脳卒中
Online ISSN : 1883-1923
Print ISSN : 0912-0726
ISSN-L : 0912-0726
33 巻, 2 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
原著
  • 中嶋 千也, 大西 英之, 垰本 勝司, 久我 純弘, 兒玉 裕司, 久保田 尚, 富永 貴志, 林 真人, 宮田 至朗
    2011 年 33 巻 2 号 p. 217-225
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    【背景および目的】本邦においては,脳梗塞急性期に対するアルテプラーゼ0.6 mg/kgの静注療法は,発症3時間以内に承認されている.しかし,その恩恵を受ける患者の割合は少ない.発症3時間以降の症例に対し,アルテプラーゼ0.9 mg/kgやデスモテプラーゼの静注療法が有効であると示唆する報告が多くなされている.以前われわれは,アルテプラーゼ0.6 mg/kg静注療法にて発症3時間以内の急性中大脳動脈閉塞は,高い再開通率が得られることを報告した.このことはJ-ACT2でも確認された.今回の研究は,発症3時間以降のperfusion-diffusion mismatchを示す急性中大脳動脈閉塞症に対するアルテプラーゼ0.6 mg/kg静注療法が有効かつ安全かを明らかにする目的で行われた前向き臨床研究である.【方法】脳梗塞急性期の診断は,MRI(diffusion,FLAIR,T2,T2),MRAを用いた.発症3時間以降の症例では,diffusion MRIにて異常信号域が中大脳動脈領域の1/3以内で,かつperfusion-diffusion mismatchを20%以上認める症例に対し,アルテプラーゼ0.6 mg/kg静注療法を行った.発症3時間以内と3時間以降のアルテプラーゼ静注療法を行った中大脳動脈閉塞症例において,患者背景,再開通の有無,24時間後の早期臨床改善,3カ月後の転帰良好(mRS 0,1),72時間以内の症候性頭蓋内出血,3カ月後の死亡率を比較した.【結果】3時間以内で投与した症例数が53,3時間以降で投与した症例数が10.前者と後者を比較すると,再開通率(52.8%対70.0%),24時間後の早期臨床改善(41.5%対60.0%),3カ月後の転帰良好(37.7%対50.0%),症候性頭蓋内出血(0%対0%),3カ月後の死亡率(1.9%対0%)といずれも同等の結果であった.【結論】Perfusion-diffusion mismatchを示す発症3時間以降の急性中大脳動脈閉塞に対する0.6 mg/kg静注療法は,3時間以内で治療された症例と同等に有効かつ安全であることが示唆された.今後症例を重ねて検討する必要がある.
  • 豊田 章宏
    2011 年 33 巻 2 号 p. 226-235
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    【背景】脳卒中発症には気温が最も影響する.発症時期については冬に多く夏に少ないとされるが一定しておらず,その理由として気象の影響の複雑さに加えて,観察期間の短さや対象数の少なさなど研究方法自体も指摘されている.【方法】全国労災病院において2002年度から2008年度に入院加療された全脳卒中症例46,031例を対象とし,脳卒中病型別に月別発症数を比較した.また気象区分から4つの地域に分けて検討した.【結果】脳出血は男女とも夏少なく冬に多発したが,北日本と西日本では最少月にひと月の差があった.くも膜下出血は女性に多く,夏少なく秋から冬に多発した.脳梗塞全体では明確な季節性は認めなかったが,ラクナおよびアテローム血栓性梗塞では夏に急増し1月に再増加という2峰性がみられ,心原性脳塞栓では冬場のみ多発した.【結論】地球環境の変化に伴い,生活環境や職場環境にも十分配慮した脳卒中予防対策が必要となる.
症例報告
  • 崎間 洋邦, 伊佐 勝憲, 仲地 耕, 長嶺 英樹, 國場 和仁, 城間 加奈子, 石原 聡, 渡嘉敷 崇, 石内 勝吾, 大屋 祐輔
    2011 年 33 巻 2 号 p. 236-240
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    Micro convex probe(MCP)とB-flow imaging(BFI)を用いた超音波検査が高位分岐内頸動脈解離の診断に有用であった1例を報告する.症例は33歳男性.ランニング中に1分間の運動性失語と右顔面感覚障害が出現した.第3病日にも同様の症状があった.頭部MRIで左中大脳動脈領域皮質小梗塞を認めた.通常の超音波検査で用いられるlinear probeでは,高位分岐のため,左内頸動脈は観察困難であった.MCPを用いたところ,起始部から2 cm遠位で,低輝度連続性病変による左内頸動脈内腔狭窄と血管径拡張を認めた.さらに,BFIで血管内腔と血流を伴う偽腔性低輝度病変,これらを区別する可動性膜様構造物が描出された.造影CT angiographyは超音波所見に矛盾せず,BFIで真腔と偽腔,およびintimal flapを確認し得た.特発性内頸動脈解離と診断した.内頸動脈高位分岐が多いとされる本邦では,MCPによる遠位部観察とBFIの組み合わせは頭蓋外内頸動脈解離の診断に有用な診断法と考えられた.
  • 次田 夏美, 長柄 俊佑, 岡本 清尚, 加藤 雅康, 林 克彦, 堀部 永俊, 竹中 勝信
    2011 年 33 巻 2 号 p. 241-245
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は90歳の女性.右半身麻痺と失語症で当院へ救急搬入された.左中大脳動脈流域の心原性脳塞栓症と診断し,発症より1時間45分でrt-PA静注療法(40 kg,24 mg)を開始した.治療開始時のNIHSSスコアは25点で,治療後に17点まで改善したが,rt-PA投与から1時間30分後に突然の嘔吐と共に意識レベルが低下し収縮期血圧60 mmHgとショック状態になった.緊急で全身CTを施行したところ,全周性の心嚢液貯留を認め心タンポナーデによる心原性ショック状態と考えられた.患者は,rt-PA静注開始から3時間35分後に死亡された.剖検では亜急性心筋梗塞と梗塞部位に一致する心破裂の所見を認めた.心筋梗塞を合併した急性期脳梗塞患者へのrt-PA静注療法の実施に当たっては,心破裂を生じる可能性があり十分注意する必要があると考えられた.
  • 出口 一郎, 中里 良彦, 二宮 充喜子, 山元 敏正, 田村 直俊, 荒木 信夫
    2011 年 33 巻 2 号 p. 246-250
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.3週間にわたって持続する右上下肢の不随意運動を主訴に入院した.右上下肢に舞踏運動様の不随意運動を認めたが,その他に神経学的異常所見はなかった.SPECT所見で左前頭葉から頭頂葉に血流低下が認められたが,頭部画像(頭部CT,MRI)や脳波に異常所見はなかった.入院後,不随意運動は自然に消失したため退院したが,2日後に失語症,右上下肢麻痺を発症し再入院した.頭部MRI画像で左基底核,前頭葉,側頭葉に散在する急性期脳梗塞巣を認め,MRAでは左内頸動脈の閉塞所見がみられた.初回の入院時の画像検査・脳波で明らかな異常は認めなかったが,一連の経過から当初認めた右上下肢の不随意運動は,左内頸動脈病変による血行力学的要因が関与したlimb shaking(LS)と考えた.一般的にLSは機序が血行力学的であることから,症状の出現は一過性であることが多く,本症例のようにLSが数週間持続することは稀であるが,初診時より脳血管障害を疑い精査することで,脳梗塞を予防し得る教訓的な症例と考え報告した.
  • 小河 秀郎, 大村 寧, 中村 紘子, 大澤 紀之, 山田 衆
    2011 年 33 巻 2 号 p. 251-254
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は47歳女性.2010年3月初旬より食思不振のため水分のみ摂取していた.2010年3月中旬の某日,覚醒時に左上下肢と呂律が回りにくいことに気づき,2時間後に当院救急搬送.搬送時,意識晴明,見当識良好であるも,顔面を含む左片麻痺を認めた.頭部CT,頭部MRAに異常なく,頭部MRI拡散強調画像で両側内包後脚と脳梁膨大部に高信号を認めた.血糖35 mg/dlと判明し,ブドウ糖投与を行ったところ,左片麻痺は速やかに消失した.著明な甲状腺機能亢進,TSHレセプター抗体高値を認め,バセドウ病と診断.コルチゾール高値以外にインスリン,血糖調節ホルモンの異常は認めず,インスリン抗体も陰性であったことから,甲状腺機能亢進に高度の飢餓状態が重なったために生じた低血糖性片麻痺と診断した.バセドウ病に伴う低血糖性片麻痺の報告はこれまでになく,急性期脳梗塞の鑑別診断として重要と考えられた.
  • 丹羽 央佳, 濱 哲夫
    2011 年 33 巻 2 号 p. 255-261
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    右頸部痛で発症した72歳男性が,右中枢性顔面神経麻痺,右軟口蓋麻痺,右胸鎖乳突筋・僧帽筋麻痺,右Horner症候群,右片麻痺,両側顔面と左半身の温痛覚障害,右半身の触・深部覚障害および両側Babinski徴候を呈した.MRIで右小脳半球,右延髄下部の背外側および上位頸髄の右半側に新しい梗塞を認めた.脳血管造影では両側椎骨動脈起始部が閉塞しており,盲端となった右椎骨動脈内の血栓が塞栓源となり梗塞を来したと考えた.杖歩行にて退院したが,76歳時に急性発症の完全対麻痺にて再入院した.他の新しい症状は,極軽度の左上肢脱力のみであった.頭部MRIでは,右中心前回内側に限局した梗塞がみられた.心原性ないし大動脈原性と考えられた.第1回の発作からの回復過程において,非障害側の下肢運動野が両側下肢を支配するようになり,次にそこに限局した梗塞が生じたために,対麻痺を来したと考えた.
  • 北惠 詩穂里, 大田 慎三
    2011 年 33 巻 2 号 p. 262-268
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は16歳男性,全身の痙攣と意識障害で発症した.頭部MRIではDWIで両側頭頂葉に境界不鮮明な淡い高信号域の出現を認めた.MRVおよび血管造影検査では上矢状静脈洞の描出が不良であり,静脈洞血栓症(CVT)と診断した.血液検査上antithrombin (AT) IIIの異常低値を認め,ヘパリンによる抗凝固療法では大量のAT製剤の併用が必要となると予測されたため血管内治療を選択した.ウロキナーゼを用いた局所血栓溶解療法を行ったが血栓の溶解は困難であり,バルンカテーテルを用いた血栓破砕を行ったところ再開通が得られ,意識障害と痙攣は速やかに改善した.以後はヘパリンとAT製剤の併用投与を継続し,後遺症なく回復したため退院となった.CVTでは抗凝固療法が行われることが多いが,重篤な経過をたどる症例もあり,特に凝固系の異常を伴う例では治療に難渋することがある.CVTにおいては早期の適切な診断と,その原因に応じて治療の選択を検討する必要があると考えられた.
  • 土屋 敦史, 高田 達郎, 野越 慎司, 大塚 快信, 渡邉 裕文, 吉江 智秀, 和久井 大輔, 長島 梧郎, 植田 敏浩
    2011 年 33 巻 2 号 p. 269-274
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    tPA静注療法後にMerciリトリーバーを用いた血栓回収によって完全再開通が得られた内頸動脈閉塞の1例について報告する.症例は58歳男性,左片麻痺で発症し,発症40分後に搬送され,来院時NIHSSは10であった.拡散強調画像にて異常所見はごくわずかであり,MRAでは右内頸動脈の完全閉塞を認めた.tPA治療後に症状の改善は得られず,脳血管撮影を行うと右頸動脈分岐部の高度狭窄と内頸動脈先端部の閉塞を認め,動脈原性の塞栓症と診断した.そこで頸動脈分岐部にステント留置を行った後,Merciを用いて血栓回収を試みたところ,初回手技で血栓回収と共に中大脳動脈M1遠位部までの再開通が得られ,2回目の手技にて完全再開通が得られた.術後神経症状は著明に改善し,退院時mRSは1であった.Merciを用いた血行再建術は,再開通が困難で転帰不良と考えられた内頸動脈閉塞に対する有用な治療手技となる可能性がある.
  • 尾崎 充宣, 荻野 達也, 大里 俊明, 上山 憲司, 中川原 譲二, 中村 博彦
    2011 年 33 巻 2 号 p. 275-281
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は65歳女性.破裂左中大脳動脈瘤に対するクリッピング術から2年後に右片麻痺と失語を発症した.諸検査にて動脈解離による左中大脳動脈高度狭窄と診断し,中大脳動脈領域の血行力学的脳虚血を呈していたが保存的加療を行い改善が得られた.発症時,1カ月後,3カ月後にCT angiographyおよびCT perfusionを同時に行い,脳血管形態と脳循環動態の変化を観察することが可能であった.病態の変化する脳動脈解離の観察において,脳血管形態と脳循環動態の評価を一度に行えるmultimodal CT imagingの有用性を経験したので報告する.
  • 温井 孝昌, 田口 芳治, 小西 宏史, 道具 伸浩, 高嶋 修太郎, 田中 耕太郎
    2011 年 33 巻 2 号 p. 282-287
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2011/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は50歳の女性.車の運転中に突然,後頭部痛を自覚し,左上下肢筋力低下が出現した.頭部CT,MRIで右前頭葉に脳梗塞とクモ膜下出血の所見を認めた.脳血管撮影では,右前大脳動脈に造影剤の貯留と狭窄所見を,両側内頸動脈に念珠状の壁不整を認めた.以上より線維筋性形成異常症(FMD)に合併した解離性前大脳動脈瘤と診断した.既報告と比較検討し,頭蓋内動脈の比較的細い動脈の解離では脳梗塞と出血が同時に発症しやすいことが想定される.また,解離の原因としてFMDを念頭に置く必要がある.
レター
feedback
Top