【背景および目的】妊娠関連脳卒中は,妊産婦死亡の主要な原因であり,その病態の理解は重要である.妊娠関連脳卒中のなかには,脳皮質に限局するくも膜下出血(皮質性くも膜下出血)で発症し,比較的良好な経過をたどる例が存在する.【方法】妊娠経過中に皮質性くも膜下出血を発症した5 例の臨床的特徴を,診療録をもとに検討した.【結果】いずれも産褥期に発症しており,reversible cerebral vasoconstriction syndrome(RCVS)とposterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)に合致する臨床経過,画像所見を単独,または重複して認めた.【結論】皮質性くも膜下出血で発症する妊娠関連脳卒中は,その発症にRCVS とPRES が関与し,転帰は良好ではあるが,注意深い経過観察が必要である.
今回,我々はくも膜下出血(SAH)を繰り返し死亡に至ったアスペルギルス性多発脳動脈瘤の症例を報告する.症例は83 歳男性.難治性の頭痛に対して巨細胞性動脈炎が疑われ,当院神経内科でプレドニン® 内服で約8 週間入院加療されていた.入院時と入院後のMRI では特に異常を認めなかったが,突然SAH を発症し当科に転科となった.緊急DSA で右内頸動脈(ICA)に動脈瘤を認めコイル塞栓術を施行した.経過から感染性動脈瘤を疑ったが,真菌抗体検査および培養検査は陰性であった.Day 5 の頭部MRI で右ICA に新たに多発性動脈瘤を認め,再度コイル塞栓術を施行した.しかしその翌朝に急変し,頭部CT ではSAH の再発を認めた.Day 7 に永眠され剖検を施行し,脳動脈瘤壁および頭蓋底硬膜など広範囲に及ぶ著明なアスペルギルス感染所見を認めた.アスペルギルスの頭蓋内感染において感染経路や治療方針に関して,未だエビデンスが少ないのが現状である.
症例は65 歳男性.高血圧,脂質異常症を指摘されていたが未治療だった.日中突然に右顔面のゆがみと右上肢の脱力を自覚し,近医で脳出血を指摘され当院へ転院となった.脳CT では左前頭葉深部白質に10 mm 大の急性期脳出血を認めた.入院後の脳血管造影検査では,左M1 遠位部および左A1 の閉塞と,側副血行路にあたるレンズ核線条体動脈の発達を認めた.同動脈の末梢部に径3 mm 程度の動脈瘤を1 カ所,径1 mm 未満の微小な瘤状変化を3 カ所認め,末梢部脳動脈瘤破裂による脳出血と診断した.保存的治療とリハビリテーションを行い,後遺症なく退院した.外来で降圧療法を継続し2 年後に再度脳血管撮影を行ったところ脳動脈瘤の消失を認めた.本症例のように動脈硬化性脳主幹動脈閉塞に伴い側副血行路の末梢部に微小脳動脈瘤が生じ,血行力学的ストレスを軽減させることで脳動脈瘤が消失した例は稀であり,良好な転帰を得たため報告する.
Paroxysmal sympathetic hyperactivity(PSH)は発作性・反復性に交感神経過活動を来す疾患で,一過性の場合は比較的コントロール可能だが,遷延化する場合予後不良である.多くは重症頭部外傷後に発症し,自律神経中枢の障害によるとされているが,今回プロテインC 欠乏症による多数回の脳卒中後PSH を呈しintrathecal baclofen(ITB)が有効であった症例を経験したので報告する.症例は51 歳時に脳梗塞で初発,その後脳出血やラクナ梗塞を繰り返したが自宅で生活していた.60歳時に四肢硬直が断続的に出現し搬送.数日で全身痙縮になり,高熱,発汗過多,頻脈が持続した.痙縮治療目的で発症6 週にITB を施行したところ,痙縮のみならずPSH も劇的に改善した.病変が多発する場合,小病変でもPSH を発症することがあり,ITB はPSH の治療にも有効である可能性が示唆された.
症例1 は頭痛で発症した43 歳男性.来院時にくも膜下出血(SAH)を認めたが,頭部MRAおよび脳血管撮影(DSA)において左椎骨動脈(VA)が途絶していているほかに出血源となる病変がみられなかった.翌日に再検した頭部MRA で左VA が描出され,DSA では同部位の不整な紡錘状拡張を認めた.出血源である解離性椎骨動脈瘤(VADA)が閉塞後に再開通したと判断し,母血管閉塞を行った.症例2 は63 歳男性.2 日前からの頭痛が増悪,頭部CT でSAH を認めた.来院時の頭部MRA では右VA が途絶していたが,7 時間後に再検した頭部MRA では右VA が描出された.DSAでは同部位の動脈瘤様拡張を認め,VA の開頭trapping 術を行った.出血発症のVADA において初診時は母血管が閉塞していた場合でも,発症当日を含めた数日内に再開通する可能性があるため,繰り返し画像評価を行うことが必要であると考えられた.
出血発症の椎骨動脈解離(vertebral artery dissection: VAD)において,前脊髄動脈(anterior spinal artery: ASA)が解離側VA から2 本分岐しY 字型にfusion している症例を経験したので報告する.症例は43 歳男性.くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage: SAH)で発症した破裂VAD で,解離部から1本,解離部より末梢の正常部位から1 本ASA が分岐し,fusion 後に下行していた.マイクロカテーテルを3 本使用しASA を温存しVAD のinternal trapping を行った.片側VA から2 本のASA が分岐しfusion するタイプの血管走行は今まで報告がなく本症例が初めてである.ASA の起始部にはvariationがあり,VA union 近くの塞栓術では脳幹への穿通枝とともにASA 分岐の詳細な観察が必要である.
近年,非侵襲的撮像法として注目されているarterial spin labeling(ASL)-cerebral blood flow(CBF)と15O-PET CBF を比較し,脳循環遅延および術後過灌流を呈したモヤモヤ病2 症例に関してその特徴を報告する.症例1 は脳循環遅延例であるが,arterial transit time(ATT)の延長を反映し,short post labeling delay(PLD)の撮影では血流低下が過大評価され,long PLD の方がより15O-PET CBFに近似した画像が得られた.症例2 は術後過灌流例であるが,ATT が短縮するためshort PLD の方がより15O-PET CBF に近似した結果となった.したがって,ASL は非侵襲的かつ簡便に施行できる脳循環検査である一方で,ATT の差異により得られる画像が変化するため,その特徴を把握したうえで,画像の評価および結果の判断を行う必要がある.
症例1 は39 歳男性,作業中に突然の後頸部痛で発症した右椎骨動脈解離.約1 カ月間で疼痛・解離ともに軽快したが,6 カ月後に再度後頭部痛があり右椎骨動脈解離部が紡錘状に拡張しており,急激に増大していくため破裂予防のために親動脈閉塞術を行った.症例2 は48 歳男性.突然発症の左耳の奥の痛みあり,左椎骨動脈に紡錘状拡張が認められ解離性動脈瘤と診断し降圧治療を行った.1 度は疼痛が改善したが,左耳の奥の痛みが8 カ月にわたり断続的に繰り返され,徐々に動脈瘤の増大が認められたためステント併用動脈瘤塞栓術を行った.椎骨動脈解離に伴う疼痛が慢性期にも持続する場合は解離性動脈瘤の増大を示唆している可能性があり,厳重な経過観察を要すると思われた.
トラスツズマブは,ヒト上皮成長因子受容体2 型蛋白のモノクローナル抗体であり,エピルビシンはアントラサイクリン系抗生物質で,どちらも乳癌の治療に用いられる.今回,両者による高度な心不全が原因で脳塞栓を起こした症例を経験した.症例は50 歳,女性.乳癌で乳房全摘出術を受け,術後エピルビシン投与後にトラスツズマブ治療を受けていた.就寝中に息苦しさ,意識レベル低下,右片麻痺を呈し当院に搬送された.来院時,失語,右上肢麻痺を認め,MRI で左頭頂葉に新鮮梗塞,MRA で左M2 閉塞を認め,アルテプラーゼ投与で改善した.心エコーでLVEF(left ventricular ejection fraction)が23.8%と低値を示した.入院2 日目にJCS 200 まで意識レベル低下し,MRA で右M1 閉塞を認め,カテーテル血栓除去術でThrombolysis In Cerebral Infarction(TICI) 3 の再開通を得た.第16 病日にも脳塞栓を再発した.本症例は,両薬剤による高度な心不全が主な原因で脳塞栓を繰り返したと考えられ,稀な症例と思われた.
鎖骨頭蓋骨異形成症(cleidocranial dysplasia: CCD)は,発症率が約20 万人に1 人とされる比較的稀な先天性の骨系統疾患である.今回,本症候群に両側中大脳動脈瘤を合併した症例を経験したので報告する.症例は87 歳,女性で,歩行障害を主訴に来院した.CT 上,左脳内出血・左シルビウス裂のくも膜下出血を認め,3DCTA にて両側中大脳動脈瘤を認めた.また初診時の特異な顔貌・体躯,レントゲン検査・骨条件の3DCT からCCD と診断した.左中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を疑い,同部のクリッピング術を行ったが,術中所見では未破裂であり,外傷性のくも膜下出血であったと判断した.術後経過は問題なく,発症前のADL と変わらずに自宅退院した.CCDに脳動脈瘤を合併した報告はこれまで1 例のみであり,本症例は極めて稀な症例であると思われた.