リョクトウの光合成・水分生理に及ぼすABA, エチレン及び湛水処理の影響を明らかにした.栄養生長期及び生殖生長期に, 8日間の湛水処理を行い, 処理期間及びその後の8日間, 光合成速度 (
P) , 蒸散速度 (
Tr) , 気孔コンダクタンス (
gs) , クロロフィル蛍光 (Fv/Fm) 及び水ポテンシャル (ψ
l) の測定を行った.また, 湛水処理開始時に, ABA及びエチレンの処理を湛水処理個体と無処理個体に行い, その後の16日間, 同様の測定を行った.水ポテンシャルは処理による影響を受けず, 他の項目の処理による影響に, 植物の水分状態が関係していないことが示された.湛水処理及びエチレン処理により, 処理後1日目の光合成速度は低下し, 蒸散速度と気孔コンダクタンスの変化より早かった.このことは, 光合成速度の低下が気孔閉鎖とは独立であることを示している.また, Fv/Fmは同時に低下していたため, この初期の光合成低下は光化学系IIに対する阻害によるものと考えられる.一方, ABAも処理直後から光合成速度を低下させたが, この場合は蒸散速度と気孔コンダクタンスの低下と同調していた.また, Fv/Fmは処理直後には低下していないため, ABAによる光合成低下は, 気孔閉鎖によるものと思われた.その後の実験期間中, 外生植物生長調節物質と湛水処理は, ABAのFv/Fmに対する処理効果が湛水処理でマスクされた, あるいは, エチレンの光合成速度に対する処理効果が湛水処理により増幅された等, 様々な交互作用を示した.以上の結果は, 湛水による光合成抑制には, 気孔閉鎖と気孔に関係しない要因とが関与していることを示唆している.湛水時には, 植物体内でABAとエチレンの生合成が促進されることが知られており, この2つの植物ホルモンが, 湛水による光合成抑制に関与している可能性が高い.特に, 湛水処理直後の光合成低下には, エチレンによる光化学系IIの不活性化が大きく関与していると思われる.
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