要旨:血管性認知障害(vascular cognitive impairment; VCI)は「脳血管障害に関連して生じる認知機能障害」を意味する用語である.元来,発症早期の治療介入を意図してHachinski らが提唱した経緯があり,一般的にはVCI-no dementia,血管性認知症,脳卒中後認知症,混合型認知症を包含し,早期から進行期,またはその周辺病態までを含む.VCI が提唱されるに至った背景には,血管性認知症の初期診断の難しさがある.脳血管病変が認知機能障害の原因となるかどうかは,脳血管病変の大きさ,部位,病巣の性質によって異なっており,その判断は容易ではない.このためNINDS-AIRENの診断基準では脳卒中発作から認知機能低下発症まで3 カ月以内の縛りをつけている.しかし,白質病変やラクナ梗塞を主体とするビンスワンガー病で,約半数が脳卒中のエピソードを呈さない事実に照らしても,時間的関連のみに依存して因果関係を規定することは不適切である.また,アルツハイマー病でも中年期の血管性危険因子が発症リスクとなることが判明している.このため現状では,脳血管病変と認知症の因果関係に拘泥せず,治療優先の立場からVCI として扱うことは臨床的に意義がある.近年,アミロイドβやタウを描出する分子イメージングが急速に発達しており,混合型認知症やVCI の病態の解明が明らかになることが将来的に期待される.
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