要旨:少子高齢化と人口減少の影響により人口動態の地域格差が発生し,二次医療圏での医療提供体制の見直しが地域医療構想によって進められている.他方で脳卒中や心臓病による死亡や要介護状態の患者が増えていることから,脳卒中・循環器病対策の基本法が策定され,脳卒中および循環器病対策を総合的・計画的に進めることとなった.そこで本研究では,DPC研究班データを使用した「くも膜下出血発症患者の居住二次医療圏と施設所在地二次医療圏内の入院割合とその地域差」について検討した.その結果,二次医療圏内完結率が最も高かった山形県と最も低かった山梨県において有意差が認められた.本結果から,施設配置状況や地形的要因などが二次医療圏区画設定当時と比べ変化している可能性が考えられる.したがって,待てない急性期疾患については,提供されるべき医療機能の適正配置を二次医療圏を超えた広域医療圏を設定して議論する必要がある.
要旨:【目的】卵巣明細胞腺癌に合併した脳梗塞(Trousseau症候群)の臨床的特徴を検討した.【方法】2012年1月~2017年12月に入院した卵巣明細胞腺癌に合併した脳梗塞について,他の悪性腫瘍に合併した脳梗塞との比較検討を行った.D-dimer値,CA125値,脳梗塞巣の特徴,脳梗塞発症時期,転帰などについて検討した.考察では,文献検索で得られた卵巣明細胞腺癌 21例も検討に加えた.【結果】両群ともそれぞれ4例あった.両群でD-dimer値は高く,多発脳梗塞であった.卵巣明細胞腺癌の全例でCA125は高値で,脳梗塞は癌の診断に先行した.癌治療開始後は脳梗塞の再発はなく,3例が 2019年3月時点で生存している.他癌では,全例が癌治療中の発症で,脳梗塞発症から4カ月以内に死亡した.文献的検討でも同様の結果が得られた.【結論】他癌と異なり,卵巣明細胞腺癌に合併したTrousseau症候群では,脳梗塞は癌の診断に先行しやすく,癌治療開始後の脳梗塞の再発が少なく,生命予後良好な傾向があることが示唆された.
要旨: 【背景および目的】抗凝固薬(oral anticoagulants: OAC)内服患者の頭蓋内出血は,OAC非内服患者と比較し重症とされる.【方法】当院で治療した非外傷性,外傷性頭蓋内出血について,OAC内服と入院後の血腫増大/手術施行の関係を後方視的に検討した.【結果】ワルファリン内服患者(N=28),直接経口抗凝固薬(direct OAC: DOAC)内服患者(N=10),OAC 非内服患者(N=365)の比較では,入院後の血腫増大/手術施行の患者割合は40%/26%,20%/0%,17%/6%で,3 群で有意に異なった(P=0.007/0.002).ワルファリン内服患者とOAC 非内服患者の多変量解析では,ワルファリン内服は入院後の血腫増大/手術施行の独立した危険因子であった(オッズ比 4.62/7.03).【結論】ワルファリン内服中の頭蓋内出血の診療では,入院後血腫増大の可能性に,より注意が必要と考えた.
要旨:可逆性後頭葉白質脳症(PRES)は,意識障害,痙攣,視野障害などの神経症状を伴い,主に両側の頭頂葉,側頭葉,後頭葉に可逆性の浮腫性変化を呈する病態である.今回我々は頸動脈内膜剝離術(CEA)後にPRESを発症した稀な症例を経験したため報告する.症例は69歳男性で,左右ともにNASCET法で85%以上の両側頸部内頸動脈狭窄症を指摘され,まず左CEAを施行し,その2カ月後に右CEAを施行した.術後過灌流が遷延していたところ,意識障害,痙攣,左同名半盲を発症し,MRIで右側頭葉優位に浮腫性変化を認めた.浮腫性変化はその後に両側大脳全域に広がり,症状とともに改善傾向を示した.症状,画像上所見ともに可逆性であり,PRESと診断した.CEA術後過灌流が遷延している状態に発症したこと,浮腫性変化が術側から始まり両側に広がったことから,CEA術後過灌流がPRES発症に大きく関与したと考えられた.
要旨:77歳の男性.突然の右半身麻痺失語で発症し救急搬送された.来院時NIHSSは17点.頭部MRA/MRIで左中大脳動脈M1遠位部閉塞と同領域にDWIで高信号(DWI-ASPECTS 8点)を認めた.血液検査上は白血球およびCRP高値で,心電図上は心房細動を認めなかった.急性期脳梗塞と診断し,rt-PA静注療法後,機械的血栓回収術を行い,4pass でTICI2bの再開通を得た.回収した塞栓子の病理学的および細菌学的検査結果から感染性心内膜炎による急性期脳塞栓症と診断し,抗血栓療法は行わず抗生剤単独で治療を行った.脳梗塞の再発なく,mRS 4 でリハビリテーション転院した.感染性心内膜炎に起因する主血管閉塞型急性期脳梗塞の機械的血栓回収療法は,塞栓子の組成が通常と異なるため,手技回数が増加する傾向があり,また使用デバイスの見解も一定でない.一方,塞栓子の病理学的および細菌学診断が後療法の選択に有用となることがある.
要旨:症例は84歳女性.心房細動と大動脈弁置換術の既往がある.消化管出血を主訴に当院を受診し,腹部CTで大腸癌からの出血が疑われたため入院した.ワルファリンを内服していたが,PT-INRが過剰に延長しており休薬した.第3病日に意識障害と左片麻痺を発症し,緊急でMRI検査を施行した.その結果,DWIで右被殻と放線冠に虚血を認め,MRAで右MCAが閉塞していた.T2*ではsusceptibility vessel sign(SVS)は認めなかった.血栓回収療法を施行し,MCAは完全再開通し,白色血栓が回収された.回収された白色血栓から病理学的に細菌塊が証明され,最終的に感染性心内膜炎による脳塞栓症と診断した.予めSVSの有無により血栓の性状を予測し,回収された血栓が白色であれば病理検査に提出することが重要であると考えられた.
要旨:症例は41歳男性.習慣的に行っていた頸部回旋直後に後頸部痛を自覚した後,ふらつき,呂律困難,右半身の脱力が順に出現した.意識はJCS 1で,右同名半盲,構音障害,右片麻痺,左上下肢の運動失調がみられた.頭部MRI,DWIで左小脳と左視床内側に急性期脳梗塞を認めた.頭頸部MRAならびに造影CTにて右椎骨動脈解離による動脈原性塞栓症と診断した.脳血管撮影では左回旋位で右椎骨動脈の血流の途絶がみられた.撮影中,右頸部回旋時に後頸部痛を生じた.左椎骨動脈に狭窄性変化と右回旋位で血流の途絶を認めた.検査後から一過性の浮動感が出現した.翌日の頭部MRAにて新たに左椎骨動脈解離を認めたため,両側椎骨動脈解離によるbow hunter 症候群(BHS)と診断した.抗血小板剤内服と頸部硬性カラー装着にてBHSに関連する症状は速やかに改善した.頭蓋頸椎移行部における椎骨動脈解離を疑って脳血管撮影を行う際には,頸部回旋により新たな動脈解離を来す恐れがあることに最大限の注意を払うべきと考える.
要旨:症例は17歳・男性.急性発症の頭痛,嘔吐で搬送された.神経学的所見では,髄膜刺激症候,右外転神経麻痺を認めた.頭部CTで,右乳突蜂巣の発育不良,右横静脈洞から上矢状静脈洞に高吸収域を認めた.脳血管造影では,右S状静脈洞から描出はなく,上矢状静脈洞まで血栓が多発していた.以上より,脳静脈洞血栓症と診断した.血液凝固検査で血栓傾向を起こす原因は特定できなかった.しかし,入院後に右耳漏を認めたため,精査を行い,右真珠腫性中耳炎と診断した.脳静脈洞血栓症の原因として真珠腫性中耳炎が関与していると考え,治療を開始し,その後症状は消失したため,神経脱落症状なく退院した.脳静脈洞血栓症においては,頭部CTで乳突蜂巣の発育不良を認めたら,真珠腫性中耳炎が原因である可能性を考えるべきである.
要旨:症例は74歳男性.ふらつきの精査にて先行性頭痛のない脳底動脈本幹部解離性脳動脈瘤を偶発的に発見した.経過観察の選択肢もあったが最大径7 mm を超えており,治療を強く希望されたため,ステント支援下コイル塞栓術を計画した.VER: 23%で治療終了し,術3時間後に麻酔から覚醒良好となったが,構音障害と左片麻痺が認められ,MRIを撮影すると橋右側の新規脳梗塞を認めた.Retrospectiveに術中血管造影を確認すると,ステント展開直後から脳幹を栄養する穿通枝の描出が消失していた.ステントによる解離の治療は偽腔へのentryを消失させることが目的だが,その一方で偽腔を圧排することによって起こる穿通枝梗塞の可能性を十分念頭に置かなければならない.
要旨:症例は9歳男児.突然,頭痛と嘔気が出現したが,様子をみていた.頭痛が改善しないため3日目にCT を施行したところ,右シルビウス裂のくも膜下出血と右側頭葉の脳内血腫を認めた.造影CT と脳血管撮影で右中大脳動脈M3部に20mmの血栓化動脈瘤を認めた.翌日に右浅側頭動脈(STA)-M4バイパスとトラッピングを行い,動脈瘤を摘出した.動脈瘤は紡錘状で,破裂部位は流入動脈の近傍に存在した.病理学的には明らかな解離を認めず,中膜に炎症性細胞の集簇と膠原線維の増加を認めた.また,内弾性板の消失と中膜の粘液変性を認めた.術後経過は良好で,新たな虚血病変は認めず,バイパスの開存と動脈瘤の消失を認めた.
要旨:【目的】治療中に別のshunted pouchの存在が明らかになり,その同定に各流入動脈からの選択的血管撮影が有用であった1例を報告する.【症例】72歳男性.脳梗塞後の経過観察目的の頭部MRA で硬膜動静脈瘻を認め経静脈的塞栓術を行った.術前血管撮影では左横・S状静脈洞接合部付近に複数のshunted pouchを認めていた.左後頭動脈と左椎骨動脈に撮影用カテーテルを留置し,術前に同定したshunted pouchおよび静脈洞を塞栓したところ,新たに別のshunted pouchを同定した.これを塞栓することでシャントは消失した.【結論】異なる流入血管の選択的撮影を正確に比較することは,複数の異なるshunted pouchの同定に有用である.