こころと文化
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巻頭言
特集 多文化共生社会における精神科救急医療の課題と展望
  • 花岡 晋平, 林 偉明
    2026 年24 巻1 号 p. 7-9
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル 認証あり
  • 花岡 晋平
    2026 年24 巻1 号 p. 10-17
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル 認証あり

    【目的】在留外国人の非自発的入院の現状と課題を整理し,改善に向けた示唆を提示した.【方法】官庁統計と先行研究を概観し,応急入院から医療保護入院へ切り替えた1症例を提示した.【結果】主要課題は,①言語,②連絡体制と法的手続,③費用,④退院後の見通しの四点に整理された.とくに初動72時間では,通訳確保の遅れに伴う身元確認・家族連絡の難航,首長同意を含む手続の遅延,費用負担の不確実性,退院後資源の不足への懸念が優先的に対応すべき論点として認められた.【結論】早急な抜本的解決は困難なため,当面は,①通訳アクセスの即応手段(遠隔通訳や補助的な機械通訳・翻訳を含む)の確保,②自治体別の簡潔な手順書の共有を優先して運用改善を図る.これにより,限られた資源でも再現性の高い運用が可能となり,現行の「精神障害にも対応した地域包括ケア」の枠組みへの統合が期待できる.

  • 中西 健太
    2026 年24 巻1 号 p. 18-26
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル 認証あり

    近年,本邦に在留する外国人の増加は顕著であり,精神科医療機関において外国人患者を診察する機会も増えつつある.成田国際空港を擁する千葉県でも同様の傾向にある.

    筆者は,千葉県の精神科救急医療システムに携わる中で,言語・経済・制度の各面にわたる困難を痛感し,実態調査に及んだ.調査の結果,外国人入院患者の受け入れが特定の医療機関に集中し,退院後の帰国調整も必要となる実態が明らかとなった.

    また,架空の症例を通じ,精神科救急における外国人診療の具体的な課題を考察した.言葉の壁による診断・治療の困難,医療費未払いへの懸念,そして外国人診療を想定せぬ精神保健福祉法の課題が浮き彫りとなった.

    これらの問題は,医療機関の自助努力に委ねられているのが現状である.外国人患者のさらなる増加が必然である今,公的支援の拡充が喫緊の課題である.

  • 川瀬 愛
    2026 年24 巻1 号 p. 27-33
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
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    現在,外国人患者の精神科診療は特別な事例ではなく日常的なものとなっている.一方で制度運用は日本人を前提としたままであり,対応は現場の裁量に依存している.本稿では,先行調査を基にしながら,外国人患者の非自発的入院や,在留外国人に対する地域支援についての実務的課題を,架空症例を通じて制度的・文化的・言語的観点から検討する.外国人患者の医療保護入院において,文化的背景や言語の違いを背景として,診療現場では通訳の確保,家族関係の把握,治療や入院制度や手続きの理解や同意の形成に困難を伴うことが多い.特に医療保護入院の同意取得をめぐっては,日本の精神保健福祉法が前提とする“家族”の概念が多文化的状況にそぐわないため,誰を同意者とするか,どのように手続きを行うかの判断に苦慮し,患者の権利保障や公平性にも影響を及ぼすおそれがある.こうした課題に対しては,法制度や手続きの見直し,地域での多文化支援体制の整備が重要である.支援の入り口となる地域の相談窓口で「やさしい日本語」やふりがな付き資料を活用し,民間団体や他機関と連携するなど,既存の資源の中で非自発的入院の予防的対応が可能になる場合もある.多文化共生を見据えた精神科医療の実現には,精神科にも対応可能な通訳者の育成支援,平易かつ多言語の情報資源の整備,そして多分野をまたいだ包括的な連携体制の構築が期待される.

  • 山崎 あずさ
    2026 年24 巻1 号 p. 34-38
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル 認証あり

    目的:成田国際空港に隣接する成田赤十字病院精神神経科(当院)の診療統計と,実際の診療経過を基に再構成した架空症例を用いて,外国人を含む空港由来精神科救急の実態を明らかにし,非自発的入院から退院・帰国支援までの運用改善と標準化に資する知見を提示する.

    方法:単施設後方視的記述研究.1992年7月から2019年12月に「空港経由で当科に入院」と判定された症例の記述統計を行い,近年の課題共有のための架空症例2例(空港内→同伴帰国/空港内トラブル→帰国調整)を提示した.加えて,先行研究を参照し制度・運用の課題を補足した.

    結果:空港由来入院は298件,年平均10.8件.内訳は外国人139件,日本人159件.出国前入院148名中97名が外国人,入国後入院150名中108名が日本人であった.架空症例が示唆するように,①通訳資源の乏しさ,②身元・在留確認の遅延,③費用・購入者不在・搭乗拒否等による帰国調整の難航,④関係機関連携の即興性が見られた.機械翻訳アプリや携帯型通訳機器の活用により基本的意思疎通は改善したが,医学的説明・同意には限界が残存した.また,千葉県精神科救急医療システムの拡充により入院先は多様化した一方,対応の標準化は不十分であった.

    結論:言語,身元・在留,費用,連携の四領域が連鎖し対応を複雑化させる構造は,2000年代の先行報告と本質的に変わらず持続していた.IT活用や地域システム拡充は一定の前進だが,通訳体制の常設化,身元・在留確認の標準手順,費用支援スキーム,在外公館・航空会社・自治体を含む連携プロトコルの整備が依然として求められる.今後は,多施設データに基づく検証継続が望まれる.

原著論文
  • 橋本 和樹
    2026 年24 巻1 号 p. 39-49
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,制度を使う精神療法における異質性の概念の導入の経緯とその臨床的な意味をFrançois Tosquellesの来歴を通して考察する.そこにはTosquellesの生まれたReusの風土と彼が生まれ育った時代の社会的状況,そして彼の精神分析家Sandor Eiminderらとの出会いが大きく影響していた.Tosquellesがフランスに亡命したのはVichy政権下であり,当時のフランスの精神医学はほとんど機能していなかったばかりか多くの患者が餓死している状況だった.そのような状況下で,彼はこの異質性を治療環境に取り入れるために「迎え入れ」を合言葉に病院の変容を試みた.そしてこの異質性は1)利用者それぞれの差異を治療に活用すること,2)ミーティングにおける多角的な視点,3)言語の詩的機能に着目することにより病院を精神療法的環境に変容することに役立っていた.

  • 青柳 美樹, 多賀 昌江, 髙山 裕子
    2026 年24 巻1 号 p. 50-60
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,夫の海外赴任に伴う日本人女性配偶者264名の職業性簡易ストレス調査表によるストレス反応得点低減の関連要因およびその階層構造を明らかにすることである.2016~2018年にWebと質問紙による調査を実施した.分析には,ストレス反応得点のカットオフ値77点で非高値群と高値群に2値変換したロジスティック回帰分析,重回帰分析,CHAID分析を用いた.ストレス反応得点の非高値群には「身近な相談者」,相対的な低減にはこれに加えて「気軽に声かけてくれる人」「買い物・外出がしやすい」が関連していた.CHAID分析によりこれら3つの要因が揃っていた配偶者グループでは,ストレス反応得点が他のグループ(M≧57.1)と比較して最も低かった(M=50.2).ピア・サポートの重要性が示唆され,産業保健スタッフはその有効性を伝えるとともに,配偶者同士のコミュニケーション力を高める支援が求められる.

  • 青柳 美樹, 杉山 希美, 横山 加奈, 金澤 美緒
    2026 年24 巻1 号 p. 61-73
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
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    本研究では,初めて海外赴任者に同行した日本人女性パートナー6名を対象に,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて異文化生活における経験のプロセスを明らかにした.インタビューから【限られた私の社会】と【肩の力が抜けた私らしさ】の2コアカテゴリが抽出された.パートナーが有していた社会から切り離され,パートナー同士の不安定な社会の中に置かれていた.孤独感,異文化と交わり切れなさ,自己の海外生活前後のアイデンティティとの葛藤などを抱えながら,自分で立つ覚悟を決め,異国でのサバイバルと自分受容を繰り返す経験を通して,自己を再構築していくプロセスが示された.このプロセスは,自己効力感の獲得や異文化との相互作用を通じて自らの経験を意味づけていく過程であると考えられた.異文化適応を一時的な課題としてとらえるのではなく,自己成長の重要な経験として理解することが望ましいと考えられた.

  • 川村 道子, 小笠原 広実, 葛島 慎吾, 川北 直子, Lisna Agustina, Hilda Meriyandah, Kiki De ...
    2026 年24 巻1 号 p. 74-84
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
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    本研究の目的は,各国の様々な事情の中でも精神疾患患者の基本的人権が否定されることなく確かな看護を提供するための基礎資料を得るために,精神疾患患者への看護の考え方の特徴を異文化間で比較を行うことである.精神科訪問看護に関する動画教材を視聴したインドネシアの看護師14名,日本の看護師20名へのグループインタビューデータを質的帰納的に分析した.両国に共通にみられたのは,単身生活の方への訪問看護は有用であり,訪問継続のためには安定した患者–看護者関係が必要,といった考えであった.患者–看護者の良い関係を持つための方法,身体疾患の成り立ちの考え方,医療チーム内での看護師のポジション,看護職の専門性の考え方には違いがみられた.本来持つ健康な力が発揮されるよう尊厳をもって支援するという点は共通であった.

  • 一條 玲香
    2026 年24 巻1 号 p. 85-92
    発行日: 2026/07/10
    公開日: 2026/07/14
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    本調査では,監理団体における外国人技能実習生のメンタルヘルスの理解と支援の実態を明らかにすることを目的として,2021年10月~12月に,1718の監理団体に質問調査を実施し,336の監理団体から回答を得ることができた(回収率19.6%).本調査から技能実習生はホームシック,技能実習生同士の関係,言葉,文化,日本人との関係を背景とした心の問題を抱えていると監理団体が認識していることが明らかとなった.また,監理団体の対応では,「聞き取り・話し合い」が最も多く,実習生の「からだ」「環境」「こころ」「行動」に応じた特徴的な支援が行われていることがわかった.さらに,心の問題が生じていると捉える具体的な状態として,不眠,食欲問題,実習生間不適応,職場不適応,情緒不安定,ホームシック,遅刻・欠勤があることが目安となることが示された.このような目安を元に,今後は状態が悪化する前に予防的介入や支援を実施していくことが望まれる.

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