ミャンマー中央農業研究所のシードバンクに収集・保存されている3, 504点のイネ地方品種の中から, 1, 382点を任意抽出して, 籾長, 籾幅, 籾千粒重, 玄米色, 籾フェノール反応, 胚乳アルカリ崩壊性, 胚乳アミロース含量などの穀粒形質に関する品種間変異の地域間差異を調べた.その結果, 籾型, 籾フェノール反応, 胚乳アルカリ崩壊性, 胚乳アミロース含量に関して大きな品種間変異がみられた.これらの変異の様相は地域ごとに異なり, 明確な地域間差異が認められた.籾型, 籾フェノール反応および胚乳アルカリ崩壊性に関する品種間変異をみると, ミャンマーの地方品種は, 中・南部平坦地域の品種群と北部の山岳丘陵地域の品種群に大きく分けられることがわかった.中・南部平坦地域のAyeyarwady管区およびMagway管区では, c型 (長粒) で, フェノール着色, アルカリ崩壊性低, 高アミロース含量でインド型の形質組合せの品種が多かった.一方, 山岳丘陵地域では, インドやバングラデシュと国境を接する西部のChin州品種の籾型は, b (大粒) またはc型で, フェノール無着色の品種が比較的多かった.しかし, タイ, ラオス, 中国と国境を接する東部のShan州の品種は, 籾はb型でフェノール着色を示すものが大部分を占め, 明確な地域間差異がみられた.こうした結果から, ミャンマーにおいては, 北部山岳丘陵地域と南部平坦地域の間に, また山岳.丘陵地域では東部と西部との間に明瞭な品種分化が生じていることが推察された.さらに, 北部山岳丘陵地域の品種には胚乳アミロース含量の遺伝的変異が大きく, 低アミロース品種のような貴重な遺伝資源が存在することが明らかになった.
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