症例は75歳女性.歩行障害, 中等度の知能障害を認め, 当科入院.CT, MRI, 脳槽シンチにより正常圧水頭症と診断された.当院脳外科にて, 右脳室腹腔シャント術を施行.術後CT, MRIに著変なく, 若干の知的機能の改善がみられたものの, 歩行障害は変化なかった.本症例に対し, 術前後にポジトロンCT (PET) を施行.術前のPET所見では, 両側の前頭葉から基底核にかけて脳血流量 (CBF), 脳酸素消費量 (CMRO
2) が低下, 脳酸素摂取率 (OEF) が上昇しており, いわゆるmisery perfusion の状態であった.一方, 術後1ヵ月のPET所見では, CBFが若干上昇, OEFはほぼ正常レベルまで低下していたが, CMRO
2は不変であった.すなわち, シャント術によって脳循環障害は改善されたものの, 一部不可逆的な代謝障害の存在が示唆された.正常圧水頭症においては, 今後PETを用いた循環ならびに代謝両面の検索が重要であると考えられた.
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