【目的】急性脳主幹動脈閉塞疑い症例を,経皮的脳血栓回収術施設に搬送するstroke bypass を 東京都に導入する方法を検討した.【方法】代表的な8 つのprehospital stroke scale(以下,スケール), 東京消防庁救急活動基準(以下,東消基準),脳卒中病院前救護のプロトコールPrehospital Stroke Life Suppor(t PSLS)を分析しstroke bypassの方法を考察した.【結果】各種スケール,東消基準とPSLSの 分析で,東京都ではPSLS に近い病院前救護活動が行われており,いくつかのスケールをつけるに 足る情報を収集していた.【考察・結語】現行の東消活動基準ですでにstroke bypass に必要な患者情報 を収集しており,救急隊の疾病観察カードをアプリケーション化し自動的にstroke bypass の対象と なる患者か判断する方法を考案した.
【目的および方法】非弁膜症性心房細動患者を対象にワルファリン(warfarin: Wa)と直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が有効性および安全性イベント発症に及ぼす影響を後ろ向きに検討した.【結果】Wa投与群 359例(年齢 76.7±9.2歳,平均観察期間 3.5年,time in therapeutic range中央値 64.8%)と DOAC投与群 357例(78.1±9.7歳,2.0年,用量基準遵守率 88%)の比較にて, DOAC群の脳卒中/全身性塞栓症(2.3 vs. 3.1/100人年, p<0.001)および頭蓋内出血発症率(0.4 vs. 1.0/100人年, p<0.001)は有意に低率であった.一方,大出血発症率は両群間で差を認めなかった( 2.7 vs. 2.7/100人年,p=0.90).【結論】実臨床にて非弁膜症性心房細動患者における DOACの有効性と安全性は Waに劣っていなかった.
【目的】本邦の脳卒中医療地域格差の現状と解決策を検討した.【方法】 46都道府県の日本脳卒中協会支部と宮城県対脳卒中協会にアンケート(A)を行い,A[1]は課題をもつ二次医療圏の有無と原因や解決策,A[2]は各圏域での実数を調べた.【結果】A[1]の回収率は 61.4%(81/132)で,329医療圏中「t-PA療法常時実施不可」は 9.7%,「血栓回収療法常時実施不可」は 27.4%の医療圏にあった.原因は脳卒中診療医不足,解決策は他医療圏の病院との連携であった.A[2]の回収率は 68.1%(32/47)で,「 t-PA療法実施 0」は 12.1%(21/174),「血栓回収療法実施 0」は 36.6%(53/145)の医療圏にあり,実施数は都道府県や医療圏間で大きく異なった.【結論】t-PA療法や血栓回収療法実施状況には地域格差があり,法制定下の行政参画で地域実情に合う連携体制構築が望まれる.
要旨:【背景と目的】脳卒中救急診療にストロークコーディネートナース(SCNs)を運用する体制を整備した.SCNs の運用が来院からrt-PA 静注療法までの時間(DNT)短縮に関与するか検討した.【方法】対象は2012 年4 月~2017 年2 月の間,当院へ来院しrt-PA 静注療法を行った急性期脳梗塞例である.対象患者を早期群と遅延群の2 群に分け,DNT 短縮に関連する因子を,SCNs 運用の有無を含めて評価した.【結果】研究期間中に登録した症例は74 例(男性54 例,平均年齢68.3 歳)で,DNT<60 分群でSCNs 運用率が高かった(52% vs. 18%,p=0.015).多変量解析では,SCNs の運用がDNT<60 分に関連する独立した因子であった(OR 3.4,95% CI 1.1–11.5,p=0.043).【結語】SCNs の運用はDNT 短縮に寄与した.
要旨:87 歳,女性.歩行中に突然の意識障害と右不全麻痺を発症して転倒した.目撃者によって救急要請され,当院に救急搬送された.GCS E4V1M5 であり,失語と右不全麻痺を認めていた.頭部CT で頭蓋内に明らかな出血はなかったが,右頭頂部に皮下血腫を認めていた.MRI では,DWIにて左側頭後頭葉に淡い拡散制限を認め,MRA では左中大脳動脈の閉塞が疑われた.急性期脳梗塞の診断でrt-PA を投与した.投与後,痙攣発作が出現し,意識レベルが低下したため頭部CT を撮影すると,両側大脳半球,後頭蓋窩に散在性に出血を認めた.脳梗塞発症時の意識障害や麻痺症状により転倒し,頭部や顔面に外傷を来した症例にしばしば遭遇する.早期の頭部外傷は画像上判別が困難となることがあり,rt-PA 投与によって頭蓋内出血が引き起こされる可能性がある.外傷を疑わせる所見を認めた場合,rt-PA の適応を慎重に検討する必要がある.
要旨:交通事故で救急搬送された際に左片麻痺を認め,頭部MRI で右中大脳動脈M1 閉塞による脳梗塞と診断し,rt-PA 静注療法中に縦隔血腫を来した症例である.体幹部単純CT 検査で骨折や出血がないことを確認し,軽症の外傷と判断し,最終未発症時刻から1 時間30 分後にrt-PA 静注療法を開始した.治療開始後に前胸部痛を訴え,造影CT 検査で前縦隔に血腫を認めた.rt-PA 静注療法は中止し,脳血管内治療に変更した.右中大脳動脈は再開通しており,両側内胸動脈から造影剤の漏出を認め,コイル塞栓術を行った.軽微な外傷にみえてもrt-PA 静注療法により重篤な出血を来す可能性があり,血管損傷が疑われた場合は迅速な病態評価が求められる.
要旨:小脳出血では悪心や嘔吐を高頻度に伴い,機能回復の阻害要因になるので対症療法が重要である.ペルフェナジン(PPZ)内服で難治性嘔吐は消失したが,副作用の錐体外路症状に対処する必要があった2 症例を報告した.症例1 では片葉小節葉と傍索状体を巻き込むと推定される小さな血腫があり,頭位変換時などに嘔吐を繰り返したが,PPZ 12 mg/日の内服で嘔吐は消失した.内服開始6 週間後に減量し,その数日後からアカシジアが出現したが内服中止後に消失した.症例2 は小脳後葉に大きな血腫があり,小脳性認知情動症候群と反復する嘔吐が遷延してほぼ寝たきりであった.PPZ 24 mg/日で嘔吐が止まり機能回復訓練を実施できたが,パーキンソン症候群が目立ってきた.手関節の歯車様筋固縮に明らかな左右差があったので,もともと軽度のパーキンソン病がありPPZ により無動が悪化した可能性がある.PPZ 中止とレボドパ配合剤の内服で改善した.
症例は 48歳女性.突然発症の運動性失語と下肢優位の右片麻痺のため緊急入院した.頭部 CTAで左前大脳動脈(anterior cerebral artery: ACA)の描出が不良で,両側主幹動脈の多発狭窄を認めた.MRIで左前頭葉内側面の新規梗塞巣とその外側の脳溝に限局する皮質性くも膜下出血を認めた.来院時に著明な高血圧と軽度の嘔気嘔吐を認め,左 ACA解離を疑って降圧薬と脳保護薬の投与を開始した.第 5病日のフォローアップ頭部 CTAで主幹動脈の多発狭窄は改善しており,第 12病日に施行した脳血管撮影で左 A2以遠の pearl and string signを認め,動脈解離に矛盾しない所見であった.しかし動脈解離のみでは説明できない可逆的でびまん性の脳動脈狭窄の存在が示唆され,典型的な雷鳴頭痛はなかったが可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome: RCVS)の合併と診断した.頭蓋内 ACA解離と RCVSの合併は既報がなく,貴重な症例と考えられた.
要旨:重症脳卒中で回復不可能な状況では,臓器提供を前提とした法的脳死判定を行う場合以外は,医療・ケアの方針は臨床現場に委ねられている.また,突然発症の脳卒中には,発病前の本人の意思を確認できないことが多いという特殊性がある.一般社団法人日本脳卒中学会は,医療・ケアチームによる重症脳卒中の終末期の対応についての判断・方針決定を支援する目的で,本ガイドラインを作成した.本ガイドラインでは,「脳卒中を原因とした,全脳の不可逆的な機能不全で,いかなる治療を行っても死が避けられない状態」を「脳卒中による全脳機能不全」と定義した.さらに,脳卒中における終末期で,臓器提供を行わず,家族等に医療・ケアの変更・中止の希望があれば,本ガイドラインで定めた方法で全脳機能不全の確定判断を行い,各施設の臨床倫理委員会などの審議を経て病院長の承認のもと,延命治療の中止や差し控えを行いうることを提言している.