目的:成田国際空港に隣接する成田赤十字病院精神神経科(当院)の診療統計と,実際の診療経過を基に再構成した架空症例を用いて,外国人を含む空港由来精神科救急の実態を明らかにし,非自発的入院から退院・帰国支援までの運用改善と標準化に資する知見を提示する.
方法:単施設後方視的記述研究.1992年7月から2019年12月に「空港経由で当科に入院」と判定された症例の記述統計を行い,近年の課題共有のための架空症例2例(空港内→同伴帰国/空港内トラブル→帰国調整)を提示した.加えて,先行研究を参照し制度・運用の課題を補足した.
結果:空港由来入院は298件,年平均10.8件.内訳は外国人139件,日本人159件.出国前入院148名中97名が外国人,入国後入院150名中108名が日本人であった.架空症例が示唆するように,①通訳資源の乏しさ,②身元・在留確認の遅延,③費用・購入者不在・搭乗拒否等による帰国調整の難航,④関係機関連携の即興性が見られた.機械翻訳アプリや携帯型通訳機器の活用により基本的意思疎通は改善したが,医学的説明・同意には限界が残存した.また,千葉県精神科救急医療システムの拡充により入院先は多様化した一方,対応の標準化は不十分であった.
結論:言語,身元・在留,費用,連携の四領域が連鎖し対応を複雑化させる構造は,2000年代の先行報告と本質的に変わらず持続していた.IT活用や地域システム拡充は一定の前進だが,通訳体制の常設化,身元・在留確認の標準手順,費用支援スキーム,在外公館・航空会社・自治体を含む連携プロトコルの整備が依然として求められる.今後は,多施設データに基づく検証継続が望まれる.
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