多発梗塞性痴呆患者において, 脳の低灌流に伴う脳酸素摂取率の上昇 (misery perfusion) と, 髄液乳酸濃度の上昇で代表される嫌気性解糖との関連について検討した。
対象は慢性期の多発梗塞性痴呆群 (multi-infarct dementia, MID群) 11例と年齢・性を一致させた穿通枝梗塞非痴呆群 (lacunar brain infarction, LBI群) 6例である.MID群はさらに長谷川式簡易知的機能診査スヶールで22点以上のmild MID群5例 (平均25.6点) と, 2L5点以下のsevere MID群6例 (平均12.3点) に分けて検討した.ポジトロンCTによる脳血流量 (CBF), 脳酸素摂取率 (OEF), 脳酸素消費量 (CMRO
2) および髄液乳酸濃度を測定した.基底核断面の大脳半球平均CBFは, LBI群の28.4m
l/100cc/minから, mild MID群24.2m
l/100cc/min, severe MID群で22.9m
l/100cc/minと痴呆の重症度とともに有意に低下 (p<0.05) し, 逆にOEFは0.388, 0.392, 0.433と上昇した.一方, 髄液乳酸濃度はmild MID群の1.54mmol/
lに対し, severeMID群では1.82mmol/
lと有意に増加していた (p<0.05).MID群では, 髄液乳酸濃度はCBFと負の相関を (p<0.01), OEFとは正の相関を示し (p<0.05), misery perfusionと嫌気性解糖との関連性が示された.
髄液乳酸濃度が増加した多発梗塞性痴呆患者では, CBFの低下をOEFの上昇では十分に代償できていない状態と考えられた.
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