脳卒中
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2 巻, 3 号
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  • 田中 健一, 額田 忠篤, 米田 正太郎, 楠 正仁, 岩田 吉一
    1980 年 2 巻 3 号 p. 179-185
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    超音波ドップラー血流測定法は内頚動脈閉塞症などに対する浅側頭動脈 (STA) -中大脳動脈 (MCA) 吻合術の有効性の評価に応用されつつある.しかし, 吻合血管だけでなく, 他の側副血行路の血流変化の検討や長期追跡は行なわれていない.著者らは, STA-MCA吻合術施行例13例を対象に, STA, 眼動脈, 脳内主要流入動脈の術前後の血流変化をドップラー血流測定法を用い測定した.STAの血流速波形は術前の外頚動脈血流波形から, 術後内頚動脈血流波形に変じ, 血流速も増加した.この結果は脳血管写所見とよく一致し, bypass patencyを表現しうるものと考えた。長期追跡例では, 吻合STAのソナグラム上の血流の増減と, 脳血管写上の吻合血管を介する血流分布領域の拡大, 縮少とが一致する結果を得た.即ち, 超音波ドップラー血流測定法はSTA-MCA吻合術の有効性評価と長期追跡に有用かつ最適の方法と考えた.
  • 局所脳血流量と微細構造変化を指標として
    蔭山 武文
    1980 年 2 巻 3 号 p. 186-196
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    虚血脳における初期微細構造変化のうち, 神経機能に関わると考えられる神経細胞内mitochondriaの変化と毛細血管周囲の浮腫性変化に着目し, これらの変化に対して現在臨床で使用されている薬剤 (dexamethasone, mannitol, ergot-a1kaloids, pentobarbital) がいかなる影響をあたえているかを検討した.ラット虚血脳のモデルを作製し, 虚血側大脳半球皮質および基底核部における局所脳血流量を測定しつつ虚血後30分で40~50%の脳血流低下を認めたものを対象とし, 経時的変化を電顕により観察した.まずmitochondriaの崩壊の程度により薬剤効果を判定するとpentobarbital, ergot-alkaloids投与例で有意にmitochondriaの崩壊を抑制する効果が認められた。dexamethasone, mannitol投与例では, ほとんどその効果は認められなかったが, 血管周囲の浮腫は著明に抑制されており, とくにmannitol投与例では血流再開後, 脳血流量が増加し, その後の組織変化も軽度であった.
  • 宮坂 佳男, 川野 信之, 村上 雅子
    1980 年 2 巻 3 号 p. 197-206
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    No-reflow phenomenon (NRP) はcirculatory arrest後の脳障害の1要因として注目されてはいるが, その存否については議論が多い.そこで著者らは従来の定性的方法とは異った, 定量的分析方法 (Point counting method) を用いて, NRPの有無を再確認する目的で本研究を行った.まず対照群におけるcarbonblack脳潅流後の脳切片を観察した.その結果, 肉眼的には均一に黒染されていても, 定量的に微小血管密度を算出してみると, 脳の各領域で大きな差のある事が判明した.従ってcarbon black脳潅流法によって脳虚血後のNRPの有無を論ずるためには, 対照群と対応する同一領域の微小血管密度を定量的に算出し, 両者を比較検討する事が必須であると結論した.本法で判定したところ, 15分間のcirculatory arrest負荷解除直後ではNRPと称される脳微小循環障害は認められたが, 体血圧が正常化した血流再開15分後では, 微小血管密度の減少は全く見られずNRPは一過性の現象である事が確認された.
  • とくにその脂質の変動と組織変化について
    長山 正史, 跡部 俊彦, 一森 繁生, 土谷 一晃, 福永 昇
    1980 年 2 巻 3 号 p. 207-214
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    自己凝血塊による実験的脳梗塞モデルラッテについて, 虚血巣の経時的推移と脳内脂質の変動を関連的 (病理生化学的) に観察した.患側半球のphospholipids含量は, 24hr目に減少ピークを認めたが, この間における脂質の変化曲線は, 脳浮腫の進行の指標となり得るものと考えられる.4日目前後において, 組織の崩壊, 壊死と浮腫の消退より, phospholipidsの真の減少がみられ, 以後, グリア細胞の増殖とともに経時的回復がみられる.phospholipidsは細胞および細胞内小器官の膜構成脂質であるが, 細胞の変性, 壊死に伴い各種酵素によりcatabolizeされ, 脂肪酸を放出するとともに, 最終的には無機リンとなり静脈系に入り, catabolizcされずに残ったものはmacrophageによって処理される.患側半球にトリグリセライドの軽度の増加傾向がうかがわれるが, macrophage内にみられるsudan III陽性, オスミウム好性穎粒の一部に対応するものであろう.
  • 中澤 憲一, 新 城之介, 赫 彰郎, 伊与田 浩介
    1980 年 2 巻 3 号 p. 215-220
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    脳血管障害においてみられる糖代謝異常の発現機序については不明な点が少なくない.
    すでに著者は脳血管障害における血糖値の上昇はコルチゾールとエピネフリンが関与していることを報告した.今回は実験的脳出血家兎における血糖値とエピネフリンのα, β-作用の関係, 血中グルカゴン値, 肝細胞中のグリコーゲンの経時的変化, さらにデキサメサゾンが同家兎の血糖値に及ぼす変化について検索した.その結果, 実験的脳出血後に漸次上昇する血糖値は, β-ブロッカーであるプロプラノロールにより上昇が抑制され, またグルカゴンは血糖値の上昇とほぼ平行関係であった.血中グルコースの由来を知るために同家兎の肝切片を検索したところ, 肝細胞内のグリコーゲンは漸次減少を示した.
    よって血糖上昇はコルチゾール, エピネフリンのβ-作用とグルカゴンが密接に作用し, 血中に増加するグルコースは肝グリコーゲンに由来するものと考える.
  • 鈴木 一夫, 中島 健二
    1980 年 2 巻 3 号 p. 221-225
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    55歳男性, ocular bobbingを伴う橋出血の一例を報告した.血腫の範囲は剖検及びCT scanにて確認した.ocular bobbing発現時には, 脳波でα coma patternを呈し, skew deviation発現時にはspindle coma patternを呈した.caloric testには無反応でocular bobbingの増強は認められなかった.対光反射は, 全経過中保たれていた.本症例に認められた一連の現症の文献的考察に加え, ocular bobbingの出没と脳波変化の相関からcular bobbing発現責任部位が中脳である事が予測され, その発現機序を一元論的に説明した.
    ocular bobbingは急性脳幹障害の診断に重要な神経学的徴候の1つである.しかし, その発現責任部位および機序に関しては定説がない.著者らは,急性橋出血例においてocular bobbingを観察し, その発現前後の脳波測定を中心とした神経学的検索を行ない.さらに剖検も得られたので, 責任部位に関して若干の考察を行ないたい.
  • 立花 久大
    1980 年 2 巻 3 号 p. 226-234
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    網膜血管口径の変動から非観血的に脳循環のautoregulationを推測できるか否かを検討した.脳血管障害26例, Parkinson病7例, Shy-Dfage朗症候群1例の合計34例の患者と正常対照群46例について, 眼底カメラを用い, 脳潅流圧変動に対する網膜血管の反応性を検討した.脳潅流圧変動は臥位から立位への体位変換により行なった.結果 : 1) 対照群では加齢につれ網膜血管反応性の低下を示した.2) Parkinson病, Shy-Drager症候群では対照群に比し, 網膜血管反応性が明らかに低下していた.3) 脳血管障害群では対照群に比較し, 網膜血管反応性が明らかに低下していた.また起立性低血圧を有するものでは網膜血管反応性の低下が著明であった.以上の成績は網膜血管のautoregulationに自律神経系が重要な役割を演じていることを示すと共に, 脳循環のautoregulationに関する従来の成績と一致している.従って本法は非侵襲的に脳血管のautoregulationを知る上で有用な方法と考えられる.
  • リスクファクターとしての意義
    古藤 英明
    1980 年 2 巻 3 号 p. 235-239
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    TIA, 脳梗塞患者を合せた113例 (男子83例, 女子30例) における血清総コレステロール, 中性脂肪, HDLコレステロール, リポタンパク分画を測定した.患者の平均年齢は男子59.6歳, 女子61.7歳である.コントロールには同一年齢構成の244例 (男子110例, 女子134例) を使用した.HDLの分画にはヘパリン・マンガン法を, コレステロール測定には酵素法を用いた.コントロールと比較すると, 疾患群の総コレステロール, βリポタンパクには一定の傾向を認めず, 中性脂肪, pre βリポタンパク, atherogenic index (TC-HDL・C/HDL・C) は有意の上昇を, HDLコレステロール, αリポタンパクはTIA群女子を除き有意の低下を認めた.さらにTIA, 脳梗塞患者群16例のHDLコレステロールを9ヵ月間, 毎月経時的に追跡調査したが一定の傾向を認めなかった.
  • 佐藤 勉
    1980 年 2 巻 3 号 p. 240-245
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    新しい光電法を赤毛ザルに用い, 頚動脈および椎骨動脈系の脳血流のautoregulationの差異について検討した.脱血により全身血圧を下降せしめると, 脳血流は椎骨動脈系において頚動脈系よりも早期に減少し始め, さらに, 脱血を続けMABP約60mmHgではこの減少度の差は, より著しくなることが観察された.これは椎骨動脈領域における脳血流維持機構が頚動脈領域よりも劣ること, 換言すると, 脳幹部などの生体にとって重要な中枢の局在する領域がdysautoregulationにより血流障害を介し, 循環系のemergencyを早期より直接的に予知する可能性が推測された.
    脳血流のautoregulationが頚動脈系と椎骨動脈系において差異があるか否かは学問的にもまた臨床的にも重要な問題の一つと思われる.
    従来この問題に関し若干の研究がなされてきたが実験動物の種属的な相違と方法論的な困難さとが相まって, いまだ結論を得るに至っていない.そこで, 著者は人間とほぼ同じ解剖学的脳血管走行を有する赤毛ザルに著者らの開発した新しい光電法を用いて脱血による全身血圧下降の際の頚動脈系および椎骨動脈系の局所脳血流の維持能力の面からautoregulationの差異について検討を試みたので報告する.
  • 特に中脳病変について
    保坂 泰昭, 金子 満雄, 後藤 昇
    1980 年 2 巻 3 号 p. 246-254
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    過去6年来脳卒中の早期診療に努め, 外側型脳出血に対しては超早期手術を推進してきたが, この様な大脳基底核部出血中には約10%前後の割合で発症後2~3時間以内に脳幹症状を呈して不可逆状態に陥いる激症型と呼ぶべき脳出血症例がある.短時間で死亡するため剖検の承諾を得るのは非常に困難であるが, この様な激症経過をとった大脳基底核部13例について剖検を得, 興味ある結果を得た. (1) 外側型 (被殻外包) 出血では短時間で大血腫を形成し, 血腫そのものにより脳ヘルニアを生じ, また中脳, 橋上部に続発性出血を起こしていたs全例に中脳の圧排, 挫滅, 変形, 出血のいずれかが認められた. (2) 激症経過をとった視床出血では血腫は下方に進展し, 直接に視床下部, 中脳を破壊していた. (3)「混合型」出血の多くは視床出血の進展型と考えられた. (4) いずれの例にも延髄, 下部橋には肉眼的所見を認めず上記の様な中脳の破壊が死亡の主因をなすと考えられた.
  • 静 雅彦, 長田 乾, 柚木 和太, 荒木 五郎, 水上 公宏
    1980 年 2 巻 3 号 p. 255-261
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    CTによって視床出血と診断した71例の神経症状, 特に視床出血に特徴的とされている眼症状と血腫の拡がりとの関連を明らかにした.さらに予後との関連についても検討を加えた.1) 脳出血のうち視床出血は35, 4%であった.2) 血腫の大きさによりA群からD群の4群に分け, さらに血腫の拡がりにより脳室内出血のない限局型, 脳室内出血少量型, 脳室内出血多量型の3型に分類した.3) 視床出血の片麻痺で特徴的なことは, 手指の麻痺が軽度である視床不全片麻痺thalamic hemiparesisを呈することである.4) 瞳孔は縮瞳傾向を示し, 2.5mm以下の大きさのものが大多数であった.脳室内出血のある症例では瞳孔不同, 内下方視, 対光反応消失が高頻度にみられる.5) 予後不良の徴候として意識障害の外に4.0cm以上の血腫, 脳室内出血多量, 病巣側の瞳孔が大きい瞳孔不同, 共同偏視, 開散外方視があげられる.
    computed tomography (CT) の出現により,高血圧性脳出血 (脳出血) の部位および,その拡がりを正確に診断できるようになった.したがって,これまで剖検所見に基づいて行われてきた出血の部位別頻度や神経症状の解析は臨床例を対象とした場合とは大きく異なることも考えられる.また脳出血の予後についても正確に判断し得るようになり,従来とはかなり異なった成績が得られている.
    本報告ではCTによって視床出血と診断した症例の神経症状,特に視床出血に特徴的とされている眼症状と血腫の拡がりとの関連を明らかにする.さらに予後との関連についても検討を加えた.
  • 本邦報告例の文献的考察
    清水 保孝, 小林 祥泰, 古橋 紀久, 神田 直, 田崎 義昭
    1980 年 2 巻 3 号 p. 262-268
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2009/09/03
    ジャーナル フリー
    弾力線維性仮性黄色腫 (PXE) は皮膚症状, 眼症状, 全身血管系症状を3主徴とする遺伝性疾患である。我々はWallenberg症候群を呈したPXEの1例を経験した.症例は38歳の男性で昭和52年脳梗塞に罹患し, 昭和53年6月再び脳梗塞を起こし本院に入院した.入院時, Wallenberg症候群を呈し, 脳血管写にて両側前下小脳動脈, 右後下小脳動脈は造影されなかった.皮膚生検によりPXEと診断し, 脳幹梗塞はPXEに起因するものと推定した.本邦で最初にPXEの中枢神経症状合併例が報告された1957年以後の報告例230例を検討し, 中枢神経症状合併例を23例10%に認めた.若年者に多く, 中枢神経症状は極めて多彩で, 脳血管写では内頚動脈病変を認めるものが多かった.出血性病変を確認したものはなく, 梗塞性病変が多かった.原因不明の若年性脳血管障害をみた場合, 本症を愈頭におき, 皮膚症状, 眼症状に注意を払うべきであることを強調した.
  • 1. 急性実験
    田中 耕太郎
    1980 年 2 巻 3 号 p. 269-279
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2010/01/22
    ジャーナル フリー
    [目的] クモ膜下出唾後の脳血管攣縮におけるノルアドレナリン (NA) 作動性神経因子の関与の有無を検討した. [方法] 16匹の成猫を用い, 頭窓法により脳軟膜血管を観察し, 新鮮自家血大槽内注入群と4日間incubateした自家血・髄液等量混合液大槽内注入群にわけ実験的脳血管攣縮を作製した.これに対しドーパミン-β-水酸化酵素の特異的阻害剤であるフサリン酸 (FA) (50mg/kg) 静注の効果を検討した. [結果] (1) 両群ともにFA投与後, 血圧下降とともに脳軟膜動脈は拡張を示し, 投与後30分以降では有意な (p<0.001) 攣縮寛解を認め口径は正常化した. (2) 両側大脳半球皮質, 一側小脳半球皮質で水素クリアランス法により測定した局所脳血流量もほぼ上記動脈と同様の経過を示し, 低下していた血流量はFA投与後著明に改善した. [結論] 新鮮自家血および4日間incubateした自家血・髄液等量混合液による脳血管攣縮にはNA作動性神中経因子, 特にNA作動性神経終末よりのnoごadrenalineの放出尤進の関与が示唆された.
    クモ膜下出血 (SAH) 後に生ずる脳血管攣縮は, その予後を著しく悪化させ臨床的に古くから重要な課題となって来た.しかしその病態生理については種々の因子, 即ちserotonin, prostaglandin, oxyhemoglobin, 自律神経因子, 物理的因子, 器質的因子等様々のものが提唱されて来ているが, 未だ確証なく, その治療法も確定されていない.
    脳血管には比較的古くからノルアドレナリン作動性神経を含め自律神経線維の密なる分布が認められ, 最近脳血流の自動調節に重要な役割を果たしている事が明らかとなって来た.一方, SAH後に種々の点でノルアドレナリン作動性神経系の活動亢進が認められる事が臨床的に注目されている.そこでSAH後の脳血管攣縮におけるノルアドレナリン作動性神経系の関与を調べ,かつその治療への応用の可能性を検討する目的で,猫の実験的SAHにおける血管攣縮に対して, noradrenaline合成酵素dopamine-β-hydroxylaseの特異的阻害剤であるフサリン酸 (5-butylpicolinic acid) を投与し, その効果を脳軟膜動脈口径と局所脳血流量の二面より観察した.
    本論文では大槽内に新鮮自家血または4日間 incubateした自家血・髄液等量混合液注入後の血管攣縮に対する急性実験の成績を報告する.慢性実験については別に述べる予定である.
  • 2. 慢性実験
    田中 耕太郎, 後藤 文男, 福内 靖男, 天野 隆弘, 岡安 裕之
    1980 年 2 巻 3 号 p. 280-290
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2010/01/22
    ジャーナル フリー
    [目的] 実験的クモ膜下出血 (SAH) 後の晩期血管攣縮についてノルアドレナリン作動性神経因子の関与の有無を検討した. [方法] 20匹の成猫を用い新鮮血大槽内注入により実験的SAHを作製し, 頭窓法による脳軟膜血管口径および水素法による脳血流量測定を行なった.SAH 3日後 (実験1) およびSAH 7日後 (実験2) に, ドーパミン-β-水酸化酵素の特異的阻害剤であるフサリン酸 (FA) (50mg/kg) 静注の効果を検討した. [結果] (1) 実験1. SAH 3日後, FA静注により脳血管は拡張したが, その程度は対照群に比しより高度であった. (2) 実験2. SAH当日に認められた血管攣縮は一旦軽度寛解後, 4日後には進行し7日後には-25.8~-30.9% (P<0.02~0.005) の著明な口径縮小を認めた.FA静注によりこの攣縮は明らかに寛解し90分後には完全に消失した.脳血流量もFA静注後, 明らかな回復を示した. [結論] 晩期血管攣縮にノルアドレナリン作動性神中経因子の関与が示唆された.
    猫の急性実験において,新鮮自家血および4日間37℃でincubateした自家血・髄液等量混合液大槽内注入後に認められた脳血管攣縮に対し, noradrenaline合成酵素であるdopamine-β-hydmoxylaseの特異的阻害剤であるフサリン酸が, 著明な攣縮寛解効果を示す事は既に報告した.この報告によりクモ膜下出血後の脳血管攣縮にノルアドレナリン作動性神経終末からのnoradrenalineの放出亢進が関与している事が示唆された.しかし臨床的に重要な,いわゆる晩期血管攣縮については, クモ膜下出血後に生体内に起る各種の要因について考慮する必要がある.例えばクモ膜下出血後1週目の後半より臨床的にdenervation hypersensitivityが認められる事, 尿中noradrenalineがクモ膜下出血後重症例で2~3週目に高値を示す事, 実験的に3日間クモ膜下出血にさらされていた脳底動脈ではin vitro でnoradrenalineに対する感受性が亢進している事, 更には脳血管壁の器質的変化の発生等が報告されている.当然ながら急性実験ではこれらの因子は考慮されていない.本論文の目的は臨床的により近い状態の, 慢性実験によって, 晩期血管攣縮におけるノルアドレナリン作動性神経系の関与の有無を調べることにある.
  • 大田 英則, 冨永 詩郎, 鈴木 明文, 伊藤 善太郎, 村上 松太郎
    1980 年 2 巻 3 号 p. 291-298
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2010/01/22
    ジャーナル フリー
    脳血管攣縮 (vasospasm) にcyclic AMPの関与が考えられている.急性期破裂脳動脈瘤10例において, 肘窩静脈, 内頚静脈球, および大腿動脈より採血した血液と, 髄液についてcompetitive pTotein binding methodによりcyclic AMP濃度を測定した.3ヵ所から採取した血漿中cyclic AMP濃度は早期に高値を取り時間経過とともに正常値に復した.うち内頚静脈球血漿中のcyclic AMPが他部位のそれより高値をとり, このことは脳内からのcyclic AMPの遊出を示しているものと考えられた.発症早期に高値を取るものほどvasospasmの出現率が低く, 両者の関係を示唆するものと考えられた.髄液中cyclic AMPは発症後次第に増加する傾向を見た.cyclic AMPはクモ膜下出血発作とvasospasmに関与して変動すると考えられるが, その詳細なメカニズムには不明な点が多く, 今後さらに検討を要する課題と言えよう.
    1.頭蓋形成術施行2例において,術後1時間後の肘窩静脈血漿中のcyc1icAMP濃度は著増したが,12時間後には正常範囲に復した.
    2.クモ膜下出血例において,発症後数日間,肘窩静脈血漿中のcyclic AMP濃度は正常域値を超えることが多いが,手術や脳血管攣縮の有無にかかわりなく,発症10日後には,ほとんどの症例で正常値に復した.クモ膜下出血の重症度との関連は認められなかった.
    3.肘窩静脈血漿中のcyclicAMP濃度が,発症4日までに高値をとる例では,経過中脳血管攣縮を発生することが極めて少なかった.
    4.髄液中cyclic AMP濃度は2週間後までに次第に増加,高値を持続する傾向がみられたが,その絶対値は症例によって異なり,重症度や脳血管攣縮との相関もみられなかった.
    5.血漿中cyclicAMP濃度の採血部位別の差をみると,内頚静脈球の値が他の部位に比して高値をとり,大腿動脈と肘窩静脈はほぼ同じレベルであった.本稿の大要は,北海道脳神経外科懇話会,東北脳神経外科集談会,新潟脳神経外科懇話会,北陸脳神経外科集談会の連合会,第1回学術集会,1977.札幌にて発表した.
  • 神田 直, 林 英人, 小林 祥泰, 古橋 紀久, 田崎 義昭
    1980 年 2 巻 3 号 p. 299-306
    発行日: 1980/09/25
    公開日: 2010/01/22
    ジャーナル フリー
    脳卒中急性期の交感神経活動を知る目的で発症48時間以内の患者64例を対象に血漿カテコールアミンの変動を観察した.血漿ノルエピネフリン (NE) 値は, 脳出血, くも膜下出血, 脳梗塞の順に高く, その平均値はそれぞれ753±116pg/ml, 630±291pg/ml, 397±65pg/mlであった.脳出血の平均値は脳梗塞と対照とした非神経疾患々老19例の平均値292±2gpg/mlよりも有意に高値を示したが, 脳梗塞と対照の間には有意差を認めなかった.血漿NEの上昇はとくに大血腫, 広範な梗塞を伴う重症例で著しかった.
    死亡した13例の血漿NEの平均値1,199±162pg/mlは生存43例の平均値362±39pg/mlより有意に高く, 入院時の血漿NEは患者の生命予後を良く反映した.血漿エピネフリンについても同様の傾向がみられた.
    脳卒中急性期には交感神経系の興奮と副腎髄質機能の尤進を伴い, とくに予後不良な重症例で著しい.
    脳卒中急性期には脈拍,血圧,呼吸,体温などのvital signにしぼしば著しい変化がみられ,また発汗過多,消化管出血などを伴うことが少くない.これら多彩な臨床症状の発現には自律神経系が密接に関与していると推定される.さらに脳卒中患者ではValsalva試験における反応異常, 起立性低血圧, 体位変換に伴う血中ノルエピネフリン (NE) 反応の低下など自律神経機能異常がみられることが報告されている.一方最近では脳循環の調節機序における自律神経系の役割が注目され, 脳卒中急性期にみられる脳循環代謝動態の異常にも自律神経異常を伴うことが推測されるが,現在のところこれを実証するような成績は得られていない.したがって脳卒中急性期の自律神経活動についての観察は, 脳卒中の病態を解明する上でのひとつのアプローチになると考える.血中NEは主として交感神経の末端に由来し, その変動は交感神経活動をかなり鋭敏に反映すると考えられている.脳卒中患者においては尿中カテコールアミン (CA) 排泄量の増加があり, さらに血中 CAレベルが上昇することが報告されている.また交感神経刺激によりNEと共にexocytosisによって放出されるといわれるドーパミン-β-水酸化酵素 (DEH) 活性も脳卒中急性期には血中で上昇する.血清DBH活性の変動からみても, 血中NEの変化は脳卒中発症数日以内の急性期に著しいことが予想されるが, これらの報告者の成績ではその検討が十分になされていない.また血中CAレベルと臨床症状との詳細な関係についても明らかでない.最近のCA測定法の進歩は目覚しく, 特異性と感度に優れた測定法が開発されつつある.一方CTスキャンの導入により脳血管障害の診断精度は著しく向上し, 出血と梗塞の鑑別はもとより, 病巣部位までかなり正確に診断が可能となった.そこで著者らはとくに脳卒中発症後極く早期の患者を対象に血中CAの変動を観察し, さらにその臨床的意義についても検討を行った.
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