型約900施設のうち、提供体制が整っている施設はその半分、提供を経験した施設はさらにその半分以下が現状である。当施設では過去、脳死下臓器提供を6例施行した。一民間病院から言えるのは、脳死下臓器提供が膨大なエネルギーを持ってなされるということである。それは施行「前」である適応決定から家族への選択肢提示、同意取得、法的脳死判定、ドナー管理、施行「中」は、摘出術の日程調整、摘出チームへの対応、手術室の管理、摘出術中の他手術への対応、摘出臓器搬送対応であり、施行「後」は、症例報告書類作成、事務処理に追われる。札幌にある当施設は摘出チームが遠方からとなることも多く、特に冬季においては移動手段含め日程調整に難渋することもある。さらに現在は新型コロナ感染症により都道府県をまたいだ移動は非現実のものとなっている。脳神経外科は手術業務、救急含めた外来業務、病棟業務、日当直業務など、その労働条件は過酷と言える。加えて脳外科術後症例が脳死下臓器提供対象症例となった場合、ほぼ敗北からの選択肢提示となる。マンパワーだけではなく、主治医に寄り添う心のパワーも求められる。今回、これだけの思いが詰まった脳死下臓器提供がなされる現実を、移植手術に携わる方々にお伝えする機会を本学会において頂いたことに深謝申し上げる次第である。

  • 水谷 敦史
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 315_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    我々脳神経外科医・救急医は神経系重症患者の治療に日々注力している。しかし最大限の治療にも関わらず脳蘇生不能(=救命不能)となる症例が存在する。救命できない患者に対しては終末期医療を提供することになるが、その選択肢のひとつに臓器提供がある。終末期の方針決定の際にはいくつかの配慮が必要である。ひとつは方針決定にある程度の時間をかけることであり、もうひとつは選択肢に臓器提供を含めることである。患者が脳蘇生不能(≒脳死状態)にあることを患者家族が理解・受容することは容易ではない。客観的な診察所見・検査結果を用いて家族に丁寧に説明し、ある程度の時間をかけていくことが望ましい。家族が脳死であることを理解・受容できてから、終末期の方針の相談をするように心がけている。また臓器提供という選択肢を含めて終末期の方針を相談していくことも重要である。本人が臓器提供の意思表示をしているか否か不明のまま、終末期の方針を決定しようとしている例もある。家族は臓器提供を希望していなかったが、実は本人が臓器提供を希望していたことが判明し、最終的に臓器提供を実現した例も経験している。脳蘇生不能になった時点で治療が終わるのではなく、最期を迎えるまでがその患者への治療でありたい。臓器提供を含めた終末期医療も脳神経外科医療・救急医療の重要な一部であると考える。

  • 名取 良弘
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 317_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    大学病院から赴任した飯塚病院で、臓器提供の責任者に突然指名されたこと、福岡県の臓器提供を推進する団体の牽引役が、大学在職中の知り合いで、臨床に一生懸命な腎移植グループの先生だったことが、出会いの始まりでした。2004年9月始めて参加した福岡県の臓器提供の会議で、招待講演者だった臓器提供に反対する弁護士の方が、司会役の上記の腎移植医を論破する勢いで、移植医療には門外漢であった私にも『なんで、あの臨床に一生懸命な先生が、誤解まみれの弁護士に罵られる筋合いがあるのか!助けてあげたい。』という気持ちが芽生え、臓器提供に関与しようと決めたきっかけとなりました。さらに、福岡県コーディネーターの岩田誠司さんが2005年に作られた「福岡県のお知らせ」が大きな推進力となりました。また、初めての心停止下臓器提供例のお見送りの際、『家族には人生で最も良いことをさせてあげることができました。ありがとうございました。』と、ご家族から深々と頭を下げられたことは、衝撃的でした。患者・家族を中心として、疾患の治療を第一に活動する医療チーム、患者家族に寄り添い適切なアドバイスやサポートを行うチームがあり、更にその外に患者家族の思いをきちんと遂げるようにする移植チームがいる構図の中で、それぞれのチームの橋渡しとなるように、今までもこれからも急性期病院で活動を続けていきます。

  • 植田 育也
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 318_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    小児が死亡する頻度は成人に比して低く、医療者がその死に直面する機会は少ない。よって小児医療従事者には「看取りのケア」の経験が不足している。その中で、治療が困難になり救命の見込みが失われたとしても、現場では「頑張るのが当たり前」との声が大勢を占めたり、また「家族の気持ちを考えると厳しい話は……」と終末期であるかの検討が避けられてしまう実情がある。命を失いつつある小児の「最善の利益」が損なわれない様に、まず小児医療従事者自身が小児の終末期についてしっかりと考えていくことが必要である。そして看取りのケアをしっかりと行う中で、臓器提供という選択肢が見えてくるのである。「急性期」かつ「小児」の終末期を考える上では、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会による「救急・集中治療における終末期医療に関する提言(ガイドライン) 」、および日本小児科学会による「重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン」が参考になる。脳死は終末期の類型の一つであるという考え方を踏まえ、終末期の小児と家族のために、救命できないという事実をしっかり伝えた上で、本人の「最善の利益」とは何か、医療従事者からの提案をもとに、家族としっかり話し合い、結論を導く必要がある。この様な、小児医療従事者側の心構えと、家族の尊い決意から脳死下臓器提供に至った自験例を供覧する。

  • 佐々木 聡, 佐藤 滋
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 320_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    秋田県の臓器移植Coは筆者で2代目である。前任のCoの尽力により院内体制整備等の種は蒔かれその芽を筆者がなかなか成長させられず苦慮しているのが現状である。その中でも少しずつではあるが院内体制整備等を進めてきた。1つ目はMSWとの連携である。厚生労働省が示す臓器提供施設の連携体制構築事業における入院時重症患者対応メディエーターにMSWの関与の可能性が示唆されていることから、秋田県MSW協会と秋田県院内臓器移植Coとの合同の研修会を開催した。また、臓器提供におけるMSWの関与のあり方のアンケート調査を実施し、問題を抽出することができた。2つ目は脳神経外科・ICUカンファレンスの出席である。診療科と日頃から顔が見える関係を構築することで、臓器提供事例発生時や普段の相談等円滑に進むことが期待される。3つ目はいのちを考える学習会である。秋田県では、小・中・高・看護学校等に平成26年度から移植医療に関する学習会を実施している。秋田県では移植医療に主眼を置いた学習会ではなく、「いのち」を大切にすることがひいては自分の最期をどう迎えるかということにつながることを主眼に置いている。特に児童に伝えるということは、保護者にも伝わることを意味し、少しずつではあるが確実に移植医療についての普及啓発が見込まれる。これら秋田県における臓器移植Coの院内外の連携と協働について報告する。

  • 中村 晴美, 竹田 昭子, 小川 直子, 今村 友紀, 野尻 佳代, 吉川 美喜子, 湯沢 賢治, 長谷川 友紀
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 322_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【目的】日本移植コーディネーター協議会(以下、JATCO)では、臓器提供に対する医療の向上やJATCO開催の研修会に役立てるため、アンケート調査を実施した。【方法】JATCOドナー会員として登録されている会員227名を対象に、院内コーディネーターの施設・意識調査を無記名式アンケート形式で実施した。【結果】回収数87人(回収率38%)、職種は、看護師71名(回答者の81%、以下同じ)、医師4名(4%)、臨床検査技師4名(4%)、その他8名(9%)であった。院内コーディネーターの主な業務は、臓器移植・提供の啓発・教育(46%、複数回答可、以下同じ)、臓器提供マニュアルの作成(45%)、シミュレーション(44%)など啓発活動や体制整備が多く、次いで院内関係部署への連絡(42%)、院外の移植コーディネーターへの連絡(32%)、患者・ドナー管理の支援(26%)、法的脳死判定の支援(25%)など提供に関する業務であった。今後受講したい教育内容は、終末期にある患者家族とのコミュニケーションスキル(55%)、職員へ向けたスタッフ教育の方法(55%)、提供後スタッフのメンタルケア(50%)、終末期患者家族のケア(47%)、院内体制の仕組みつくりやマネジメント方法(44%)であった。【結論】院内コーディネーターはスタッフ教育、体制整備、提供対応に対して、実践的な研修会を望んでいることが示唆された。

  • 平井 理心
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 323_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    筆者の主の業務は、医療安全部門における臨床心理士である。そこでは、医療事故に遭った患者・家族および医療者のケア、医療事故再発防止策の心理学的視点からの策定、苦情・クレーム対応等の業務がある。そして、院内コーディネーター(以下、Co)を兼任している。当院には院内Coが7人いるが、業務量はかなりものになる。ドナー発生時は、家族のケアや意志決定支援を行う。筆者は医療メディエーターの上級認定をうけており、このskillとbihaviorが非常に役に立っている。また、スタッフにも随時声をかけ様子をうかがい、その場でケアを行う。職員間で勃発した紛争も治めなければならない。臓器提供後は、家族のグリーフケアに関わっている。1年以上継続している事例もある。また、平時は医療安全業務に加えて、臓器提供・移植医療の院内体制整備を行っている。研修会の実施、職員意識調査の実施等を行った。現在は、臓器提供/摘出時の職員へのインセンティブ制度をつくっている。全国の国立大学附属病院に照会し、この結果をもとに院内制度を策定中である。このように、ドネーションのみならず、移植医の環境改善等にも関わっている。大量の業務や陰性感情の対応にもかかわらず、心を整えていられるのは、県・院内Coをはじめとする信頼する仲間が居ることである。大切な仲間と共に居る。これが私のリアルワールド。

  • 平井 理心, 井上 貴昭, 小山 泰明, 川口 寿彦, 綱川 小百合, 横田 優希, 直川 匡晴, 中西 淑美, 平松 祐司, 山縣 邦弘
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 327_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【目的】終末期医療の家族ケアーと、医療チームスタッフの支援のために、協働と尊重を基本とする入院時重症患者対応メディエーターの必要性が策定されている。そこで、重症救急対応場面での患者家族ケアーをするスタッフへの医療メディエーション教育を試みた。【方法】院内外の医師や看護師等10名を対象に、医療メディエーションの第一人者と実践者と共に4時間の研修施行プログラムを策定した。プログラムは、①医療メディエーションの概要、②家族の意思決定場面のDVD鑑賞、③ロールプレイ、④総括、で構成した。教育目標として、患者・家族と医療者が4つの共有ポイント(時間・疾患・関係・意思決定)を協働することを強調して実施した。【結果】参加者は医師1名、看護師5名、心理士等4名であった。研修終了後の受講者アンケートでは、「研修の内容が理解できた」「研修の内容は重症対応時に役立つ」と10人中8人が好意的な回答をした。自由記載においては、「日々の生活に役立つ。ロールプレイは大切だしもっとやりたい」「時間が短い」等の感想を得た。【結語】重症対応メディエーション講座の試みは肯定的であった。そして、ロールプレイ学習の有用性が示された。医療メディエーター研修の受講履歴や実臨床経験の有無等、受講生のバックグラウンドが異なる状況下において、4つの共有ポイントについて理解を深めるには、時間配分と内容の精緻化が必要であると考えられた。

  • 原田 浩, 辻本 高志, 樋口 はるか, 高本 大路, 佐々木 元, 田中 博
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 330_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    腎移植は最良の腎代替療法である。わが国の腎移植件数は増加を続け、昨年初めて2000件を超えた。生体腎移植であれば10年生着率が90%を超える。移植腎は貴重であり拒絶反応などのイベントが起こらないような管理が必要である。このような移植腎の成績の向上は、近年の免疫抑制薬の開発によるものである。現在はタクロリムスや、シクロスポリンのカルシニューリン阻害薬(CNI)、ミコフェノール酸モフェチル、さらにエベロリムスが維持免疫抑制薬として使用される。これらは全てがTDMの対象薬剤であり患者個人、移植の時期により至適な投与量の設定が必要となる。各々に、有害事象があり薬剤の選択も慎重である必要がある。またCNIはCYP3A4あるいは5の代謝酵素により分解されるが、CYPで代謝される薬剤は多く、有害事象の治療の細には薬剤相互作用の観点から、併用薬剤の選択、投与量の設定が極めて重要となる。また、免疫抑制薬は、毎日の服用が必要であるが、ときに服薬コンプライアンスが問題となることがある。コンプライアンスの低下は拒絶反応の発生リスクであり早期に移植腎喪失に繋がる。また、腎移植が成功してもGFRは様々であり、腎排泄性である薬剤についてはその投与量の綿密な設定は避けて通れない。つまり、腎移植の成功は精巧な薬剤の選択、投与量設定、服薬の指導が鍵を握る。すなわちこれらが、腎移植医から薬剤師にお願いしたいことである。

  • 菅原 浩介
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 330_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    昨今、世界を騒がせている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。移植領域においても例外ではなく、14人の移植患者が罹患したと日本移植学会より報告されている(2020年7月6日現在、数値は累積)。 同年2月には、日本でもいくつかの薬剤がCOVID-19に対して有効ではないかとの報告が上がり、その中の一つにロピナビル/リトナビル(LPV/RTV)の名前があった。この名前を見て「CNIとの相互作用はどの程度なのだろう」と疑問に思った方も少なくないと想像できる。LPV/RTVは抗HIV薬として承認されており、CYP3Aを強く阻害することが知られている。演者自身は実際に併用した症例を経験したことはないが、併用症例の報告は散見され、CNIのTDMに苦慮している症例が多いように見受けられる。 COVID-19に限った話ではなく、移植領域での免疫抑制剤のTDMは重要であり移植臓器の予後に大きな影響を及ぼす。このTDMを遂行する上で薬物間相互作用の知識は必須であり、私たち薬剤師は仮に添付文書等にも記載がない組み合わせであっても常にアンテナを張り巡らせる必要がある。演者自身の拙い経験より、CNIの相互作用でTDMに苦慮した症例を紹介しながら、再度TDM・相互作用の重要性を考え直してみたいと思う。

  • 太田 あづさ, 田中 智啓, 近藤 理絵, 日生下 美紀, 西窪 奈津子, 今井 美樹, 岸川 英史
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 331_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【目的】腎移植患者の拒絶反応の予防には、免疫抑制剤の服用が必須であり、外来における長期間の服薬管理には、保険薬局との情報共有が必要となる。当院では、2018年8月から、薬剤情報提供書(以下トレーシングレポート)を用いた、双方向の情報交換を開始した。今回、トレーシングレポートの有用性について検討した。【方法】2018年8月から2020年3月の期間に、保険薬局と情報交換したトレーシングレポートについて、送信・返信件数と内容を調査した。トレーシングレポートには、患者指導の要点を記し、腎移植後及び腎生検後の退院時に、返信用紙とともにかかりつけ薬局にFAXで送信し、情報提供を依頼する運用とした。【結果】対象患者は、23名であった。当院から送信した件数は21件で、返信数は14件(66.6%)であった。返信内容は、アドヒアランス関連が13件、副作用確認が6件、残薬情報が2件、その他が3件であった(複数回答あり)。この情報交換によって、患者のノンアドヒアランスが未然に防げた症例が1例、副作用の早期発見につながった症例が1例あった。また、保険薬局から送信された件数は2件で、そのうち1件は、タクロリムス徐放錠とクラリスロマイシンとの併用による相互作用を早期発見できた症例であった。【考察】トレーシングレポートは、患者のアドヒアランスの向上や、薬物相互作用の回避、副作用の早期発見につながると考えられる。

  • 長内 理大, 小長谷 奈美, 小俣 江利果, 伊野 陽子, 井口 和弘, 寺町 ひとみ
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 331_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     医療現場において薬剤師の職能を発揮する場面が増えている中、腎移植についても薬剤師の関与は必須となってきている。特に、術後すぐに開始される免疫抑制剤の血中濃度管理、ならびに副作用管理は移植術の成功を左右する重大な要素の1つであり、各病院で専門の知識を持った薬剤師を中心に正確にかつ手厚く行われている。 免疫抑制剤の血中濃度ならびに副作用のコントロールが落ち着き、病態が安定した患者は、退院して外来患者として長く免疫抑制剤の服用を継続することとなる。現在、外来患者の内服薬調剤は、院外の保険調剤薬局が担っている場合が多く、薬局薬剤師がその職能を発揮して、患者の薬学的管理をおこなっていくことになる。そのため、薬局薬剤師は薬剤についての豊富な知識と共に、腎移植について医学的に理解することも必要である。一方で、院外薬局での投薬という限られた時間の中で、患者から多くの情報を聴取し、また多くの情報を提供することは難しい場合も多く、特に内服期間が長くなるにつれ、副作用や症状の確認が雑になることも考えられる。 本発表では、岐阜薬科大学附属薬局における腎移植患者の内服薬についての薬学的管理の現状、薬学的管理を効率よく行うための長期管理シートの開発と運用の結果について報告するとともに、薬局薬剤師から病院薬剤師に提案したいこと、病院薬剤師が薬局薬剤師に期待することなどについて活発に議論したい。

  • 安田 知弘
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 332_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     名古屋第二赤十字病院(以下:当院)の腎移植件数は年間100件以上である。腎移植数の増加と生着年数の延長に伴い、腎移植術と急性期や重篤な移植後合併症に対応する当院以外に、状態が安定している患者をフォローできる施設(増子記念病院)が必要である。当院では、腎移植後1年間外来フォローし、状態が安定している患者が希望する時や、腎移植術入院後、退院して外来フォロー開始可能であるが、遠方から頻回の外来受診が困難である患者の入院継続が必要な時は、増子記念病院へ紹介している。医師レベルの連携だけでなく、薬剤師レベルでの連携も求められる。 薬剤師として院内で行うべき業務は多い。免疫抑制薬の内服に伴い、服薬アドヒアランスや相互作用に注意する。免疫抑制薬の血中濃度低下による急性拒絶反応や抗ドナー抗体産生による慢性拒絶反応は、長期移植腎生着年数に直結する。相互作用については他院の処方薬にも注意が必要である。 患者を紹介する際は、免疫抑制薬の管理状況や腎機能評価に基づいた薬剤の投与量調整を連携施設の薬剤師と情報共有すべきであり、治療上の不利益を未然に回避することができる。 当院での腎移植数増加に伴い、今後も増子記念病院への紹介患者の増加が予想される。紹介患者が増えるほど、医師レベル以外での施設間の密な連携が求められる。当院移植チームでの薬剤師の役割と、増子記念病院との薬剤師レベルでの連携の実際を紹介する。

  • 中村 和彦, 中村 嘉孝
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 332_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

     昨今、病病連携や病診連携が推進されている中で2020年度診療報酬改定において、従来の入院患者への退院時薬剤情報管理指導に加えて、4月より退院時薬剤情報連携加算が新設された。これにより、退院後のかかりつけ薬局へ、処方内容の変更や特殊な調剤方法などを薬剤管理サマリーによる情報伝達が重要視された。 腎移植患者においては、移植腎を守るためにも継続して服薬アドヒアランスが良好であることは重要である。薬理学的な内容の服薬指導をおこなっていくのはもちろん、服薬アドヒアランスを高めていくことにも薬剤師がかかわることは責務であると考えている。 名古屋市中村区にある入院病床数102床、24診療科を標榜する中小病院である当院は、2010年4月より、名古屋第二赤十字病院と「生体腎移植地域連携パス」による腎移植手術後患者の病病連携を開始している。最近ではこの地域連携パス以外の目的でも転入院を受け入れている状況である。(2018年3月より3年間で転入院腎移植患者数35名)そこで病病連携を通して、受ける側の薬剤師としての役割は何が必要なのか。問題点、取り組み内容について、最近転入院を受け入れた腎移植患者を事例にして報告したい。 また、長期フォローしている外来通院の腎移植患者への薬剤師としてのかかわりについても報告する。

  • 瀬田川 美香, 伊藤 歩, 相庭 結花, 金子 幸太, 河本 萌, 秋山 みどり, 佐藤 滋, 齋藤 満, 沼倉 一幸, 山本 竜平, 藤山 ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 333_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    腎移植後患者は、透析や制限の多い治療から解放されることより、他の腎代替療法である血液透析・腹膜透析を選択した患者よりも社会復帰率が高いと言われている。当院では、2018年1月から2018年12月に当院で生体腎移植を受けて1年後もフォローされていた患者18名(うち1名は学生)のうち、16名が移植前から就労しており、15名が復職および再就職、復学している。しかし、中には移植前より透析による時間的制限で就労が困難だった患者、入院のため職を失った患者、移植後に社会復帰をしても職場の理解が得られずに退職した患者などがいる。腎移植後に社会復帰をしやすくするために①移植前や退院前に仕事や就学状況について情報収集を行い、主治医とも相談しながら病状に応じたアセスメントを行うこと②社会復帰後に関わる方に、腎移植後の外来通院間隔や治療、仕事や学業において注意すべき点などについて理解してもらうこと③一度社会復帰した後に、何か問題が生じて本人が援助を希望した場合にも相談の上で介入していくことが必要と考える。また、社会復帰支援はレシピエント移植コーディネーターのみでは行うことができず、他職種との協力が必要なケースも多い。今回、当院の腎移植後患者のうち、本人・家族より社会復帰について相談があり、MSWと連携して支援を行った事例を用いながら考察し、報告する。

  • 松村 知咲, 粟木原 真由美, 芦田 紘佳, 森田 綺子, 赤塚 千夏, 綱分 淳子, 大嶋 香奈, 小東 紀子, 滝下 幸栄
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 333_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    背景:国内における10~19歳の脳死肝移植患者は、他の年齢区分と比較して希少である中、当院では思春期のレシピエントに対する医療に携わる機会を得たため、効果的であった看護実践について報告する。方法:脳死肝移植後の一症例に対し術後管理から復学支援を含めた退院指導における看護とその効果を明らかにした。結果:術後の血腫形成に対し再手術を行い、その後も肝動脈の度重なる血栓形成に対しIVRを施行し、側副血行路の形成にて移植肝血流は確保された。免疫抑制剤の確実な投与や医療関連感染予防を徹底し、清潔行動の充足や感染予防指導を続けたが、拒絶反応を繰り返しCMVにも罹患した。 抜管後より不明言動を認め、術前には重度の肝性脳症状態であったため、術後に脳死ドナーからの肝臓提供の事実を知った後、更にせん妄が助長される場面があったが、早期離床や鎮静剤投与にて生活リズムを整え、精神安定に繋げた。入院中の高校受験に向けて、院内学級での学習支援や、受験を想定したリハビリを続け、院内受験を実施できた。退院前には高校教諭を交えて学校生活上の注意点について情報提供した結果、スムーズに復学できた。結論:脳死肝移植後の思春期患者においては、成人と同様、様々な合併症に対する十分な予測を持った身体的援助、脳死移植に対する葛藤や思春期特有の発達段階に配慮した精神的ケアや学習保障を含む退院支援が求められる。

  • 吉見 範子, 友松 桐子, 剣持 敬
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 334_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】臓器移植後の免疫抑制薬の使用は臓器移植の成功率に貢献するが、重篤な感染症に至るリスクがある。今回レジオネラ肺炎に罹患した患者のセルフケア行動の変化について検討した。【目的】レジオネラ肺炎に罹患した患者の生活行動を確認し、セルフケア行動の変化について検討する。【症例・方法】40歳代女性。十数年前に生体膵・腎同時移植施行。腎機能低下を認め透析再導入。今回発熱を主訴に緊急入院しレジオネラ肺炎と診断されICUへ入室。症状改善し29病日目に退院となった。生活行動について入院中の指導および退院後の生活を確認した。A病院看護部倫理審査委員会の承認を受けた。【結果】患者は定期的に温泉浴場を利用するため掛け流し温泉の利用を指導していたが、発症4日前に循環式の浴場を利用していた。入院中に温泉浴場、加湿器等の使用方法について再度指導した。自宅の浴槽やエアコンの清掃を行うなど感染予防への意識が高まり、セルフケアに対する行動変容がみられた。【考察・結論】セルフケアとは、患者が自分自身の生命や健康を維持するために意識的・計画的に行う行動である。本症例は救命し得たが、生命危機に直結する重篤な合併症であるレジオネラ肺炎を経験し、適切な知識を持って患者指導を行うことにより、患者が主体的に生活に応じたセルフケアを促進できた。確実なセルフケアの継続は、臓器移植後の予後改善や移植臓器の長期生着につながると考える。

  • 橋口 裕樹
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 335_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    今回で8回目となった全血クロスマッチ精度管理は、日本組織適合性学会との共同事業として実施されている。当学会が準備する全血(リンパ球)と組織適合性学会が準備する血清(抗HLA抗体陽性)を用いて、全国の検査施設でクロスマッチ(FCXM、CDC、ICFA)を実施し、検査結果の集計を行う。クロスマッチは臓器移植前に検査を行い、移植可否にも関わる検査項目である。クロスマッチの精度管理を行うことの重要性は、実務者、臨床医にも浸透し、年々参加施設は増えて今回は48施設の参加となった。また、日本臓器移植ネットワークの検査標準業務書内には、ドナー検査対応施設(特定移植検査センター)は当精度管理事業へ参加することが記載されており、今後も参加施設が増加することは予想される。今年度はクラスⅡ抗体(DR、DQ)のDSAとなる組み合わせを準備し、B細胞のみで陽性になることを想定している。またCDC法においても陽性になることを確認している。方法別の検出率、使用細胞での検出率について報告したい。

  • 増田 智先
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 335_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    (一社)TDM品質管理機構は、日本TDM学会と日本移植学会の協力により2016年4月に発足し、主に免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン、ミコフェノール酸、エベロリムス)について各医療機関ならびに外注検査室における日常の測定精度管理を客観的に評価するための外部精度管理機構として活動している。毎年4月中の参加申し込みを募り、5月~6月にかけて各薬物3種類のスパイクサンプルを参加施設に送付する。各施設は日常診療で実施される血中濃度測定業務に組み入れて測定結果をWeb経由で報告し、8月に開催される研究会において集計結果の報告を受ける。各参加施設は、それぞれの採用している測定法の統計データを参照し、自施設で得られた結果との整合性を確認する。本法人の実施している、全国QC(Quality Check)サーベイは国内唯一の第三者評価機構であり、同じ測定システムを採用する医療機関同士の結果の相同性(類似性)を再確認できる機会を提供する。2020年度も新型コロナ禍の中、例年通りにQCサーベイ事業を実施することができた。移植患者の術後管理を円滑に行う上で、免疫抑制薬の精密な血中濃度管理は移植臓器の生着に加えて副作用発現の抑制に必須と考えられる。本企画では、2020年度の免疫抑制薬全国QCサーベイの結果をもとに、昨今の傾向を考えながら国内唯一のTDMに係る第三者評価機関としての役割について解説する。

  • 山田 全毅
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 336_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    移植後EBV (Epstein-Barr Virus) 感染症は、移植後リンパ増殖性疾患(Post-transplant lymphoproliferative disorders: PTLD) の発症に深く関連することから、移植レシピエントの生命予後にかかわる重篤な合併症のひとつとして知られる。移植後EBV感染症の重篤化やPTLDの発症を予防するという観点から、ウイルス核酸定量によるEBV DNA量のモニタリングが重要であるとされてきた。しかしながら、本邦では最近まで、保険適応のある検査法がなく、移植診療チームとってなじみの薄いものであった。2018年の診療報酬改定によりEBV核酸定量検査が保険収載され、本邦でも世界標準のモニタリングを導入することが可能になった。これを受けて、移植学会では、EBV感染症およびEBV関連PTLDが、移植医療に関与するあらゆる職種に広く認識されるよう、 共通の指針に基づくガイドラインを作成するに至った。本ガイドラインは、EBV感染症の一般的な総論から、検査・診断法の概説、さらにクリニカルクエスチョンをカバーしており、臓器の種類を問わず、移植診療チームに広く知っていただきたい実践的な内容となっている。本講演では本ガイドラインの要点について報告し、内容の周知に努めたい。

  • 高田 祐輔, 上村 大輔, 樋口 はるか, 岩見 大基, 堀田 記世彦, 岩原 直也, 篠原 信雄, 村上 正晃
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 339_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    SYT17は、ヒト腎細胞によるin vitro評価で、炎症性サイトカインの相乗効果によって産生される遺伝子と示された。本研究ではSYT17と、診断・治療方法が確立されてないCAAMR(Chronic Active Antibody Mediated Rejection)との関連を、正常病理・線維化・薬物毒性群も含めた移植患者検体で検討した。まず、腎生検免疫染色で、SYT17蛋白はCAAMR群に強発現しており(FIg1)、移植腎内でも炎症による発現亢進が示された。次に、診断バイオマーカーとなる可能性を尿中エクソソームに注目して検討した。CAAMR群の尿検体で、SYT17蛋白が有意に高値であった(FIg2)。さらに現行の検査では、群間の有意差を認めず、SYT17との相関関係もなかった。以上より、尿中エクソソーム内SYT17蛋白は、CAAMRの新規診断バイオマーカーとして有用である。

  • 阿佐美 健吾, 中村 篤司, 高山 哲郎, 芳賀 泉, 伊藤 大樹, 眞田 覚
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 339_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【はじめに】 尿中マクロファージ解析は、腎炎の病態鑑別に有用であると報告されており、腎障害を反映するマーカーの1つと考えられている。腎移植における尿中マクロファージ解析についてはこれまで報告はなく、今回我々は腎移植周術期においてその意義を検討した。【対象と方法】 2019年5月から2020年3月まで当科で施行した生体腎移植例のうち、周術期に尿中マクロファージ解析を施行した14例(ABO不適合5例、preformed DSA陽性2例)に対して、術前、術後1,7,14,21,28日目の計6回随時尿5mlを採取し、抗CD68モノクローナル抗体を用いて陽性細胞数をカウントした。結果は尿中Cr量(mg)にて除し補正値として評価した。【結果】 各測定時期別の母平均に有意差は認めなかったが、移植後14日目は他時期よりも高い傾向があった。ABO不適合あるいはDSA陽性症例と、そのいずれでもない症例において、移植後14日目の母平均に差は認めなかった。一方でドナー年齢別で評価すると高齢ドナーの方が母平均が高い傾向があった。【まとめ】 移植後14日目に一過性に尿中マクロファージが増加する現象を発見した。詳細な機序は明らかではないが免疫学的要因の関与の可能性は低いと考えられた。また高齢ドナーでは各測定時期において尿中マクロファージ数が多い傾向を認めた。

  • 加藤 大喜, 橋本 浩平, 森 彰平, 原田 愛倫子, 重盛 林太郎, 松平 秀樹, 平野 純, 藤井 豊, 大塚 崇
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 339_3
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】VV- ECMOが生体に及ぼす生理学的解析や病理組織学的検討,その治療効果を解析する際に動物実験モデルは有用と考えられるがこれまでの報告は僅かである【方法】SDラットを使用.全身麻酔として三種混合液(ミダゾラム,塩酸メデトミジン,酒石酸ブトルファール)を腹腔内に投与.送血用カニュレーションとして左大腿静脈からSPチューブを挿入,先端を下大静脈に留置.脱血用カニュレーションを,右外頚静脈から挿入,16G catheterを先端が右房入口部に位置するよう留置.ヘパリンナトリウムを投与(300U/body),カニュラと膜型肺を含めた回路を接続,ローラーポンプを使用しVV-ECMOを開始した.血液流量は7.5ml/minでガス(100%酸素)流量は500ml/minとし,動脈血は右大腿動脈より採取【結果】全身麻酔後,カニュレーション直後の動脈血ガス(pH/PaCO2/PaO2/HCO3-)は7.29/36.6/77/16.9であった.VV-ECMO開始後7分の動脈血液ガスは7.43/19.6/116/12.8,膜前,膜後の血液ガスは7.24/41.6/56/17.3,7.44/6.2/706/4.1だった. 人工呼吸管理無しでの30分のVV-ECMOの維持が可能だった【結論】ラットのVV-ECMOモデルに於いて膜型肺による酸素と二酸化炭素の十分な交換能を生存した状態で確認できた.

  • 尾田 博美, 田中 里奈, 横山 雄平, 池田 政樹, 徳野 純子, 上田 聡司, 栢分 秀直, 豊 洋次郎, 山田 義人, 大角 明宏, ...
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 340_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    背景:脂質メディエーターResolvin(Rv),Lipoxin(LX)はALX/FPR2(FPR2)等の受容体を介し作用発現する.本研究では肺の虚血再灌流障害に対するFPR2を介したRvD1とLXA4の有効性を検討した.方法:Lewisラットの肺門をクランプし90分温虚血とし,その後180分再灌流を行うクランプモデルを使用.介入にはvehicle(V群)・RvD1(R群)・LXA4(L群)を各々再灌流直後に静脈内投与した(n=8).またFPR 2の選択的アンタゴニストWRW4を再灌流直前に投与し,RvD1・LXA4を再灌流直後に投与した群をW+R群・W+L群とした(n=8).再灌流終了時に動脈血液ガス分析(ABG)・肺機能検査を行い,肺組織はRT-PCR・乾湿重量比(W/D)・サイトカイン測定・組織学的評価に使用. 結果:FPR 2のmRNA発現は開胸のみのコントロール肺に比べクランプモデル障害肺で有意に上昇(p<0.05).V群に対しR群・L群ではABG・肺機能・W/Dが有意に改善(p<0.01)し肺組織中の好中球数・IL-1β・IL-6も有意に低値 (p<0.05).WRW4を投与したW+R群・W+L群はABG・肺機能検査・W/Dの改善なし. 結論:RVD1,LXA4はラット温虚血再灌流肺障害において保護効果を有する.この反応はFPR2を介する可能性がある.

  • 田中 俊明, 前鼻 健志, 太刀川 公人, 舛森 直哉
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 340_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【目的】我々はマウス異所性心移植モデルにおいて、heat shock protein 90 (HSP90)阻害剤・17DMAGのグラフト灌流により急性拒絶反応が抑制され、生着期間が延長することを示した。一方で17DMAGは最近、老化細胞除去薬としても注目されている。今回、17DMAGグラフト灌流による老化細胞除去効果につき検討した。【方法】ドナー:C57BL/6(H-2b)、レシピエント:BALB/c(H-2d)としてマウス異所性心移植を行った。17DMAG 250 µg/mLを含むヘパリン溶液をグラフトに灌流した後に移植する17DMAG灌流群、ヘパリン溶液のみを灌流した対照群を作成した。移植後3日目および5日目のグラフトを採取し、組織学的検討および定量的PCR法による検討を行った。【結果】組織所見では両群間でマクロファージ浸潤に差は見られなかったが、好中球および樹状細胞浸潤は17DMAG灌流群で抑制されていた。また、p16INK4a mRNA および p21CIP1 mRNAは、3日目に17DMAG灌流群で発現が亢進していたが、5日目では対照群で発現が増強され、17DMAG灌流群では抑制されていた。【結論】17DMAG灌流はグラフト内のサイクリン依存性キナーゼの発現に作用し、老化細胞除去効果を持つことが示唆された。この機序が生着期間延長に関与している可能性が考えられた。

  • 徳田 和憲, 池本 哲也, 宮崎 克己, 沖川 昌平, 山田 眞一郎, 齋藤 裕, 居村 暁, 森根 裕二, 島田 光生
    2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 340_3
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/09/18
    ジャーナル フリー

    【背景】我々はこれまでに脂肪由来幹細胞(ADSC)からインスリン産生細胞(IPC)への分化誘導に着手しているが、今回臨床応用に向けてIPCの凍結保存方法について検討した。【方法】ADSCから我々の開発した3D、two-step protocolを用いて分化誘導したIPC(3.2×105個)を、-80℃で速やかに凍結(-80℃群)、BICELLに入れ-80℃まで徐々に凍結(BICELL群)、卵子の保存法で凍結(CRYOTOP群)の3群の方法で凍結保存した。Dithizone染色、cell viability、免疫染色、グルコース応答性について凍結していないIPCと比較検討した。【結果】凍結保存後、細胞形態はやや崩れDithizone染色強度はすべての群で有意に低下した(P<0.05)。cell viabilityはすべての群で有意に低下した(P<0.01)。蛍光免疫染色では、すべての群でインスリン染色陽性領域の減少を認め、-80℃群とCRYOTOP群では細胞がまばらに減少していたのに対し、BICELL群では主に中央部分が減少していた。免疫染色では、すべての群で抗caspase-3抗体に対して陽性であった。グルコース刺激後のインスリン分泌はすべての群において有意に減少した(P <0.01)。【結語】IPCは非常にfragileで適切な保存方法の確立が必要である。

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