【背景および目的】回復期における左被殻出血によって生じた失語症の書字・発話・言語理解の改善に影響を与える要因を検討した.【方法】対象者70名の診療録から,年齢,性別,入院期間,血腫型,血腫量,NIHSS, レーヴン色彩マトリシス検査(以下,RCPM),失語タイプ,失語症重症度を後方視的に調査した.標準失語症検査総合評価尺度の下位項目である書字・発話・言語理解の得点の改善群と非改善群において差のある要因を検討した.【結果】両群において,発話は年齢,NIHSS, RCPMに有意差を認め,書字では発話と同様の要因に加えて血腫量に有意差を認めた.言語理解は2群間で差のあった要因は認められなかった.【結論】書字や発話といった表出面の改善には,脳卒中の重症度および知的機能の保持が寄与し,言語理解は要因にかかわらず,改善しやすい言語モダリティであることが示唆された.
【背景および目的】急性期病院退院時に“復職意志”を表明した脳卒中患者に,回復期リハビリテーション(リハ)病院の特徴である十分なリハ期間と豊富なリハプログラムを生かした就労支援リハプログラムを行い,その効果を検証した.【方法】職場復帰に必要な4条件,①家庭生活自立機能,②通勤に必要な運動歩行機能,③一般事務作業機能,④発病前の業務を以前と変わらず遂行する脳の機能,をリハにより強化しつつ,勤務先との連携を取り復職を支援した.【結果】対象81例中,評価対象者61例の復職率は,全症例で85.2%,当院入院時mRS別では,mRS2:92.3%,mRS3:77.8%,mRS4:80.8%であった.【結論】脳卒中発症時点のmRS3–4患者の復職率は50%以下の報告が多い中で,本報告復職率は高い.治療後mRS 3–4患者でも,復職意欲があれば復職が可能であり,今後の脳卒中治療体系の中での回復期リハの重要性を示した.
症例は57歳女性.特記すべき誘因なく,数時間で改善する激しい両側性頭痛が突発性に出現し,寛解増悪を繰り返したため,近医にて頭部CT, MRIを施行するも特記すべき異常なしと判断され,経過観察された.発症13日目に左頭頂後頭葉に約46 mlの皮質下出血を認めたため,当院へ紹介され,緊急開頭血腫除去術を施行した.術前頭部CTでは血腫周囲に低吸収域を認め,病理検査で血腫に接する脳組織の融解壊死を認めた.術後のMRAでは両側中大脳動脈,後大脳動脈に多発する狭窄所見を認め,後に改善したことより可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)による出血性脳梗塞と診断した.RCVSの多くは予後良好だが,一部には本症例のような予後不良な経過をたどる症例があるため,原因不明の急性発症の重度の頭痛患者に対しては,常にRCVSの可能性を考慮して慎重に対応することが重要である.
症例は87歳女性.意識障害と右片麻痺をみとめ,当院に搬送された.頭部CTおよびCT angiographyにて左中大脳動脈(MCA)閉塞による脳梗塞と診断し,rt-PA静注先行のもと,血栓回収術を実施した.左MCA水平部(M1)はステントリトリーバー(SR)と吸引カテーテルにて1passで再開通するも,島部(M2)は再閉塞を繰り返した.最終的にSRにて3passしたが,部分再開通にとどまった.左大脳半球は広範囲梗塞に陥り,第4病日に死亡した.病理解剖にて,複数の頭蓋内動脈での強い動脈硬化性変化とともに,左M1遠位部の粥腫と同部位の動脈解離をみとめた.後者は,動脈硬化の強い血管に対してSRを使用したことによる医原性脳動脈解離と考えられた.動脈硬化の強い高齢者の血栓回収術中に再閉塞を繰り返す場合は,術中の医原性脳動脈解離に留意すべきである.
低酸素脳症のMRI診断において,拡散強調画像(DWI)の有用性が報告されているが,arterial spin labeling(ASL)による灌流画像がより有用であった症例を報告する.症例は72歳,糖尿病治療中の女性.上腕骨・肘頭骨折で入院となった翌日に心肺蘇生が施行された(Day 1)が,遷延性意識障害を呈した.Day 11のDWIでは両側線状体はごく軽度に高信号を呈するのみであったが,ASLでは同部に血流増加がみられた.Day 33と61のT1強調画像で,両側線状体に高信号域が出現し,ASLでは同部の血流は経時的に低下していった.これはFujiokaらが提唱した大脳半球の一過性あるいは軽度の虚血後に,同側線状体に遅発性にT1高信号が出現する病態が,両側に生じたものと考えた.MRIの通常撮像法にASLを加えることで,低酸素脳症に対する画像評価の精度が上がる可能性が示された.
症例は74歳男性.突然の左片麻痺にて発症し,発症から1時間後の当院救急外来搬入時には麻痺は消失していた.麻痺出現の3日前より軽微な左後頚部痛を認めた.頭部CT, MRIで異常なく,一過性脳虚血発作(TIA)の診断のもと抗血小板剤投与が開始された.発症翌日に退院し,外来経過観察となったが,その後,頚部痛の存在から頚椎頚髄疾患の可能性が再考されるに至り,患者に再受診してもらい,頚椎MRIを施行した.その結果,C4–7レベルに頚髄を左背側から圧排する頚髄硬膜外血腫があることが判明した.血腫はその外側で信号強度の異なる部分が混在し,出血時期の異なる成分から成ると思われ,初回出血により後頚部痛を生じ,その後の出血で片麻痺を来したと推測された.その後のMRIで,血腫はわずか3日間で急速に退縮していることが確認された.頚髄硬膜外血腫が軽微な頚部痛とTIA様症状で発症する場合があり,注意が必要である.
急性期病院において,小脳損傷による言語障害に気づくことは多くない.我々は,右小脳出血に伴う失語様の言語障害を呈した1例を経験した.失調性構音障害や上肢失調による書字障害だけでなく,錯語や錯書,語想起困難などにも留意する必要があると考えられた.
57歳女性.発熱と左不全片麻痺で前医に入院した.頭部MRIで微小脳梗塞とくも膜下出血,心臓エコーで僧帽弁の疣贅がみられた.感染性心内膜炎に伴う脳梗塞の診断にて抗菌薬が開始されたが,僧帽弁閉鎖不全症を合併し,開心術目的にて当院に転院となった.転院時の頭部MRIでは新規の脳梗塞とともに,左後頭葉の血腫がみられ,脳血管撮影にて左後大脳動脈遠位部の脳動脈瘤が確認された.感染性脳動脈瘤の破裂による脳内血腫と診断し,開心術周術期の再破裂を予防するため,当日に全身麻酔下でのコイルを用いた母血管閉塞術を実施した.動脈瘤は完全に閉塞でき,翌日に開心術が実施された.両術後の頭部CTにて血腫拡大はなく,抗生物質の投与を継続した.経過は順調であり,2カ月後に後遺症なく退院した.開心術の適応である感染性心内膜炎重症例に合併した破裂脳動脈瘤に対しては,コイルを用いた母血管閉塞術が治療選択肢になり得る.
症例は,特に既往のない54歳男性.健診でincidentalに無症候性carotid web(CW)が発見された.狭窄は高度であり,本人の希望により頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting: CAS)を施行した.合併症の出現なく,術後経過も良好である.Carotid webは,頚部内頚動脈起始部後壁にできる柵状の構造物であり,脳梗塞の原因となり得る.症候性病変は,しばしば内科治療抵抗性であり,頚動脈血行再建術(carotid revascularization: CR)も考慮されるが,無症候性病変に対するCRの報告はほとんどなされていない.無症候性carotid webに対しても,頚動脈ステント留置術は安全に施行可能であり,有用な治療法となるかもしれない.
症例は83歳男性.突然の右半身麻痺および失語を呈し,当院に救急搬送された.来院時,全失語,右半身完全麻痺の状態であった.頭部造影CTと脳MRIで左MCA急性閉塞を認めた.機械的血栓回収療法を検討したが,胸部大動脈瘤に対するステントグラフト留置(thoracic endovascular aortic repair: TEVAR)の既往があり,経大動脈的アプローチは困難と予測された.そのため,緊急で顕微鏡下のsurgical embolectomyを施行した.術後症状は著明に改善し,NIHSS 3点,mRS 2点で自宅退院となった.発症から来院までの時間が短いMCA急性閉塞症に対して,機械的血栓回収療法のリスクが高い場合にsurgical embolectomyを行い,良好な転帰を得た.急性期脳主幹動脈閉塞に対して,大動脈アプローチが困難と予想される場合には,surgical embolectomyをはじめから治療の選択肢に加えることを検討してもよいかもしれない.