近年熱帯諸国において, IR8に代表されるような, 非感光性で生育期間4ケ月位の新品種が多数育成され, 奨励されている.これらの品種が苗伏に長期間おかれた場合, 日本稲の早生種にみられるような不時出穂をおこすおそれが考えられる.熱帯諸国の稲作はなお天水田が大部分であり, 本田の水利状況から, 苗代期間が長期化せざるをえない場合が多い.そこで, RD1, LT17-3 (タイ) , C4-63 (フィリッピン) およびIR8 (IRRI) の4品種を用い, 1968, 1970の両年, バンコックにおいて実験を行ない, つぎのことが明らかになった.
1.いずれの品種も苗代日数が45日あるいはそれ以上になると, 著しく不時出穂する.
2.異常穂は極めて小型で, 主稈にのみ生ずるなど, 日本稲でみられるところと同様である.またこれらの品種は, 通常主稈総葉数18~20枚であるが, 異常穂は第12.3葉のつぎにみられた.苗代日数62日の場合, 幼穂形成期は苗代中で経過したもののようである.分げつ上の穂は概ね正常に近かった.
3.不時出穂発生程度には品種間差がみられ, その差はC4-63>IR8>LT17-3>RD1の順であった.
4.熱帯地域では, 1株植付苗数が著しく多い場合が多い.一方異常穂は主稈にのみ発生するから, 老苗を移植する場合, 1株苗数が多いほど, 1株中の異常穂の割合は増加し, 収量に悪影響を及ぼすであろう.実際に, 苗代期間・1株植付苗数を組合せて実験した結果, 老苗を移植する場合は, 1株苗数をなるべく少なくすべきであることがわかった.
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