南部タイ, ナラチワ県の主要な4稲作地域 (Yi-ngo, Tak-bai, Bacho沖積土壌, Bacho山地土壌) 内の各5農家におけるイネの収量を3ヵ年にわたって調査し, この4地域間で生じたイネの収量差が, 何に起因するのかを明らかにしようとした.まず, 地域ごとの平均収量は, Yi-ngo (3.5t・ha
-1) , Bacho; 山地 (2.7t・ha
-1) , Bacho; 沖積地 (2.6t・ha
-1) , そしてTak-bai (2.2t・ha
-1) の順であり, この順位は3年間でほぼ同じ傾向を示した.こうした地域間の収量差は, 各地域の栽培方法の差, 例えば栽植密度や肥料施用量では説明できなかった.つぎに, 4地域の各農家水田から採集した土壌中の窒素と有機物質含量を分析した.土壌中の平均窒素や有機物質の含量は, 乾物収量や子実収量が最も低かったTak-baiでかえって高く, 4地域の中で最も多収をあげたYi-ngo地域で低かった.このことから, 土壌肥沃度はこの地域でのイネ収量を決める要因ではないと考えられた.そこで, これら4地域の土壌粒子の組成を調べた結果, Yi-ngoの土壌は, Tak-baiに比べ砂の含量が高く, 排水性が良く, このことは, Yi-ngoでの多収原因の一つとなっていると考えられた.最後に, 品種の関与を調べた.最も多収を示したYi-ngoで栽培されているイネ品種, ColijorとLitmusを, 最も少収を示したTak-baiで栽培したところ, それら2品種はTak-baiの在来品種より多収を示した.このことから, Yi-ngoでの多収性はその品種にも大きく起因していると考えられ, こうした多収品種を低収地帯に導入することによってそこの収量を改善できる可能性があることが示された.
抄録全体を表示